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再生する春  作者: Atsu
18/18

第18話 重なる光と影

手紙を追い、次にたどり着いた場所は、僕らの学んだ母校だった。

目の前に、記憶の光景が重なるー。

 目の前に、記憶の光景が重なる。数年ぶりに見た母校の校舎は何一つ外見を変えておらず、タイムマシンで過去に乗り込んできたようだった。職員駐車場に到着し、エンジン音が止まると、僕らはパジェロ・ミニから下車した。職員玄関に向かうと、見知った顔が出迎えてくれた。

「順調にいっているようだね」

昨日のラフな格好とはうって変わり、クールビズ姿の”元"教頭先生が玄関先に顔を出してくれた。

「まさか、こんな偶然があるなんて、思いもしませんでした」

僕は驚きをもって、先生に本音を漏らした。

「きっと運命なんだよ。こうなることが」

はっとする僕とは対象的に、先生は嬉しそうに微笑みながら言葉を返した。

「ご無沙汰してます。羽田先生」

大西さんをはじめ、唯さん、小高も一礼する。二人に視線が映ると、先生は表情を崩すように笑顔を浮かべた。

「君たちも一緒だったのか。…なるほど、そういうことだったか! これは面白い」

先生は何かを察したようで、二人の顔を嬉しそうに交互に見た。

「そうですね。本当に…面白いです」

喜び、楽しさ、嬉しさ。それらが質量を孕んだように、大西さんの言葉にこめられていた。

「生徒会には話は通してある。さぁ、行こうか」


 スリッパに履き替え、教室の続く廊下を歩いていく。体育館からだろう、わずかに部活動の喧騒が響いて来る。加えて、重なる金管楽器の伸びる高いドの音。吹奏楽部の音出し練習だ。青空に照らされた誰もいない教室を眺めながら進んでいくと、僕らのいた、あの頃の光景が教室に重なった。

「…なつかしいな」

小高が声を漏らした。

「なんだかこの場にいると、今から授業やるぞって言われても信じられそうだ」

「確かに。あの頃の童心がまだ生きてるみたいだな」

「僕はどちらかというか、”再生"かな。終わったはずのビデオに、続きがあったみたいに」

「なるほどな。なんだか、今の状況もそんな感じだな。俺が例えるなら、好きだったアーティストのアルバムに、隠しトラックがあったみたいな嬉しさと楽しさがある」

「わかる」

 階段を登り終えると、三階にある目的の生徒会室に到着した。先生が軽くノックし、ドアの前で返事を待った。

「はぁい!」

僕らにはないような、元気のいい男女の声が室内からこだました。扉を開けると、部屋には男女二人の生徒の姿が見えた。二人は、資料を広がった中央の長テーブルのあたりで起立し、こちらをみていた。見覚えのある制服に懐かしさを覚える。

 ぞろぞろと入室してくる一行が思った以上に大人数だったためだろう、少し驚いているようで、僕ら五人が入るやいなや、生徒たちは少し慌ててこちらに歩み寄って来た。

「話していた人たちだ。生徒会室にある手紙を探したい」

先生が第一声を発する。手紙、という言葉にピンときたのだろう。男子生徒の瞳が少し見開かれた。

「なるほど。わかりました」

男子生徒が返事をする。一方で女子生徒はというと、やや状況がつかめていないらしく、若干苦笑いとも警戒とも取れる表情を浮かべながら僕らを見つめていた。どうやら、生徒会の生徒たちに対して最低限しか要件を伝えていないようだ。そう察した僕は皆に提案をすることにした。

「その前に。一旦、自己紹介しましょうか。まずは、僕らが何者なのかを伝えた方がよさそうなので」

僕が周りを見やりながら言う。

「そうだね。その方が良さそうだ。なんだか、よくわからない人が入ってきたみたいな感じだし」

大西さんが相槌を打ってくれる。

「じゃあ、僕から。僕は大西弘治。今は、市役所の税務課に勤めてるんだ。よろしく」

「よ、よろしくお願いします」

大西さんが唯さんに視線を送る。

「春川唯です。市立病院で看護師をしています。よろしくお願いします」

「よろしくお願いします」

「東優生です。今は、○○大の医学部です」

「自分は小高って言います。そこの大学の図書館情報です」

小高が指を指す。

「…皆さんはどういうご関係なんですか、先生」

男子生徒が恐る恐る伺うように先生に尋ねた。

「ここにいる人たちはOBOGだよ」

「先に言ってくださいよ、先生…。関係性がわからなくて少し戸惑ったじゃないですか」

男子生徒が大きく息を吐き、気の抜けた言葉を返した。

「悪い悪い。言い忘れていた」

「私も何事かと思って緊張しちゃってましたよ。悪いことはしてないですけど」

どうやら、OBOGという言葉は、打ち解けられる魔法の言葉らしい。


「自己紹介が遅れました。今期、生徒会長を務めている仲村です」

少し背の高い、整った顔をした、涼しいタイプの男子生徒だ。見た目はサッカー部にいそうな雰囲気で、ユニホーム姿が容易に浮かぶ。

「副会長の美月です。先輩って聞いて安心しました。よろしくお願いします」

黒縁メガネのかけた、今風のおさげ髪の少女は先ほどとは打って変わって豊かな表情を浮かべている。しっかりしていそうで、クラスのイベントや学校行事で皆を引っ張りそうなタイプに思えた。

「手紙の伝承の件は、生徒会では"秘伝"でした。代々、前会長からその話を伝えられ、実物を引き継ぐんですが、初めて実物を見た時、正直、信じられませんでした。ただ、残っている資料や、毎年、生徒会に向けて送られてくる手紙届いていて、今年もそれがやって来た時に信憑性みたいなものを高めさせてくれていました。それに加えて、手紙に記された熱意と思いみたいなものが、僕らも守っていかなければならないなという気持ちを抱かせてくれていました」

そう言いながら、仲村君は金庫の中から持ってきた古びた箱を開き、分厚いバインダーをテーブルに置いた。

「宛名はありませんが、毎回、生徒会への感謝と手紙を守り抜くよう手書きで記されています」

これまで僕らが発見してきた手紙のパソコン文字とは打って変わり、便箋は綺麗な手書き文字で書かれていた。何枚もの便箋は時代を経るごとにわずかに変色し、時間の流れを感じさせた。

「いつかはここにたどり着くことは分かっていたんだ」

大西さんが静かに告げる。

「ありがとう。大切にしてくれて」

その言葉に唯さん以外の全員が大西さんを見た。

「この手紙は僕が出してたんです」

「本当ですか!?」

生徒たちの目が見開かれる。

「この手紙たちはね、本来は不必要なものだったんだ。けど、やっぱり心配でさ。何年にもわたって、生徒会というしっかりした組織に預かってもらうとしても、同じ人間が居続けるわけではないからね。何かの拍子に失われるのが怖かったんだ。だから、保険をかけたんだ」

「大西くんらしいね。私も聞いていたけど」

唯さんが微笑みながら言った。

「確かに、大西君の言う通り、私達が居た頃から預けっきりだと、なくなってるかもしれないものね」

「お二人は生徒会だったんですか?」

美月さんが言う。

「ええ。もう随分前になるけれど、この場所で生徒会として携わっていたわ」

「手紙、内心楽しみにしてたんです。本当に今年も来るのかなって。まさか、手紙が来るだけじゃなく、こうやって手紙の主にお会いできるなんて思ってもいませんでした」

「みなさん。こちらが、その守り抜いてきた手紙です」

クリアファイルの中から梱包材に絡まれた封筒が目の前に取り出される。その色合い、紙質は僕らがこれまでに見てきた同様のものだった。

「君たちも、歴史の証人になるんだ」

大西さんが二人を呼び寄せる。テーブルを皆で囲うと、唯さんから手渡された。

「さぁ、東くん」

指先の質感を意識する。何度も経験した、手紙を開くと言う行為。しかし、こんなにもたくさんの人に囲まれると、自然とつばを飲み込みたくなる衝動に駆られた。

「はい」

「言い忘れていたね。この手紙は、彼、東くんに向けられた手紙なんだ」

教頭先生が生徒に告げる。

「そうなんだ。僕ら四人は、手紙から手紙へと、手紙の内容に沿ってここまで来たんだよ」

大西さんが二人を見つめて言った。

呼吸を整え、僕は声を発する。

「…開けます」

僕はそう言って、封を切る。


***

現生徒会の諸君。

はじめまして。諸般の事情で名乗ることができないことを先に謝っておく。申し訳ない。

はじめに。生徒会の諸君。君たちが守ってくれてありがとう。

手紙を未来に繋げることができて、本当に嬉しさでいっぱいだ。感謝しかない。


そして、手紙を追ってくれている君たち。

ここまで、手紙を追ってきた君たちなら、そろそろピンときているかもしれないね。

そう。僕もこの場所で楽しい時間を過ごしていた。

本当に、本当に幸せで、充実した時間だった。

それは未来となった今でも変わらない。確かに存在した時間だったんだ。



次が、目的地としては最後になるだろう。

それでは、次の手紙のヒントだ。

「会えたようで会えない。会えないようで会える。初めての邂逅」



7. 気づくと、世界を変えられるほどの「青春」を手にしていた


***



「結局、この手紙って、一体何なんですか?」

美月さんが呟きながら、視線を上げた。

「話は、僕と小高が高校生の頃まで遡るんだ」

僕は、生徒会の二人に対し、事情を説明する。

僕らが高校生の頃、未来を記した手紙の噂が広がっていたこと。

当時、教頭先生だった校長先生と一緒に、最初の手紙を見つけたこと。

そこには僕へのメッセージが記されていたこと。

手紙に記された年齢になった僕らは、この地に舞い戻って来たこと。

大西さん、唯さんの二人が案内役として加わったこと。

ここまでいくつもの手紙を追い、見つけ出して来た。

そして。その終着点である手紙の主に出会うべく、手紙をたどっていること。

簡潔ではあったが、事情の知らない二人に、これまで見つけてきた手紙を見せながら、手紙を巡る僕らの物語を伝えた。


先生、生徒会の二人と別れたあと、手紙の考察をするため、ご好意で、下校時間までの間、図書館を借りさせてもらえることになった。昔と違ってクーラーの取り付けられた室内は快適で、入った瞬間、オアシスにたどり着くとはこういうことか、と僕らは顔を見合わせた。

「懐かしいな」

身長よりも高い本棚の列を蛇行しながら、大西さんは愛おしそうにタイトルの列を眺めていく。一通り見終えると、僕らはテーブルに集まり、これまでの手紙すべてをテーブルに並べた。

「七枚、ですか。なんだかんだ、たくさんになりましたね」

「ああ。それぞれが持ち寄ったものも含めてになるけど、なんだか不思議な感覚ね」

「冒険して来たって感じがします」

「一枚一枚、行った先のことが浮かび上がって来るな」

四人とも、考えるより先に、感傷があふれていた。これまで発見した際に抱いていたのは、言うなれば回顧だった。今回のは、それに加えて、心からの思い、みたいなものが伝わってきた。

 いよいよ、この手紙の主に接近できる。いったいどんな人物なのだろうか。僕らは手紙を考察する。

「順番に行きましょうか。まず、手紙の内容から、彼も生徒会に所属していた。そうですよね」

僕は、大西さんと唯さんを見つめる。

「ああ。彼は同期だ」

「三人で?」

「そうよ。私たち三人が同期だった」

「ちなみに、役職はお聞きしてもいいんですか?」

二人は顔を見合わせる。

「彼は生徒会長だったんだ」

「なんとなく、察しはついてましたね。手紙の感じから」

小高はそう言って続ける。

「つまり、生徒会長の彼が一人でこの仕掛けを?」

「そういうことになる」

手紙の主は、大西さんたちと同期で、生徒会長。そして、僕と小高のOB。かなりの追加情報が得られた。しかし、そうにも関わらず僕の中に気持ち悪さを生み出し続けているのは、その人物が誰で、どういう接点があるのか、僕には全くと言っていいほど思い浮かんでいないということだ。加えて、どうして、僕を知っており、僕に向けて手紙を当てたのかという根本的な謎の解決に結びつかずにいる。

一旦、その話をする前に、話を進めることにした。

「次に。手紙の文面から、彼は生徒会で過ごした時間、というものをすごく大切にしているように思えます」

「そうだな」

「確かに、青春、というキーワードを毎回残しているということもあるので、学生時代、とりわけ生徒会時代が楽しかったということはわかるんですが、どうしてここまで強調させているんでしょうか」

僕は尋ねる、というよりは投げかけに近い声を二人に向けた。

「それは、二人に向けても書いてる手紙だからだろ」

答えは、二人よりも早く、隣から返って来た。

「俺は全く関係無い人間だから、というか、第三者的な目線からだから見ていて思ったが、ここにある手紙は、お前、東に書かれた手紙であると同時に、二人に向けても書いてある手紙なんだ。だからこそ、伝えたかったんだろう。こうやって、案内役を頼むぐらいなんだし」

「愚問でした」

僕は、自身の質問を詫びた。

「次に進みましょう。次の目的地、そして手紙に関するヒントについてです。会えたようで会えない。会えないようで会える。初めての邂逅。この言葉に関して、二人は何か思い当たることや場所はありますか?」

「会えるようで、会えない。会えないようで、会える、か。この主語は東君か、僕ら全員を指すのか。それとも、前のように、僕や唯を指すのかで変わる。でも、初めての邂逅、と書かれているから、きっとこの会うというのは、東君が手紙の主と会うことを指しているんじゃないかな」

「では、手紙の主が待っていそうな場所か、僕と手紙の主の両方に関わる場所って、ことですね」

最後のヒントには、場所に関する直接的なヒント記されていない。

「まぁ、前者だろうね。なぜなら、彼は君に会いに来て欲しいと思っているのだから」

「では、場所は?」

「わかった。いや、わかっていた。僕らが案内役を任されている以上、彼が待ち構えていそうな場所は、あそこだろうってね」

下校時間となり、教頭先生に再び案内されて玄関口に向かった。

「ありがとうございました」

「行き先は?」

僕らは、頷く。

「そうか。いい話を楽しみにしているよ」


花火大会があるらしく、道路が混み合っていた。海岸へと向かう大通りは、亀のような速度で動く、鉄の亀の行列が水平線に向かって溶け込んでいる。

「せっかくだし、観て行く?」

「いいですね。俺は行きたいっす。いい夏の思い出になりますし。だろ、東」

「そうだね。いいかも」

「決まりね。穴場を知ってるから、そこで見ましょうか」

唯さんの提案から、僕らは毎年海沿いで行われる納涼花火大会を観に行くことにした。

 これまで引き締めていた気を緩めるように、大きく咲き誇る花火を見つめた時、ようやく帰省したことを実感させた。幼い頃から見上げていた花火の音。海岸から広がっていく街の明かり。友達と行くまでは、両親とともに観に来ることが夏の恒例行事になっていたな。そんなことを思い出しながら、僕らは夏の風物詩を楽しんだ。

 花火が終わると、僕らはファミレスで遅い夕食をとることにした。食事を摂りながら、話をする中で、ふいに、大西さんが口を開いた。

「せっかくだし、今日は夜を明かさないか? なんだか、もう少し話したくなって」

まさか、公務員であろう大西さんからそのような言葉が出るなんて、意外だった。

「確かに。目的地もわかったことだし、案外余裕もあるもんね。せっかくだし、もう少し話そっか」

「いいっすね」

「賛成です」

 もう少し夜も更けてきた頃、僕は、さっき話せなかった思いを二人に伝えた。僕が、手紙の主という光を追い続けてきた一方で、彼への謎が、僕の影を大きくしていること。どうして、目的地は最後、と記しているのに、手紙はまだ続くのか、とか。最初に10の青春だと告げたということは、残り三枚の手紙を探す必要があるのか、それは、指定された時間内に見つけられるのか、とか。そんな話を始めると、再び、手紙の話が始まった。

 そして、もう一つ。最後に記されたフレーバーテキスト。世界を変えられるほどの青春。物理的に世界が変える、ということではなく、自分自身の身の回りの世界や、目の前に見える世界の見え方が変わるような、青春を感じる出来事があった、ということだろう。それほど素晴らしかった青春について、彼と邂逅した時、彼から語られるのだろうか。そんな思いを抱きながら、彼の正体を避ける形で、大西さんと唯さん。僕と小高は、懐かしい学生時代の思い出を引き合いにしつつ、手紙について、夜を通して語り合った。

 グラスの氷が溶けきった頃、空は白み始めていた。ソフトドリンクをコーヒーに変えると、僕らは緩んでいた空気をもう一度締め直す。

「…話しながら、ずっと考えていたんだ。やっぱりもう、あそこしかないんだ」

「そうね」

二人は顔を見合わせた。

「初めての邂逅。君が、東君が彼を会える場所は、あそこだろうって。もう一つ理由があって、日時と時間をこの夏の期間に指定したことが、あの場所で彼は待っているんだろうって思わせるんだ」

「日時と時間、ですか」

「ああ。日時と時間。その場所に行けば、理由がわかる」

そう言って、大西さんは腕時計を見やった。

「いよいよ、”僕ら"が最後に案内すべき場所を、君に案内する時間が来たみたいだ」

「いよいよ、なんですね」

「ああ。あと一時間で日の出だ。きっと、彼はあそこで待っている」


 空が明るくなり始める中、大西さんが設定したナビの場所は、この街の北西にある岬だった。そこは、万の年月をかけて波が削った美しい地形が形成されており、近年になって景勝地として名をはせるようになった観光地だ。

 自動車の窓を半分ほど開け、ぬるい空気を浴びながら、空のグラデーションを見上げた。徹夜ということもあり、先ほどまで弾んでいた会話が嘘のように、それぞれが無言で窓の外を見つめていた。緩やかな上り坂を車で登っていくころには、徐々に空が鮮やかさを取り戻し始めていた。

 誰もいない朝の駐車場に到着するころには、かすかに磯の香りが鼻先をかすめていた。停止するエンジン音に呼応するように、車から降りると、緩やかに靡く草花の朝露に目に映った。早くも鳴き始めるツクツクボウシはせわしなく、僕らを日の出に間に合わせるように急かしているようだった。

 石段を登り、整備された茂みの間を一列になって進み始める。途中までは僕が案内する、と大西さんが先頭を進み、唯さん、小高、僕の順に続いていく。

 なぜ、こんな場所に来るのか。本当にこんな場所で手紙の主は待っているのか。そして、手紙はあるのだろうか。複雑に絡み合った、それらの謎は、岬の先に進むにつれて、一つの答えをもたらそうとしていた。しかし、最後の最後になって、解けた糸の先に繋がるはずの手紙の主の正体が、どのように僕と繋がっているのか、ということだけが、霧のように答えをぼやけさせていた。

「こっちだ」

この先の階段を下って行くと、観光客が集う磯場になっているはずだったが、目的地はそちらではないらしい。大西さんは、磯場まで半分くらいまでのところで立ち止まると、舗装のない獣道のような細道を指差した。

「ここからは道なりだ。優生君。君に、先頭を進んで欲しい」

大西さんは僕を見つめて言った。それも、名前で。それは、僕が案内するのはここまでだ、と言わんばかりで、引き締まった表情だが、瞳に大きな感情が込められていた。

 さらに狭くなった道を慎重に進んで行くと、木陰から、空に放射状の赤が伸び始める様子が浮かび上がっていた。最後の石段を登ると、視界が赤に染まった。眩しさに目を覆いながら進むと、大きな影が僕に重なった。

思わず、息を飲んだ。


朝日に照らされ、後光を纏った影の主。それは、”あずま家"と記された一基の墓標だった。

次話に続きます。

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