3歳前
大月警備に勤めて2年になる。はじめに契約したとおり休日出勤はほぼ求められなかった。でも上司のお供をするのは休日出勤にあたらないから行かなくてはならない、準休日出勤だ。
今日も社長の大月さんのつきそいである。
一人で先日社長が選んだ服を着て、美容室で化粧や髪を整えていく。代金はもちろん会社もちである。
行き先は貸式場。老舗旅館に併設され重要会議や著名人らの結婚式などに使われる。
業界会合でもあるのだろうか。まだ詳細説明がされていない。
早く帰ってあーちゃんと遊びたい。
最近は瑠偉と忙しそうにしていて、家にいてもかまってくれない。それどころか瑠偉の家に泊まったりしている。お母さんは寂しくて寂しくて仕方がないよ。
貸式場につくと入り口で田中さんが待っていた。
「おはようございます。本日は田中さんも出勤ですか?」
田中さんは優しげに目を細めて笑った。
「おはようございます。松本さん。今日はおめでとうございます。若は控室で待っていますよ」
田中さんは社長を若と呼ぶ。流石に公の場では呼ばないが、二人だけの時など若とよんでいる。
「おめでとうということは、本日は祝賀会ですか。どの団体か教えていただけません?」
穏やかに微笑んでいた田中さんの表情が固まった。
「…若から何も聞いていないのですか?」
「はい。服装などの指定はありましたが詳細説明を受けていません」
田中さんは顔を手で覆った。
「松本さん緊急事態です。控室に急ぎましょう」
私と田中さんは急ぎ足で控室にむかった。
控室の扉の前に立つと中が騒がしい。田中さんに目で合図し、勢いよく扉を開けると社長が女性と口論していた。
「だから!俺はお前と結婚しないと何回も言っているだろう!」
「なによ!どこの男かわかんない子ども産んだ女なんて論外よ!」
「親父達からは許しを得た!」
「私は許さないわよ!」
「お前の許可は必要ない!」
赤いお召し物の小柄な女性が大柄な社長にくってかかっている。なんとも勇ましい。
「社長、麗華様声が廊下まで響いております。どうかそのあたりで」
田中さんが二人の間に割って入って、やっとこちらに気がついたらしい。小柄な女性、麗華様は社長からこちらに視線をうつした。大きな赤い目が好戦的だ。
「あなたどちら様かしら」
いくぶん声量を落として麗華様が言う。
「申し遅れました。大月警備保障社長室所属、第二秘書、『氷の堅牢』を拝します松本と申します」
右手を胸に添え敬礼を行う。面倒だが二つ名を名乗る時は必ず行わなければならない。
「そう、あなたが宗治さんの恋人ね」
「いえ違います」
「「えっ」」
麗華様だけでなく社長も驚いている。何故だろう。
「私は現在誰とも交際していません」
ほうけている社長。
天を仰ぐ田中さん。
大きな目をさらに見開く麗華様。
「あなた…確認するけど宗治さんとの関係は?」
「部下と上司。雇用関係です」
「週末一緒に出かけたのは何故?」
「業務の一環で、上司への接待です」
「求婚の言葉は?」
「受けておりません」
麗華様はまだほうけている社長に向き直る。
「ねえ宗治さんどう言うこと?」
「…静流くん『これからもずっとそばにいてくれ』って言ったら『大月さんの望む限りそばにいます』って」
「そのままです。社長が雇用してくれるかぎりそばにいますよ」
「それ求婚…」
大きな笑い声が控室に響いたとおもったら、麗華さんが笑っていた。
「あははは宗治さん馬鹿みたい」
心底おかしいと笑っている。
「求婚以前に私は社長から交際を申し込まれたこともありませんし」
「…若なにやってるんですか」
それまで黙っていた田中さんが口を開いた。
笑い声に続いて連絡機の着信音が響いた。
相手は瑠偉。
「あ!姉さん大変!輝がいなくなった!」
背筋が凍った。
「どこ?」
「今大学の研究室…」
「5分で行く詳細そこで」
「まっ…」
連絡機の通信を切り、社長らを見る。
「急用の為失礼します。社長、田中さんまた来週会社で会いましょう」
挨拶を手短に済ませ、控室を出た。連絡機で航空管制に通信を入れ廊下を駆け足で進む。
「はい航空管制局」
「単体飛翔許可願う。識別名称『氷の堅牢』65893340。目標王都大学」
「単体飛翔許可。衣類固定確認励行」
二つ名はこういう手続きが早い。旅館の庭に出ると文言を唱える。
「固衣、飛翔伸身、終点目視確認」
体は勢いよく飛び上がり上空に出る。管制に王都大学を指示してもらい速度を上げる。身体補助、速度制御を行う。煩雑な手順のはずなのに頭ではあーちゃんの無事だけを考えている。
特徴的な大学の建物を視界に入れ減速、大学構内に降りる。
ここまで3分。
社長が用意した華美な装飾にかかとの高い華奢な靴は固衣をかけたがボロボロになっていた。
役に立たない靴を脱ぎ捨て、裸足で瑠偉の研究室を目指す。休日のためか大学に人は少ない。
広い構内に苛立ちながら走る。
やっと瑠偉の研究室の棟。研究室の扉を蹴り開ける。
「瑠偉!どういうこと!」
室内に瑠偉はいなかった。
褐色の肌に金髪、二組の紫色の目がこちらを見ていた。
「久しぶりだね静流」
殿下があーちゃんを膝に乗せていた。
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