第8話 もう一人の案内人
第8話 もう一人の同乗者(http://sokkyo-shosetsu.com/novel.php?id=193061)改稿。
「唯じゃないか。どうしてココに?」
大西さんが唯と呼ぶその女性は、僕らの少し上の世代、二十代半ばから後半にみえる。ウェーブがかったポニーテールはふわりと揺れ、藍と白のギンガムチェックのワンピースに、白のカーディガンを羽織っている。ワンポイントのピンクのポシェットが存在を引き立て、スラリと伸びる脚がスタイルの良さを引き立てている。
「私も、手紙をもらってるの」
そう唯さんが言うと、やっぱりなと言わんばかりの表情で苦笑いを浮かべ、大西さんが忠告した。
「唯も貰っているだろうとは思っていたけれど。遅刻はダメじゃないか」
腰に手を当て困り顔でため息をつく大西さんに唯さんはムッとする。
「もう、そう言うところはしっかりしてるんだから。しっかりお役所仕事が板に付いちゃって…」
その表情には幼さが残っている。
「…そう言われると何だか悲しいな。僕も大人になってしまったってことか」
「時間厳守は昔からでしょ、広治君!」
「まあね」
楽しそうに浮かべる二人の会話の間を分け入り、小高が質問する。
「あの、二人は。どういう御関係で?」
ああ、悪い悪いと二人がこちらに向き直り、
「彼女は、春川 唯。中学校からの同級生だよ」
「ということは…春川さんも三十代!?」
小高は、目を見開きあんぐりとする。小高の表情が示すように、下手すると大学生でも通じる。それほど若々しさが溢れていた。
「正直、同年代かと思いましたよ!」
小高が照れながら言うと唯さんが嬉しそうにほほ笑んだ。
「お世辞でも嬉しいわ。ありがとう」
笑顔を早々に、唯さんは僕を見た。
「君が、東、優生君ね」
僕を見つめるその表情は、期待と喜びに満ち足りており、キラキラと輝く瞳に意識が持っていかれそうになる。それほど魅力に満ちていた。
「はい。春川さん、こちらこそよろしくお願いします」
「うん。よろしくね。唯でいいよ。その方が呼ばれ慣れてるし」
顔を近づけられ、握手を求められる。どうやら、自覚なくパーソナルスペースが狭い人のようだ。淡い香水の匂いが鼻腔に流れてくる。僕は圧倒されてしまい、しどろもどろになりながらも握手を交わした。
「では、唯さんで」
小高も同様に春川さんと握手を交わす。
一通りの挨拶が済み、僕らは大西さんに駐車場への移動を促される。
「さてさて。話すのも良いんだけど、移動しながらにしよう。時間は三日間あるとはいえ、足りない可能性があるわけだし」
大西さんの車は白のパジェロ・ミニ。運転席に大西さんで、助手席に春川さん。僕は大西さんの後ろ、隣には小高という形で座った。
「さて、出発だ」
車が進みだしたところで大西さんが口を開いた。
「唯。君も手紙をもらっているんだろう? 君のにはなんて書かれていたんだ」
「ああ、そうだったね」
そういうと、ピンクのポシェットから四つ折りの紙を取り出して広げた。
「そうね。今から読みあげるね」
春川さんは鞄から手紙を取り出し広げた。
〈親愛なる 春川 唯さんへ〉
君には大西君をサポートしてもらいたい。日時は東 優生という少年が二十歳となる年の八月十日午前九時、場所は駅前だ。言わなくてもきっと分かるだろう。大西君についていってくれ。ちょっとした旅になるはずだ。時間と荷物の用意を忘れずに頼む。勿論、遅刻は厳禁だ。きっと刺激のあるたびになると思う。楽しんでくれ。
君の方には、ヒントを書いておこう。ヒントは「重い犬が守りし箱」だ。よく考えてみてくれ。ただし、このヒントはあくまでも推測だ。ここまでたどり着けば次の紙は必ず手に入る。それだけは保証する。
では、よろしく頼んだ。
3、青春は共有される―。
「以上です」
「見事に、遅刻が的中されているな」
大西さんは唯さんが読み上げる最中の遅刻という部分で肩で笑っていた。
「ここまで来ると習慣みたいものなの。仕方ないじゃない」
そう声を荒げた唯さんは恥ずかしいようで、鼻から頬にかけて、白い肌を赤らめていた。
「ま、唯は仕事は出来るもんね、仕事は」
フォローのような皮肉のような言葉をまじえつつ、大西さんは胸ポケットに入れていた先ほどの大西さんに当てられた手紙を唯さんに渡した。
「これが、僕に向けられた手紙」
唯さんは目を通すと、笑った。
「さすがって感じ。最初は自然公園に向かうのね」
どうやら、手紙の主には先見の明があるらしいことが二人の様子から伝わってくる。
「ああ。自然公園の中で、重い犬を探す、ってことだな」
「なんだか楽しくなりそうだね」
僕らは一路、市南西に位置する自然公園へと向かった。
次に続く。




