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22/66

戦客万来Ⅱー6

随分と久しぶりに書いた戦闘回。上手く書けてるか、戦々恐々しております笑

こんな拙作でも、お楽しみいただけたら幸いです


6/29 一部加筆修正しました


 ビュウ、ビュウと音を立てて、潮風が吹き荒れる。いつにも増して唸りを上げる様は来訪者への歓待か、はたまた(領域)に土足で踏み入れた狼藉者への警告か。潮の香りに惑わせ、その裏で波を荒立たせている影響で、穏やかな海がこの日ばかりは騒がしくなり、小波は集い重なり大きな波となって押し寄せる。出港している船影は、近くには見当たらない。

その波の向こうに広がるのは、一面の青空などではなく()を侵食している()の方が優勢だ。その腹の辺りには極大な害意を溜め込んでいるのか、白から滲み出した黒が混ぜ合わさり灰色を彩っている。



 サイクロン



 南インド洋で発達した低気圧がインド洋を北上し、自然の猛威となってこの街に迫っていた。船が見当たらないのも仕方がない。矮小な人間如きがいくら不沈を謳った船を造ろうとも、自然力はそれをいとも容易く上回る。海の怒りを買いたくなければ、大人しく陸に引き上げているのが賢い選択で、有史以来脈々と受け継がれてきた常識でもある。



 しかしそんな中、赤色に身を染めた一隻のバイクが水面の青を切り裂くように、水面に白い軌跡を残して猛スピードで飛び出した。小高い波などなんのその。まるで意に介した風体を見せず、50ノット近い速度を叩き出しながらも平然と海面を滑るように進んでいく。

 ワインレッドとクリムゾンレッドという赤に彩られた機体に乗るのは、黒のヘルメットを被り、臙脂色のコートをはためかせた男。水面の青と対となる赤一色という出で立ちは意図せずともコントラストを描き、その存在を強烈に印象付ける。黒で覆われた古フェイスのヘルメットは降り注ぐ陽光を受けて艶をより一層際立たせ、顔が見えないという風体がミステリアスな雰囲気を醸し出していた。

 そんな出で立ちでバイクを駆る男──マックスは、その上でさらに加速をした。



 波が荒立っているなかでこの速度を叩き出しているのは、機体の姿勢制御機能がずば抜けている証左であり、加速力が高いのは積んでいるエンジンの性能の高さ故。

 しかし、いくら姿勢制御機能が高くとも限界というものは訪れる。なまじ加速力が高い分、下手なハンドル操作をしようものなら猛スピードで水面に機体ごと叩きつけられる未来が容易に目に浮かぶ。アシストに過度に依存することが、操縦者の命を水底へ投げ捨てることと同義となる。これは、操縦者にも相応の技術を求められる機体なのだ。



『ヘイ! マックス君! どうだい、乗り心地は?』

「スピード出してる割には安定感があって良いな。自動制御機能か? ボートレースにでも出場したらぶっちぎりで優勝できる機体じゃあねぇか」



 そんなリスクもなんのその。この程度のリスクなど背負って当たり前とでも言わんばかりの、堂々とした様すら垣間見せるマックスに、ユーリから通信が入った。声そのものに興奮の色を帯びており、新しい玩具に高揚した気分を抑えられない子供が気分のままに語りかけるような口振り。年より臭い声質の割には随分と幼い印象を受ける口調が聞こえてくる。



『そう言って貰えると、こちらも作者冥利に尽きるというものだよ。……さて、指定した座標にはちゃんと向かってくれているかな?』

「どうせGPSで追跡してるんだから知ってるだろ? こっちには謹製のナビが付いてるんだ。迷子にはなりゃしねぇよ」



 言って、マックスはコン、コン、とヘルメットを指で叩く。マックスの視界を覆うバイザーの右上には、青の三角形で進行方向が示されている。これはヘルメットの機能で、ナビゲーションシステムの他にも、風速、気温、通信状況etc.と多種多様な機能が追加されており、中には要らないと思える機能も含まれているのだが、稼働テストということでマックスは全機能をONにしている。

 視界を遮らないよう工夫されていることが、唯一彼にとっては救いだった。

 ハンドルを、左に切る。



「にしても、サイクロンの近づいているタイミングだったのが幸いだったな。船影が見えないし、海が広々と使える。もしかしなくても、狙ってたか?」

『That's Great! こっちの意図を察してくれて助かるよ。これなら気兼ねなく、思う存分できるだろう?』

「そーかい。素直に感謝は受け取ろう。……で、」



 レーダーに映る、赤い(・・)機影。それの意味する所は、文字通りの敵影補足(レッドアラート)



 ハンドルを強引に切って、緊急回避

 勢い良く右へ切ったその直後、バイクが先程までいた位置が豪雨に打たれたように跳ねた。鳴り響くのはザァザァと打ち付ける雨音だけでなく、お前の命を狙っているぞ、と告げる死神からの福音(殺害予告)。溢れんばかりの慈悲(憎悪)の籠った弾丸が、水面に一条の軌跡を描く。



「オレ目当てのお客さんだよなぁ、あれ」



 ジロリ、とマックスの視線が後ろへ向けられる。

 ハンドルのすぐ近くにあるレーダーには、後方50mと少しのところに機影が5つ。陣形は逆八の字で、所謂挟撃体勢。距離的に一番近い左右の先頭の船が尚も撃ち続けており、白い船体の甲板部分から今も断続的に火花が散っているのが見える。

 試しにヘルメットの視覚強化機能で相手の船をズームしてみれば、眉間に皴を寄せ、物凄い形相で睨むスキンヘッドの男が映し出された。甲板に設置されている機関銃を、文字通り鬼気迫るといった様子で放ち続けている。他にも、声は聞こえないが怒声らしきものをあげている人間が何人も見られた。一様にマックスを睨みつけているのだから、お目当ての人物が誰なのかは一目瞭然だ。



『ハッハッハ!! それは愛されてる証拠だよ、マックス君。こんな海まで追いかけて来てくれる人がいるなんて、君は果報者だね。因みに、実験はこのまま続行だよ』

「おーおー、ブラック企業も命の危険が迫ってりゃあ休めって言ってくれるのによぉ。意外とここもブラックか?」

『ここは悪の天下のお膝元だ。命の危険は、日常に変わりないだろう?』

「ハッ! そりゃあ、(ちげ)えねぇ。だったら、接待の一つや二つはしてやらないとなぁッ!!」



 ユーリのジョークを豪快に笑い飛ばして、ホルスターから引き抜いた拳銃が火を噴いた。コートの真横から入り込んだ海風が、バサリ、とコートの左半分を大きく翻す。

 放たれた弾丸は進んだ進路を逆走し、とんぼ返りのように復路を駆け抜けた。距離の常識は(ドブ)捨てろ。強烈な潮風は微風とでも思いこめ。当たらないと思った瞬間が、負ける(死ぬ)時だ。

 届く、届かない、ではなく届かせる(・・・・)。当たる、当たらない、ではなく当ててみせる(・・・・・・)

 退路なんて初めから存在しない。退けば体のいい実験動物(モルモット)、失敗すれば洋上に浮かぶ肉団子。どちらに転ぼうともロクな末路はない。



 逃げても死、失敗しても死。なら、正面から脅威を薙ぎ払って生き残るのみ。



 その覚悟は心の臓から腕へ、そして掌から銃へと伝播し、マガジンに込められた弾丸へと込められていく。そうして放たれた弾丸は、まるで所持者の意思を映したかのように、迫りくる猛雨をスルリスルリとすり抜けていき、元凶へとその牙を届かせる。



 白船に飛び散る、赤い火花。マックスの駆る機体に似ているようで、しかし随分と毒々しい艶やかな赤が、敵の白い船体を紅く染める。射手を撃ったことにより、片割の銃声は止んだ。重苦しい死の福音の、音色が弱まる。



 好機到来。そんなことを口にせずとも思い浮かべたマックスが、機体をギリギリまで左へ傾ける。彼の技量と、システムの性能というこの上ない騎手を得た船体が、急速旋回を経て船団と対峙する。合わさる視線、ぶつかる殺意。円運動によってかかるGを歯を食いしばって耐え切ったマックスは、それを受けてもなお躊躇なくアクセルをふかす。

 叩き出された50ノット以上の速度で突っ込めば、激突までは一瞬という刹那。僅か数秒の内に、両者は互いの目と鼻の先にいる。無論、そんなことをすれば、運動エネルギーの関係上、マックスの乗るバイクが木端微塵になるのは目に見えているのだから、このままぶつかるなんてことはありあえない。

 敵船から幾つもの凶弾が放たれるもそれらをギリギリで躱し続け、直撃しそうな弾丸は荒れる波を自然の盾として利用して防ぎ、マックスは機体を傾けて波の間を掻い潜るように、船団の挟撃陣形より左へ外れた。そうすれば、気にするべきは左半分のみ。左右から攻撃を受けるよりも自由度は跳ね上がり、攻撃を与えるチャンスは格段に増える。

 そしてマックスは、近づいてくる船団を前に、懐から新たな銃を取り出した



 H&K社製短機関銃 H&K MP5 A5



 対テロ戦闘用にドイツで主流に用いられている短機関銃で、コンパクトでありながら高い威力と命中精度を両立できている傑作、と警察関係者からも言われている銃だ。当然、対テロに使えるのならば対マフィアにも使えるということ。取り回しの良さから、ここアトロシャスでも愛用者の多い銃の一つであり、ロットンの店からマックスが新たに購入した武器だ。

 マックスがこの短機関銃を購入したのは、単に手数を増やすため。遮蔽物に囲まれた場所では無駄撃ちの方が増えるため使わないが、開けた場所では拳銃で一発一発撃っていてはどうしても手数が足りない。物量には物量を。懐に忍ばせることができ、尚且つ即撃ちできるこの銃は、マックスのお眼鏡にかかり、晴れてマックスの手札の一つとなった。

まさか、買ったその日に使うハメになるとは、当の本人も予想していなかったが……。



 取り出した銃を左手に取り、マックスは肘から上を垂直に向けて構える。銃口は天を仰ぎ、振り下ろされたその瞬間に牙を剥く。射線上に入った獲物は絶対に逃がさないと、空を仰ぐ銃は殺意を滾らせる。

 


 そして、タイミングは訪れた。開戦の合図を送る指揮官の様に、腕を微動だにせずにいた腕は、しかし接敵の瞬間に振り下ろされる。

 すれ違いは一瞬。猛然と横合いを通過する船体に合わせるように、銃口を向け、躊躇なく引き金を引いた。



 ズガガガガガガガガガガガガンッ!!



 小柄な銃から放たれる、断続的な鉛の雨。自然の猛威とはまた違った殺意に満ちた計32発の極々局所的な殺人雨(スコール)は、その爪痕を痛々しいほどに船体に刻み付けて去っていく。

後に残された船体には弾痕により穴だらけになり、海の青と対をなす赤い海を船上に作り出す。



「この野郎ァ、やりやがったなッ!!」

「先に仕掛けてきたのは手前ェらだろうが!!」



 後続の機体から、怒りに任せた激昂と共に、機関銃、アサルトライフル、拳銃の一斉掃射が飛んでくる。マガジンを交換したマックスが短機関銃を片手に声を荒げながら応戦していく。マックスの頬を、コートを、弾丸が掠めていくのに対し、敵は一人二人と撃ち抜かれて逝く。両者の怒気と、潮と硝煙の臭いが吹き荒れる海上で、それでも彼らは戦い続ける。

 片や仲間のため(・・・・・)。片や生き残るため。目的は違えど、目的の崇高さに差があろうとも、それは生き残った方が正しいと声高らかに宣言する権利を得る。

 だから両者はぶつかり合う。退いて良い理由なんて、両者とも持ち合わせていないのだから。



 二隻目とすれ違いになる直前、マックスは強引にハンドルを右へと切った。体重を乗せながらも機体の体勢を維持し、ぐるりと回る景色を見届けながら、その場で豪快な一回転をした。次いで起こるのは、モーターによって吐き出される、大津波を連想させる怒涛の水飛沫。水面に花開く特大の花火が、周囲にいた者全てに火花(飛沫)を浴びせる。



「うおっ!! こいつ……ッ!」

「チッ、前が見えねぇッ!」



 マナー違反を承知しながらも、水上バイクをする者なら一度くらいはやったことのある水かけ。しかし、それは50ノット以上の速度を叩き出す機体がすれば、威力も総じて馬鹿にならないほどになる。押し寄せる圧倒的な水量は容易に視界を奪い、目をやられると思った相手は理解よりも本能が先に働き、咄嗟に視界を腕で守る。それは人間にとって当たり前の防衛本能。どれだけ鍛えようとも鍛えることのできない眼球を狙われれば、誰しもが攻撃を捨てて守りに入る。


 その隙を、マックスは逃がさない。


 視界を塞いでできた一瞬の隙に、マックスは腰にぶら下げていた球状の物体を乗員に向けて勢いよく投げつける。視界が晴れた頃にはマックスはとうに過ぎ去り、背中を追う形となる。「逃がすな」「追え」そんな怒りに任せた感情的な言葉がこだまする船上に、コロコロと転がる丸い物体(手榴弾)



「んなっ!? お前らぁ!! すぐに船からにg───」



 破壊を告げる爆破の轟音が、男の声を掻き消した。

 近くに置いてあった弾薬やRPGの弾頭諸共を一瞬にして巻き込み、連鎖的に引き起こされた爆風は、避難の声をかけようとした男を黒焦げの肉塊へと変貌させる。気付かずにいた者も等しく焼き払い、遠くにいた者も爆風で海へと突き落す。

 灼熱に焼かれて逝く者、爆風に押されて海に落ちる者。死に様はそれぞれ違えど、皆等しく船上から脱落していった。



 僅か10秒にも満たない攻防。いや、攻防と言うのも烏滸がましい、一方的な蹂躙。

 その惨劇を目の前にして、他の3隻にも動揺が走る。バイザーに隠れて見えないマックスの表情が逆に恐怖を煽り、ありもしない幻聴を頭の中に囁く



 次は──お前たちだ



「ッ! 野郎ども! さっさと陣形を立て直せ!! 1隻になったら()られるぞ!!」



 リーダー格の男が、半狂乱に陥りながらも、あらん限りの声を張り上げる。真っ当とは言えない精神状態にあったとしても、この場で真っ先に指示を出せるのは経験の賜物だろう。額に汗を垂らしながらも、迅速に指示を飛ばして崩れかけた体勢を整える。



 マックスがいるのは彼らからして左翼後方。リーダー格の男が乗るのは、挟撃陣形の中央にいた、マックスに最も近い船。



 この位置関係を見れば、なるほど、先ほどの言葉の捉え方も変わってくる。思わずマックスは、ヘルメットの中でクスリ、と笑みを零した。1隻になったら殺られるのは、確かに全員の共通認識だろう。それを言葉にすることで確かなものとし、危険度を再認識するには重要な意味合いを持つ。人を引っ張る立場の人間にとって、注意喚起は必須事項だ。



 だが位置関係を整理して改めて考えてみると、言外に自分の身が危ないから助けろ、と言っているようにも見えるのだから、不思議なものだ。

 人は焦りを覚えると、つい口を零してしまうことがある。秘密にしておくべきだったのについうっかり口を滑らせてしまった、ということが散見されるのは、当の本人が精神的に負荷がかかった状態にあったから。そういう状況に陥った場合、人間は心の底で思ったことをつい言ってしまうのは、心理的な作用が働いているからと言われている。

 今回はいい意味で皆が勘違いしているため、リーダー格の男が失望されることはないだろう。むしろこの状況でも支持を飛ばすリーダーとしての能力を高く評価されるはずだ。



「まぁどの道、殺ることには変わりないが」



 そんな心温まる絆と信頼の深まるワンシーンを、冷徹で鋭利な刃物のような言葉が一蹴した、

 口角は吊り上がっている。だが、その目は現状に対する呆れを含んでいた。おもむろに、設置してあった2つのボタンの内の一つをマックスが押すと、ガコン、という音が右後ろから聞こえた。そこは確かに、機体のフレームが施されていた場所。しかし現在そこは片開きのドアの様に開かれており、中から細長い筒状の物体が空へ向けてせり上がっていた。

ちょうど右手を向ければ掴むことができるよう位置調整されたグリップを握りしめ、マックスは腕の力だけで引き上げて肩に担いだ。



全長約1m、直径約8cmの円筒状のソレには、後ろと思しき部分にマガジンと呼べる箱型の部位があり、そのさらに後ろには噴出孔と見られる構造が備わっている。右利きようなのか、引き金の備わったグリップの他に、左手で添えられるように筒の左側にもう一つのグリップが取り付けられている。



人はその兵器を、ロケットランチャーと呼ぶ



「はぁっ?! どっからそんなモン取り出しやがった!!」

「RPGとか持ってんなら、おあいこだろ? さぁ、せいぜい汚い花火を咲かせやがれッ!!」



発狂にもにた叫び声を一蹴して、マックスが引き金に指を置く。

間などなく、次いで発せられた荒々しい言葉と共に、銃などとは比べるのも躊躇われる大音量が空気を圧縮して押し出した。無慈悲の弾道は、貫禄と殺意を内包し、血と硝煙の混ざり合った戦場へと解き放たれる。



それを見て、リーダーの男の顔からサァッ、と血の気が引いた。既に部下は戦意を喪失し、一目散に、我先にと逃げ出し、次々に海へとダイブしていっている。


自分もそうしたい。逃げたい、今すぐ逃げたい。


そんな感情がリーダーの心を支配するも、その足は一歩たりとも動かない。

動きたくとも、動かせない。存命への本能を前にして、それすら凌駕する何かが、リーダーの身体を雁字搦めにしている。

正体の知れない不可視の束縛力。それはまるで絡みつく蛇のように、するりするりとリーダーの身体を蠢き、その口内から侵入していく。そして時を同じく、心の奥底から掘り起こされる想い。それによって形作られたもう一人の自分が、リーダーの頭の中に語りかける。




『退きたくない理由があるんじゃあないか?』



言葉は、止まらない。答える間もなく、言葉は続けられる。



『後悔は本当にないのか? 退いて逃げ惑って、辛うじて生き延びて、それでも堂々と生きれるか?』



そんなわけあるか。心の内で、リーダーは否と答える。



『仲間が何人も殺られて、戦って死んだ仲間がいて、それでも自分は逃げるのか?』



したくてしたいわけじゃない、打ち負かしてやりたい。そう心の中で叫ぶ。それでも勝てないのだから、逃げるしかないじゃないか。吐き捨てるように、出したくなかったものを強引に吐き出されたような不快感が、リーダーの心を蝕む。どんよりとした、決して晴れない厚い雲が、彼の心を覆っている。膨れ上がった負の感情が今にも溢れ出しそうで、白かった雲は暗黒に近い黒をしていた。


そして、ふ、とある記憶が呼び覚まされた。



それは、殺されていった仲間たち。

今いるメンバーではない。それは昨日まで、ともに悪事を働いていた仲間たち。

裏切りの果てに、耐えがたい苦叫を残して死んでいった、同業者(仲間)たち。



アイツら(・・・・)の前に、胸張ってもう一度立てるか?



朝日を前に立てた、墓標での誓い。死んでも(・・・・)仇を取ると、己は彼らを前に誓わなかったか?


はっ、と気付けば、もう一人の己はいない。残っているのは、いつにも増して晴れやかな想い。

清々しさの前に、負の感情も、恐怖も、初めからなかったかのように霧散していた。

崩れかけた覚悟(想い)が、再び形を取り戻す。一度弱みを見せた己の心に喝を入れ、彼は、声高らかに吼える。



「チィィッッ!! あーいいさ! だったらやってやるよ!!」



弾頭から放たれる白線が、海を横切り、空を裂いて、脇見も振らずに駆け抜ける。

いくら20mの距離があろうと、手持ちの武器で撃ち落とそうとも、それでは確実に逃げ切れる保証もなく、ましてや撃ち落とせる保証もない。彼らが生き残る術は、海面に身を投げることだけだ。

だがそれでも、逃げてはいけない理由があった。ここで逃げては、正面から顔向けできない者たちがいるから。仇を討ってくると、そう誓った墓標の前に、二度と立てなくなるから。惨めに生きて生き恥を晒すくらいなら、正面切って張り合い、アイツらの下へ土産話を持って逝く。胸を張って、堂々と死んだと、酒を片手にあの世で笑いあう方が、よっぽど性に合っていた。

だから彼は、握りしめた ベレッタAR 70 の、引き金を引き続ける。



「お、おおおおおおォォォォアッッ!!!」



覚悟を決めた表情で、激昂する。刻一刻と我が身に迫る死神の鎌を、こみ上げる恐怖を押さえつけるように、必死になって引き金を引く。額に垂れる汗など拭おうともせず、一心不乱に鉛玉を撃ち続ける。



だが、それでも、迫ってくる死神(絶望)は振り切るに及ばず──



「あ……──」



零れた言葉を最後まで紡ぐことなく、彼は逝った。爆炎が、爆風が、爆音が、彼が逝ったのを知らしめるように、戦場で高らかに吼えていた。


キリが良いのでここまで。

もう一話、戦闘回続きます


本当はもう少し動きのある詳しい描写いれたいなぁ~と思ってるんですが、

船での戦闘なのでそこまで自由な動きできないのでこれが限界なんです……

(;´д`)トホホ



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