第4話 それは僕への手紙
第4話 僕への手紙(http://sokkyo-shosetsu.com/novel.php?id=183478)改稿。
大きく明滅する電灯に目を眩みながら、着地点をしっかり確認しがながら階段を下っていく。半世紀以上前の遺構がゆえ、足場が崩れるのではないかという不安を感じながら、床の感触を感じながら、足を下ろしていく。すると、広い空間に出た。
これが、防空壕。巨大な洞窟のようなものをイメージしていたが、実際には小さなコンサートホールのようなで、直方体の空間で、天井が中心を頂点に半弧の構造をとっていた。空気はひんやりとしており、地上のような埃っぽさはないものの、その冷たさと暗さが本能的な恐怖心を植え付けてくる。
「確かにたくさんの人が入りますね」
僕が声を発すると、思った通り響き渡った。
「空気は上よりもいいけど、換気してないからか、なんというかのっぺりしてるというか、質感があるというか…」
小高が顔をしかめる。
「奥の方へ行ってみよう」
教頭が壁のスイッチを付ける。天井に張り巡らされたランプがわずかに部屋を照らし、全容を明らかにした。少し見渡せるようになった視界の先には、いくつかの木製のテーブルと椅子。そして、空気孔だろうか、いつくかのダクトが張り巡らされていた。
「教頭先生、何か机の上にありますよ」
テーブルの上に、何か白い物が置かれていることに気がつく。
「ホントだ。見に行ってみようか」
僕たちはテーブルに近づいてみる。テーブルの上には、画用紙のようなものが折りたたまれて置かれており、少し黄色がかって変色していた。
「これも当時のものなのでしょうか」
「それにしては変色しなさすぎている気がするな」
「もしかしたら、誰かが後からここに置いたものかもしれませんね。とりあえず、見てみましょう」
僕は、それに手を掛け、折られた紙を開いていく。すると今度は中から、白い封筒が出てきた。封筒の口はテープで留められいている。宛名が無いか、その封筒を裏返した。
その時だった。僕は、あまりの衝撃に言葉を失った。
「え…嘘、だろ?」
俺の表情に呼応する形で、顔を近づけた小高も目を丸くした。
「どういうことだよ…」
封筒裏、宛名欄。そこには僕の名前、つまり東優生、その三文字が書かれていた。
「これは驚きだ。本当に”未来"のことが書かれている。君の名前が分かっていて、この中学に居ること知っているなんて。少なくとも、噂が流れていたのは、君が生まれる頃からだというのに…すごい代物だ」
教頭先生は驚きのあまり、称賛している。
どういうことなんだ。僕はわけがわからず、混乱する。そんな、十数年前の手紙に僕の名前が書かれているなんてどう考えてもおかしい。しかし、東優生という同姓同名の人物なんて、僕の知る限りでは存在しないし、少なくとも、生まれてから耳にしたこともない。
僕は、意を決して、封筒を開く。中からは、二枚の手紙が出てきた。
―〈親愛なる 東 優生君へ〉
君がこれを見つけてくれると僕は知っていた。時間が無いから手短に書かせてもらうよ。
君が二十歳になるその年の八月十日午前九時に、駅前に来てくれ。大西という男が君を待っている。
そこから、三日間ほど、君にはいろいろと回ってほしいところがある。ちょっとした旅になるだろうから、ある程度準備をしてきてほしい。
君を10の青春が待ち受けることになるだろう。そして最後には…。
僕はいつでも、君を見守っている。では、待っている。
1、「青春」には期限がある。―
「ど、どういうことだ?」
頭の中で、文章がぐるぐる廻る。意味を反芻できない。
「どういうことか聞きたいのはこっちだ、東。これは一体何なんだ?」
小高も混乱しているようで、投げやりのような質問を僕に飛ばした。
「わ、わからない。ひとつ分かるのは僕に向けて書かれているということだ」
「これが仮に君の生まれる頃に書かれているといるのなら、現在にさらに五年を足した二十年先を見越して書いているということになるな。一体、なぜだろうか…」
教頭もうーんと唸り、考えているようだ。
僕に向けて書かれた謎の紙。正確に言えば、手紙。僕が二十歳になる時に、僕を待っている人間が居る。そして、10の青春を追う旅が僕を待っている。そして、この手紙の主は僕をいつも見守っていて、「青春」には期限があって…。あまりの衝撃に思考が追いつかない。
その時、小高がため息をつく。
「すみません。とりあえず、紙があったのは良いですけど、いろいろ刺激が強い出来事ってことと、この場の空気感で気持ち悪くなってきました。なんで、引き上げません? この場で考えるには重すぎます…」
空気の悪さと相まって、僕と同様に、体調をやられたらしい。僕も賛成する。
「僕もその方がいいです」
「そうだな。とりあえず戻ろう」
謎の手紙を手に、僕たちは一度、ここから引き上げることにした。地上への階段を上るさなか、手の中で握られた紙には熱がこもっていた。それは僕の中から溢れ始めた、これから始まる何かへの熱か。それとも、手紙が僕に訴えるなんらかの意志なのか。僕にはまだわからない。それでも、この事実に向き合うには十分な熱ではないだろうか。濁流のような情報量に流されないよう、僕は今一度深く呼吸した。
次に続きます。




