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赤と銀の硝煙二銃奏6

前話のラスト、作者が素で間違えてたことにより改稿してあります。

改稿後のものを見てない方、先ずはそちらから見ていただけたら、

今回の話はすんなり入れると思います。


重ね重ね、ご迷惑をお掛けて申し訳ありません。



「随分と手荒な歓迎だなッ───アリシア! 迎撃は任せるぞ!!」

「ええ、任されたわ」



 アリシアに指示を飛ばし、マックスはすぐさま行動に移す。

 今現在、この車にハンドルは誰の手にも握られていない状況。メーターを見れば、車の速度は50マイル以上出されているのがわかる。その状況でハンドルが制御されていない状況など、恐怖以外の何でもない。特に、ここはあぜ道であって道路は平坦ではない。ゴツゴツと不安定な道が続いているため、車体のバランスを崩す要因が多すぎる。今すぐにでも、ハンドルを何とかしなければならなかった。



 マックスは腰から引き抜いたナイフを逆手に持ち、名も知らぬ運転手の遺体を縛っているシートベルトを鋭く、一刃の下に切り裂いた。

 プチンッ、と音を立てて、だらん、と垂れるシートベルトを払いのけ、遺体の襟首を右手で掴み取る。鮮血の所為でねちゃり、と気持ち悪い感触が手に伝わるが、それを意に介さずに運転手を引き上げた。

 腕だけでは、到底人一人を素早く持ち上げることなどできない。だから右脚で踏み込み、腰を捻り、左手で遺体を支え、柔道の背負い投げに近い要領で、全身を使って最高効率で引き上げる。遺体の背中が肩に乗ったタイミングで呼吸を合わせ、マックスは運転手を下に打ち付けるのではなくトランクの方へと投げ飛ばした。



 死体に鞭打ちするな、と日本なら非難を浴びる行為なのかもしれないが、この世界は違う。生者は勝者で、死者は敗者。こんな状況で、それこそ自分が死の淵に引き摺り込まれそうな状況だというのに、死者に慈しみを持って丁重に扱うなんて選択肢は早々に排除されて然るべきだ。マックスはアリシアの行動を阻害しない位置に遺体を投げ飛ばせたのを確認すると、すぐさま運転席に飛び乗った。



 『SAFARI』は日本車ではあるが、生憎とここは海外だ。運転席の位置は、日本とはことなり左側にある。日本人は右側に運転席がないと乗りにくいと感じる者が多いとは思うが、マックスはまるでそれが元から自分のモノであったかのように手慣れた操作で操っていく。




タタタタタタタンッ、タタタンッ、タタタタタタッ───!!




 左遠方より聞こえる破裂音が、砂塵を割って響いてくる。遅れて、仕留めてこそいないが、十二分に殺意が籠った鉛玉が幾つも地面に突き刺さる。この車は現在、アクセルを踏んでいないために減速の一途を辿っている。このままでは遅かれ早かれ照準を合わせられ、ハチの巣にされることだろう。

 マックスは、大きく息を吸い込んだ。




「飛ばすぞ──ッ!!」




 アクセルを思いっ切り踏み込み、減速しかけていた所を一瞬にして加速させる。加速により発生したGが真っ正面から俺に襲い掛かり、身体がシートに打ち付けられる。車内全体にもそれが及び、背後からも物が打ち付けられる音が聞こえたが、それを気にすることなく、歯を食いしばってエンジンを更にふかす。



「───まったく、アクセル踏み込むならもう少し前に言って欲しかったわ。流石の私でも対応できないわよ」

「そりゃあ悪かったな。その怒りは奴さんにぶつけてやれ」



 不満げな声色を隠しもせず、後ろからアリシアが小言をぶつけてきた。口調がやや荒んでいるのは、それほど怒りを抱えていることの証左だろう。アクセルを踏んだ時に、運悪く対応できずに頭をぶつけたようだ。バックミラー越しに、マックスにジト目を向けている。



 どこか愛らしさすら感じられる行為だが、そんな目を向けている彼女の手には、対照的に随分と物々しい銃器が握られていた。



イズマッシュ社製 『SV98』



 マックスがロットンの武器屋にて見つけた一品と、同種のライフルだ。ただしその時に店頭に並んでいたものとは違い、深緑色ではなく彼女の瞳に似た群青色にカラーリングされていた。当然、新品ではない。かなり使い込まれ、そして同じようにきちんと整備もされている。その使いこみ具合から、既に彼女のワンオフ装備となっていることだろう。



「あら、私に八つ当たりをしろって言うの?」

「そもそも、元凶はあっちじゃねぇか」

「まぁ、それもそう──ねっ!」



 掛け声一つ。一呼吸吐き出したアリシアが天井のスライドドアを勢いよく開け、ライフルと、上半身の胸から上を外気に晒け出す。ライフルを車体と水平に構え、あぜ道を走ることで生まれた振動をものともせず、彼女は静かに、そして素早くライフルを構える。

 透き通った海を思わせる蒼眼が、一瞬にして凍てつく深海のような冷たさを宿す。凍てつく殺意を宿した瞳がスコープを覗き、獲物を見定めんと視線を伸ばす。それは、さながら孤高の狩り人とでも言うようで、彼女の美貌も相まって一枚の絵になるような光景だった。



 だが、そんな光景すらも束の間のこと。それは、彼女の瞳孔が一瞬にして狭まったことで終わりを迎えた。



───撃つ



 そう思わせる何かを発していた彼女が、静かに引き金を引いた。

 火薬を爆発させたことによる、破裂音。衝撃に後押しされて飛び出した弾丸が、銃砲のライフリングによって旋回運動を与えられ、一層の加速を得て音速を越える速度を以て野に放たれる。



 砂塵の存在など、恐るるに足らない。

 人一人の命を容易く屠り得る狂気の弾丸は獲物を渇望し、空気を裂き、音を越えて接敵する。



 遥か遠方。砂塵の奥から、肉が潰れる音と、刹那の断末魔が、一拍遅れて聞こえてくる。

 血肉に飢えた凶弾が、精密に、的確に、そして必殺の下に敵を撃ち抜いたことの証左だった。



「ナイスショット」



 マックスの口から、思わずそんな言葉が漏れる。移動しながらの、それもガタガタと足元が安定しないこの状況で、初弾でヘッドショットを決める彼女の技量は間違いなく賞賛に値する技術だろう。



「ありがと。でも、一匹仕留めただけじゃこの襲撃は終わりそうにないわよ」

「だろうなぁ。まぁ、向こうの気概が折れる程度に仕留めていってくれよ」

「随分と難しいこと言ってくれるわね」

「それくらいはできるんだろ?」

「知ってる? 重過ぎる信頼って、結構嫌われるのよ?」

「信頼に応えられないような軟弱者(・・・)は死ぬだけ。……ここはそう言う世界だろう?」

「言ってくれるじゃない……!」



 投げかけられた挑発は、安易で安いもの。だが、その一言は的確にアリシアのプライド焚き付け、やる気という炎を一気に燃え上がらせる。冷徹な瞳に対し、表情には激情が宿っている。

 やる気と気概は最高潮に、されど頭は冷静に。正にこれ以上ないベストコンディション。操者の意思を汲んだライフルがそれに応えるかのように、一発、また一発と、一つたりとも外すことなく、的確に敵の急所を撃ち貫いていった。



 岩肌に隠れていた狙撃手は飛び出した頭の額を確実に捉え、砂塵の奥で並走していた車は窓ガラスのど真ん中を貫き、中の敵対者を一条の弾丸が、陽光を受けた雌黄の閃光となって貫き、無残な死体に変えていく。

 邪魔な車両は、タイヤを撃ち抜くことで操縦の自由を奪い、地面の凹凸に嵌めてクラッシュさせる。果てはエンジンを一撃で沈黙させ、弾丸と金属が擦れたことで起きた火花が着火して盛大な爆発(断末魔)を轟かせ、後続を巻き込んでスクランブルを起こさせる。



 それこそ鎧袖一触の体現。彼らの乗った車の後ろに敵は残っておらず、無残な死体か壊れた機械の破片に成り果てているだけだった。




「上出来だ。なんだ、やりゃあできるじゃねぇか」

「誰に物を言っているのかしら。これくらいどうってことはないわよ」

「そうか。そう言うんだったら───」




 右手はハンドルを握ったままに、左手をホルスターの拳銃に伸ばし、引き抜く。そのまま左手首を右肘に乗せ、マックスは即席で両腕で歪な十字架を作り上げた。右側面は言うまでもないが砂塵で視界が塞がれている。だが、マックスは何一つ躊躇うことなく、その状況で発砲した。


 車内に広がる硝煙の香りと、短い破裂音。


 遅れて、砂塵の向こうから緋色と黄色の炎が上がり、けたたましい爆発音が車体を揺らす。大質量の金属塊が、地面を無造作に転がっていく音が地面を通して伝わってくる。

 砂塵の向こうでエンジンを撃ち抜かれた車が爆発し、横転している様が容易に脳裏に浮かんだ。



「───詰めは、しっかりしておけよ?」

「あら、人がせっかく見せ場を作ってあげたというのに、その物言いはないんじゃない?」

「おいおい、護衛対象に銃抜かせてどうするんだよ」

「護衛対象を飽きさせないのも、れっきとした護衛の仕事よ」

「ハァ……そりゃあ、お気遣いどーも」



 周囲を囲まれ、直撃はなかったものの銃撃を受けていた者たちの会話でも、同じ車両に遺体を乗せている者たちがする会話でもない。まるで何処かお使いにでも行くような気軽な気分での会話が、状況に対して場違いな会話が車内で繰り広げられている。自ら破壊した車両(己の叩き出した戦果)など、彼らは見向きする素振りすら見せない。

 陽気に気軽に軽快に、彼らは戦果の山を築いていく。



「ん? 砂塵が晴れてきたか────ッ!」



 視界が回復したのを喜ぶも束の間。突然、ピクリ、とマックスの眉が動いたかと思うと、彼の表情が豹変した。

 陽気な空気を自ら一掃し、雰囲気だけで物が切れるのではないかと思えるほどの、鋭利な空気を纏い出す。外の景色の変化を見ていたアリシアも敏感にその変化を感じ取り、警戒心を引き上げて周囲に注意を向ける。すると、フロントガラスの向こう、車両の前方1kmほどの位置に、幾つかの人工物の影を目視した。後部座席から身を乗り出して、その手機影を凝視する。



 徐々に近づくにつれてその正体がハッキリとしてくる。人工物とは、車両のことだろう。しかし問題はその数。見る限り車種も色調もバラバラな車両が5台以上、横一列に並んでマックスたちを待ち構えていた。



「おいでなすったか……」

「見る限り、5台はいるはね」

「そうなんだがな───」



奥にも並んでいることを考えたら……




───最低でも10台、ってところか




 マックスは一人、心の中で当たりを付ける。

 このまま直進しても、衝突事故による爆発炎上であの世まで一直線(人生のゴールイン)だ。しかし避けたところで、ここから目的地まで、あと10kmはある。後方に控えている車両を振りきれるとは限らないし、むしろそのまま故意衝突妨害工作(アンリミテッド)何でもあり(デッドルール)のカーレースに突入する光景が目に見えている。




 だが、それがどうしたというのだ。




「なぁ、アリシア───」




 口角が、徐にニヤリと吊り上がる。



 元よりこの道に退路は存在しないのだ。無茶無理無謀は、『彼』にとっては日常茶飯事。それを乗り越えてこそ、それを当たり前にこなしてこその、『マックス』だろう。

 ニヒルに、凄惨に、獰猛に。人を食い物としか思ってないような、獣のような笑みを携えて、マックスは威風堂々と宣告する。



「───ど派手なドライブ(ワイルドスピード)は慣れてるか?」

「ちょっとマックス、何するつもり───」



 お前の答えは聞いていない。



 まるでそう言わんばかりに、マックスはアリシアが答えるより先にアクセルを踏み込み、更に速度をあげた。茜色の荒野を、土煙を上げ猛スピードで激走する。外の景色がより一層速く過ぎ去り、大気が車両を打ち付け、身体にかかるGが強さを増す。あまり無茶をするな、と脳が語りかけてくるが、それをアドレナリンが全て受け止め外へと追いやっている。



 彼我の距離は、800mを切った。

 既にライフルの射程範囲に入ったために、遠方より幾つもの弾丸が空を駆けて迫りくる。大地を穿ち、車両を掠める。腕に覚えのある者ならば、既にタイヤを撃ち抜ける距離だ。第二射で、撃ち抜かれる恐れがある。



 それを見越したマックスが、ハンドルを左に切る。時速100km近い速度で方向を変えたことで、凄まじい遠心力が横合いから二人を襲う。シートベルトすらしていない二人はそれを諸に受け、アリシアはアシストグリップで身体を支え、マックスは強靭な体幹で強引にドアへと打ち付けられるのを防いでいる。その顔に浮かぶ笑みは、欠片も崩れていない。



「まったく、あなたは私を振り回してばっかりね」

「一緒にいて退屈するつまらない男よりはいいんじゃねぇか?」

「口が達者なのはここに来ても相変わらずのようね。……もちろん、車の操縦も達者なんでしょうね?」

「ハッ、安心しろよ───」




───こちとら無免許運転だ




 その言葉を内心でそっと呟き、マックスはそのままハンドルを握り続ける。アリシアはどこか腹を括った(覚悟を決めた)様相でライフルのボルトを引き、弾丸を撃ち出し続けている。それでも、彼女の命中率が100%を下回ることはない。それだけでも、彼女が相当に鍛え上げられた工作員(エージェント)なのだと推察できる。



「────ッ、マックス!」

「わぁってる!!」



 アリシアの鋭い声が上がり、マックスがそれに応える。

 彼らの前方500mあたりから、何条もの狼煙が夕暮れの茜空に上がっている。だが、その狼煙は思っている以上に上には伸びず、むしろこちらに向かって迫ってきている。



『RPG』



 ミサイルと戦闘ヘリが普通に飛ぶこの界隈ではまだ序の口程度と思われる武器だが、それでも十分に人を殺せる威力だ。それが、幾つも打ち上げられ、殺意をこちらに届けようと迫ってきている。



 そんなプレゼントは、マックスとしてもまっぴらごめんだった。マックスはハンドルを切って、それらを颯爽と躱していく。進行方向へ着弾しそうな弾を右へ切って避け、後方にて着弾して起こった爆風受けて加速する。更に直撃しそうな弾道の弾を、敵車両方面に向けてハンドルを切ることで、弾頭はマックスの車両の上を通過していく。

 避け切ったという結果を得るために全身を襲うGを振り切らなければならないが、既に何度も繰り返された行為にいい加減慣れてきたアリシアは、襲い掛かるGに表情を僅かに歪めるものの、もはや文句すら上げずに淡々と銃口を向けて敵車両に発砲を繰り返している。心なしか、弾丸に込められている殺意が上がっている気がするのは気のせいなのだろう。



 左右に、そして前後に。車両を自在に操って白煙の帯を引く凶弾を次々に躱していき、遂に敵との距離は100mを切った。もう敵影はほぼ補足でき、ここから見る限り前衛5台、後方に馬力が出て汎用性が高いジープが7台控えていた。前衛の車両が迎撃用、後方のジープが追跡用だろう。

 この距離では、RPGを使われれば避けることは難しく、そして何よりアサルトライフルなどの銃火器によりこちらのタイヤをやられることの方が厄介だった。




───なら、全て躱せる手段を取ればいいだけだよなァ!!




「ここは腕の見せ所、だよな」

「あら、今度は一体どんな無茶をするつもりかしら?」

「アリシア。上のドア閉めて、右のアシストグリップしっかり握ってろよ」

「ちょっと、だからあなたは何する気なの───」




 アリシアの抗議を置き去りにして、ハンドルを右へと切る。

 そして進行方向にあるのは、僅かに隆起した地面。雨風に晒されて若干風化しているが、タイヤほどの高さがあり、地面から直角に飛び出ているのではなく、少し傾斜のキツいスラロープのような形状をしている。




「ちょっと、まさか……」




 何をしようとしているのか察したアリシアの顔が、僅かに引き攣った。

 だがそれでも、マックスに止めるつもりは毛頭ない。




 「さぁて──────最後は派手に締めようかっ!!」




 グワンッ!!



 という音でも出さんばかりの勢いで、車体が急激に傾いた。重力の向きがズレ始め、Gよりも数段協力な力ガアリシアを横殴りにし、彼女をドアへと叩きつけんと重力で絡めとる。その見えない糸に絡めとられる前に、アリシアは鍛え上げた咄嗟の判断と反射をフル活用して、ライフルを左腕に抱え、右手でアシストグリップを握りしめ、おまけとばかりに左脚を運転席のシートに引っ掛け、急激な変化に巻き込まれることなくその場に留まり続ける。



 車体は屋根の部分を敵に晒したまま、緋色の荒野を駆け抜ける。足元が安定していない場所だというのに、車体が横転しないというのだからマックスの技量の高さが窺える。



「野郎ぉ……! テメェらぁ!! 銃撃止めんじゃねェぞ!!」

「ギャラはたっぷり貰ったんだ。ここで仕留めるぞォ!!」

「下だ! 屋根じゃなくて窓ガラスを狙え!!」



 前衛の側面を横切りそうな位置までくると、敵もマックスたちが何をするつもりなのかを察し、それを阻止せんと一層濃い弾幕をぶつけてくる。



 車のボディというのは、窓ガラスとは違ってかなり丈夫にできている。RPGや対物ライフルクラスの威力を誇る武装では流石に耐えきれないが、それでもアサルトライフルやサブマシンガンレベルなら耐えられないこともないのだ。だから、盾として使うには申し分はない。

 加えて、ここで向こうの敵が構えている位置と、マックスが構えている位置は高さが大幅に異なっている。最大でも1m以上は差があり、その高度差があれば、彼らから見えるのはほとんどが車両の屋根部分になる。的はただでさえ小さい。それに加えて、高速で動いている的を狙わなければならないのだ。




カカンッ、カカカカカカカカカカカカカンッッ!




 故に、こうなるのは至極当たり前の帰結。弾幕の悉くは、車両の屋根部分を打ち付けるだけでしかなかった。

 マックスは徐に車窓を全開まで開け広げ、右手で懐から短機関銃を取り出した。口でボルトを咥え、引くことでカチンッ、と音が鳴る。そうして発射準備が完了した相棒の全体は出さずに、バレルだけを窓枠上部に押し付け、照準を合わせる。



───狙いは、敵車両下部ッ!




 ズガガガガガガガガガガガガガンンッッッ!!




 一呼吸の下に引き金を引き、軽快な破裂音が荒野に響く。向こうが斜め下に向かって撃っているのに対し、マックスが狙う角度はほぼ水平。彼我の間に障害となり得るものなどなく、思うがままに殺意を振りまく銃弾が、地面を這うようにして直走る(ひたはしる)



 いくつも上がる、火薬の爆発とはまた違う、低く、そして鈍い破裂音。次いで聞こえる、空気が抜ける音。間違いなく、タイヤがやられたことを意味している。

 だが、これだけではない。車両の下部には前方のボンネット内部と同様に、様々な機構が備わっており、その中には当然、ガソリンタンク(・・・・・・・)もある。




「ギャぁぁぁぁぁ!!」

「うおぉあぁっっ!?」




 大地と大気を揺らす爆発音と、形ある物が崩れる破砕音。肌を焼く熱量が大気に広がり、舞い上がった土煙が再び視界を覆い、視界瞬間的に日差しを上回る熱が車内に流れ込む。さながらそれは、お色直しをするカーテンのようだ。

 なれどそこにあるのは、車両1台だけではない。都合12台の車両が密集して並んでおり、互いの距離は3mも満たない状況。爆炎と爆風は更なる爆発を呼び、周囲の車両を巻き込んで連鎖爆発を起こし辺り一面を爆煙で覆い尽くす。敵兵の阿鼻叫喚の断末魔が爆発音の中からノイズのように耳を打ち、炎を帯びた大質量の鉄塊が宙を舞い、砕けた破片が桜の花弁の様に散っていく。計12台の敵車両が、お色直しのカーテンの向こうで鉄塊に成り果てていく。



 濛々と立ち込める土煙は戦火の証。そして断末魔と銃撃音が止まることは静かなる終戦の号令であり、その中で唯一立っている者こそが勝者である。

 そしてその勝者(マックスたち)は、悠々と土煙の中から開けた荒野へと躍り出て、颯爽と風を切ってゴールへ向けて走り続けている。




「───っと。どうだ? オレのドライブは楽しかったか?」




 車両が上げる土煙と、炎上爆発により上がる爆煙がバックを彩り、一時なれど確かな戦果を枯れた大地に刻み付けた立役者(張本人)が、揚々と同伴者へと語りかける。

 傾いていた車体を操り、ドスンッ、と音を立てて二輪走行から四輪走行へと戻す。その反動によってマックスたちの身体がふわりと浮き上り、一拍遅れてシートに叩きつけられた。



「……もう二度と、あなたの運転する車には乗らない、って決めたわ」

「おいおい、ひっでぇ言い草だな。命が助かっただけでも儲けもんだろ?」

「毎度毎度、命を投げ捨てる覚悟をしなきゃいけないなら、私はまっぴらごめんよ?」

「誰も毎回こんなアグレッシブな運転なんかしねぇよ」



 同伴者(アリシア)からの辛辣な総評を受けながらも、マックスは笑ってさらりと受け流す。車のボディは擦り傷だらけの穴だらけだが、彼ら二人の身体(ボディ)は無傷のまま。初撃により人的損害は一名の死亡を出したものの、残る二人は五体満足無事だった。

 依頼達成に、さして支障はない。



「それで、目的地まであとどれくらいだ?」

「襲撃手前であと10kmだったはずだから、もうすぐ着くはずよ」

「そーかい。それじゃ、もうしばらくドライブするか。…………今度は平和的に」

「そうね。スリル満点のドライブは、少し勘弁して欲しいわね」



 そう言って、二人は僅かばかりに緊張の糸を解いて、荒野を駆け抜ける。

 彼らを照らし続けていた夕陽が、今日の戦いは終わりだ、とばかりに、そっと地平線の向こうに沈んでいった。





因みに今作のマックスですが、免許を取っていないのは只菅にタイミングの問題です。

アメリカの方での演劇繋がりの知り合いから車の操作方法とか学んでいたんですが、

免許試験を受ける前に例の墜落事故に遭ったので取れなかったという事情があります。

ですので仮に試験受けてたら、普通に受かる程度に車は扱えます。



Q、いや、なんであそこまで車扱えるの?


マックス(ヽ´ω`)「スタントマンで生きてくならこれくらいできなきゃな、って叩き込まれた」

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