28話 過去話は今でも目を背けたい
改稿も考えております!
ゲームから戻って目を開けると、静かな自分部屋が視界に写った。
セナは、確か先に戻ってたはずだから下に居ると思うし、下に行くか。
VR機器を外しながら俺は椅子から立ち上がり、手を組み天井に向かって大きく伸びをする。
ニナはどうしたんだろうな? 今日はずっと俺を避けている、なんては言わないが……何かを隠してる感じに見えたんだよな。
「ここで考えていてもしょうがないし、下行くか」
気になる事を後回しにして窓を見ると3時間くらいゲームをやっていたからか、外からオレンジ色の光が入ってきていた。
もう夕方なのか、時間を忘れてそのうち日にちを忘れなきゃ良いけどな……実際今、何日なのか忘れているけどな。
ゲームの疲れを少し感じながらも、手すりを伝って下へ続く階段を歩いていく。
このゲームを初めてまだ数日なんだよな。
アーリーアクセスを使ってゲームを始め、キャラメイキングをしてから色々な事が重なり過ぎて前までの生活が嘘みたいに感じる。
「まぁこんな姿になるのは予想外すぎだよな」
自分の事なのに他人事の様に笑いながらもリビングの方に歩いていく。
すると、リビングの方で話し声が聞こえてくるのを確認して、扉に手をかける。
セナと……ニナか? 買い物から戻ってきたみたいだが、母親の声は聞こえないな。
「……だから言っちゃえって、来ちゃったじゃねぇか!」
「……セナだって!」
「お前らは何話してるんだ?」
何やら言い合っている様に見えたので俺はわざとらしく入って聞いてみる。
するとセナは俺の方にやってきて「いい所に来た、俺は出かけるから後よろしく」と言って、俺の横を通り抜けてそそくさと玄関から外に出ていった。
なんなんだ? 珍しく兄弟喧嘩か? いやそれにしてはあいつの顔が怒っている様に見えなかったが。
「なんだあいつ?」
「ゼ、ゼノ……その……」
こっちはなんか俺の名前を呼ぶなり、かなり恥ずかしげに顔を赤くしているし……よくわからん。
ニナとセナの様子に首を捻っていると、決心か何か付いたのか俺をチラチラ見ていたのを止め、向き合ってきた。
「あのね、私達が中学校の頃覚えてる?」
「あぁ、初めて会ったのは3年前くらいだったよな」
「もっと前の1年生の頃は覚えてる?」
中1の頃? あの頃は面倒事に色々巻き込まれてたし、懐かしい話を聞きたいのか? いや喧嘩くらいの思い出かボッチだった事しかないが。
「と言われても何かあるわけじゃないぞ?」
「うん、覚えてないのは私がよく知ってる……」
うん? そういえばなんだっけ、こいつらと話すきっかけにもなった高校の大騒ぎでも似たような事言っていたような……。
俺はニナの質問の意図を考えつつ、昔の記憶を思い出しながらニナの方へ見ながら唸る。
「1年の時、私はね……いじめられてたの」
「……」
その後ニナは、1つ1つあの時の出来事を喋り始める。
1年の秋頃、女子から度重なるイジメを受けていて、友達もほとんど居ない上にクラスの誰も見てみぬフリを決められていたらしい。
毎日エスカレートするイジメは親や先生に相談しても何1つ改善されず、酷くなる一方で次第にニナは行きたくもなくなった。
セナは笑い飛ばしながらもニナを必死に元気付け、上手く持ちこたえようとした……が、ある日。
『私、もうつかれちゃった』
耐えきれなかった。小さな女の子が受け入れ、希望を掴むには力が足りなかった。
次にイジメられたら死んでやろうとも思ったらしい。
そこまで来ても俺は出てこなかった。何かが突っかかっている様にも感じる記憶は閉じたままだ。
その時の俺もすでに疲れ切っていたのかもしれないな。
「それでね……ゼノがその時に来てくれたんだよ」
イジメ、女子生徒、中学……1つだけ心辺りがあった。
不良に絡まれたりする中で、1回だけ何かに乱入した覚えがある。その時が全員女子だったような気がする。
なんかその時凄く、凄く恥ずかしい事言ったような気がする……いや、言った。だから記憶を消そうと思ったんだ。
「言ってくれた言葉が……『くだらないゴミみたいなだな、そろいもそろって小さいな』って」
あぁ、言った。正直恥ずかしい、死にたい……あの頃の俺って割と中二病じみてたからな。
でも今そんな話を出すのは何かあるのか?
「その頃からね……私」
ニナは少し震えた声で俺に言ってくる。そして、大きく1つ息を吸って顔も赤い状態で俺に――
「ゼノの事が好きだったんだよ」
そうニナは俺に告白した。
予想外だったと言えば済む。だけれど、それ以上に俺はびっくりしていた。
親の愛ですら適当に受けていたのに、好意をもたれる事もしてないのに、なんでだと聞きたかった。
ニナは答えを待つように目をギュッと閉め、返事を待っている。
もし、ここで答えを出さなければニナは「それだけ」と答えてこの事を無かったことにしそうだ。
「ニナ……」
俺はニナを刺激しないように近づいていき、優しく抱きしめる。なんとなくそうしなきゃいけない様な気がしたからだ。
俺の気持ちは分からない、ニナとは話すようになってからずっと一緒に話す事が多かった。
だけど……いや、だからこそ自分の気持ちが分からない。
「こんな姿になったからなのか、自分の気持ちが分からない」
「ゼノ……」
「親友とも思っていたし、それ以上が気にしたこともなかった……けど嬉しかった」
この姿から戻れない……と考えた方が妥当かもしれない。
どうしようもない。俺は最低かもな、答えられないのは自分のせい、こうなったのも自分のせいだから。
俺はニナの頭を撫でながら言う。
「気持ちだけで嬉しいよ」
それだけを伝えた。
ニナは静かに嗚咽を付き、俺の胸で落ち着くまで泣き続けた。
次は、5月15日までに書きます




