36話 無駄な事より気持ちに素直になった方がいい
あぁ……遅れて、本当に、申し訳、ありませんでした!
この話で気づいてしまう人は気づくかもしれない。
家でニナと昼食の作っていると、御梅と奏世先生が何やら話をしていた。
教えながら支度をするため、会話の方に注視することが出来ないが……人の話は喋ってると聞きたくなるものだ。
包丁を使ってる時を除き、横目で2人の会話を盗み聞きしてみる。
「そういや、宿題やったか?」
「やってないよ、問題よくわからないし」
先生はその言葉を聞き、大きく溜息を付いていた。
そういえば、宿題か……ん? この姿だと転入だから必要無い……か。
横でニナが図星なのか動作が止まっていた、お前やってなかったのか。
「何時もは夏休み初めに終わらせるんだけどね、ホントだよ?」
「分かった分かった、さっさと終わらせてやろう」
こっちに訴えかけながらニナは弁解した。
俺が聞く以前に、それだとやってないって言っているようなものだが。
その後は俺も手を出しながら調理を進めていった。
御梅は先生をからかって遊んでいた様だし、特に気にする会話をしていなかった。
「そういえば、セナは今日居ないんだな。宿題の事で釘指しておこうと思ったが」
奏世先生は自分のハンバーグを細かく口に運びながらそう呟いた。
セナを呼んでもよかったが、どうせあいつゲームの中だし、こっちに来るまで時間かかるからな。
俺は「面倒だから」と言いつつ、ハンバーグを一片食べた。
「……そうか、あいつも贅沢だな。女子3人と居るなんて、1人は身内だが」
「セナは何時も誘いは受けてるから慣れてるんじゃない?」
「俺が居るときはそんな事無かったがな」
記憶を辿っても俺の目の前で女子に言われてる姿は無かった。
御梅が言ったように、誘いを受けるくらい女子に人気なのは知っていたがな。
すると先生は「お前は不良っぽかったからな、声掛けづらいんだろ」と事もなしに答えた。
「セナもあいつと居ると楽って言ったのはそれかな」
ニナはそう言って俺を見てきた。
「さぁな、この姿になっても変わらずに接してるし、あいつも基本言わないからな」
俺の言葉に奏世先生は、悪者顔をしてニヤけた。
「あぁ、なるほどな」
そう先生はうんうん頷いた。
俺が尋ねる前に御梅が「まさか」と言いながら2人で理解したように話し込んでしまった為、聞こうにも聞けない。
ニナも何かに気づいたみたいだが、1人で何かをぶつぶつ言い始めた。
食事を終えてもそんな感じの雰囲気は変わらなかった。
からかい相手を見つけた子供の様にはしゃいでる2人を無視しつつ、ニナと話をしていた。
「さっきからどうした? あの2人は何時にも増してふざけてるが……特に先生が」
「大丈夫、ちょっと自信が無くなっただけ……」
自信? 何のことだ? セナの話と繋がりが無いように見えるが。
ニナと一緒に食べ終わった皿を片付けながらそんな事を思う。
食器を水で流していると、後ろからニナが抱きついていくる。
「お、おい」
突然だったためびっくりしたが、ニナが「お願い、このままにして」と言われたため、食器を洗いながらそのまま待つ。
「どうしたんだ、らしくない」
「だって……ゼノがこのまま何じゃないかって、本当は戻る気が無いんじゃないかって」
「……」
こんなに心配してくれてるとはな。
すぐ答えが出せればいいんだが、俺はバカみたいだからな、無理なようだ。
俺は洗いながらニナに答えられる事を、答えるために口を開いた。
「俺は、お前らと変わらない日々を過ごしたい。それは姿が違っても変わらない」
「ゼノ……」
「前は少し距離を置かれてた……いや違うか。俺が拒んでただけだな」
姿が変わったから変わった、というよりはきっかけがあったから気づけただけだ。
ニナと前から色々な話をしてみたいと思うようになったのもあの時から。
最後の皿を洗い終わって、食器カゴの中に入れて俺は言う。
「結局俺は誰が好きなのか分からない。でも、姿が戻って前の様な、何も面白くない生活に戻るよりは」
俺は言う。
「今のままがいい」
そう俺は口にした。
結局それでしか判断が出来ない。
姿が変わった時の今まで通りに過ごしたい、変わってほしくないと思った。
ニナは俺の言葉を聞いてから返事が無いため、背中で息遣いがわかる程度しかない。
楽しかったんだ、この短くも濃い生活が。
だから口に出来た。
「ゼノはこのままでもいいの?」
ニナは確認するようにそう呟いた。
「大変な事があるかもしれない、だけどそれは今の楽しさを忘れるよりマシだ」
それだけは言い切れる。
答えではない、それは知っている。
時間はまだあるのだから……そう悠長もしてられないけどな。
別な所から視線を感じる。
すると何故か2人がこっちをニヤニヤと見ていた。
「お熱そうですね、先生」
「真面目な話だと思うが、こっちからしたら仲がいい姉妹みたいだな」
それぞれの感想を言われる中、俺は小さく溜息付く。
俺と同じくらいの背なのにニナは、恥ずかしそうに抱きしめるのを止めて隠れる様に縮こまった。
そんなニナに俺は呆れるの忘れてクスッと笑った。
「ニナ、宿題やるよ。さっさと、御梅もね」
「えぇ……忘れたって言って出さなくていいじゃん!」
「俺を目の前にして言うか?」
奏世先生が隣に居るのにどうどうと言うな。
どうせそこまでかかる宿題じゃない筈だから、終わらせてしまおう……俺関係ないけど。
こいつらとやるのなら、楽しいからいいか。
何故か先生も手伝ってやると言って、出した本人の問題を教えて貰った。
宿題をやっている最中、セナにも教えなきゃならんのか、と思ってしまったのは言うまでもなく。
言われなかったらそのままにしてやろうか。
次は、9月1日まで




