2歳
無事大月警備保障に入社した。
肩書きは社長秘書。
実働隊で働く気でいたのだが、秘書は手当も良くて、自由出勤も可能で、年休はもちろん特別休暇もありますし、休日出勤もないですよと条件を提示されたので飛びついた。
実際は社長の補佐よりなんでも屋といったほうがしっくりくる。会合の同伴や二つ名付きを希望する顧客への対応、実働隊への指導、おつかいなどだ。先輩の田中さんも補佐の仕事を任せてくれたりする。
あーちゃんは毎日瑠偉が大学に連れて行って面倒見ている。でもあーちゃんが「るーくんきちゃない、しょじするの」とか「ごあんわしゅれうの」言っていた。弟よあーちゃんの世話をしているのかされているのかどっちなんだろう。
しかしうちの子しっかりしてる。
お母さんは鼻が高いよ。
ある日あーちゃんを迎えに行くと瑠偉が私に聞いてきた。
「輝の父親のことどうするの?」
思いつめた顔で言うので何かと思ったらそんなこと。どうするもこうするもない。私は結婚しないであーちゃんを産んだから、種をもらっただけ。
「特になにもしないよ」
「そうもいかないでしょう。父親が父親なんだから」
瑠偉はため息をつく。
「おかーおちえて」
乳母車からあーちゃんが私を見上げる。
『なんとなく誰かわかるけど、今後の対応のために教えて下さい』
画面からもあーちゃんは訴える。父親は誰?と。
「ここじゃなんだしご飯でもいこうか」
私は連絡機で店の予約を取った。
田中さんに教えてもらった秘書技能がここで光る。
お母さんは日々成長しているのだ。
前に仕事で使った焼肉屋に行く。大月さんの仕事に同伴して使ったのだ。時々こういう仕事がある。大月さんと二人でご飯を食べたり、観劇したり、百貨店に買い物したり。こないだは大月さんの実家に連れていかれ会長や奥様にお会いした。
「姉さんよくこんな店知ってたね」
瑠偉は個室に入ると見渡し言った。
「仕事で使ったのよ」
「へえ接待とか?」
「社長と二人で来たの」
瑠偉とあーちゃんが固まった。
「姉さん社長さんと交際してるの?」
「するわけないじゃない。何で職場の上司とお付き合いしなきゃ行けないの。公私混同よ」
瑠偉とあーちゃんは二人で何か話している。瑠偉も文字盤で会話しているのでまったく伝わらない。
「第一私あーちゃんが一人前になるまでお付き合いはしないつもりだし」
コソコソしている二人に怒鳴った。
「お肉注文してからにしなさい!」
「牛タン!」
「かうびー!」
店員に注文を告げるとかなんだかむしゃくしゃして全部特上にしてみた。会計を見るのが怖いがすっきりした。
肉を金網にのせ焼く。
「で、姉さん王族の誰なの?」
瑠偉が牛タンを育てつつ聞いてくる。まああーちゃんは褐色の肌に金髪、紫の目。王族にしか出ない色をしている。瑠偉ははじめから王族とわかっていたんだろう。
「皇太子さま」
あーちゃん希望のカルビをひっくり返しつつ答える。
瑠偉とあーちゃんが止まった。瑠偉の牛タンが焦げるまで止まっていた。
「…姉さん本当?」
あーちゃんのカルビは美味しそうに焼けた。タレを注いだ皿に置いてあげる。
「ホントホント」
瑠偉はあわてて牛タンを救出し柑橘汁をつけて口に入れた。
「焦げてもうまい…」
「ほらあーちゃんも食べないと」
あーちゃんはタレをつけてカルビを食べた。
「うまー」
みんな無言でしばらく肉を焼いては食べていた。
「こーたいちどなーしと?」
あーちゃんがポツリと言った。
私はあーちゃんをじっとみつめた。
あーちゃんは私より皇太子に似ている。目元がそっくりだ。私のキツイツリ目より優しげな大きな目。
護衛官としていつもそばにいた。
王都大学の入試に失敗して号泣してた。
公務前緊張し過ぎて胃が痛くなり目に涙を溜めていた。
母親がわりの乳母が引退した時、部屋で膝を抱えて泣いていた。
私や護衛官仲間に混ざって花札をしたら、ぼろ負けして涙を堪えていた。
情を交わした時、感極まって涙がこぼれていた。
皇太子はどんな人か。
「優しいよく泣く人だよ」
瑠偉は驚いた顔をする。
あーちゃんは真面目な顔してうなずいた。
あーちゃんの皇太子と同じ紫色の目が強い光をもっている。
「瑠偉これでいい?せっかくのお肉食べましょう」
その後たらふく肉を食べて帰ろうとしたら、偶然大月さんに会って奢ってもらった。
特上にしておいて良かったと心から思った。
美食雑誌「マイウ」
オススメ!絶対行きたい焼肉屋10選!!
中秋田・五郎兵衛★★★
西北地方の短角牛を生産者から一頭買いし牛のうまみを余すとこなく食べさせてくれる。
希少部位はもちろんだが赤身の旨さも是非食べたいところだ。
「短角牛、本来のうまさを知ってほしい」
店長花笠さんの短角牛に対する自信が溢れている。
値段 1万〜
住所 中秋田区勢馬町3-5-6
連絡 855-亥-3974