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猫耳少女が従者になりました

 おまえに従者をつけようと思う。

 そんなことを父上が言い出したのは十二歳の誕生日だった。


「また父上は気まぐれでそういうことを」

「気まぐれではない」


 僕の言葉に不機嫌そうなむっつり顔で言う父上だが、今まで散々その思い付きで振り回されてきたこちらとしてはまったく信用できない。

「男なら剣術はできなくてはダメだ」に始まり「頭もよくなくてはな」と家庭教師を雇い「音楽も嗜むくらいでなくては」と高いピアノを購入し「芸術と言えば絵画も」とどんどん増えていき、一時期はどう考えても虐待の域でスケジュールが組まれていた。


 そして僕は悟ったのだ。

 この一見真面目で厳格な父はただの加減を知らない馬鹿だと。


 なので最近はかなり手厳しく接している。

 養われている立場で何を偉そうにと言われそうだが、こちとら命がかかってるレベルで無茶ぶりされるのだから遠慮はしない。


「で、今度は何でそんなことを言い出したんですか?」

「最近フィリウス様が冷たいので仲介役になりそうな人員をあてがいたいそうです」

「アルドル!?」


 父上の従者であるアルドルに聞いてみればあっさりと話してくれた。

 何か父上が驚いているけれど、父上を放っておいたらえらいこっちゃになると一番分かっているのは従者のアルドルなので、その対応は当然とも言える。


「まあ従者はいつかはつけなくてはいけないものですから、構わないですけど」

「では今のやり取りは何だったのだ」

「従者の名目で監視でもつけるつもりかと思ったので」

「……」


 何故そこで黙るコラ。


「う、うむ。では何人か候補を選んだのでその中から決めてくれ」


 そう言って父上が指をパチンと鳴らすと、入口が開き何人かの人間が入ってくる。

 何その無駄な演出。


「……何で獣人の女の子ばっかりなんですか」


 とりあえず一通り眺めての疑問。別に不満ではない。

 従者はときに護衛もかねるので獣人が選ばれることも多い。

 能力があれば女性の従者をつけることも珍しくないだろう。

 しかし何故ピンポイントで犬耳やら狐耳の生えてる少女ばかりなのか。


「おまえが喜ぶと思って」

「普段僕をどう見てんですか」


 そのケモ耳フェチ疑惑はどっから出てきた。

 日頃の行いを顧みてもそんな態度を見せた覚えはないぞ。


「何……? わしの息子なのにケモ耳が嫌いなのか!?」

「アンタの趣味かよ!?」


 僕のつっこみに連動してアルドルの視線も冷たくなっている。

 アルドルも犬耳の獣人だからね。主がそんな人間だと知ったら危機感覚えるよね。


「と、ともかくこの中から選ぶのだ」

「今の流れでそれを言える父上をある意味尊敬します」


 しかし選べと言われても、少女たちはみんな緊張しているようだが、なんというかこちらを興味津々な様子で見ている。

 特に犬耳の子と狐耳な子の二人。


 これはアレだ。今にも飛びつきたいけど必死に我慢しているわんこの気配だ。

 人懐こいのは結構だが、僕にそんな愛想のよさを求められても困る。

 従者がそんなぐいぐいきたら間違いなく気疲れする。


「……では一番右の子で」


 だから僕は、一番端で無表情に大人しくしている猫耳の少女を選んだ。

 白い髪と白銀の瞳が印象的な白猫少女だ。

 不愛想にも見えるけれど、僕のような人間にはそれくらいの距離感のほうが居心地がいい。


「ふむ。さすがわしの息子」


 何故か褒められた。

 後からアルドルに聞いたところ、父上の初恋の相手は猫耳少女だったらしい。

 いや知らんがな。



 従者に選んだ猫耳少女はリュンという名前だった。

 予想通り口数は少なく、少々大人しすぎるきらいもあったけれど、従者としての仕事はきっちりこなし失敗しても次に生かそうとする努力家だ。

 しかし一つだけ、予想外な問題が発生した。


 リュンが可愛い。


 高いところを掃除するときに必死に背伸びしつつ尻尾まで伸びてるのが可愛い。

 埃が猫耳について振り落とそうとパタパタ動いてるの可愛い。

 紅茶を零してしまって耳を伏せながら謝ってくるのが可愛い。

 気にしなくていいよと言ったら無表情なまま耳だけピンと安心したように立つのが可愛い。

 他にも言いたいことが十倍くらいあるけど可愛い。


 これは予想外だった。

 こちらを構いすぎないであろう従者を選んだのに、むしろこちらが構いたくなる魅力を振りまいてくるとは。

 そしてそんな風に悶えていたらアルドルに「……やはり血は争えませんな」と言われた。

 死にたい。


「あの……大丈夫ですかフィリウス様?」

「あ、ああ。大丈夫。ありがとうリュン」


 そうやって落ち込んでいたら、リュンが心配そうに下から覗き込んで来るという不意打ちをしてきた。

 何だそのピコピコ動いてる耳は。誘っているのか。


 予想外のところで父上との血の繋がりを嫌というほど思い知らされたけれど、この気持ちは墓まで持っていくべきだろう。

 特にリュンに知られてはダメだ。

 自分の主が自分を見て悶えている変人だと悟られてはいけない。


「あの……本当に大丈夫ですかフィリウス様?」

「うん大丈夫」


 そして可愛い。

 果たして僕はリュンに手を出さずにいられるだろうか(性的な意味ではない)。

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― 新着の感想 ―
[一言] この親子とはウマイ酒が飲めそうです。 これ、連載になりませんか?
[一言] 狐耳と犬耳も出してあげてください。
[一言] ははは ナカーマ
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