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利用規約を見ないでゲームを始めたらTSしたんだが  作者: 秋雨そのは
最終章 ルールさえ守ってれば楽しみ方は自由
35/43

34話 ゲームの中で出会った関係は広く浅く

道筋は出来た、後は進むだけ(改稿する場合もあるけど)

 何もせず1人でゲームの中を歩いていた。


 店を物色するわけでも、周りのプレイヤーや変わらない動きをするNPCを見るわけでも無いまま溜息を付いていた。

 今回手に入れた戦利品を確認してみたくなった。


「やぁ、こんな所で奇遇だね」


 後ろから控えめに女性の声が聞こえてくる。

 振り返ってみると、こちらに笑顔でモナさんが立っていた。

 モナさん……? 普通ならこの時間は仕事の時間じゃ、聞いたことは無いからどんな事やっているか分からないけど。


「おや、大分元気が無いようだが……友達と喧嘩(けんか)でもしたのかい?」


「いえ、そういうことでは無いです」


 この寂しいという気持ち、そして自分が自分じゃなくなる感覚は説明しても分からないと思う。

 口ごもり、自然と視線が地面に下がっていく。

 その様子を見て、モナさんは俺の肩に手を乗せる。


「不安があるなら、お姉さんが聞こう。私はこれでも大人だからね、どんと聞きなさい」


 モナさんはそう言い、顔を見るとそこには子供を見る母親の優しい顔でいた。

 この人……モナさんは何故そんな事を言えるのだろうか。

 俺はそう思いつつ、この気持ちについてを話す事にした。


「時々不安になるんです、元の自分が自分じゃなくなるような……いえ、こんな事言っても分からないですよね」


「確かに私は分からない。が、遊矢ゆうや……じゃなかった、オナもね同じことを言っていたよ」


「オナさん、もですか?」


 モナさんはあぁ、と答えた。

 態度も変えずに少し男勝りの言動は、自分の事を聞いてくれていると俺は少し安心した。

 そっか、オナさんも確かアーリーアクセスで元の体と違うんだった、それなら相談されててもおかしくないか。


「そうそう、君にオナから伝言あって探してたんだ」


「伝言ですか? あれ、でも何故ゲームの中へ?」


「ウメから聞いてね、多分ここらへんでセナと遊んでるとね」


 伝言、伝言か。

 モナさんは無事に会えてよかったと言って、本題に戻すように1つ咳払いした。


「確か……『もし、もしだ。お前が自分の事で悩むのなら、戻りたいのかそのままで居たいのか答えを出せ』だったかな、オナにしては真剣だったからね」


「戻りたいのか、そのままで居たい……のか?」


「言葉の真意は私には分からないよ、でも悩むくらいなら割り切ってしまえという事かな」


 俺はまだ、割り切れていない、のか? 別に戻れなくても、それでも構わないと思っているのに。

 戻らなくても不自由はしないし、戻れと言うのなら戻るだろう。

 答えが出ない、自分は別に流れに身を委ねればいいと思っていたから。


「君は恐らく迷っているんだ。まだ前の体に未練があるように、今の体で本当にいいのかをね」


 ニナの告白を断った時も分からないと逃げた。

 それはこの体のせいだと言って、自分では何も考えていなかった。

 俺が悩んでいると、メールが誰からか送られてくる……その差出人はニナだった。


「ニナ? こんな時にどうしたの?」


「呼び出しかな、私は伝えるだけ伝えたからね。有給を楽しむよ」


 返事を返す暇もなく、モナさんは俺から離れて何処かへ行ってしまった。

 俺はメールの中身を確認する。

 そこには、調べれば分かる事なのに探さなかった物。



『件名:見つけた

 あのアーリーアクセスで姿を戻す方法が見つかった。

 沙月と利用規約を調べ直して、見つからなかったから直接

 運営に電話をかけたら、戻す事は可能だって、ただし1ヶ月以内しかサービスしてない。


 ねぇ……ゼノ、私は元に戻って欲しいと思ってる。だけど、私はゼノの選択に従うよ』



 1ヶ月……だけど高校が始まるため、正確には1週間程しかない。

 このまま俺は女のまま過ごすのか、それとも今から元の姿へ戻って今までの生活を送るのか。

 それでもすぐに元の生活にって事はない。


 俺は決められるのか?


 まだ時間はある。

 だけれど、悠長にしてる暇も無い。

 一度、現実に戻ろう。


『ログアウトしますか?』


 俺は『はい』と押して、目を閉じて現実世界へ戻る。

 いきなり決めろなんて、決められる訳がない。

 それでもオナが言ったように今のままじゃ、本当の意味で割り切る事が出来ないのだと思う。


「ゼノ……」


 意識が戻ってきたと同時に聞こえてきたのはニナの声。

 VR機器を外すと俺は後ろにいるニナに振り向く、するとニナは俺に抱きついてくる。

 ニナの事を気にしていたつもりが、何時も気にかけられてたな。


「ニナ、俺はまだ答えは出せない。だけど、学校が始まるまでに答えをだす」


「……うん」


 ニナの髪を撫でながら、俺は呟く。

 今度こそ、答えを決めなければならない。

 曖昧で自分の事から逃げてた俺に出来るかは分からない……だけど、決めなくちゃならない。


「私も頑張るから、ゼノが姿を戻りたいって思える様になってみせるから」


「はははっ、お手柔らかに頼むよ」


 そう言っていると、扉の小さな隙間から静かに御梅が覗いていた。

 お前も来てたのか! いや、一緒に探してたって言ってたな。

 だからって、もうちょっと雰囲気を……まぁ構わないか。


「お前もなんかあるのか?」


「ううん、ニナが頑張るって言ってるんだもん、私は何もない」


 こんな春休みになるなんて、俺は思いもしなかった。

 だけど、どうせ中途半端になるなら開き直るくらいに、割り切りたいよな。

次は7月28日までに

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