戦火に駆られた哀玩人形11
これで今話のエピローグになります。
今は懐かしき空の下。
空港に居たマスコミを何とか掻い潜り、飛行機でようやくこの地に降りたのは、街灯とネオンが街を彩る時間帯になってからだった。死者を華とする戦場と、色とりどりのネオンが煌めく繁華街を綯交ぜにしたような、明るさと後ろ暗さが表裏一体となった街並みに今では郷愁すら覚える。昼の顔と夜の顔は完全に入れ替わり、明るい賑やかさを振りまいていた昼の住人は鳴りを潜め、今の街には仄かに死と暴力の臭いを漂わせた背徳的な賑やかさが溢れている。ネオンの輝きに浮かぶ人間はどこかで悪事をするような人相の悪い人間ばかりで、垣間見える女も皆、扇情的なドレスを纏って男を誘う者ばかり。時折、昼間に見ない露店商が通りの端に露店を広げ、怪しげな袋―を通行人に売り込もうと活き活きと話をしている光景もある。昼と夜とでここまで違うものなのかと、戦々恐々していたのが今は懐かしい。
「どうだ? 巷じゃ散々な言われようの街だが、案外活気があっていい街だろ?」
「確かに賑やか、だけど……」
「どこか、危ない感じがする」
街を飾るカラフルなネオンに照らされて幼い二人が視線を彷徨わせる様は微笑ましいものだが、鋭利な眼光と無垢さの抜けた兵士然りとした顔が、その全て台無しにしてしまっている。歩いているだけでその臭いを嗅ぎ取れるのは流石の一言だが、これも身体に染みついた臭いだからだろうか。目に映る・映らずを問わず、今もどこかしらで犯罪が起こり、誰かが銃声を、誰かが悲鳴をあげているこの街の空気は後ろを歩く二人の嗅覚を殊更に激するようで、ピリピリとした空気が背中越しに伝わってくる。二人のために最低限の買い出しをしてからここまできているが、その間ずっとこんな様子だった。
「危ない、か。……やっぱりいい勘してるな」
「でも、誰も絡んで来ない」
「ジロジロ見てるくせに……変なの」
「早々に手を出してくるのはよっぽどお頭の足りない連中くらいだ。そうじゃないなら、今見てる連中はそいつらとは違うってことだな。……注意だけはしておけ。隙を晒してると一瞬で食われるぞ」
周囲に聞かれない程度に、トーンを落としてそう言った。
踏み止まれるということは、つまりは理性的に行動できる人間ということ。好奇心で危険を嗅ぎ分ける嗅覚を鈍らせた人間よりも、こちらの方が頭を使って行動に移してくる分よっぽど対処に梃子摺る相手だ。俺自身には手を出せなくとも、こいつらならあるいは、と考えている視線はこの中に確実に紛れているのだろう。
来るとするなら、俺のいないタイミングで。そうなると俺が直接庇えることは少ない。ならば何ができるかと言われれば、今はそういう存在がいることを仄めかしておく外ない。身請けをした身としては若干の歯痒さを覚えるが、結局はこの街では、自力で生き延びるしかないのだから。
「わかった」
「うん」
「いい返事だ。……さ、ようやく着いたぞ」
何はともあれ、今必要なのは休息だ。賑わいを見せる中央通りから道を外れ、南東に歩くこと十数分。ネオンの光から遠ざかり、窓から零れる光だけが景色を照らし、夜の蚊帳と静けさが支配する住宅街の中に、俺の家はあった。
「ようこそ我が家へ。歓迎するぜお二人さん」
今日からここに住まう新たな住人に向けて、俺はそう語りかけた。
◆◇◆◇
すっかりと夜の蚊帳が降り、ネオンや街灯といった人工灯すら届かない真っ暗な部屋の中に、一日ぶりに灯りが点されている。扉を潜った家主を出迎える景色はここから出る時と全く同じで、ようやく戻ってきたのだという安心感が胸の奥に去来し、自然と肩の力が抜けてしまっていた。
事務所とは違ってこの部屋は小洒落た調度品が数多くあるわけではなく、必要最低限の家具と調度品しか置かれていない随分と殺風景なものだ。俺自身のごちゃごちゃした部屋が嫌いという拘りがあるおかげか、服が脱ぎ散らかされていたりゴミ袋が部屋の端に積まれていたりといった汚部屋になっていることはない。………ないのだが。
『……何もないね』
『寂しい部屋』
そう、ただでさえ物が少ないこの部屋では、雑多なものがないことが逆に災いして、何もないスペースが余計に強調されてしまうのだ。イヴとノエルがボソリと呟いたその明け透けな評価は、存外に俺の心に響いた。
俺としてもこういう何もないインテリアが好きというわけではない。だが、どうしてか俺が数を揃えた調度品でインテリアを作ろうとすると、デザインやら色合いやらが化学反応を起こして最終的に摩訶不思議で奇天烈なよくわからないインテリアが誕生するのだ。俺をよく知る友人曰く、オブラートに包んで言うなら独創的、率直に言うならセンスがないらしい。それでいて必要な物ばかりが散乱している部屋なら恐ろしいほど機能的に配置・収納をして部屋を綺麗に見せてしまったり、服のセンスなら何も文句は言わせないことから、そいつ曰く俺のセンスは訳が分からないとのこと。俺だって訳がわからねぇよ。
「まぁ、新しい住人が来たんだ。少しはこの寂しい部屋も、色付いていくだろ」
これ以上は思考のド壺に嵌りそうなので、適当に思考を切り替えて目の前の料理に集中する。今夜は新しい住人を祝ってのささやかな歓迎会。一人暮らしに慣れて徐々に上がってきた料理スキルを遺憾なく発揮するべく、食材を買い込んで少し豪勢なディナーを作るつもりだった。今は二人を先に風呂に入れて疲れを取らせているため、この場にはいない。二人が出てくるまでに料理を完成させて、できあがりの香ばしいにおいを嗅がせてやろうとこうして一人せっせと料理を作っている訳だが、自然と疲れを感じることはなかった。
思えば、こうして誰かのために手料理を振る舞うこともこれが初めてなのかもしれない。この街に来る以前は学校に放課後の演劇の指導教室、加えてオファーが来れば海外に撮影に行ったりとかなり多忙な生活だったこともあり、俺の食事は大半が外食かコンビニの弁当だった。家に帰っても誰もいなかったため、料理をするにしても専ら自分のためにしか作ったことがなかった。誰かに紅茶やコーヒーを淹れることはこの街に来てから増えてきているが、それまで淹れたことがあるのは自分のためか、あるいは淹れてくれるようごねてきたアイツのためぐらいだった。
自分のためか、他の誰かのためか。
料理をしていて変わるとすれば、精々が量くらい。違いはそれだけのはずなのに、どうしてこうもやる気が沸き立つのだろうか、自分の心境に戸惑いを覚える。ハムドチェラ地区での依頼に比べれば幾分かマシではあるが、疲れが溜まっているのは確かな事だ。しかし脳が疲れているぞと信号を送るも、それを押し退けるほどに、本能的な何かが俺に疲れを感じさせないようにしている。まるでそれは、遠足の前日に疲れていても寝付けない子供のようで───。
「………ハッ、何を考えてるんだか俺は」
チラリと脳裏を過った考えを、嘲笑で以て笑い飛ばす。どうやら疲れを感じないのは、疲労の所為で頭が正常に働いていないかららしい。頭を軽く左右に振り、余計な考えを飛沫の様に脳内から飛ばしていく。そうすれば、多少はまともな思考に戻っていくはずだ。
「あぁ、そういえば。シャンプーが切れてるんじゃなかったっけ」
依頼が入ってすっかり忘れていたことを、このタイミングになってようやく思い出す。しかもよりによってかなり重要な案件。せっかく二人を休ませるために先に風呂に入れたのに、これでは向こうも気持ちよく休めないではないか。家主の沽券に関わると思い、俺はコンロの火を止めて急いで脱衣所まで足を向けた。
悲劇が起こるまで、後数十秒。
◆◇◆◇
「ふぁぁ……」
「気持ちいいね、ノエル」
「そうだね……イヴ」
場所は変わって、浴室の中。適温に設定された温かい湯は二人に蓄積していた疲労を次々と洗い出していき、それと同時に緊張感も抜かれているように、二人は戦場では見せたことのないような気の抜けた顔をしていた。よく言えば年相応の顔。湯に浸かり上気した肌は仄かに赤みがかり、元々の白肌によって引き立てられた瑞々しさは、戦場で煤を被っていた時とは雲泥の差だった。
家主より先に湯に浸かるのはどうなのか、と後ろ髪を引かれる思いをしていたのは既に昔のこと。実に数年ぶりとなるまともな入浴を、彼女たちは些末事を放り投げて全力で堪能していた。
イヴはいつものしゃんとした面持ちを僅かに崩して、湯舟の心地よさにほぅ、と感嘆の吐息を零し、ノエルの方は完全に気を抜いているようで、無防備に浴槽に凭れ掛かっていた。ほわほわと漂う湯気の所為か、心なしか二人の声の掠れは治まっていた。
「このまま、ずっとこうしていたい……」
「そしたらきっと、おばぁちゃんになっちゃう」
「うん。それでも、これが続くなら、悪くないと思う」
「…………ん。そうかもね」
それはなんとも理想的で、この上ない至上の贅沢なのだろうか。誰もが思い、誰もが一度は願う理想にして夢想。しかし現実は非情で残酷で、対価なくしてこの幸福が分け与えられることはないということを、二人はこれまでの人生で嫌というほど思い知っている。
……………………。
暫く、二人の間に沈黙が訪れる。
双子故に、心の奥底で燻っている思いは同じだった。違いがあるとすれば、それに折り合いを付けられているか、そうでないかの違い。それにどうにか折り合いをつけたくて、しかし未だにどうにかすることができないもどかしさに苦しむイヴと、既に折り合いをつけていて、それを知っていて何も言わないノエル。外からの静かな喧騒だけが聞こえる、静かな空間。ピチャン、と。水滴が水面に落ちる音が、よく響く。
「ノエル……あいつのこと、信用できると思う?」
「……イヴにしては、珍しい質問」
イヴのか細い声が、静寂を破った。ノエルはその問いかけを笑って茶化すが、その質問を自分に投げてしまうほどにイヴが悩んでいるのは、よくわかっていた。かく言う自分も、一時は同じ気持ちだったから。
今の新しい雇い主であるマックスは、これまでの行動を見る限り今までの人間よりは信用できる人物だとは思っている。対価と利益が釣り合った等価交換をきっちり守ってくれて、尚且つこちらに配慮までしてくれる。今までの雇い主の中で一番の優良物件だ。だがイヴが気にしているのは、その先のこと。かつての同居人であり姉の様に慕った彼女の様に、マックスはこちらが心を開いてもいい人物であるかどうかということだ。
「わからない。でも、今までの奴らよりは、遥かにマシ」
「うん。……だけど……」
やっぱり、怖いものは怖い。
今、イヴの足を踏み止まらせているもの。その正体は、潜在的な恐怖心。
この数年間で身体に刻み付けられ、心を蝕み、根底に染みついた恐怖による否定的な思考が、傾きかけている心に向かって際限なく喚き散らしてくる。今は好い人だが、裏では……などと、一笑に付すべき思考が追いやっては戻ってきての堂々巡りを繰り返している。内心ではよいと思っていても、頭がそれを拒絶している。答えが出ているのに答えを出せないでいる、そんな心境。
いつもは何だかんだ重要な場面で引っ張ってくれるのは、目の前の相棒のはずだったが、今はその頼もしさは陰りを見せている。
スナイパーのくせに戦時はすぐに感情を制御できなくなるノエルに対し、イヴは戦場では恐ろしいほどに理性的だ。仮に失敗しても、すぐにカバーできる程度には柔軟な思考もある。が、こと感情に折り合いを付けようとすると、理性が働き過ぎて今の様に点でダメになってしまう。
その一方、ノエルは気持ちの迷いであれば、こういったことに折り合いをつけるのは早いタイプだった。故に今回は自分が助け舟を出す番。そう思い、内心がぐちゃぐちゃになっている片割れに向かって、ノエルはそっと声を掛けた。
「イヴはきっと、難しく考え過ぎ。別に信じるのは、今じゃなくてもいい」
「ノエル……」
振り向いた金の瞳と、自らの視線が交錯する。
一卵性の双子の、瓜二つな顔が向かい合う。ノエルの瞳に映るイヴの顔は、不安と希望が入り混じる複雑模様を滲ませた憂いたもので、敵を見据える鋭利な瞳は、今は不安げに揺れていた。
「いっその事、裸を見せちゃえばいい。それで襲ってくるなら、その程度の人間だったってこと」
「……フフッ。流石に、それはしない」
イヴは、ノエルが自分を励ましてくれていることを察して、その冗談にクスリと笑った。だが、それが何かの切っ掛けとなったのは確かなようで、笑い終えた彼女の顔は、憂いのない晴れやかなものになっていた。
ザブン、と。イヴは浴槽から身体を起こして外気に肌を晒す。
しなやかさを帯びた引き締まった肉体は、戦場に特化した細身の身体。女性特有の丸みが薄く、どちらかといえば男性らしい肉付きが勝っているその身体にとって、女性だった名残を示すのは発育の止まった薄い胸と、女性器のみ。そしてその身体には至る所に戦場で付けられた生傷が存在し、中でも一層際立っているのは、彼女の下腹部にある、一生消えることのないであろう痛々しい裂傷痕。遠い過去の、思い出したくもない行為の果てにつけられたその傷は、彼女───否、彼女たちから、女性らしさを奪った屈辱の証。その傷跡を、イヴはそっと一撫でする。
「それに……どうせこんな身体に、欲情なんて───」
『おーい。シャンプーが切れてるだろうから、渡しに来たぞーー』
そうして何かを言いかけたその瞬間、脱衣所の中に声を張り上げてマックスが入ってきた。脱衣所と浴室を隔てているのは防音もしていない扉一枚。声を張り上げれば、脱衣所の扉越しだろうと簡単に浴室まで届いてしまう。
浴室のしんみりとした空気も、今の一声で完全に霧散してしまい、二人は顔を見合わせて苦笑する外なかった。
「わかった。ありがとう」
『おう。入浴中に悪いな』
そして、ガラッと。何の、一切の躊躇もなく、浴室の扉が開け放たれた。
「…………」
「…………」
「…………」
まさか開け放たれることなど夢にも思っていなかった二人は、突然の事態に思考が停止した。対するマックスも、目の前に広がる光景が予想外過ぎて、思考が停止してしまっている。
一先ず、頭の中で正しく理解するために、浴槽から出ていたイヴの目を見ていたマックスの視線が、ゆっくりと下に向かって移動していく。
先ず、目に着くのは首筋から肩にかけて程よくついた僧帽筋。
次に目にするのは、胸部にある大胸筋。鍛えていればいずれついていくであろう筋肉だが、イヴのそれは他の筋肉と比べて不自然なほどに膨らんでいた。何故だか少し柔らかそうだ。
その次は、自然体でも薄く張っている腹直筋と、臀部へと伸びる美しいくびれのライン。
そして更にその下。下腹部より下は一部右手で隠れてしまっているが、それでも男なら流石にわかるものはわかる。
あ る べ き は ず の も の が つ い て い な い
そして一通り眺めた視線は、ゆっくりとイヴの顔へと戻り、視線が今一度交錯する。
互いの表情を表すなら、それは困惑。たっぷり数秒間見つめ合い、そして裸を見られてようやく絞り出された言葉は、今生において最も彼女のプライドを傷付けるものであった。
「えっ…………お前、女だったの……?」
「───────ッッッッ」
もはや言葉は不要。
持ち得る最大限の力を以て、彼女はシャンプーボトルを彼の顔面に投げつけた。
◆◇◆◇
「あ、アッハッハッハッハッハ!! そりゃあマックス、き、君が悪いよ。く、ククク……。にしても、プっ、ダメだ笑いが止まらない。アッハッハッハッハッハッハ!!」
「笑い過ぎだ。ったく、あの後宥めるのが大変だったんだぞ?」
一夜明けて、今日もいつも通りな空の下。俺は一日ぶりに再会したレオニダとオープンカフェに腰かけて、昨夜の頓末について話していた。いや、あの後は本当にイヴの機嫌を直すのに苦労した。ノエルはノエルで完全に俺で遊んでいたし、昨日の歓迎会は終始殺伐とした空気が流れていた。歓迎のかの字もない惨憺たるディナーだ。もう二度と経験したくない。
今はこうして俺は一人でいるわけだが、イヴとノエルの二人は通りの向こうで仲良くショッピングを満喫している。二人に必要な物を買い出しに来ていた途中で偶然出会ったアイラが、話を聞いた途端に 任せて! と息巻いて二人を連れていってしまったのだ。そして手持ち無沙汰になった俺は、3人に目が届く場所でこうして休んでいるというわけだ。レオニダはその最中に合流したので、こうして二人してカフェに座っている。
「それで? まさか昨日の今日で、こうしてお喋りに来たわけじゃないんだろう? ……何かあったか?」
「ハァ、ハァ。…………うん、そうなんだけどね。これ、今朝のアメリカの朝刊なんだけど、読んでみるかい?」
「貰おうか」
声のトーンを低めにして、真面目な話へと切り替える。レオニダもそれを察してか、仕事モードに切り替えてくれる。そうして、レオニダから渡された新聞を広げて読み進めていく。だが、そこまで深く読まずとも、一面の見出しにレオニダの言いたい内容がデカデカと乗せられていた。それを見ただけで、眉間にしわを寄せた。
「『イタリア軍の軍事作戦にて、アメリカの旅行客巻き添えか』……なるほど、これなら後手になろうと外部から介入できる、ってわけか」
「そう。今回は完全にしてやられたよ。これで電撃戦の旨味が失われたわけだ。全く、アメリカ様様だよ」
確かに、一見すればアメリカが裏から手を回して偽装工作をしたかに見えるだろう。
だが、俺はあの場で『S.R.H』がこの一件に関与していることを知ってしまっている。恐らく、今回アメリカに手引きをしたのは『S.R.H』の方。何らかの取引のためか、あるいは恩を売るために、この偽の情報をでっち上げたのだろう。
しかしこればかりは俺の与り知らぬこと。『S.R.H』と『フォラータ・アルマ』間の抗争に第三者の俺は介入するつもりは更々ないので、レオニダには余計なことは言わないでおく。
「まぁ、今回はお互い手を焼く相手ができた、ってオチでいいんじゃねぇか?」
「ハハハ、それは違いない。……にしても、うん。君も随分としっかり保護者をやっているみたいだね」
「さてな。出来てるのか出来ていないのか、そんなもん自分じゃわかりゃしねぇよ」
そう言って、向こうでアイラに連れられてショッピングを楽しんでいる二人に目をやった。初対面のアイラがいる所為か心なしか落ち着かない様子だが、アイラ本人の人柄故か、特に警戒もせずについていっている。互いに打ち解けるのにもそう時間は掛からないだろう。
“あの子たちのこと、頼んだわよ”
思い出すのは、別れ際に囁いたアナスタシアの言葉。
彼女がどうして、あんな言葉を俺に残したのかはわからない。だが借りを作った手前、しっかり借りを返すのが俺の性分だった。
「ただまぁ……頼まれたからな。やれるだけのことは、やってやるつもりだ」
この二人を引き入れたことで、この先どうなるかなど、今の段階では到底わかるはずもない。
ただ、漠然と。そう悪いことにはならないだろうと、二人を見ていて、そう思った。
さて、『戦火に駆られた哀玩人形』はこれにて終了になります。
割と忙しい時期に執筆していたので、思ったよりも時間が掛かってしまいました。
次は閑話を挟んだ後、今話から登場したイヴとノエルにスポットを当てた話に入るつもりです。




