戦客万来Ⅱー5
靴底が金属床を打ち付ける一律な音が、薄暗がりの通路に間延びして響く。頑強な造りの割に人の気配が微塵も感じられないこの場所は、他の者が立てる物音がしないために、俺たちが発する音しか音源が存在しない。発した音は誰にも阻まれることなく、縦横無尽に駆け回り、幾重にも反響を繰り返して独特の旋律を奏でる。この静謐を、自分が犯していると思うと、背徳感に似たゾクゾクとした感情が沸き上がってくる。廃墟に無断で探索に入る時には、こんな感情を抱くのだろうか。そんな考えが、頭の片隅に浮かんでは消えるを繰り返す
何故だろうか。先ほどの部屋を出た瞬間から、妙に頭が冴えている。霞が晴れたような、集中力が高まり頭の中がクリアになった時のような感覚が、津波のように押し寄せてくる。まるで今まで集中できていなかったような、それまであるべきだった集中力が何かの要因で塞き止められ、どこかに押しやられていたような、そんな感覚を覚える。
───妙だな、俺はちゃんと集中力を途切れないようにしていたはずなのに。
どこか薄気味悪い気がしてならないが、それでも今は目の前のことが先決だ。
だが、後で気づけるように、記憶の彼方に追いやるのでなく横に置いておくくらいに留めておく。
俺は現在、トリアナに連れられて試作機の置かれているドックまで案内されている。あの部屋からドックまで直通となっているためか、この通路の構造はエレベータからブリーフィングルームに続くものに比べれば随分と簡素なものだという印象を受ける。
道幅も狭く、角ばった通路にあるのは飾り気のない金属板と、申し訳程度に設置された誘導用の青いラインのみ。そこには側面に施された楕円形の流曲線も、散見された精密機器の内部構造もなく、どこまでも実用性だけを追求した質素な造りの通路があるだけだった。
使用された材料は同じなのだが、作り込み具合の差が諸に出ている所為でどうにも手抜き感が否めない。直通ということで緊急脱出路の意味合いも含まれているから敢えてこの質素な造りにしたのか、それとも根本的に通路を作るスペースの問題があってこうした広さを抑えた構造をしているのか。制作段階での背景を俺が知る由もなく、真相は謎のままだ。
そんな簡素な通路の中を、目線だけで四方八方を観察し、罠がないかを探っていく。この街に来て、殺気を感知できる索敵能力を得はしたものの、それはあくまで人間が放つ殺気という生物的な悪意を感知できるようになっただけであって、機械から発せられる無機質な殺意を察知できるまでに至ってはいない。そこはどうしても、経験値として蓄積したシナリオから情報を収集し、推測で危険を察知していくしかない。
とは言ったものの、今はトリアナと一緒にいる。歩き方や体の動かし方からして身体能力がずば抜けているようには見えないし、力技でトラップを避けることは不可能だろう。そのため、そうそう殺意の練られたトラップが仕掛けられているとも思えないし、仕掛けられたとしても発動するとは考えにくい。その点で言えば、ちょっと安心している。
「ねぇねぇマックス君。さっきも聞いたけどサブカルチャーに興味とかないの? 髪の色とか顔立ちからして出身は日本でしょ? サブカルチャー好きの聖地とまで言われてる国なんだから、少しくらい興味あったりするでしょ?」
溌剌とした声が、横合いから投げかけられる。つい、と隣に視線を向ければ、思った以上にトリアナが距離を詰めていた。純真さの残った瞳が、俺に向けられている。身長差の所為で、少しばかり見上げるような恰好になっているが、それが逆に庇護欲をそそる効果をもたらす。そこらの男なら一発で落とされるのではないだろうか?
「生憎と、アニメとかのサブカルチャーは有名どころを搔い摘んだ程度しか知らねぇな。ゲームもそこそこくらいしかやった記憶はない」
「あーん、もったいない! あんな恵まれた国に居たのに、その良さに少ししか触れていないなんて……それは人としてどーかしてると思うわ!」
「なんでオレはそれだけで人間性の如何を問われなきゃあならねぇんだ……?」
随分と一方的な意見だが、その界隈ではそれが共通認識なのだろうか? しかし日本人としていうなら、サブカルチャーに興味のある人間もいれば、疎い人間もいる。疎い人間にとっては、別にあってもなくても、という意見が多数を占めるだろう。
意図してか、無意識か。おそらく後者だと思うが、奥底から溢れてくる好奇心に後押しされるように、トリアナが更にズズイッ、と身を寄せてくる。ただでさえ距離を詰めているという状態なのだから、もはや密着状態になってしまっているのに気づいていないのだろうか? その所為で、彼女の発育の良い胸がぐにゃりと歪んだり、ややオーバー気味のリアクションをする度にブルン、と揺れたりしているのだが、彼女はそこまで意識が向いていないのだろうか、純真な趣味談議に花を咲かせようとしている。生き生きとした目を向けてくるのはいいのだが、相手が何を考えているのかまるで考えていないような様子だ。いや、目を向けていない、という表現が正しいのか?
灯台下暗し、という諺が一番当てはまるのだろう。仮にも相手は男。自覚がないにしても、これは無防備すぎる。外でやろうものなら、秒で裏路地に連れ込まれるレベルの無警戒さだ。
二次元や三次元を含めた物語の中には、こういったお色気系展開における反応はいくつかあるが、その中で比較的メジャーなのは、初心な男主人公が頬を赤らめ、それに気づいた初心な女子が恥ずかしがって互いにドギマギするという思春期真っ盛りの男女の反応が返ってくる場合。もう一つは、自分の武器を知っている女子が、意図的に好意を持った男主人公に色仕掛けをして主人公を揶揄う場合。主にこの二つだ。
相対的に見ればおおよそ子供か大人といった年齢で区分できるのだが、大人でも初心な人はいるので予想の範囲を出ない。特に、女は男に比べて心の機敏を顔に出さない技術が殊更高いため、純真無垢を装って内心は……ということも可能性としては否定できない。そのせいで、見分け方は憶測の域を出ないというのが一般的な見解である。
が、俺はこれでもそういった誰かに成りきる、自分を隠す。という行為が日常茶飯事な世界に何年も身を置いていた。それだけのスパンがあれば、俺だけでなくとも役者なら軽く様子見の言葉をかければどちらかを読むことができる。
そう思って、別の意味も込めて彼女に言葉を投げかける。
「色仕掛けか? お前が思っているほどオレは純心じゃあないんだが?」
色仕掛けで落とせるような相手だと思うなよ? という言葉を暗に伝える。
一応、戦力的な意味合いでの俺の脅威度はかなり高いと見られているはずだが、そうなってくると、今度は搦め手でくる輩が絶対に出てくる。例えばこんなハニートラップみたいな。
女関係で弱い、なんて知られれば絶対に仕掛けてくるだろうし、こういうところでも弱みは見せてはいけない。……女関係に手を出すなら、もう少し後だ。それまでは、理性で性欲を抑え込んでおかなければならない。
「……ふふっ。いやーん、マックス君のエッチ」
俺の言葉を受けて、彼女は自分の肩を抱きすくめるようにして、ソソソ、と通路端に寄った。
子供を揶揄うような、そんな笑みを浮かべて
───こいつ、顔の割に意外と食えない性格してるな……
趣味に一直線な、天真爛漫な性格という印象を抱いていたのだが、それも一瞬で瓦解した。先程の『灯台下暗し』という表現も瓦解と共に発生した印象の残骸と一緒に撤回すべきだろう。こいつは紛れもなく、敢えて暗がりを残して獲物をおびき寄せる、狡猾な女狩人だ。
「男日照りなのかどうかは知らないが、そういう色仕掛けは他のメンバーにでもやってやれ。中にはいるだろ? お前のお眼鏡に叶うやつくらい」
「嫌よー、飽きちゃったし。もう興味なくなっちゃった」
「だからって俺かよ。他を当たれ。他を」
俺を攻略できそうにないと踏んだためか、トリアナがその本性を露呈させた。溌剌とした声色は変わらないのに、語られる内容が妙に生々しい。酷いギャップを感じるのは致し方ないことだ。幾人もの男を、その武器を以て落としてきたのだろう。危うく、俺も狙われるところだった。
そう思うと、途端に背中に嫌な汗が滴った。
危ない、危ない。
もう食われるのはこりごりなのだ。
飢えた雌豹のような、捕食者の目。特にそこに情欲が混じっていたならば、俺は全力で阻止に走る。抵抗すらさせずに眉間を撃ち抜ける自身はある。
特に、俺の貞操を奪ったあの色情魔は責め苦の果てに殺してやりたい
「お、やっと着いたみたいだねー」
過去のトラウマを想起して荒れた俺の心情を察してか、それともただの偶然か。丁度ドックに繋がるドアの前に着いたようで、トリアナがたたた、とドアに近づいて行く。
それを見届け、そっと右ポケット手を突っ込む。荒れた心を落ち着かせるように、気付かれないようにふぅぅぅ、と憎悪に染まった息を全部吐き出す。
心持ちが大分落ち着き、トリアナが声を追って視線を前に向けると、そこには簡素な通路に見合う飾り気のないスライド式のドアが俺たちを出迎えていた。
造りとしては、これで合っているのだろう。下手に豪著な装飾が施されたドアに出迎えられても、正直浮いているとしか思えない。
空気の抜ける音というより機械音に近い音に出迎えられ、青のラインが四辺と中央を十字に走るドアをくぐり抜けた先にあったのは、ブリーフィングルームとはまた違った広い空間だった。
構造としてはどこかの格納庫と言った方が分かりやすいだろうか。雑多な研究室で見られた配線コードの類は一切見られず、代わりに俺が踏みしめるのはコンクリートなどの固い床ではなく金網状の金属床。その所為で歩く度に、カン、カンと高い音が鳴る。壁は安全を考慮した設計なのか、一部に設置されたモニター画面を除いて一面が武骨な金属板で覆われており、それまであった近未来的な宇宙船の様相は鳴りを潜めいた。
通路と違い、ここは現在でも機械の差動音が微量に耳に届いている。生活感というものは感じられないが、人の手を離れたとも言い難い。
サッと視認する。──怪しげなものはなし、と。
危険物の確認が済んだところで、俺は静かに目の前に鎮座した試作機と対峙する。
機体を彩るのは、血の色を連想させる鮮やかな赤。
搭乗するコックピット部分を除き、その周囲をワインレッド、そしてグラデーションを利かせるように塗装されたクリムゾンレッドが鮮やかさに拍車をかけている。
機体の先頭部には左右に動くモノアイが装着され、レーダー機能と映像受信機能で周囲の情報を正確に収集できるように調整されており、そこから少し上に目を向ければ電波受信用と思しきアンテナのような突起物が付けられている。モノアイの下部には電力供給のためのチューブがむき出しの状態にされているが、おそらくこれは内部に熱を籠らせないようする対策なのだろう。ガスマスクのように中央に排熱機構が設けられ、そこから左右に伸びるようにチューブが繋がっている。
コックピット部分にはハンドルやブレーキといった基本的な部品の他に、モノアイから入手した情報を瞬時に操縦者に伝えるためのレーダーマップや、残りのバッテリー量を表示する凝ったデザインのゲージまで設置させられており、無駄な機能を追加した感は否めないが、それが今回の試験走行に必要なのだから目を瞑るしかない。
「ふっふっふー。どうかな? ウチが開発した最新機の感想は?」
自慢気に、トリアナが胸を張った。
そう言えば、こいつがデザインを担当してるんだったか。
試作機ということは、今回収集したデータを基にして量産機を完成させ、ロールアウトしていくのだろう。
その雛型となるこの機体は、謂わば第一子。そして今後生み出される機体は、ほぼ全て同型。他とは違う唯一無二の存在として、何か感慨深いものがあるのだろうか?
「ああ、そうだな」
だからこれも、悪くない
そんなことを思って、俺は目の前の機体を眺めていた。
◆◇◆◇
『それで? 機体の感触は問題はないのかな?』
「あぁ、悪くねぇな。変に取り回しが悪いってこともなさそうだ」
素直に思ったことを、マイク越しにユーリに投げかける。未だ稼働させていないが、乗った状態で何か動きを阻害するものは見当たらない。加えて、両足で身体を支えやすいように細かな調整も施されているため、安定性も高い。前評価としては上々だ。
映っては消える、映っては消えるを繰り返すバイザーに表示される情報を基に、機体の最終チェックを淡々とこなしていく。
今の俺は、向こうから手渡されたヘルメットを被っている状態だ。外見は黒一色に統一され、空気抵抗を考慮したスタイリッシュなデザインに仕上げられていた。
今回の水上バイクの試験走行に並行して、こちらのヘルメットの性能実験もするのだそうだ。先ほど見せられたホログラム技術程ではないが、視界に捉えた部位ごとに状態が事細かに表示されるのだから、これだけでも十分に頭抜けたものと言えるだろう。
俺はこのヘルメットに搭載されているマイクを通して、ユーリと会話をしているのだ。
『今回の実験内容は、ちゃんと頭に入っているね?』
「おいおい。流石に依頼主の手前、聞いてませんでした、なんて馬鹿なことはいわねぇよ」
『……はて、妙に聞き覚えのある台詞だね。いつ聞いたんだったかな?』
盛大にブーメランが突き刺さる。こうかは ばつぐんだ!
「まぁ、それは置いといて……。今回の実験はこの試作機で沖に出て、機体性能のチェックをするんだろ? で、追加でこのヘルメットの性能実験をする、と。確か二つはデータリンクをしているから、試作機の情報がヘルメットに流れてくるんだったか?」
『ああ、それであってるよ。あと、走り出しを除いて、機体の速度は最低でも45ノットは保ってくれおいて欲しいな。高速条件下で急速な制動変化が可能かのデータが欲しいから』
『50ノット以上出してて急速旋回しても横転しないって、相当ぶっとんだこと言ってるからな?』
『我々の技術力の賜物と言ってくれたまえ』
「失敗しても即死だから文句も言えねぇじゃねぇか。死んだら化けて出るぞ」
『そうなったら、サンプルとして回収してあげるよ』
「本当にやりそうだから怖いんだよなぁ」
ユーリとの軽口の応酬は、意外と弾む。特にジョークが分かる人間とだとそれが華著だ。あと、器が大きい人間か。特に『マックス』だと親しくなった相手となら毒の混じった台詞も言うのだから、毒だろうと受け止める器の大きい人間か、ジョークとして流せる人間でないと、こんな会話はしないだろう。
そうしている内に、最終項目までチェックは済んでしまった。主にデータの照合をしていただけなのでそこまで肉体的な疲労は蓄積していないが、慣れない作業だった所為で意外にも精神的な疲労が襲ってくる。
以前あったSF映画の撮影でも、こうした未来技術の登場シーンはCGを使う関係上、何もない空間で恰も実際にそれを触っているかのように“見せれば”いいだけであって、実際にしなくてもいいのだからそこまで疲労は溜まらなかった。しかし、今回は実践。慣れない作業を実際にやったために、変に緊張して疲労が出てしまった。
───ま、それはこの際気にしないとして。……問題はコレか
と、そんなことを思って、つー、とヘルメットを撫でる。
ここはカールが念入りに関わり合いを持たないよう言っていた危険区域。見境のなさが売りのデンジャラスゾーンだ。実験機に見せかけてその内側に爆発物が仕掛けられており、用が済んだら処分する。なんてことも考えられる。それか、命を握っていることを盾にして、死ぬまで実験に用いるモルモットにするか。噂通りの人間だったならば、その最悪の事態をどうにか回避しなければならない
最悪の事態は常に頭の片隅に描いておけ。そしてそれを回避できるように全力を尽くせ。
幾人もの脚本とその主人公たちを見てきた俺が、心に刻んだ言葉だ。その教訓は、今でも生きている。
土台、既に被ってしまっているし、そもそも被らないという選択肢は皆無なのだから今回は避けようがなかったが、これで飼いならしたとか向こうが思っているなら、その安直な考えは『マックス』として、真正面から打ち砕いてやらなければならない。お前ら如きが飼いならせると思うなよ、と思わせておかないと、たぶんこれからも命を狙われるだろう。
と、そんなことを思っていると、バイザーに『ALL CLEAR』の文字が表示された。これで準備完了なのだろう。
『こちらも確認したよ。では、そろそろ始めるとしようか』
「了解だ。いつでもいけるぞ」
『フ、フフフフフフッ! さぁさぁ楽しくなってきたねェッ!!』
再び興奮が高まってきたのか、ユーリの口調が変わった。それはもう楽しそうに、新しい玩具を与えられた子どもの様に。画面越しでないために見えないが、おそらく向こうでは両手を天に掲げて大声を張り上げているところだろう。
ブ――ッ、ブ――ッ、ブ――ッ
そんな他所事を考えていた俺の意表を突くように、重厚なブザー音がドックにこだまする。
アナウンスのような透き通るような音ではない。もっと重く、腹の底にまで強引に響き渡るような、嫌が応にも聞かざるを得ない音だ。
……妙にこの後の展開が鮮明に浮かんで来たのだが、それならそれで分かりやすい。いそいそと準備に取り掛かるとしよう。サッと、バイクに跨った。
『発信シークエンスを開始します。搭乗者はコックピットへ移動してください。繰り返します。搭乗者は───』
そんな重厚音の合間をするりと抜けてきたアナウンスが、俺の耳に届く。
やっぱり、という思いが大半を占める。こんな宇宙船染みた未来技術をふんだんに匂わせる構造に、メンバーにはアニメ好きやSF好きがいる。そんな技術力を武器に趣味を振りかざしたら、こんな芸当も可能なのだろう。だからこそ、逆に展開が読みやすい。ああいう連中は脚本通り、王道を是とする者が多いのだ。
ガコン、と何かが噛み合う音が聞こえた。
それを耳にした時には、既に試作機が鎮座していた床が上方へと動き出していた。当然、試作機に乗っている俺も一緒に移動していく。
研究所の秘密の入口のような、音も振動も経てない先進的な技術は用いられていないが、大型機械特有の巨大なモーターが起動する音が聞こえた方が、きっとこの場に合っている。
グングンと、エレベータ特有の動いていないにもかかわらず昇っていく感覚を覚える。目の前にあるのは、上から下へと移ろう平坦な壁だけ。
その代わり映えのしない単調な景色が、唐突に途切れた。それが意味するのはリフトの到着だ。同時に、目の前に広がっていた暗がりが晴れてくる。
浮かび上がったラインと点が一直線に伸びて道を指し示し、行先を導く。その行き着く先にある、迫撃砲だろうと戦車の砲撃だろうとビクともしないような分厚い隔壁がゆっくりと開かれ、眩い光が差し込んでくる。
その向こうに広がるのは、海。目印となるものが大海原の地平線の中にあるはずもなく、ここが沿岸部のどの辺りなのかは定かではないが、テトラポットが見当たらないのだから、きっとあの研究所付近なのだろうか。
───随分とまぁ、お決まりな展開だな
けど、それだからこそ浪漫がある。
『ふっふっふ。どうだい、マックス君? なかなか粋な発想だとは思わないかね?』
「宇宙でやったなら、それこそファンは発狂モンだろうよ」
『まぁ、いつかやりたいものだよ。浪漫があるからね』
「はっ、違いねぇ」
そう言って、カッと笑う。
どんな危険を冒して来ようとも、淡々と俺の命を狙っているかもしれなくとも、その言葉は心の底から思っていることだと、何となくわかった。
だからその心意気だけは、素直に共感できた。
『進路CLEAR。発信どうぞ』
カタパルトに、女性に似た機械音がアナウンスされる。横合いのモニターに表示された赤のゲージが、いつでも出せるぞ、と言うように、点滅を開始する。
それを見届け、俺も試作機の起動スイッチを押す。鍵を回すとか、そんなアナログな機構は備わっていない。スイッチ一つで、起動は完了する。
ヴォン、と音が鳴る。モノアイに、赤い光が灯った。
───お膳立ては終わった。後は実行するだけか
ふぅぅぅ、と溜息をつく。技研に来て何度目になる溜息かわからないが、それだけ不安事項が多すぎる。
かと言って、逃げ出すことなど許されない。それは、『マックス』なら絶対にしないから。逃げ出したいと思うなら、それは『俺』の方だ。そして、『俺』もそんなことはしたくない。役者の意地として演技の途中で投げ出すことなんて絶対にしたくない。
『マックス』を演じると決めたのなら、貫き通したい。途中絶対に避けられない難所などいくつも存在しているだろうし、その難所が今日のこれなのだろう。
奴らの信頼を勝ち取り、仕掛けられているかもしれない首輪から抜け出し、手を出されないような実力を見せつける。
途方もない難易度だが、やらなければ死ぬのが考えられるなら、やるしかないのだろう。
もう一度大きく息を吐き出し、覚悟を決める。
「マックスだ。試作機、出るぞ」
ゲージが緑に変わった。急発進によってもたらされるアドレナリンラッシュと共に、俺は大海原へと抜錨した。
ちなみに、マックスが貞操を失った場面を簡潔に述べるとすると
三十路手前女優Σ( ゜∀゜ )「スポーツ系ショタッ子キタァァーーー!!」
ショタマックス((;゜Д゜)「ひぇっ」
こんな感じ




