第7話 邂逅
第7話 出発(http://sokkyo-shosetsu.com/novel.php?id=187925)改稿。
教頭先生宅を後にし、その日は駅近くにある小高の自宅へと向かう。駅近くにあるということで都合が良いということで一泊する予定になっていた。打ち合わせを早々に済ませ、明日に備えて早めの就寝につく計画になっていた。しかし、前日という事実が期待や不安をもたらし、心が落ち着くわけがなかった。例えるなら、修学旅行の前日。明日からの出来事に心躍らせつつも、起床できるかどうか、楽しめるかどうか、うまくこと運ぶかどうか、余計な雑念は沸騰する湯のように湧きあがってきた。そんな状況で眠れるわけもなく、同じ症状に苛まれてしまった小高と夜通し語り合うことになってしまった。僕らはまだまだ子供なのかもしれない。
翌日。手紙に記載された日がとうとうやって来た。雲ひとつない晴天。しかし蒸し暑い朝を迎えた。ただ横になっていただけの布団をたたみ、改めてこの三日間外泊できるように準備した荷物を確認し、僕たちは徒歩で駅へと向かった。
昨日も帰省の際に利用したが、改めて駅を等目に見渡してみたが、二年経っても駅の様子はなんら変わりなく、時が止まったままのようだった。僕たちは予定時刻の十五分ほど前に、駅前ロータリーを見回すことのできる、南口改札に到着した。改札は南口のみなので、改札を通ってやってくる人物の見逃しは無いだろう。さほど大きくもない地方の駅なので、駅前には、飼い犬を散歩させる人や、ウォーキングを楽しむ老人たちが歩き去っていく姿が見て取れた。
小高は、大西という人物が、当時会おうとせず、未来に時間を指定したのだから、この街の人間だったが、現在はこの場所に住んでおらず、僕同様に外から戻って来る人間ではないかという仮説を立てていた。しかし、当日の面会時間寸前の電車を利用すると、遅延があったときに会えない可能性が高まるため、その説は低いのではと、僕は異論を唱えたものの、結局折衷案として、改札、そしてロータリーの両方を見渡せるこの場所を選んだ。
九時。予定の時刻がやってきた。電車の電光掲示板には九時前に上り電車が一本、九時ちょうどに下り電車が一本。電車がゆっくりと金属音を立てて走り出すと、改札口からポツリポツリと人が流れてくる。最後の一人に至るまで、僕らと視線の合う人間は現れなかった。やはり、外からやってくる人間だろう、と小高と話し合っていたその時だった。
「君が東、優生君だね?」
三十代くらいのサラリーマン姿の男性から声がかかる。その人物は、やはり改札口からではなく、バスターミナルからやってきた。小高が俺に目配せをする。
「はい」
僕は素直に答える。すると、男性は嬉しそうな表情を浮かべた。
「よかった。会うことができて」
やってきたその男性は、縦じまのYシャツ、黒みがかったズボンで、中肉中背の体型、黒ぶち眼鏡を掛けており、見た目は三十代前半。いかにも、どこかの職員という印象を受ける。
小高の方を見て、男性は質問する。
「で、君は…?」
「東の友人の小高って言います」
「友達ね。てっきり一人で来るものだと思っていたから。…そうそう、名乗り遅れたね。といっても、知っていると思うけど。僕は大西 広治。東君を案内することになっている。怪しい人間じゃないことを確認するために、これを見てほしい」
そう言って、大西さんは首からかけた身分証明書らしき物を僕らに見せる。そこには、大西さんの顔写真が貼られており、〈市税務課 課長〉と書かれていた。
「市役所の課長をされてるんですか?」
課長であることに驚く。普通、課長になるには平均して二十年ほど掛かると耳にするため、優秀な方であることがうかがえる。と、同時に大西さんが怪しい人間ではないことがわかり、内心ほっとした。
「そうなんだ。早い昇進だとよく言われるよ」
少し照れた様子で大西さんは答えた。
「公務員ってことは、普通なら平日休みじゃないですよね。わざわざ有休を取っていらっしゃったんですか?」
小高が尋ねる。
「ああ、今日の為にしっかり三連休を取ったよ。君たちは大丈夫なのかい?」
「はい、僕らは大学生なので」
「なるほどね。夏季休業ってわけか」
「そうなんです。なので、僕らは問題ないです」
「それはよかった」
その言葉の後、ニコッとした表情が急に引き締まった。
「じゃあ、本題に行こうか。まずは、僕のもとに届いていた紙を見てもらおうか」
スイッチをオンに切り替えた大西さんは、手提げの黒かばんからクリアファイルを取り出し、一枚の紙を取り出して見せてくれた。
〈親愛なる 大西 広治君へ〉
君には、東 優生という少年と、彼が二十歳になるその年の八月十日午前九時に会って案内してもらいたい。見ればきっとわかるだろう。多分、三日間ほどの旅になるはずだ。君はきっと役職についていることだろうから、有休申請は忘れずに取っておいてくれ。
まずは、南東にある自然公園に向かって、次の紙を見つけてほしい。場所はよく考えたら分かるだろう。自然とその場所に結びつくはずだ。健闘を祈る。
2、「青春」には葛藤やもがきが伴う。―
手紙にはこれから向かう場所、そして、僕を案内するよう記されていた。書かれている自然公園は、この市の南西の丘陵地帯に位置する国営の公園のことだろう。国内有数の規模で名が知れ渡っており、僕自身も、小さい頃に何度か遠足や遊びに行ったことがある。手紙に出てきたワードを脳内で反芻させながら、大西さんにこれからの予定を尋ねた。
「まずはここに向かうんですね?」
手紙の中の自然公園という言葉を指で指しながら僕は言った。
「そのつもりだよ」
「移動手段は? バスですか」
自然公園へは定期的にバスが出ているが、平日のこの時間帯には良くて一時間に一本。確認はしていないが、下手をすると一時間、このうだる暑さの中で待つ必要がある。小高の自家用車は二人乗りなのだ。出鼻をくじかれるのかと少し残念な気持ちになりそうになるが、大西さんは自信ありげに大西さんはポケットから鍵を取り出してつまみ上げる。
「車は僕の車を使う予定だ」
そう大西さんが言うと、小高がガッツポーズを取る。
「よかったぁ」
「これから三日間、お世話になります」
僕は手を差し出す。
「こちらこそ、よろしくね」
僕らは大西さんと堅い握手を交わす。
「よろしくお願いします」
小高も握手を交わした。
「よろしく。じゃあ駐車場に行こうか」
「はい」
期待に胸を膨らませ、駐車場へと歩き出そうとしたその時だった。
「広治君、待って」
後ろで大西さんを呼び止める女性の声と、コツコツとヒールがかけてくる音が聞こえてきた。
「えっ?」
大西さんの振り向き、驚きの表情を浮かべている。知人なのだろうか。
「私も、行くから」
その言葉に僕らも誘われ、声のほうへと振り返った。
次に続きます。




