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無表情受付嬢


 「おう……そうか、じゃあな」

 今日もダメだった…。ハゲのおじさんの後ろ姿を見送り、深いため息をこぼす。隣のロッテは心配そうに俺を見上げている。俺は今どんな表情をしているのだろうか……。少なくとも笑ってはいないかな。


「プロフィールが初期設定なのも原因かもしれませんよ?」

 不意に後ろから声をかけられた。振り返ると声の主は常に表情が動かないと評判の(?)受付嬢だった。


「えっと……プロフィールですか?」

「はい。こちらで確認しましたが貴方の名前も出身地も初期の開示否定を選択してますし。スキルはルーレット……。ユニークスキルのためスキルの詳細も不明。はっきりいって怪しすぎます」

「そ、そんなにですか?」

「はい。風呂敷で顔を隠して空き家に忍び込む人レベルです」

「そんなに!!? 今すぐ変えます! どうやればいいですか?」

「ではこちらの書類に……」






「名前はディール……出身地はギャンバー……。なんというか普通ですね。もっとインパクトはないんですか? お尻から火が出るとか」

「ないです」

 あれから表情の乏しい受付嬢に色々と教えてもらいプロフィールの書き直しをしているが、この受付嬢、無表情だがかなりのボケをちょくちょく入れてくる。


「しかしこれでは他の個性豊かな冒険者に埋もれて見向きもされないでしょうね。ここは一つ、二つ名などはいかがでしょう? ……一つなのに二つ名……ふふっ」

 無表情で笑うとはまた器用な……。

「二つ名かぁ……。たとえばどんなのがありますか?」

「チョコレートパフェDXクリーム増々トッピング全部のせ~パセリを添えて~などは……」

「拒否しまーす」

「因みに向かいのレストランの裏メニューです」

「美味しそう……」

 ロッテ、よだれを拭きなさい。


「二つ名の例を聞いたら向かいのレストランの裏メニューを教えられるって……」

「いいではないですかチョコレートパフェDXクリーム増々トッピング全部のせ~パセリを添えて~のディール様」

「長いしカッコ悪いし言いにくいし勝手に決めるな!

 まてこらペンを置け」

 しれっとペンを走らせていた受付嬢の腕を押さえる。こいつ……地味に力が強い!

「離してください。これは…………そう、日記です。日記をつけてるだけです。乙女の秘密を覗き見ないでくれますか?」

「なんだよその間は! 絶対さっき俺に変な二つ名を付けるつもりだったろ!

 とにかく普通でいいんだよ! 二つ名とかは有名になれば勝手に呼ばれるようになるだろ!」

 気がつけば敬語を使わなくなっていた。まあいいか、敬語は敬える人にたいするものだからな。


「あー、もう無駄な時間を使った……。今日もスライム狩りしなきゃいけないのに」

「なのです!」

 俺に同意してこくこく頷くロッテ。すると受付嬢がごく僅かに眉を寄せ(多分)困った風な顔になる。


「お言葉ですがディール様、しばらくスライム駆除の依頼は無いかと」

「え、常時発注じゃなかったっけ!?」

「それが、今朝ごろから近辺のスライムの食性が大きく変わり、その辺の石ころを親の仇のように攻撃した後何度も反芻はんすうして消化するようになったようで、学者ギルドの方から観察のため不殺の注意喚起が出まして……」

「へ、へぇ……」

「それはマスターが――もご!? もごごもも!!」

 なにか余計なことを口走りそうになったロッテの慌てて押さえる。

 胡乱げな目で見つめる受付嬢だったが、ため息を吐いて話を切り替えた。


「ですので、今出ている依頼でディール様におすすめできるものはこれですね」

 そう言ってカウンターの引き出しから取り出した紐で綴られた紙束。ペラペラと捲っていき、ある所でその手が止まる。

 その紙束をこちらにずいっと押しやるので多分見ろということなんだろう。

「薬草採集か……」

「はい、最近薬草の需要が高まりつつありまして、供給が追い付いていないのが現状です。付近に魔物の目撃例も少ないので比較的安全に行動できると思いますがいかがでしょうか?」

「とは言うものの俺、雑草と薬草の違いが分からないんだよな」

「ご安心ください。どんな使えない初心者でもサポートするのが私たち受付嬢の役目でございます」

「さらっと俺をディスってるのか、あ?」


「今ならこちらのゴブリンでもわかる植物図鑑をギルドがお貸しいたします」

 ああ、その辺はちゃんとして……ん!?

「俺、この文字見たことないんだが?」

「ゴブリン文字でございますので」

「使えねぇよ!! なんでゴブリンにしか分からないように作られてんだよ!」

「名前に嘘はつけませんので」

「比喩表現ってあるだろ! なんで作者は変なとこに力いれてるんだよ!!」

「お褒めにいただき光栄にございます」

「お前かよぉぉぉぉぉ! そして誉めてねぇから!!」

 ゼー……、ハー……、もうなんなんだよこの受付嬢。


「とにかく無理。薬草採集なんてできないよ」

「マスター……楽しそうなのです。ダメですか?」

 上目遣いにお願いしてくるロッテ。やめてくれ、そんな目で見つめないでくれよ。無理なものは無理なんだって……。

 ロッテの様子をじっと見ていた受付嬢がおもむろに席を立つと、カウンターの奥へと戻っていった。多分別の仕事だろう。受付嬢もいつまでも俺たちの相手をしてられまい。


「しっかし、どうしようか、スライム駆除で成り立っていた生活もままならないぞこれ……」

 幸い昨日はいつもよりかなり多くの報酬を貰ったけど一週間くらいで余裕もなくなる。

 安くてもいいから安定した仕事を探すべきなのかもしれない……。

「どうしましょうですマスター……」

「どうしようかねー……」

「ご安心ください」

「「!!?」」

 いつのまにか隣に立っていた受付嬢に驚いて二人して変な声を上げた。


「さしもの私もその反応は傷つきますよ?」

「あ、ごめん。気配すら感じなかったから」

「ごめんなさいです」

「ディール様、私が薬草採集に同行致します。それならば問題はないのではありませんか?」

「は? え、ここの仕事は?」

「別の担当の時間です私の業務は先程まででしたので」

 カウンターには確かに別の女性が座っていた。

 よくみれば受付嬢は手さげのバックを抱え、帰り支度が終わっているようだった。




「ディール様。私とパーティを組みましょう」


 その言葉の意味を一瞬理解できずに呆けた顔をしてしまった。



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