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11話

「この大陸における人と龍の関係は、遥か昔、一人の男から始まっているのだ」


 白龍は穴から這い出て、地面に座り込んだ。

 話が長くなるからお主らも座れという風に言われ、ノルヴとレアも地面に座る。

 再び白龍の口が開かれ、人と龍の歴史が語られた。


 人と龍は、太古互いに干渉せずといった営みをしていた。白龍のような、人の言葉を話せる特殊な龍種も既に存在していたが、彼らは洞窟の奥深くに住み、人と出会うことはなかった。

 ある時、物好きな男が龍の巣である洞窟の奥深くを訪れた。彼は意思疎通のできる龍を見て大いに驚いていたという。

 龍としてもそれは同じで、男と龍は互いに興味を持った。

 友好的で博識な男を気に入ったその龍は、その者に龍の持つ知恵を教える事にしたのだ。さまざまな効果を持つ鉱石と、その加工技術。そして龍と契約する方法などだ。


「今の人々は、鉱石加工の事を錬金術と呼ぶと聞いている。そしてお主らがしているように、龍との契約の知識は常識と言えるまでになった」


 話の前段をそうまとめた白龍。それを聞いて、ノルヴらは驚愕した。つまり今の文明が軸としている錬金術、そして操龍の技術は、すべてその龍によって人類に齎されたということになるのだ。錬金術がなければ、火薬や重火器も誕生していない。まさに文明の根幹といえる話だった。


 話を続ける白龍。


 実はその龍は、男に一つ虚偽を教えていた。契約のメカニズムについてだ。契約そのものは、ノルヴやレアが昔経験したように、自らの血液をつけた鉱石を龍に与える、というものである。しかしそれによって生じるのは、龍と人との主従関係ではなく、ある程度の感覚の共有だけなのだ。つまり龍を本当の意味で自在に操ることができるわけではない。


「じゃあ、どうして?」


 レアが聞いた。それと同時に、レアの龍がゆっくりと彼の元に歩み寄ってくる。


「その男と龍が、『約束』をしたのだ。龍と共存関係を結ぶ代わりに、龍を操る術を人に授ける、というな」


 約束は、男と龍の他愛ない会話の中で交わされたそうだ。人と龍双方の将来に多大な影響を与えるものだったが、互いにそこまで気が回らなかったようだ。


 白龍は、一旦口を閉じた。話の区切れのようだ。


「随分と呑気な......」


 思わずノルヴが呟く。

 同感らしく、白龍は笑うように喉を鳴らした。


「この事は、我々龍は皆知っている事だ。だが人間側は、お主らがそうであるように全く話が伝わっていない。これは龍が人の家畜となることを恐れた男の計らいだそうだ。本来ならばお主らにも内密にすべきことだが......それなりに賢いと見受けたから教えた。疑問は解決したか?」


 問いかけに頷くノルヴ。

 一方のレアは、とんでもない場に居合わせた事に若干怯えを感じていた。


「ね、ねえ、本当にこんな話聞いてよかったの?」


 思わずノルヴに耳打ちする。

 今更何をといった風に、ノルヴは肩を竦めてみせた。


「あともう一つ、白龍の能力も聞きたい」


 ちらりと天井を見上げるのノルヴ。数分前白龍が吐いたブレスは、未だ天井にとどまり洞窟を照らし続けている。


「興味が尽きぬようだな......我々白龍のブレスは、触れた生物の命を奪うことができる代物だ。どうだ? 戦に絡ませるのは危険だろう」


 その言葉を証明するかのように、蝙蝠が一匹洞窟の中に入ってきた。天井に止まろうとするが、ブレスに触れた瞬間動きが止まり、地面に落下してくる。

 ノルヴは、少々顔を青ざめさせた。白龍の言うように、どこかの国の手に渡ったとしても、戦況は恐ろしいほどに一変するだろう。


「まあ、白龍が人前にでることは恐らくありえないだろう。他に聞く事がないなら、話はこれで終わりだが」


 逡巡の後、ノルヴは話を終わりにした。


「もう十分だ、感謝する。俺たちはレアの龍が回復するまでここにいるが、いいんだよな?」


 立ち上がろうと腰を浮かせがながら言ったノルヴの言葉に、白龍は頷く。


「これも内密の話だが、その龍を早く回復させる方法があるぞ」


「本当か?!」


 突然の朗報に、ノルヴが喜々とした声を上げた。

 それと同時に、二人の背後で石が転がる音がする。気づいたのはレアだけだった。


――


「この鉱石だ」


 白龍は、ノルヴ達を洞窟の奥へと案内した。いくつか分岐があったのだが、白龍は道順の全てを覚えているらしい。

 彼らの目の前の岩壁からは、入口の方にあったのと同じ乳白色の鉱石に、少しピンクが混じったような色をしている鉱石が大量に露出している。


「......見た事ないよこんなの。ノルヴは?」


 割れて地面に転がっていた鉱石を手にとり、レアは呟いた。

 ノルヴは顔を横に振る。


「その鉱石は、龍の体内を巡るエネルギーの流れを活性化させる......というと分かりづらいな。要は、食べた龍の傷を瞬時に直すことができる効果がある。無論、アルム鉱石による傷もな」


 彼らの後ろに佇む白龍が、説明した。

 二人は瞠目して再び鉱石に目を向ける。


「そんな都合のいい鉱石が......」


 信じられない、といったようにノルヴが言った。

 それを聞き、白龍が鼻を鳴らす。先程から仕草の一つ一つが妙に人間味あるものだ。


「実際に試せばわかる」


 白龍の言葉が合図になったかのように、その背後から一つの影が出てきた。覚束ない足取りで、レアの暗赤龍が歩いてきたのだ。

 暗赤龍はレアの前に来ると立ち止まった。

 手の中にある鉱石を見つめるレア。彼はチラリとノルヴに不安げな眼差しを送った。

 視線に気が付いたノルヴは、背を押すように頷く。

 レアは、鉱石を暗赤龍の口に投げ込んだ。

 放物線を描く鉱石を、暗赤龍は口で受け取る。


――


「......すげえな、あの石」


 洞窟の入口に向けて移動しながら、ノルヴは呟いた。彼の斜め後ろを歩いている暗赤龍は、ほぼ無傷に近い状態になっている。


「あの量では全快はしなかったようだな......だがあれは多すぎても毒、この程度ならば飛ぶのに問題はないだろう」


 一行の一番後ろを歩いている白龍が、二人に言った。


「ありがとう......ございます」


 思わず敬語で、レアが礼を述べる。丁度洞窟の入口が見えてきたタイミングだった。


「別に構わん。ここで見聞きしたもの全て、内密にしてくれればいいだけのこと。私こそ、滅多に来ない話し相手になってくれたことを感謝したい」


 結局、白龍のやったこと全ては暇つぶしに準ずるものだったらしい。それを悟ったノルヴとレアは、二人して顔を見合わせる。

 洞窟の出口に出た。雨は上がったものの、時刻は夜だった。満月が空高く昇っている。


「これは、結局ここで一泊するしかないみたいだ」


 黒龍であるノルヴの龍はともかく、レアの龍は夜目が効かない。


「ならば、適当に休んでいればいい。私は塒に戻る」


 欠伸交じりで白龍が言った。そして、出てきた時に開けた大穴に戻っていく。

 白龍の姿が見えなくなると同時に、天井付近のとどまっていたブレスが消え、洞窟は闇に包まれた。


――


 翌朝日が昇るとすぐに、ノルヴ達は基地に向けて出立した。

 レアの龍は、傷を回復させてからまだ半日も経っていないのだが、全く問題ないようだ。


「やっぱ本部への通信石は壊れてるみたいだ」


 ギリギリまでレアに近づいたノルヴが、大声で言う。彼は先程から、自分の耳に付けた通信石を弄っていた。


「僕たちが帰ったら絶対びっくりされるね......ミスト、どんな顔するだろ」


 レアがミストの名を出した時、ノルヴはピクリと眉を動かす。


「あのお調子者が、十年前お前を助けたんだってな」


「知ってるの?」


 苛立たしげに言うノルヴに、レアが意外そうな顔をした。どうやら、ミストがレアのことを話した事は伝わっていないらしい。


「聞いたんだ、本人から。どうなんだ、あの男は」


 まるで自分の娘の恋人を品定めする父親のような言い方だ。

 逡巡するレア。


「性格はかなり軽いけど、頭が切れて、腕も経つ。結構頼れる人だよ」


 あまり納得がいかないのか、その言葉にノルヴは微妙な相槌を打った。


「......何かあったの?」


 妙にミストの事を毛嫌いしている様子のノルヴを、レアは訝しむ。


「あの軽いノリが好きじゃない。あと馴れ馴れしいのもな。お前、どうやってあいつに出会ったんだ?」


 彼が尋ねているのは、彼がミストから聞いた以前の事、ノルヴと別れてからミストに合うまでの事を聞いているようだ。

 二人は、特別急いでいるわけでもなく、やや遅めで空を飛んでいる。風の音も若干小さく、近づいていれば普通の会話も可能な程度だった。

 レアは、遠いどこかを見つめるような顔になり、口を開く。

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