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13話

 銃声が鳴り響いた。

 先ほどまで誰もいなかった筈の、訓練場入口からだ。

 同時に、アルドがよろける。


 皆が入口の方を見ると、そこに立っていたのは――


「アドウェル?」


 驚愕の声で、ノルヴがその男の名を呼んだ。

 アドウェルは、煙立ち昇る銃口をこちらに向けている。撃たれたのはガルドのようだった。


「......また防弾服か。今度は頭を狙わねえと」


 出血も何もしないガルドを見て、舌打ちするアドウェル。


「お前! 牢にいた筈だろう!」


 ノルヴは叫んだ。

 彼が捕らえられていたのは、南方にある帝国軍本部地下にある牢だ。つまり、そこから抜け出してこの基地まで来た、ということになる。


「俺は『有能』なんだよ。あれしきの牢と監視を抜けるなんて造作もねえ。才能だけの男を持ち上げるような、そんな能無し軍なんてなあ」


 服に穴をあけられたガルドが、アドウェルを睨みつけた。


「なるほど、だからあの時――俺と騎士長が資料室に居た時――、お前は資料室に来たんだな? ノルヴの居所を聞いて誤魔化したようだが、あんときお前、偽の資料を置きに来たんじゃねえか? お前はノルヴがみたアレはミストが持ち込んだものだってのはすぐわかったが、それを本物だと思わせる為には、本部にも同様の資料が無ければいけなかった。だが情報の伝達が遅れてしまった」


 彼の話に、ミストが溜息をつく。


「全く、流石に計画が雑過ぎたよ。本国からの催促が最早脅迫に変わって、だったら殺さないまでも、永久投獄にでもなればいいかななんて思ってやったことだったけど」


 それを聞き、アドウェルの表情が一変した。ミストに激しい怒りを向けている。


「おい、それどういう意味だ。そんなのに俺を巻き込んだのか?」


 信用を無くしていたとはいえ国を裏切らせるような行為をさせた男の本心が、そんな緩いものだと知り失望したらしい。

 するとミストは、調子づいたように笑みを浮かべた。


「おおっ? 嫉妬心の為に呆気なく母国を捨てるような『尻軽軍人』が、使い捨てにされて怒るの?」


 その挑発に、アドウェルの銃口が向きを変える。先程までノルヴに向けられていたそれが、ミストの頭部に狙いをつけられた。


 直後に銃声。


 そして訪れる静寂。


 アドウェルの銃が、床に落ちる音がした。


「......てめえ!」


 銃を持っていた右手を抑えながら、アドウェルがノルヴを睨みつける。

 ノルヴの持つ銃から、硝煙があがっていた。


「何屑みてえなことしてんだ、この屑」


 彼は、アドウェルを睥睨している。

 それを聞き、アドウェルは額に青筋を浮かべた。


「全部てめえが原因なんだぞノルヴ! 才能に現を抜かし、軍の長に取り入り、俺のような真の実力者から目を背けさせた! てめえのようなのがいると軍は弱くなる。だから――」


「言ってることが意味わかんねえし、うるせえから黙れよ。不必要にぎゃあぎゃあ喚く奴は軍にはいらない。敵国でもどこでも勝手に行け、目障りだ」


 話を中断させたノルヴ。

 アドウェルは、彼に近づくと胸倉をつかんだ。しかし言葉が出ないのか、凶悪な様相で彼を見るだけである。

 一方のノルヴも、侮蔑の目でアドウェルを見下していた。

 すると突然、横からの衝撃が二人の身体に走る。

 ガルドが、横からアドウェルを蹴り飛ばしたのだ。

 胸倉を掴まれていたせいで、ノルヴは一瞬よろける。

 数メートル飛ばされるアドウェル。彼はミストのすぐ傍に転がった。


「国内に他国の兵が二人も入り込んでるんだ、拿捕しないわけないだろう。てめえには何言っても無駄なようだから、俺もノルヴも、もう何も言わない」


 ガルドが言う。

 体を起こしたアドウェルは、諦めたような目になっていた。


「だとしたら、俺は好きなようにさせてもらうぞ......」


 その言葉に不穏なものを感じたノルヴが、アドウェルを捕らえようとする。

 しかし一足遅かった。

 アドウェルが、隠し持っていた発煙筒に火をつける。

 勢いよく噴き出した煙が、一瞬で皆の視界を奪った。

 逃亡阻止のためにガルドやノルヴが叫び声をあげるが、彼を捕まえることはできない。


 唐突に、室内に風が入り込んだ。煙が一気に晴れる。

 床から数メートルのところにある窓が、開け放たれたのだ。

 窓枠に足をかけているのは、アドウェルではなくミストだった。


「お前!」


 ノルヴが怒鳴る。

める。

「ごめんよぉ、俺っちは別に大人しくしてても良かったんだけど、こうなった以上アドリア側に戻るしかないっぽいんだよ。こっちにも色々事情があるからさあ。だからさあ――」


 ミストはノルヴの方を向き、口角を釣り上げた。


「今度の戦闘で、君と俺っちとで一戦交えようよ。これは完全に俺っちの勝手な行動だけど、ここ数日で君にすごく興味が湧いた。だからこの国の情報をかけて決闘っぽいことしてみよう? 君が勝ったら俺っちは潔く死ぬし、君が負けるか、戦いを放棄したら俺っちはこの国で得た情報の全てをアドリアに開示する。どう? 十年もの間君の親友を騙し続け、そしてそれと同じくらいの期間君の恩人の命を狙い続けた俺っちに、一矢報いるようなことしてみてよ」


 突然の提案だ。そして言い終えるとすぐに、ミストらは窓の外へと飛び出した。すぐに追いかけるべきなのだろうが、龍の羽ばたく音が聞こえた為に、それを諦めざるを得なくなってしまう。彼らが今居る西鉱山基地は、アドリア国との国境も近い、下手に戦闘は起こせなかった。

 窓を睨みつけるノルヴ。その目は真剣そのものだ。


「なあ、レア」


 彼はミストから目を離さぬまま、低い声で言った。

 呆然と成り行きを見守る事しかしていなかったレアは、虚を突かれたような反応をする。


「お前は、どうして欲しい? 俺があいつの話を飲んだら、俺はあいつを殺すことになる」


「それは......う、受けなきゃ駄目だよ。その、ノルヴがミストを止めなきゃ、この国の情報が流されるんでしょ? だったら――」


 いつにも増して気弱そうな表情になるレア。

 その言葉を、ノルヴは遮った。


「んなことを聞きたいからお前に質問したんじゃない。お前本人は、どうして欲しいんだ......?」


 はっとした表情になるレア。

 そして、たっぷり十数秒、下を向いて悩んだ。


「......僕は、ミストに死んで欲しくない。でも、でも僕は龍騎士だ。他国との戦いに、私情を持ち込む訳にはいかないよ。ミストか国か、どちらかを選ばなきゃいけないなら......」


 レアは、きっぱりとノルヴの目を見つめる。


「お願いだ、ノルヴ、国を守って欲しい」


――


「......はい、わかりました」


 沈んだ声で通信装置に返事をするレリス。相手は、言うまでもなくノルヴだ。


「落ち込むのは後にしてください。兎に角、アドウェルの件も、ミストの件も、俺が何とかします。不本意ながら、そのどちらにも関わっているようなので」


 彼女の反応を予知していたノルヴが、口早に言った。アドウェル脱走は、本部に居たレリスの失態となるのは当然だ。

 ノルヴが伝えたのは、西鉱山基地内部で起こった出来事全てと、真相だった。


「それと、これは師匠にも、それ以外の誰にも絶対に公言してほしくないことなんですが......」


 話を続けるノルヴの奇妙な念押しに、思わず疑問符を浮かべるレリス。

 彼は、洞窟でレアと共に見聞きしたものの一切を、レリスに伝えた。秘匿の約束は言い過ぎな程に何度も言う。

 話が終わると、レリスは暫しの間沈黙した。無論彼女も阿保ではない。白龍やノルヴが秘匿を望む理由は直ぐに理解していた。


「そんなものが、本当に存在していたのですか......」


 その言葉は、疑問形ではない。


「ええ。俺は凄惨な殺戮劇も、そんなので勝ち取る勝利も好きではないので、これを利用することは望みません。しかし話の重要さ故、貴方には伝えておくべきだという判断をしました」


「......当然の判断でしょう。私も、殺戮や不条理な兵器は好きではありません。我が国が白龍に対して動くことはない、ということにしておきます。問題は、そんなものをもしどこかの国が手に入れてしまったらということですが」


「その時は、そうなるものだったと受け取るしかないでしょうね」


 そんなやり取りをした後、レリスは通信を切ろうとする。

 しかし、ノルヴがそれを引き留めた。

 要件を聞こうとするレリスだが、ノルヴは言い渋っている様子だ。


「どうしたんですか?」


 再び聞く。

 するとノルヴは言った。


「次の戦いが終わったら――」

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