第1話 予言紙
第1話 予言紙の噂(http://sokkyo-shosetsu.com/novel.php?id=180306) 改稿
高校を卒業して一年。新天地での生活にようやく慣れを感じ始めている。O駅にたどり着いた僕は、これから故郷へと向かう新幹線に乗車する。今回の帰郷で三度目。帰る手順を調べなくてもスムーズに電車を乗り継ぐことが出来るようになった。O駅までは電車を三度乗り継ぐ必要があったため居眠りをするわけにもいかず、立ったまま大荷物をかかえることになった。幸いにも新幹線は指定席を取ることができ、ようやく座って落ち着くことができそうだ。
正午を過ぎ、プラットフォームへ向かう。予定通り到着した新幹線に乗り込む。空調がよく効いており、寒さを感じるほどだった。特急券を片手に座席を確認すると、大荷物を荷棚に載せて窓際座席に腰を下ろした。やっと落ち着いて座っていられることへの安堵感から、思わず大きなため息が漏れる。車両がゆっくりと速度を上げ始めたところで、カバンから例のモノを取り出した。
≪東へ≫
こうして、お前宛に手紙を書くことになるなんて思っていもいなかった。めんどくさがりなお前なら、こんなことをせず、SNSで言えと言いそうだが、メッセージアプリで長ったらしいのも嫌だろう。話がうまく伝わらないだろうから手紙に記す。
つい先日のことだ。俺は四年前に起きたあのことについて思い出す機会があった。だから、この手紙を書くことにした。お前も分かっていると思うが、あの手紙のことだ―
あのこと、という単語に、僕は四年前の記憶を蘇らせる。中学校三年生の時のことだ。記憶が正確であるならば、次のような出来事があった。
僕たちが中学校に在籍していた当時。ちょうど、校舎の改修工事で、僕たちは旧校舎から新校舎に移ったばかりだった。教室へのエアコン設置、校舎のバリアフリー化、各種専門教室や体育館などの施設が開放的な作りへの変更など、旧校舎で学んでいた二年間と比べて学校生活の快適さが飛躍的に向上した。
そんな大きな変化の伴う時期だったためだろう、旧校舎に関するさまざまな噂が生徒間を飛び交うようになっていた。いわゆる、"幽霊モノ"の話が大半で、旧校舎で行われる授業の際には生徒の大半が怖いもの見たさにふざけあっていた。そんな中、友人である小高からある噂を聞かされた。
「なあ。実は噂で聞いたんだが―」
既に複数の友人から何度も聞かされた旧校舎の怪談話を語り始めるときと同じように、ひどく淀みのある語り口で話を始めた。
「この学校には、未来を予言した紙が埋められているらしい」
「未来を?」
未来を予言する、という聞き飽きていた怪談話とは異なる話に、僕は一抹の興味が湧き上がってくる。
「ああ」
「なんだ、怪談話じゃないのか」
「そうなんだよ。だから、聞いた時に少し違和感を覚えたんだ。旧校舎に関する噂なら、少しは半信半疑になるものだろうけど、この噂は全く旧校舎というワードが関わっていない。どうしてこんな噂が流れたのか実は気になっていたんだ」
流行の噂に必ず含まれる、旧校舎というワードが含まれていないということは、この”移行期”にポっと湧いたような噂話ではなさそうな気がする。それにしても、未来を予言した紙だなんて―
僕らは校内のあらゆる人脈を駆使し、未来を予言する紙に関する情報を集めた。調査の結果、一度は耳にしたことがある生徒が一定数居ることが判明し、僕らの追及は教職員にまで及んだ。そして、この学校に一番長く勤務している教頭先生に話を持ちかけてみることとなる。
「教頭先生、何か未来を予言する紙の話について知っていませんか?」
その言葉に眉を上げた。何かを知っていそうだ。
「君たちか。校内で、聞き回っているという生徒は」
「ええ。気になったもので」
「そうか…」
少し僕らを交互に見ながら腕を組む。どうやら、話していいものかと考えあぐねている様子だ。先に口が開いてから、ゆっくりと教頭先生は話を再開した。
「あまり皆を混乱させて欲しくはない。常識的な範囲で行動を取ってくれ。それを前提にしてくれるなら少し話してもいいが。大丈夫か?」
「はい!」
小高は大きく何度も頷いた。僕も、承知しましたと頷く。
「よし。…その話なんだが、以前にもあってな」
と教頭先生は切り出し、話してくれた。
「私も何度か耳にしたことがあるな。最初にその話を耳にしたのは、…そうだな、今から十数年前だったか。確か、この校内にその紙を埋めていて、来るべき人間が来たときにその紙は掘り起こされる、という紙が校内に出回った。その紙を見て、勝手な憶測が飛び交ってな。校内の花壇を荒らす連中が出たりと当時は困ったものだよ」
当時を思い起こしたのだろう、少し嫌な記憶のようで、眉間にしわを寄せながら答えてくれた。
「何度か聞いたとおっしゃいましたが、その後、その紙が見つからなかったんですか?」
「そうなんだ。見つかったという噂は聞いてはおらん。ただ、五年前に再び謎の紙が、校内に回されてね」
「それは?」
「確か、"私の紙を見つけ出したものは居なかった。五年後、もう一度待つ”、と書かれていたようだ。当時の学生なら知っておるとは思うが、もう、この学校でこの話を知っているものはもう私ぐらいだろうな。OBなのか、どこの誰だか知らないが、面倒ごとは起こして欲しくないものだな」
教頭先生は辟易し、呆れているようで、腕を組みをしながらもどこか力の抜けた雰囲気を醸し出す。そんな様子を伺いながらも、教頭先生の出した五年前と五年後というキーワードから、僕はあることに気づいた。
「五年後…。それって」
小高を見やると、彼も気づいたようで、
「つまりは今年じゃないですか!」
ぱぁっと表情を煌めかせ、嬉しそうに跳ねた。対照的に、気づいてしまったかと頭を抱えながらも、冷静に教頭先生は告げた。
「そうだな。また何かが配られるかもしれん。が、あまり期待しないほうがいいと思うぞ。君たちが思うようにあれから何も起こっておらんし。こんなところでいいか」
「はい、ありがとうございました」
「じゃあ、私は戻るとするよ」
背を向けて教頭先生が去っていく一方、小高からは浮ついた気持ちが体外に漏れ出しており、いいこと聞いたと言わんばかりに表情の眩しさが増していた。
「これは、期待できそうだな」
「まぁ、あまり期待しすぎるとかえって失望する羽目になっても知らないぞ」
「いいじゃないか、こんなに面白い話はそうそうないぞ」
「そうか」
僕と小高のテンションのギャップはいつにも増していて、目に見えるほどにギャップが開いていた。彼がそこまでの期待と情熱を、あるかもわからない紙切れに注げるのは一体なぜなんだろうか。まぁ、少しぐらいは信憑性も高まったことだし、調査する価値があるかもしれない。
そんな、小さな紙切れほどしか抱いていなかった噂への期待は、数日後大きな進展をみせることとなった。
第2話に続きます