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マフィアからのプレゼント 2

評価ポイントが999pt.になっていて驚いた今日のこの頃

さあ、この拙作の評価ポイントを1000代にしてくれるのは誰でなんでしょうか(笑)

更新は今後とも続けていく所存ですので、この拙作を読んで楽しんで頂けたら幸いです。



 コツ、コツ、コツ、と音を立てて階段を上っていく。時間帯としては夕方だから南側に面した白塗りの壁はオレンジ色に染め上げられている。ガレージの右脇に設置された階段はコンクリートでできているせいか、木製のようなギシギシといった音は立たない。ちょっとしたアパートの階段を上っている感覚だ。屋外に階段があるのは一階から二階までで、二階から三階への階段は屋内に設置されている。事務所と生活スペースは二階と三階にするからその構造はこちらとしてもありがたかった。

 そうして登り切った先にあるのが、この建物の入口だ。元々の持ち主の趣向なのか、繊細な細工が施されたチョコレートブラウンのドアは白塗りの壁にもマッチしていた。自分が依頼したわけではないが、こうしたデザインも悪くないと思えた。

 下見ではなく、本当にこれから自分の家となるこの建物に幾ばくか感慨深い気持ちになる。

 この扉の向こうはどうなっているのか、少しばかりワクワクしている。荷物の配置する場所はちゃんと伝えてあるし、配置を記載した紙を持った不動産屋の従業員がたしかここにいるはずだ。

 高揚した気分の俺はそのドアを、ギィと開いた



「さぁ~て、内装はどうなってい、るか、な……?」



 テンションに比例してか若干上ずっていた声は言葉を重ねる度にどんどんぎこちなくなり、最後は既に疑問符さえ浮かんでいた。


 内心ワクワク、期待は高々と。そんな新たな新居に躍る心を侍らせた俺を出迎えたのは──段ボールの山だった。



 ガラガラと想像していた新居のイメージが薄く脆いガラス細工の如く崩れ落ち、それらはまるで見計らったかのように俺の思考の歯車に入り込み、俺の思考を停止させる。

 ギギギギ、と壊れた人形のようなぎこちない動きで部屋の端から端まで見渡すも、そこにあるのは一面の段ボール、段ボール、段ボール……。

 俺の身長以上の大きさから手のひらサイズまでと大小様々な大きさの段ボールが山のように積み上がり、視界を覆わんとする勢いでその存在感を露わにしていた。



 間違いなく、事務所予定のこの部屋に必要な調度品だよな……



 それらは俺が部屋に運び込み、配置まで依頼した品々なのだが、その品々が段ボールの中から顔を覗かせた形跡は微塵も感じられない。

 荷物を運んでハイ、お終い。という依頼内容ではなかったはずだし、俺の頭の中に疑問符が次々と浮かんでいく。そうしてまともに思考できるまで冷静になって気づいたことだが、ここには肝心の従業員の姿が見当たらない。俺は配置場所を指定するように料金を上乗せして支払ったというのに、ドア()を開けてみれば段ボールに梱包されたままの品々がずらりと並んでいるだけ。

 この対応の杜撰さは、クレームを入れてもいいのではないだろうかという怒りが、沸々と心の中に湧き上がる。



「ん?」



 が、部屋を見まわしている中で一つ妙なものを発見した。一際大きな段ボールの上に見えやすいように置かれたそれは、手書きの文字がびっしりと書き込まれた一枚の紙きれだった。それを手に取って眺めてみる。



「置き手紙か? まぁ、当然ながら全部英文だな……」



 書き出しに“dear Max”と筆記体の英語で書かれたその文章は、ほぼ確実に俺宛の手紙だろう。差出人の名前も“from Konrad”と書かれている。コンラートというのは、たしかここにいるはずの従業員の名前だったと記憶している。俺はそれを声に出して読み上げてみる。



「『今回は、依頼された内容を全うできなかったことをお詫びする。しかし、この地の住人である私含め業者一同もこの建物、そして欲を言えばこの周辺にすら近づきたくはないのだ。何せ、この建物は“呪われている”。ここに最初に家を建てた人物は、元々裏でもそれなりに名の知れた実業家だった。だが、ここに家を建てたその直後、不可解な死を遂げたのだ。原因は不明。他殺か事故かもわからず仕舞いで、結局は闇に葬られた。幸いにして建物そのものは無事だったためウチの不動産が手に入れたが、結果としてはとんだ不幸を呼び込んじまった。次の顧客も、その次の顧客も、ここの不動産を購入して間もない内に奇妙な出来事に遭っている。夜中、誰もいない部屋から物音が聞こえたり、全ての窓や扉の鍵を閉めたはずなのに、まるで空き巣にでも荒らされたかのように部屋が滅茶苦茶にされたり、中には行方不明になった顧客も何人もいた。だからこの街に住む人間にとって、ここの物件には極力関わりたくはないのだ。しかし、こちらも商売をしている身。ちっぽけではあるがプライドがある。品は部屋に配置することまではできなかったが、指定された部屋ごとに品は纏めて置いてある。業者としてもここが限界だった。依頼は全て達成できなかったため、上乗せ金額の半額はこっちに置いておく。鍵はここに置いておくが、表には玉樹會のリムジンが停まっているはずだ。盗人が入ることはまずないだろう。

最後に、逃げ出したこちらが言えたことではないが、『Good luck』お前さんが“住人殺しの幽霊”に殺されないよう祈ってるぜ』………………」



 ほう、ほうほうほう。


 なるほど、なるほどなるほど。


 つまりはそういうことか………………



 これは予想していなかった。なにか策謀でも巡らせて俺を謀殺するつもりか、恩でも売っておこうかという考えだと予測していたのだが、向こうはそれの斜め上の策できたという訳だ。



「ふ、ふふふふふ」



 怪しい笑いが思わず口から漏れてしまう。だがしかし、俺はこの件について物申さなければ気が済みそうにない。

 すぅ、と大きく息を吸う。肺に溜まっていく空気量に比例してか、俺の怒り度メーターもどんどんと上がっていく。そしてはち切れんばかりに吸い込んだ空気と、怒り度メーターが限界値を振り切った瞬間、俺の抑えに限界が訪れた……!



「とんだ事故物件押し付けやがったな、あんちくしょおおおおおおぉぉぉぉぉ!!!!!」



「ハッハッハ」と高らかに笑っているアイツの顔が、唐突に頭の中に鮮明に思い描かれた。






◆◇◆◇





 「ぜぇ、ぜぇ」と荒い息を吐いて肩で呼吸しながら、俺は部屋に山積みにされた段ボールを一つ一つ片付けていく。ガムテープを剥がし、段ボールを開き、前もって決めていた位置に配置する。この一連のローテーションを延々と繰り返しながら段ボールの山を捌いていくのだが、中にはかなりの重量の荷物も含まれるため、その労力はさして図るべし。いくら鍛えているとはいえ、流石にこの重労働は身体に応えた。



「まぁ、ちょっとは片付いたか」



 ふぅ、と一息ついてから部屋の中をぐるりと見回すが、そこにはうんざりするような段ボールの山々はもう存在していない。

 事務所のある二階とは違い、一面フローリング張りの床。その上に広がるのは、一般的な一人暮らしの部屋の風景。部屋の中央には質素ではあるが清潔感のあるカーペットが敷かれ、一人暮らしには少しばかり大きい木製の低いテーブルが上に乗っかっている。日本人ならではと言えばそうなのだが、腰を落ち着けるための赤いクッションが一つ置かれ、クッションの対面の壁には低めの台座があり、その上にはテレビが置かれている。

 そしてクッションのそのさらに奥。俺の胸くらいの高さの敷居の向こうにはキッチンが設置されており、ちゃんと調理器具も一式揃えてある。キッチンの広さは一軒家ほどはないが、一人暮らしでやっていく分には問題ないくらいのスペースは確保されている。

 ここはリビングルームなのだが、生活用品一式を必要最低限にしたせいか、部屋の風景は随分と殺風景だ。これ以上の設置は収入がなければならないため断念。

 他の部屋も似たような風景となっている。まぁ、ギリギリの懐事情でやりくりした結果なのだから仕方ないと言えば仕方ない。これでも上手くやった方なのだ。



 そうした諸々の準備が終わってみれば、日はとっくに沈み切り、夜の蚊帳が降りていた。因みに時計の針は午後九時を指している。この作業に取り掛かり出したのが大体午後五時くらいだったから、俺は四時間くらいぶっ通しで作業をしていたらしい。

 まだ営業を始めるというわけではないから事務所の整理を後回しにして、生活スペースである三階だけしか整理はできていないが、このペースなら明日くらいには終わるだろうか? 調度品の数で言えば二階は三階(こっち)の倍くらいはある。休憩を挟んだとしても、明日丸一日かければ大丈夫だろう。

 それに単純作業を延々と繰り返していたせいか、思考はだいぶクリアになっているし、気分も落ち着いている。荒れた心を落ち着けるのに単純作業が適しているとは聞いたことがあったが、まさかここまで効果覿面だとは思わなかった……



 時間的には空腹感が訴えてくる頃合いだが、それも喉も過ぎればなんとやら。空腹感は感じるものの今すぐに何か食べたい気分にもなれなかった。



「まぁ、ささっと軽食くらい作るか」



 ググッと両腕を上げて背を伸ばす。コキコキと子気味いい音が鳴ったが、予想以上に疲れがたまっていたようだ。思わず漏れた苦笑を浮かべながら、その足でキッチンに向かう。

 即席で作れるものと言えば、疑似焼きそばくらいだ。ここに焼きそばという文化があるかどうかは微妙なところだが、似通ったもので作ることは可能だった。肉は普通に売っていたし、キャベツもあった。有名な産地として中国があるからそこから輸入したのだろう。焼きそばという商品は売っていなかったが、それらしき麺は売っていたから買ってみた。当たりか外れかはこれから試すのだ。



 油を引いたフライパンに肉を入れて、火が通ったら刻んだキャベツを入れ、しなっとしてきたら麺を加えてほぐし、焼き色がついてきたらソースを加えて全体的に絡めて、皿に盛りつければできあがり。

 ここまで約15分。



「いただきます。……………あ、普通に焼きそばだ」



 食べてみた感想としては、日本で作ったことのある味と大差なかった。これからは疑似焼きそばでなくて普通に焼きそばと呼称しても問題ないだろう。

 10分ほどで食べ終えた俺は、調理器具含めて食器を全て洗って片付ける。「まぁ、後でやればいっか」で放置しておくと溜まっていく一方になる気がするから早めに片付けておくのだ。水を切り、軽く布巾で水気をふき取ってから、棚にかた付けていく。

 ここからやるのは、最後の仕事だ。



「さぁてと、寝る前に下の確認をしておくか」



 そう言って俺は部屋の隅にかけて置いた上着を羽織り、靴を履いて下へと続く階段を下りていく。

 今の俺の恰好は部屋用のラフな格好ではなく、上半身は黒のインナーの上から臙脂色の外装を纏い、下半身はグレーの迷彩柄のカーゴパンツ。脇にはホルスターに納まった愛銃があり、腰には近接戦闘用の黒塗りのサバイバルナイフ。外装の裏には予備のマガジンが5つ。持ち得る限りのフル装備だ。

 それも当然と言えば当然だ。俺がこれから行うのはここに来る途中の道すがらに決めた事項だ。



───狙撃ポイントのチェック、並びに盗聴器、盗撮機の発見と排除



 万一に既に狙撃手が構えていた場合は威嚇射撃程度はしなければならない。向こうがやる気ならば、その場で戦闘に突入するかもしれないのだ。決して、手を抜いていい案件ではない。



 その愛銃を携えて、俺は二階に降りる。日差しもなく、灯りも点していない二階部分は手元のライトしか主な光源がなく、ライトを消せば大部屋の窓辺から漏れるわずかな月明かりが唯一の光源となる。歓楽街や大通りからやや離れた場所にあるこの建物は、車の騒音に悩まされることもない。薄ぼんやりと差し込む月明かりと辺り一帯を包み込む静寂は、場合によっては風情に感じられるかもしれないが、あいにくとここはアトロシャス(悪の巣窟)。暗殺に持って来いなシチュエーションとでも考えられる。



 これは考えすぎかもしれないが、初めの内はこれくらいの用心に越したことはない。状況から鑑みて、今の俺はこの勢力争いが繰り広げられるアトロシャスに突如として現れた未知勢力の一人として考えられてもおかしくはないのだ。玉樹會とやりあったことから興味本位でちょっかいをかけてくる相手は減ったかもしれないが、逆に言えば俺のところに襲撃をしかけてくるのは本腰を入れて抹殺を企む連中しかいないということだ。

 だからこの状況で俺が殺されるシナリオ(可能性)が思いつく内は用心するに限る。

 


 ふぅ、と大きく呼吸を一つして各部屋を見て回る。

 二階の構造としては入口から入ると先ず事務仕事と依頼主との対応を行う来客用の大部屋が待ち構えており、そこからさらに西側の奥へ進むドアを潜れば左右にそれぞれ部屋があり、片方は荷物置き場とトイレが、もう一方は未定のため空き部屋となっている少し広めの部屋がある。大部屋にはここにきたままの状態で段ボールが積み上がっているが、こちらの二部屋には今のところ配置すべき荷物はないため、部屋には何も置かれていない。



 一先ず手前の三つの部屋から順に調べていく。手元のライトを向けても、広がるのは何もないガランとした景色。ぐるりと見まわしても目に入るのは白、白、白という白尽くし。白塗りの壁に覆われた部屋だからそれは当然のことではあるのだが、白一色であるが故にその一ヶ所にどうしても目が向かってしまう。



「……こいつは一体何なんだろうな」



 コンコン、とノックの要領で叩いているのは入口から右側の壁の下の方。踝ほどの高さにあるそれは、縦15cm、横10cmほどの銀色の金属板だ。用途が一向に分からず引き剥がそうとしてみたのだが、壁にしっかりと埋め込まれているために取り外すことはできなかった。だが、それ故にこれを取り付けた意図がわからなかった。

 コンセントのような溝があるわけでもなく、ガスの元栓のように開閉ができるというわけでもない。只々意味もなくそこにあるだけの金属板なのだ。首を傾げざるを得ない。



 すると「ん?」と俺の頭の片隅にあった記憶の断片が唐突に網に引っ掛かり、表層まで引き上げられた。それが具体的に、いつ、どこで、どんな内容の記憶だったか正確には思い出せなかったが、俺は無意識の内に、手元のライトを当ててみた。上下左右から色々な角度で当ててみたところ、ある角度で光を当てた時、それまでとは全く異なる現象が起こった。



 そこに浮かんだのは、光に反射する鈍い金属光沢ではない。

 ぼわぁ、と金属板の表面に浮かび上がったのは、見たこともない不可思議な模様。ぱっと見では何かのロゴとかそういうものではないのだと思う。だが一体それが何なのか、正確な答えは咄嗟に出てこなかったものの、何かロクでもない不気味な模様であったことは何となく察することができた。



「……いよいよこれは、噂にはナニか種がありそうだな」



 これの正体について疑問はのこるものの、金属板の調査もほどほどに部屋にある窓から外に視線を向ける。

 すっかりと夜闇に包まれているが、建物の外郭や位置くらいはわかる。そこから部屋でどういった作業をする時に、どの位置から狙撃されるだろうかを考えて狙撃手の位置を逆算していく。予備を含めて計3か所くらいに絞れれば上出来だ。



 そして最後の部屋。ここも同じく見つけた金属板の調査を終え、狙撃ポイントのチェックをしている。と言っても、こちらにあるのは天井近くの高さにある採光用の長細い窓だけだ。こちら側に高い建物はなく、角度的に狙撃することは不可能。狙撃を警戒する必要はないだろう───ッ


 

「───ッ!!」



 一瞬にしてブワァッ、と全身の毛が一斉に逆立ち、尋常でない鳥肌の立ち様に呼吸が止まる。

 

 これは何だ、一体どうした。

 

 訳が分からずに思考が滞るも身体は思考の支配を受け付けないかのように自ら動き出す。右手は腰のナイフに掛けられ、鞘からするりと引き抜かれる。 

 その身を晒した黒塗りの刃は遠心力と腕のフルスイングを以て、空気すらも巻き込んで横薙ぎに振るわれた

 

 そしてその先にあるのは、無音で迫りくる黒い影。


 彼我の距離は一瞬にして詰められ、月光に輝く銀の刃と、月光すら吸い込む黒の刃が交錯する。 


 

 キィィィイインッッ!!!



 甲高い金属音が部屋の中に響き、闇夜の戦端が幕を開けた。



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