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戦客万来Ⅰー4

更新頻度がどんどん遅くなっていく……本ッ当すいません!


パタン、とドアが完全に閉まり、部屋の内部と完全に遮断された。余程大きな物音を立てない限り、部屋にこちらの声が聞こえることはない。

それが頭で理解できたのだろうか、それとも無意識の内だったのか、アイラはまるで糸の切れた人形にようにその場にへたり込んでしまった。

必死で塞ぎ止めていた感情が緊張の緩和によって溢れ出し、ダムを決壊させてできた大瀑布のように怒涛の勢いで心の中を蹂躙する。



「ハァ…ハァ…ハァ…!」




───アレは、何? 知らない、知らない……知らない知らない知らない知らない知らない私は知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない 何で?わからないわからないわからないわからない………!



平常心など濁流に呑み込まれて彼方へと追いやられ、まるでその感情の波に溺れているかのように、荒い息遣いが静かな廊下に零れる。

動悸は速まり、脳に警鐘を打ち鳴らす槌が物理的に振るわれているかのような酷い頭痛に襲われた。



アイラはこれまで一度たりとも、ハイエルのあのような姿を見た覚えはなかった。そして彼女は、人の闇というものにも欠片も触れたことがなかった。



彼女の生まれはここ、アトロシャス。厳格な性格で妥協を許さない母親の下で、しかし精一杯の愛情を注いでもらって育った。

父親は生まれた時からおらず、文字通り一人で自分を育ててくれた母親には今でこそ足を向けて寝られないほどに感謝している。

これまでは外は魑魅魍魎の危険地帯だから、と母親の言いつけで安全圏である家とその周辺からは出たことがなく、外界がどんな場所かも知らない所謂箱入り娘であったのだが、商会の職員(気の良い人)たちからよく可愛がられていたせいか、すくすくと純粋な娘として育った。彼女からしてみれば、その時に面倒を見てくれた人は全員親戚のおじさんおばさんのような認識だった。



その内の一人がハイエルであり、一番遊んでもらう機会が多かった人物でもあった。仕事で忙しいことは容易に考えられるのだが、それでもその合間を縫って自分会うために時間を割いてくれるというのはそれだけで彼女にとっては嬉しかった。

「昔は、よくおしめを取り替えてあげたなぁ」などと酔った時に口走ったのを境に、若干距離を置いた時期もあったのだが、それはそれ。今日に至るまで築き上げてきた信頼は揺るがないものだ。



そのハイエルから、この街に住む住人がどういった人たちなのかをよく聞かされていた。

他人の死を、不幸を、なんとも思わない犯罪者たちの吹き溜まり。野生に存在する弱肉強食の世界の縮図とも言える街。強者が全てで、弱者が虐げられるのは当人が弱いから。強盗、殺人、テロ、違法売買etc. 何でもござれの無法地帯。街に住まう人間たちの心には大なり小なり闇が巣食っている、と。

当時は難しいことが考えられなかったせいか、漠然と悪い人たちが大勢いるんだ、と子供らしい考えが思い浮かんだのだが、否定する者が誰一人としていなかったせいかその認識がアイラの中で固定されてしまっていた。



そして一切の穢れを知らない純粋無垢な人間として成長したアイラは今年、ハイエルの経営する『ランバート商会』に入社する運びとなった。

初めて触れる外界の人間たち。最初はおっかなびっくりな対応ではあったものの、笑顔で受け流してくれる客もいれば、優しく間違いを指摘してくれる職場の先輩たち。皆が好意的に接してくれるおかげか、次第にそういった環境にも慣れていった。



そんな業務に大分慣れてきた今日の頃、彼女の交友関係に変化が訪れた。



マックスだ。



アイラはその育てられ方のせいか、同世代の、特に年下の異性という人間との接点は皆無と言っていいほどなかった。いつも周りにいるのは年上の大人ばかり。故にその出会いは彼女にとって新しい季節を知らせる春一番の風だった。

業務上、特定の顧客と親しくなるのはあまりよろしくはないのだが、運がいいのか悪いのか、案内の仕事に加えて待ち時間の接待まですることとなった。



しかし、相手は街の覇権を争う他とは頭一つ抜けたトップマフィアを相手取った逸般人(イカレ野郎)。無礼を働けばおおよそ無事では済まないだろうと予想はついたが、同時に友達になってみたいという純粋無垢な心(もう一人の自分)がいるわけで……。



だが、実際に話してみればどうだろうか。まだどこか壁があるものの、冗談を交えた取り留めのない会話の華が咲くではないか。一対一で他に誰もいない、ある種襲われても仕方がないと思われる状況下であっても、彼は下心など微塵も垣間見せることなく、あくまでも気の良い友人といったスタンスでいるではないか。

例えどんな恐ろしい偉業を果たしていようと、その内は年相応なのではないだろうか。少し前の、恐怖心と好奇心が心の天秤で激しく競り合っていたのが馬鹿らしく思えてしまった。

言葉を紡げば、笑みが零れる。ジョークを紡げば、笑顔()が咲く。

悪いひとばかりだなんて、嘘なのではないか。だって悪いひとばかりなら、こんなにもお喋りをして楽しいはずがないのだから。言葉を交わすほどに、アイラの思いは膨らんでいく。




それは人の黒さも、社会の闇の深さも何も知らない、真っ白(純朴)な少女の描いた夢幻(ゆめまぼろし)だとは、この時彼女が気づくことはなかった。




そうして汚れのない真っ白い心のキャンパスに、今日、初めて黒を塗りつけられた。

擦れたとか、引っ掛けたとか、そういった些細なレベルの汚れではない。並の人間が持つ黒さなど、コップに一滴たらした墨汁に限界まで水を加えて希釈したくらいの薄さに感じられてしまうほどの、濃密な黒。黒く、黒く、それでいて何色も混ざっている混沌。

多少の汚れなど気にならなくなったキャンパスであってもその上を一瞬にして塗りつぶしてしまいかねない、本当の意味での邪悪(狂気)

とっさの危機察知能力で心をガードしておかなければ、呑まれていたことなど想像に容易かった。




『いいかいアイラ。この街の住人はね、皆心の中に闇を抱えているんだよ』



唐突に、幼い頃の思い出がよみがえる。あれはいつのことだったか、詳しく思い出すことはできないのだが、確か、木漏れ日の下で、ハイエルと遊んでいた時の話だったような気がする。



『?やみ……?』

『そう、闇だ。みんな良い人そうに見えたとしても、それは見かけを取り繕ったハリボテでしかないんだよ』

『?……みんな悪い人、なの?』

『……ああ、そうだとも。皆、悪い人なんだ』

『………お母さんも? ハイエルのおじちゃん、も?』

『そ────わたs──な───』



そこから先は、傷ついた映像のフィルムのように景色が霞み、ノイズが走ったせいで聞き取ることはできなかった。

暗転する視界。遠のく声。

そして気が付けば、自分のベッドの上だった。外を見れば陽もどっぷりと沈んで夜の蚊帳が降りており、記憶が残っている時から今まで何をしていたのか、朧気に思い出すこともできず、悩んだ末に寝ることにしたのだった。

再び日が昇り、目を覚ました時には、その出来事はすっかりと忘れ去られていた。



今思えば、それは忘れ去られたのではなく忘れたかった故に忘れたのだろう。

幼かった自分の、精一杯の自己防衛。真っ白なキャンパスを汚したくないという、子供らしい純粋な思いによるもの。身近な人たち(綺麗なもの)は、良い人(綺麗)であって欲しいという、子供ながらにして切実な思いからくるもの。

それを、綺麗であって欲しいと思っていた人の手で崩されたのは何とも皮肉な話だ。



「察するに、ハイエルのアレ(・・)はお前も知らなかったようだな」



流石にアイラに様子を見かねたマックスが、声をかけた。

ピクッ、と震えると、アイラの口が開く。



「知らなかった……のかな? ううん、違う。何となく、わかってた。ただ、違って欲しいと、心のどこかで思ってたんだと思う」



紡がれたのは心中を吐露する言葉。だがそれに力はなく、それは半ば溢れすぎた感情が行き場を求めて口から零れたかのような、無意識の行動のようにも見えた。

 小刻みに震える身体を抑え込むように自分を抱きしめ、ギュッと袖の端を握る。



───おいおいおい……っ



 その言動に、マックスは面食らったような顔をする。

 つい1時間程前に出会ったばかりの相手にここまで心の声を零すなど、この街においても殊更常軌を逸した行動だ。

 心の内を晒す。それは身内であったり、恋人であったり、親しい同僚であったりと相手との関係は様々ではあるが、一貫して長年にわたって培われた厚い信頼をおける相手にだけ行うものであり、ここではそれすらもしないことなどザラである。

 心理的な距離というものを人は誰しもがそれを持っており、それは人ごとに入れても不快にならない距離には差がある。それは当事者の好感度や信頼度に依存しているものであり、自分の心中を零す相手などよほど相手との距離が近くなければ起こらないことだ。



 だが、アイラの中ではその距離は0か100しか存在しない。即ち、入れるか否か。その両極端な二つしかないのだ。

 これは彼女の環境がもたらした弊害。周囲に優しく接する人間しか存在しなかったが故に、彼女の中では優しくしてくれる人=密接領域まで入れていい人の等式が成立してしまっているのだ。

 虚を突かれたマックスに気づくことなく、アイラは言葉を続ける。



「聞かされては、いたんだよ。でも、私はそれを受け入れたくなくて、目を逸らして、見て見ぬふりをして、逃げてたんだと思う」

「………………」

「皆優しくて、暖かくて、この陽だまりが偽りなんかじゃないって、そう思いたかったんだと思う」

「………………」

「でも、おかしいよね。ここはあの(・・)アトロシャスなんだもん。そんなことはありえないって、大きくなるにつれて、薄々感じてはいたんだ」

「………………」

「けど……それでも私はやっぱり子供のままだった。大きくなっても、心はちっとも成長なんかしていなかった。分かってはいても、私はその幻に縋っていた」

「………………」

「でも、もうその幻も覚めちゃった。……これが、現実なんだよね」



 打ちひしがれた、とはまた違う。ハッピーエンドを、順風満帆の人生を送る自分の姿を夢で見ていた後の、引き戻された現実を見て心に浮かんだ喪失感と諦観を表した顔。

幼き頃より依り代であった仮初の陽だまりは跡形もなく瓦解し、その後晒されるのは常闇の空間。地に足すらついていない、右も左も、何もわからない空間に身一つで投げ出された彼女は、文字通り途方に暮れているのだろう。

何故なら彼女は何もしたことがないから。襲い掛かる危機に晒されたこともなく、従って身の護り方すらしらない。蝶よ花よと愛でられ、あれよあれよと進む道も他者に決められたから自分で道を決めて歩んだこともない。どんな備えをしたらいいのかすら分からないから、彼女は地に足つけずに漂っていることしかできないのだ。



そんな彼女にかけるべき言葉は───



「ハァ…それで? 本当の現実を知って、絶望でもしたか?」



慰めでも、同情の言葉でもなかった






◆◇◆◇






 俺がこの街で初めて出会った比較的年の近い女性。別段一目惚れからの色恋沙汰に発展する、なんてボーイミーツガールの脚本の定番な展開になることはないが、それでもどこか心躍るのは仕方がないと言えるだろう。



 何せ、この街はとある年齢層の人口が異様に少ない。

 具体的には十代の子供たち。特に、十代後半から二十代前半の女子の人口だけが著しく低い



 理由は……まぁ、考えるまでもないだろう。生殖能力が備わりつつある年頃の女子など欲塗れな男どもの格好の獲物でしかない。街で不用心に出歩こうものならその日の内に拉致され、弄ばれるだけ弄ばれて最後は捨てられるか、利用価値を見出されて人身売買に売り飛ばされるかの二択しか選択肢が存在しないのだ。

 せいぜいまともに生きていられるのは、娼婦としてくらいだろうか?



 だが、そんな中出会った彼女は違った。正真正銘、この街で生きて無事にここまで成長した人間だった。

 無垢で穢れのない真っすぐな目。下心など母親のお腹の中に置いてきたのではないのだろうかと思えるほどに、どこまでも純粋で、それでいてこの街に似つかわしく(・・・・・・・・・・)ない(・・)少女だった。



───まぁ、逆にどうやって育てられたのか想像しやすいんだがな……



 おそらく、この街の黒い面に触れさせずに育てたのだろう。自宅、それも高度なセキュリティの備わった家で育てたというならそれも可能だ。闇を寄せ付けず、それでいて人の手で創り上げた陽だまりの場所で育てられた人間は、混じり気のない純朴な人間へと成長する。

 世慣れていない、世間知らずの箱入り娘になってしまうのは仕方がないにしろ、その手段であればここまで成長することは可能だろう。

 受付嬢として働いているのは、もしかしたら安全に社会勉強をするためなのかもしれない。

 なにせここは言わずと知れたランバート商会本社ビル。そのセキュリティの高さは圧巻の一言で、それに加えて外敵への容赦のなさは割と有名な話であることから、白昼堂々受付嬢にナンパする猛者(バカ)はいない。

 そもそも訪れる外部の人間は商談のために来ているのであって、相手側に不快な思いをさせる行為はしないだろう。

 そんな事情があるからこそ、ここでは外敵の心配をすることなく少しずつ世間慣れしていくのに最適な場所でもある。



 だが、現実は非常であり、アイラは無垢()さが抜けきる前に人の闇に触れてしまった。

 どうしようもないほどの、人類最底辺(ハイエンド)の濃闇に。



 ここは優しくするべきか、と一瞬頭の片隅を過ったがその考えをそのまま彼方へとぶん投げる。

 柄とか、性に合わないとか、そういう見栄以前に、それでは彼女は助からない。

 そもそもが社会勉強を通して揉まれることで、ガラスのハート以前の純粋無垢な(脆すぎる)心を徐々にでも克服しようとしているのだ。それが本人でなく第三者の意思なのだろうが、それはそれで間違ってはいない。少しでも打たれ強くなってもらわなければ、世間では生きていけないのが現実なのだ。



 だから陽だまりで育ってきた彼女に、再び無責任の優しさ(陽だまり)を与えていては彼女は一生成長できない。寄る辺を失い、不安定になっている人間に、下手に優しくするのは悪手だ。再び現れた優しい人(陽だまり)に依存してしまう。

 それじゃあダメだ。彼女はこの街に存在する数少ない同年代の人間だ。年が近く、それでいて話しやすい。それだけで『マックス』にとって、いや、『俺』にとって、この街では得難い存在なのだ。なら、多少なりとも彼女が成長できるようにしてあげるのが、本当の優しさというものだろう。

 多少なり『マックス』の人物像から『俺』寄りになってしまうが、誤差の範囲だと割り切る。



 さぁて、一肌脱ぐとしようか。




「そ、それは……」

「闇なんざ、人なら誰しもが持っているもんだ。一々そんな反応してちゃあキリがねぇぞ?」

「で、でも……社長は……ハイエルおじさんはそんなもの一度も……!」

「見せたことないってか? そりゃあお前、堂々とそんなもん晒すわけないだろ」

「………ッ」



 振り返ったアイラの顔には困惑と動揺が多分に見受けられるが、意に介さず受け流す。

 言い返そうにも言いたい言葉がたくさんあり過ぎて喉元で詰まってしまったのだろうか?口をパクパクと動かそうにも言葉が出てこない。



 というか『ハイエルおじさん』って……そんなポイポイ情報流しちゃあダメだろ

 信頼を置く相手の選び方もそうだが、そういった情報などの重要性についても教えないとダメなのか?  こりゃあ成長させるのも難儀しそうだ……



「んなことも分からないってお前……世間慣れしてなさ過ぎだろ」

「うっ……」

「というか、今までここで生活してるのに、よくそれで生きて来られたな。アトロシャス七不思議の一つにでも認定されんじゃねぇか?」

「ううっ……」

「そらそら、言い返したきゃあ言い返してみろよ」

「う、ううううううぅぅぅ!!」



───子供かっ!



 喉元まで出かかっていた言葉が、今度は更に奥底から湧き出てきた言葉に押し出されるかのように口元まで上っていき、それでも口から紡がれない言葉は頬に溜まり、まるでリスのようにぷくりと膨らむ。

 ……おかしい。俺は年上の人相手に対応しているはずなのに、なんで年下の子供に対する扱いをしているのだろうか。

 少なくともここで声に出さなかっただけでも俺は褒められるのではなかろうか

 庇護欲をそそる仕草に、思わす口元が緩みそうになる。危ない危ない。



「うぅ……ま、マックス君の意地悪」

「……やっと絞り出した言葉がそれかよ」



 思わず眉間に皴がより、それを隠すように額に手をやる。まさか20超えた大人がこんな子供染みた言葉返してくるとは思わなかった。本当に子供をそのまま大きくしたような人だ。心根が優しいことが唯一の救いだろうか? 我が儘な性格だったら目も当てられない。



「ううぅ……絶対に、絶対にいつか見返してやるんだからぁっ!!」

「はいはい。その日を楽しみにしているよ」



 よほど腹に据えかねたのか、涙ぐみながらも立ち上がって言い返してきた。うん、これならまだ大丈夫だ。今時の小学生のように、相手にいいように弄ばれたり、思うようにいかないからと不貞腐れる、なんて展開よりも断然マシだ。言い返せる気概があるなら、それだけ成長に見込みは持てるだろう。



 ……まぁ、胸の前で両(こぶし)を合わせて叫ばれても、その仕草自体が子供っぽいから対応はまだ子供相手のものだが。

 見かけは仕事ができそうな女性なのに、どうも内面は子供っぽさが抜けきっていないから調子が狂う。これはこれで愛嬌があると言えばいいのだろうか?



「私の方が年上なのに……子供みたいに扱われてるぅ……」

「日頃の行いのせいじゃねぇのか?」

「私そんなに日頃の行い悪いのかなっ?!」



 しょぼくれて俯いた顔を煽って上げさせる。

 心の整理なんて、これだけのやり取りで改善できるはずがない。支離滅裂に、ごちゃごちゃに広がっている心は一つ一つの言葉の投げかけや思考によって少しずつ纏まっていくものだ。ハイエルという信頼を重く置いていた人に裏切られた今、この時にできることなど煽り言葉という箒でごちゃごちゃした心の中を荒くとも纏めることぐらいだ。後は今後に託すしかない。

 


 ───顔色も幾分か回復はしたし、今のところは大丈夫だろう

 


 強いインパクトで植え付けられた記憶はそう簡単にはがせるものではないが、取り敢えず別の感情を持たせることで保留にすることはできる。一時的なものだが、今は心の平衡を保つことはできるだろう。

 未だ言い寄るアイラを横目に捉えつつ、廊下に差し込む日差しを受けて俺は真っすぐに歩み出すのだった。
































 アイラは知らない。彼女にとって周囲の人間が優しく接してくれるのは当たり前だった(・・・・・・・)ために、脅威に侵されることなど、そもそも悪意という概念がどういうものか知る必要がなかった(・・・・・・・・・)

 何故なら彼女は『保有者』だから。


 マックスは知らない。言動の端々に、そして思考にも、どこかアイラを守ってあげようとする意思が薄っすらと在ることに。何故なら『保有者』は『────』であり、『マックス』ではないから。 『────』の人格が在るが故に、その意思は朧気に感じられる程度に抑えられているのだ。



 『保有者』同士が出会い、交錯することで互いにどう影響するのか、それがどういった効果を生むのか、それを知る者は、誰もいない。


これで戦客万来Ⅰ は終わりです。

次は戦客万来Ⅱ ですね。戦闘シーン書けるのでお楽しみいただけたらと思います。

更新頻度はゆっくりになってしまってますが、今後ともこの拙作を読んで楽しんで頂けたら幸いです。

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