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戦火に駆られた哀玩人形5

8/4 加筆修正版です。


前半部分は一切変えていないので、既に見ている方は中盤まで読み飛ばしてもらっても大丈夫です。




 ソレに気付いたのは、本当に偶然だった。




 追手を振り切り悠々と山岳地帯を走破している時に、偶然にも木々の間から差し込んだ木漏れ日に目を細めた瞬間だった。片手で目を覆い、やや上ずりになった視界が移すのは山頂で途切れる道の端。周囲を囲う樹木の木色と、空を塞ぐ葉々の新緑。その隙間から覗く空と陸の境界線にして、今回のゴール地点。麓から見上げた時よりも随分と近く、ようやく半分まで登り詰めたか、とマックスが内心で思ったその時だった。




 木々の合間から、キラリとナニかが光った。




「────ッ!!?」



 ハンドルを握り締め、強引に方向転換。代償として身体へと横殴りにGが掛かるが、反射の領域で為された判断は首の皮一枚でマックスの命を繋ぎ止めた。

 ガシャンッ、と。左のサイドミラーが拉げて吹き飛ぶ。破片がガラスを罅つかせ、残骸が地面に転がる。あと一瞬、ハンドルを切るのが遅かったなら、吹き飛んでいたのはマックスの首であった。



「やってくれるなぁ、おい……!」



 急いでハンドルを切り直し、木にぶつからないように回避する。蛇のように蛇行をしながら進むも、銃声は絶え間なく響き執拗にこちらを狙ってくる。地面が抉れ、枝々がへし折れ、着弾と同時にヒヤリとした時に、置き去りにされた発砲音が聞こえる。ハンドルを切るタイミングを誤れば、すぐさまミンチになるかスクラップにされるかを迫られるピンポイント・スナイプ。

 対物ライフルという、ただでさえ高火力を誇る武器から放たれる一撃は障害物を物ともせず、立ちふさがる木々諸共標的を穿()ち殺しに来ている。高さというアドバンテージも得て、その凶悪度は一段と跳ね上がっていた。



「───っ?」



 絶えず撃ち込まれ続ける凶弾。当たれば終わりの死線を躱し続ける内に、マックスはふと違和感を覚える。

 射線は間違いなくこちらを捉えにきている。躱せば躱した先に、避けられないだろうとばかりに位置を予測した軌道で弾丸が放たれ、タイヤにエンジン、操縦者と車にとって急所と呼べる箇所を徹底して狙ってきている。縦横無尽、変幻自在に車両を操っていたというのに、不意に、弾道に法則性が混じり始めた。



 執拗に狙われるのは運転席に左側の前後輪。避けるにしても左にハンドルを切ればエンジンやガソリンタンクを殺られる他なく、最悪助手席の手榴弾や後ろの弾薬に引火して隣の地中海あたりまで吹っ飛ぶことだろう。右にハンドルを切る以外、逃げ道はない。そんな攻撃が何度も続けば、否応なしに敵の意図が見えてくる。




───誘導(転が)されてるか……ッ




 僅かに歯ぎしりするも、避ける道がそれだけなら行くしかない。

 ふと見れば、前方には突っ込んだらスクラップにされるほどの巨木が立ち並び、その間には薙ぎ倒しても進めなくなるほどに細木が密集した場所が見えた。丁度ジープ一台分が通れそうな幅に揃えられた道の先。襲われながら進むとしたらここしかないと言える場所に構えられた天然の鳥籠が、悠然と口を広げて待っていた。狩場にするには、お誂え向きの場所だった。



「チッ。まぁ、道がそこしかないなら(・・・・・・・・)行くっきゃねぇが───」




 (選択肢)がないなら、作ればいいだけのこと。




 ライフルの装填間隔、車両の走行ルートから着弾地点を概算。ライフルの弾速から射撃のタイミングを割り出し、弾丸を撃ち込まれる前に相手の機先を制する。遮蔽物の多いこの森では一瞬でもタイミングをズラせれば、幾らでも隙を作り出せる。

 パンッパンッパンッ! と鳴った破裂音。彼の十八番である初動を悟らせない早撃ち(クイックショット)が、ギリギリまで懐に忍ばせた状態でお披露目となり、執拗にマックスを狙い続けていたスナイパーに牙を剥く。乱立する木々の合間、生い茂る枝々(しし)の隙間をすり抜けて、左手より放たれた銃弾は敵が引き金を引くよりも早くその喉元を食い千切らんと押し迫る。



「せぇ──のッッ!!」



 着弾予測地点の少し手前。ほんの数mというところでブレーキを掛け、マックスはハンドルを勢いに任せて90°左に切った。前方に荷重が移ったのがわかる。後輪からキキィ──ッ!! という不快な音が鳴るが、慣性の法則は止まらない。見えない何かが後ろから押すように、車両はスケートリンクを滑るように地面を滑走する。左へ向きを変えようとする力と前進しようとする力。2つの力が作用して、車体が横向きになりながらも前進していく。



 ドリフト。

 車の滑りを利用し、急なカーブや方向転換に用いられるドライブテクニックの一つ。マックスが行ったのはその中でもブレーキングドリフトと呼ばれるもので、ブレーキを用いて車体の荷重を前方に持っていき、後輪をやや浮かせながらドリフトを起こすテクニックだ。

 無論、身体には強烈なGが掛かるが、直撃を避けられたという面で見れば必要経費と割り切れる程度のデメリットだった。ダートに踏み込み、同時にアクセルを強く踏み込んだ。



 直後。ドンッ──!! という音と共に、地面が揺れた。

 無事な右のサイドミラーで確認すると、本来辿り着く場所であった鳥籠からもうもうと黒煙が立ち昇り、人など容易く燃やし尽くすほどの炎がうねりを上げているのが見えた。そこに辿り着いていたならば、無事では済まなかったことなど容易に想像がつく。



「狩場に罠、か。狙撃手(スナイパー)ってよりは狩猟者(ハンター)と見た方が正解か」



 どちらにせよ──いや、後者の方が数段厄介ではあるが、殺らなければならない相手に変わりはない。気を引き締め直し、サングラスの奥にある瞳が鋭く細められる。



「さぁて、お次はどう来る。見えない狩人さん……?」






◆◇◆◇






Tão idiota(ありえ、ない)……っ!」



 訳の分からない苛立ちを、声の主が吐き捨てる。手に持った大口径ライフル、ダネルNTW-20のボルト・ハンドルを引いて銃弾を装填。全長1795mm、重量26kgに達する怪物兵装を再び働かせようとするも、額から垂れた赤い液が右の視界を覆い、無造作に右の手の甲で拭い去る。気付けば、知らず知らずの内に動悸が速まっていた。



「焦るほどじゃ、ない。偶然に、決まってる」

「偶然だけで、2発(・・)も当たらない……!」



 気を落ち着かせようと片割の影が声を掛けるも、冷静を失った声がそれを一蹴する。引き金に手を掛ける影の心の内からこみ上げる感情。苛立ちを生み出す元凶の念は即ち───恐怖。



 何もかもがあと一歩だった。

 慎重に慎重を重ねて誘導し、仕上げとばかりに狩場(キルゾーン)に誘い込むための最後の一発。避けざるを得ない軌道にそれを撃ち込み、その後は片割れが仕掛けた爆弾を演歌で起動させて終わるはずだった。



 しかし、ほんの刹那の時間。銃撃と銃撃の数秒に満たない僅かな間をこじ開けるかのように食らいついてきた弾丸が、全てを台無しにした。

 彼我の距離は数百m。拳銃の有効射程距離の数倍は離れているはずなのに、あろうことかその銃弾は正確無比にこちらのライフルを狙い撃ってきた。威力が減衰していようと衝撃は衝撃。側面への僅かな衝撃が銃口の角度をズラし、照準を狂わせた。たった1°、それだけでも、この距離ならば着弾地点は13mもズレ込む。それが2°ともなればズレは27m。明後日の方向と呼ばれても言い返せないズレとなる。

 そして次弾も同じくライフルの照準をズラしたと思いきや、今度は跳弾で角度を変えて撃ち手までをも狙ってくる始末。額から流れ出る赤はその所為で、ただでさえ色白な影がその赤をより際立たせる。その心中は到底穏やかとは言えず、“この距離でこちらに当たった”という事実よりも、額から垂れる赤が“この距離でも殺されるぞ”という恐怖を突き付ける。

かつて最初の戦火を被ったダルフールの街でさえ、これほど恐怖を持ったことはなかった。無感情で無感動、終始機械的に殺戮の華を咲かせた狩り人は、自分たちが敵に殺されるかもしれないという事実に初めて恐怖する。




 気付かれず放たれた3発目が発射し終えた銃弾を弾いたことは、知らぬが仏と言うべきか。




 おかげで狩場で爆発炎上する敵車両を見届けてこの場を去るというビジョンは崩れ去り、今尚影は忌々しい巨銃のグリップを握るハメになっている。荒く短く吐かれる呼吸が、心の乱れを如実に表している。



 それを見止める片割れの影は、嘆息すら零さず瞑する。自らが仕掛けた爆弾で仕留め損ねたのは痛手だったが、それでもまだ十分に勝機はある。目下の問題は、目の前で呼吸を乱している片割れの方だろうか。

 不利や劣勢を悟ると萎縮や情緒不安定になることは、今に始まったことではない。慰めは余計に心を荒ぶらせるだけだろうと、これまでの経験から知っていた。恐慌状態になりかけている片割れの心は、言葉だけで解決するものでもない。鎮めるには、結果で語るのみ。敵を追い込み追い詰め、こちらが優勢だと思わせることが最善だと頭の中ではじき出す。幸いにも、場は整っている。



「ここから先は、私たちの“庭”。玩具はたくさんある。だから、遊んでいるところを、狙って撃てばいい」




 それで勝てるはずだ、と。



 吹いた風が、静かに金髪を揺らした。






◆◇◆◇






「さぁて、近づいたはいいが、問題はこっからどうするか……」



 周囲を警戒しつつ、大樹の裏に車を止めたマックスがドアを閉じてそう零す。冬の寒さが木々の間を吹き抜けるが、都会の乾いた空気とは違い森の中はどこか水気を含んだ空気が漂っている。



 カシャン、とスライドを引き、初弾を装填。大樹の影にしゃがみ込み、顔だけを覗かせて辺りをザッと見渡してみる。都会の喧騒とはまた違う鳥たちの鳴き声が遠くからこだまし、虫の音が微かに聞こえるも、確認できる音源はそれだけだった。辺りは人っ子一人いる気配がなく、世界の中に一人ポツンと取り残されたようにマックス以外の人影はまるで感じられなかった。



「……誰もいない、か。となると、あのマタギ野郎が今いる迎撃傭員と見るべきか」



 街からの追手を除き、マックスへと攻勢をかけたのは件のスナイパーただ一人。人海戦術も使わずに迎撃をスナイパー一人に任せたということは、それだけで事足りると向こうが判断したということ。よほど腕に自信があるのか、向こうの信頼を得ているのか、……或いは、単に舐められているのか。どんな理由にせよ、敵の数が割れている今、追加の人員が来る前に仕留められるのならこの上ない。



 ダンッ、と。脚力に物を言わせて、大樹の陰から弾丸のように飛び出した。

 その直後。半ば予想通りに、隠れていた樹木が甲高い摩擦音を発し、幹の端に深々と抉られた痕が刻まれる。位置が割れているのは織り込み済み。一瞥だけして、視線を前に戻した。今すべきはタイミングを計るでも抜き足差し足(スニーキング)をするでもなく、只々速さに重きを置いた初動で的を絞らせないこと。潜伏場所が割れているこの状況では、見つからないことよりも当たらせないことの方が重要だ。



 一歩踏みしめ急転換。膝のクッションで身体の負荷を抑えつつ、緩急を織り交ぜたフェイントと最小の動きだけで次々撃ち込まれる銃弾を躱し、彼我の距離を詰めていく。

 走り抜ける木々の合間から見上げた先に、徐々に見えてくる敵の陰。岩肌と森が混在する頂上付近、その一角にある岩肌だけが突出した天然の高台の上に、ヒシヒシとこちらに向かって殺気を飛ばしてくる影を捉えた。



 しかし、その位置は先ほどから1mmたりとも動いていない。スナイパーは対人戦において、敵の範囲外から攻撃を仕掛けられるという強みがあるが、その反面位置がバレ距離を詰められれば一気に不利になるのが弱みでもある。故に敵に位置を割り出されないよう細やかに移動をするのが常道なのだが、この相手にはその兆候が一切見られない。



「動かねぇ敵なんざ只の的だぞ──!!」



 意図は読めないが、弱みをカバーする気がないのなら攻めるのみ。マックスは装填の終えた銃の引き金を、躊躇なく引いた。




 牽制(発砲)。照準はやや外れ気味。しかし確実に目に付くだろう位置に撃ち込む。


 回避。左脚に体重を乗せ、半身の状態で左に跳ぶ。空気を裂く音が鼓膜に伝わる。


 牽制(発砲)。照準をやや修正。目に付き、そして耳に着弾音を残す位置に撃ち込む。


 回避。木の陰に逃げ込む素振りを見せつつ、身を翻して逆方向に。銃弾が幹を貫いた。


 牽制(発砲)。修正完了。こちらはお前をいつでも撃てるぞと、間近の岩に撃ち込む。


 回避。


 牽制(発砲)


 回避。


 牽制(発砲)


 回避。


 牽制(発砲)


 回避──────不要。




「っハァァッ!!」



 予定通りの流れに口角が吊り上がる。

 狙いは外れていないのに、一向に当たらない銃弾。こちらが当たらないのに向こうは徐々に照準を補正していく不条理。徐々に近づいてくる敵。早く何とかしなければという思い。焦り、苛立ち、プレッシャー───積もり積もった負荷は心に亀裂を生み出し、その隙間から恐怖(不安)が顔を覗かせる。

 たった数度のミラクルショットよりも、徐々に精度を上げていく射撃は効果的に恐怖を助長する。じわじわと、真綿で首を絞めていくかのように。不運な出来事(ファンブル)という言葉では片付けられない確かな現実が、沸々と心の底に溜まっていくのだ。



 ────だが、





 カチン、と。




「────は?」




 忘れてはいけない。

 相手は射殺ではなく、罠を用いた(・・・・・)爆殺を狙ってきたスナイパー。元より射殺は二の次で、(本命)で確実に仕留めることを常道とする生粋の罠師(トラッパー)であることを。

 第二、第三の仕掛けがあっても、なんら不思議ではない。



「こいつは────っ」



 足裏に伝わる金属の感触。不自然に身体が沈み込み、真下に伝わるエネルギーが機構を作用させ、地面に埋もれていた鉄の牙が陽の目を浴びる。ギザギザとした牙を有した鉄の円。三次元的に折畳まれ、口内に踏み込んだ餌を挟みこもうとする様はまさに獣の咢(トラバサミ)



「────ッ」



 一瞬の判断。

 余計な思考を働かせる前に、マックスの身体が脳から血液を脚へとごっそり持っていく。必要量を超過した燃料が強引に送りつけられ、脚の筋肉が悲鳴を上げるがそんなものは知ったこっちゃない。やれないなら死ぬ、それだけだ。そんな脅迫染みた命令が身体から伝えられ、マックスの脚は燃料を燃やして限界を極めた反応を魅せる。



 カァンッ!



 硬質な金属が打ち付ける音。得物を咥え込むはずだった咢は虚しく空を噛み、獲物に食い込むはずだった牙は固い金属を打ち付けるだけに終わった。僅か0.3秒。直径60cm、半径30cmの鉄の咢が口を閉じる刹那の間にマックスは驚異的な速度で跳躍し、間一髪で事なきを得た。



 だが、休む間もなく危機はやってくる。

 閉じた口を足場にした直後、密度を増した殺意がマックスを貫く。直感に従い身体を右に投げ出すも、回避が間に合わず弾丸が左肩を抉っていった。苦渋の顔は相手を勢い付かせるだけ。弱みは漏らすまいと、奥歯を噛みしめながら無理矢理に口角を吊り上げる。

 投げ出された身体の勢いを片腕を地面に付けて殺し、両足でさらに減速。そして踏ん張れるギリギリの速度まで落とした後、一気に加速。地面に仕掛けられている可能性が高い罠に注意しつつ全力で走り抜けた。



 その走る先に、キラ、と光る何かが見える。

 敵の銃口が陽の光に反射したわけではない。木漏れ日が差し込む木々の合間に薄っすらと横に伸びていく複数の線条。蜘蛛の糸にしては不可解な張り方。

 直感が、あれは危険だと警鐘を鳴らす。



 接近。そして認識。



「ッ、おいおいおい……」



 仕掛けられていたのは、極細のワイヤートラップ。仕掛けを作動させるスイッチではなく、純粋に近づいた敵を切断するための凶器そのもの。陽光の照り返しで気付かなければ角切りの肉片に変えられていたと思うと、身体がゾッとする。

 が、あるとわかっているならば退く理由もなし。足元のトラバサミを飛び越え、そのまま特攻。丁度首の高さに据えられたワイヤーを潜り抜け、屈んで顔の位置にきたワイヤーを脚を折り畳んで潜り抜け、さらに仕掛けられていたワイヤーを地面を蹴り抜いて飛び越える。走り高跳びの要領で身体を半回転しながらワイヤーを飛び越え、そして飛び越えるのを見越して仕掛けられた斜めに走るワイヤーを身体をもう半回転させてすり抜ける。着地と同時に赤いコートの切れ端が宙を舞うも、マックスの身体は五体満足。そのまま突っ切ろうと叢へと踏み出し────




 プチンッ。



「────ッ」



 (くるぶし)に違和感。目をやれば、黒塗りのワイヤーが叢の中でマックスの足を捉えていた。舌打ち。しかしいくら自分の失態を恨もうとも、一度引っ張られたワイヤーは元に戻すことはない。その先端部が罠を起動させ、離れた森の奥から何かがしなる音が聞こえてくる。



「ここは罠の見本市か何かか? 面倒な仕掛けばっか用意しやがって……!」



 風切り音と共に飛んできたのは複数のナイフ。やけに刃が眩しく光っているのを見るに、毒が塗ってあると考えるのに躊躇いはない。抉られた左腕も気力で動かし、両腕で拳銃を構える。

 発砲。二挺共から火花が迸り、飛び出した銃弾が空を切る。二つの銃口を発した銃弾はいくつもの線条を描き末端が火花を散らし、飛来したナイフが次々と失速して地面に突き刺さっていく。途中、弾切れによって生じた隙を狙って狙撃されたが、マックスはそれを危なげなくバックステップで回避し、最後の一本をグリップの底で弾き飛ばした。



「まぁ、供給過多は客を飽きさせるだけだ。……そろそろ、この見本市の看板を下ろさせるとするか」



 二挺共のマガジンを取り替え、装填が完了する。カシャン、という音が、いやに大きく聞こえた。






◆◇◆◇






 隣で地べたに俯せとなっている相方が引き金を引き、携えている巨銃が火を噴いた。眼下に広がるのは自らが仕掛けた無数の玩具に溢れているこちらの“庭”だ。鳥を除いて地上にいた動物たちは軒並み玩具()を恐れて退去し、不自然なほど静かになってしまった大自然の森。しかし今はその静かな森には銃や爆弾による火薬の爆発音による喧騒が絶えず響いていた。



 ギュッ、と拳を握る。

 有利不利を問われれば、間違いなく地の利と高度を得ていたこちらであると答えられたはずだった。玩具()その全てが死に直結する悪辣なもので、ストレスを与え続けるというみみっちいことは度外視していた。罠にしろ、それに囚われている隙をついた狙撃にしろ、殺す機会は十分すぎるほどにこちらに用意されていると思われていた。だが、今や追い込まれているのはこちらという有り様。現に相方の息はいつにも増して荒い。双眼鏡で覗いている自分ですら、敵が近づいてくるにつれ動悸が速まっているのがわかる。




 ワイヤーに連結していた爆弾が起動した。

 ────爆炎の中から平然と五体満足で飛び出してくる。



 落とし穴、そして連鎖的に作動して大量の手榴弾が投げ込まれた。

 ────爆発。しかしコートが所々破れた程度で、そのまま突っ切ってくる。



 先端に刃物が取り付けられた巨大な丸太が横薙ぎに振るわれた。

 ────結わえ付けられていた紐を撃ち抜かれ、罠が無力化される。




 敵に回す相手を間違えた。そう思い始めたのはいつのことだろうか。




「あ、ああ──ああああああアあぁぁぁァァァァァァァァ!!!」




 相方が耐え切れず激昂した。いや、この場合は発狂の方が正しいのだろうか。撃ち込めるだけ撃ち込んでおいて、当たったのが僅かに左肩を掠めた一発のみ。罠を作動させようにも、まるでそこにあるのかがわかっているかのように悠々と踏破してのける。藻掻いても藻掻いても刃は止まらず、刻一刻と自分たちの喉元に達しようとしている。それはまるで、断頭台にかけられた罪人のような気分だ。



「当たれ! 当たってよ! なんで死なないの!? さっさと死んじゃってよ!!?」



 荒れに荒れた相方が、涙を振りまきながら引き金を引き続ける。そんな精神状態で正確な狙撃ができるはずもなく、見る限りターゲットからは大きく外れた位置に着弾しているのがわかる。彼我の距離はとうに100mを切っている。50mに達するのにそう時間はかからないだろう。……もうここまでだ。



「ここが退き時、か。撤退するよ」

「ッ! ここで退く意味が、わかってるの……ッ!?」



 振り返った相方が鋭く睨んでくる。目尻に涙を浮かべているが、その眼光は射殺さんばかりに研ぎ澄まされている。



「わかってる。でも、ここにいたら、確実に殺される」

「……いやだ。もういや……! もうあんなことされたくない……ッ!」

「じゃあここで死にたいのか!?」

「ッ……!」



 相方が押し黙る。グリップを握りしめる手が小刻みに震え、堪えるように歯ぎしりをしている。考える時間は与えたい。でも、敵はもうすぐそこまで来ている。



「行こう。撤退の時間稼ぎくらいは、できるはず」



 相方がコクリと頷くのを確認して、ポケットに忍ばせていたリモコンのスイッチを押す。




ドガッッッシャァァァァァァァァァンンンンッッ!!!!?!?




 地面に仕掛けておいた遠隔操作用の爆弾が起動。十数個のC4が固い岩肌を一気に抉り取り、巨大な落石となって一斉にターゲットに襲い掛かった。この場所に辿り着くには、どうしてもこの急勾配を通らなければならない。そこに落石が大量になだれ込めば、いくら何でも対処に回らなければならなくなる。殺せるかどうかは確証はないが、時間稼ぎくらいはできるはずだ。

 そう思い、相方の手を引き、立ち去ろうとしたその時だった。






「おいおい、また随分なことしてくれるじゃあねぇか?」

『ッ!!?』




 背後から掛けられた声に、見えないナニかに鷲掴みにされたように心臓が軋み音を鳴らす。

 反射だった。腰の銃を引き抜き、振り返りながら銃口を向ける。声は男のものだ。初めて聞く声だが、それは間違いなく今まで殺そうとしてきたターゲットのものだと確信している。引き金を引く。ただそれだけで、弾丸は発射される。だが────。



「ッ」

「おっと、余計なことはしてくれるなよ」



 その動作ですら、許されなかった。引き金を引く間もなく、銃は明後日の方向へ弾き飛ばされる。手に鈍い痛みが伝わった。

 相方を後ろに庇う。相方に近距離戦闘の心得はなく、やるなら自分しかないからだ。そして、相手をみる。そこそこにタッパがあり、太くもなくどちらかと言えば細身な体つき。服装は見るからに満身創痍でボロボロだが、四肢に激しい出血は見られない。戦闘にはこれっぽっちも支障はないだろう。だが────



「──って……子供か?」



 油断をしているならば、話は別だ。すぐさま腰から筒状のものを取り出し、足元に投げつけた。




プシュウウウウウゥゥゥウゥゥゥゥゥゥ────!!!



「ッ! スモークか!?」




 たった一発しかないが、咄嗟の時間稼ぎにはまだ使える。敵が怯んだ隙に、一気に後ろに向かって走り出した。手を引く相方には悪いが、形振り構っていられない。途中、一発の弾丸が頬を掠めたが、走るのに支障はない。

 ただ我武者羅に。敗走兵となって、森の中を駆け抜けた。



 帰ったところで、待っているのは地獄だろう。だがそれでも、私たちにとって、帰る場所はあそこしかないのだから。



あともう一戦、ホントはマックスの戦闘シーンあるんですが、おそらくカットになりそう……


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