16話 地下は何時から安全だと思った
私は本当に、意地悪かもしれない、この展開にも……このゲームにも。
3人で歩いて行く中、ふと思った事があった。
ログアウトって出来るのか? 普通のゲームでは、可能だと思うし……公式のクエストなら可能だろう。
心の中でログアウトと言うと『ログアウトは拠点や安全地帯で行ってください』という言葉が出てきた。
おい、ゲームとしてどうなんだ……確かに、インした瞬間にモンスターの目の前に出た時はキツイからしょうがないと思うが、子供が1人なんだぞ。
「どうしたの~?」
「ログアウト出来ない……」
「え? 嘘!?」
同じ結果になったようで「これどうするの!」と叫んでいた、ちょっと待てここで叫ぶと!
気づいた時には遅かった、周りには同じとはいえ、スライムは3体……おいおい、子供を守りつつは無理だぞ!
子供は怯えて「おねえちゃん、こわい……」俺の足に手を回してる……どうする、どうする?
「御梅、剣一本貸して」
「え? 無いの?」
「さっきの爆発に使ったの」
御梅に言って、短剣の1本を借りる……さてここから、クソッ攻撃が来る!
酸を飛ばしてくるのを、その前に女の子を抱え上げて、避ける……もう1匹は魔法? を構えてやがる。
御梅は、暗殺を使ったのか1匹を攻撃してたが効果が無かったようで……レベル低い相手には効果が無いのか?
「……!」
女の子を片手に抱えながらは、普通に考えて無理だ……しかし床に立たせてどうする? 女の子に向かわれたら、俺は庇えるか?
飛ばされた水を避けて、次のもう1体の攻撃を見つつ避ける……普通こんなの無理だろ、なんで出来るんだ? さっきからおかしいと思っていたが。
まぁいい、その身体能力を使って倒してやる……女の子に「少し派手に動くよ!」と言うと頷いてきた。
「すぅ~っ!」
大きく息を吸ってから短剣を、片手に構え……行くぞ! 飛ばされた酸を避けつつ、もう1匹の行動を見て酸を飛ばしてきたスライムに近づいて、短剣で2度切る……しかし、後ろから酸を構えてるスライムがいるので避ける。
その後、魔法を構えてるスライムの攻撃を避け、続けて2度切ると倒れた……息を付く暇もなくもう1匹が攻撃してくる。
避けた後、先程同じく4度切る。
「ふぅ……流石に連戦は、キツイわ」
「そっちも終わったの~?」
「おねえちゃん、だいじょうぶ!?」
武器を消して、頭を撫でてあげると安心した様だ……さてと、ここに長いするのも危ないさっさと、ここを出て街の外に出たい。
女の子を降ろしつつ歩いて行く、ログアウト不可な上、敵の攻撃は苛烈という酷い状況だ。
しかも武器は限られている……そういえば、アイテムボックスを見てない。
「アイテムに何か無いか探してみる」
「こっちも探してみるよ~」
アイテムは……一応あるか、ただ落ちる前に取った素材が大半……ん?
武器が数本、落ちてたのか! ならこれで戦える。
武器を装着して、片手を前に出すと……装飾もされてない刃が太いだけの大剣が出てきた。
「攻撃力はマシな筈」
「それ振り回せるの~?」
「多分……あ、ダメ重い」
片手で回そうとしたら、腕が持って行かれそうになった、大剣といえば大剣だけど……これ無理だよ。
とりあえず、先に進もう……先程から疑問符を浮かべてる女の子の手を引き、歩いて行く。
少しの間、平和で何もモンスターが来ない時間だった……それを見てか、2つメールを送られてくる。
『件名:ここまで難しいゲームだったのか
それにしても、お前すごいな!
あんなの普通に動けるもんじゃねぇぞ?
後なんか先生がお前に言いたいことがあるとか』
『件名:利用規約読んだぞ
戦闘見てたが、リアルタイムバトルか
それよりもだ、このゲームの利用規約にほとんど書かれるぞ?
利用する上でとか、後お前の体がどうなったとかな』
「おねえちゃん、どうしたの?」
メールを見て立ち止まった俺に話しかけてくるので「今メール見てたの、ごめんね」と言う。
とりあえず、その内容はログアウトした後に聞こう……今聞いてもしょうがない話だ。
という事で、返事は……後でと送っておく。
さてとそろそろ出口に着いてもいいと思うんだけどな……何か音が後ろから聞こえてくる気がするんだけど……。
ダンッダンッ
恐る恐る後ろを振り向いて見ると……うそだろ……? いやいやいや、本気で殺す気かよこのゲームの運営は!
後ろに見えたのは、不気味に光る2個の赤い瞳が……そして、その足取りは確実にこちらに近づいて来ていた。
「待って本当に、待って……ただのクエストだよねこれ?」
「どうしたの? 後ろ……な、んか……見て……」
「逃げるよ!」
そう叫んだ瞬間に、赤い瞳のゆっくりだった足音は……走るものに変わっていた。
本気かよ……どんだけこのクエストをクリアさせる気ないんだよ!
そう思いつつ全力で走っていく、さっきまで合わなかったのは何でだ? もしかして、少ない時間とはいえ……登ってた時に1回通り過ぎたのか?
「捕まって!」
「うん!」
「ちょっと、こんなの聞いてない~! 確かにさっき登ってた時に、音してたけど!」
走る……走る、女の子を抱え込んでるから疲れる……クソッ何なんだよこの街? いや、クエストか? そんなのどうでもいい……逃げないと!
走っているとスライムが現れる、なんでこんな時に! 後ろには黒い甲殻をまとった3本角の虫か? よく見えていないから判断も出来ないが!
酸を避けながら走る! あ、御梅が……足を滑らした! クソッこの距離じゃ届かないし間に合わない!
「くっ!」
「ハル!」
見捨てるしか無いのか……「おねえちゃん! あの子が!」と言ってくるけど、構わっていたらこっちもやられちまう!
メールが飛んでくるが、確認も出来やしない……先に見えるのは、鉄格子があり……ドア部分だけ空いていた。
はぁ……はぁ……息がヤバイな、あそこに取り敢えずいかないと!
「はぁ!」
決死の思いで走り抜けると、鉄格子の前で敵が激突するが、壊れないのか……ここから先は来なかった。
女の子を降ろして、両手を膝に置いて息を整えていく……女の子は少し泣きそうだ。
『件名:沙月がキルされた
意識は戻ってきてないよ、画面も真っ暗のまま
このゲームおかしいよ、何が交流目的なのよ!
沙月が!』
ニナだろうか、叫ぶようにメールを送ってきた。
助けられる訳がない……この先、クリア出来る保証も無くなってきた。
ただ……こんなゲームを、クエストを早く終わらせないと、な……そう思って、少し泣きそうな女の子の手を引いた。
次は、12月19日までに更新します。