兄と妹の原点
こんにちは! クロです。
それではどうぞ!
第五十三話、兄と妹の原点
凪の家、居間
「ほむら。それやりすぎじゃない?」
ほむらのゲームの腕前は、前々から良く知っていた。
実は、生粋のゲーマーであり、とてもじゃないが勝とうと思って勝てるわけがない。
だけども、かえでが操作するキャラを見た途端に、勝てるかとも思ったが……。
最初は逃げてばかりだったほむらも、中盤から急に動きを変えて、勝利を掴んだ。
その動きは、さながら見切りをつけたかの様に、相手の技をカウンターで圧倒していたのだ。
「ねぇー、お兄ちゃん。前に言ってたよね……ゲーマーは圧倒的に勝たれても、手加減される事が一番嫌だって」
まだ僕達兄妹が幼かった頃。
毎日、家には両親が帰って来なくて、ほむらと僕しか居なかった時。
身体は、もちろんの事。
心もまだ成長していない僕達は、この静けさで溢れかえっている大きな空間が恐ろしくて、恐くて。
何かに縋りたくても、何にも縋るものが無くて……寂しがり屋のほむらは、毎日の様に夜は泣いていた。
妹の、悲しくて、途轍もなく何かを求めようとする泣き声を毎日聞いていた僕は。
あの暗闇の中で、止む事が無いと思わす程の滝の様に音を鳴らす水の音と。
激しく轟く雷の音が、僕達兄妹を近づけてくれた。
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「ほむら? 毎日泣いてるけど……寂しいの?」
ほむらはこの時、まだ四歳で幼稚園児なのにも関わらず、両親は相変わらず家に帰って来ない。
お互い仕事が忙しいらしく、兄である僕が面倒を見ないといけなかった。
これは好きで面倒を見てるのではなく、母親から頼まれたから、仕方なくそうしてるだけで……。
本当は、面倒を見たくもなかった。
僕は、小学一年生になったばかりで、幼稚園からの付き合いである友達と遊びたかったのに。
溜息が出そうだけど、溜息をしたら幸せが逃げてくよ! という友達からの言い付けを守ってしまうが。
ほむらには、友達は居ない。
ほむらは、幼稚園にも行かないで、ずっと自分の部屋で何かをしている。
前に、偶々話した時に聞いた言葉。
私は、外が恐いの……。
親が居なくて、ましてや外にすら出た事の無い妹は、極度なぐらい外を怖がっていた。
それが、兄として可哀想に思えて。
まるで、大切な物は逃げない様に、カゴに閉じ込めてしまえという風に、両親が考えているのでは無いかと思っただけでも背筋が凍ってしまう。
妹とは滅多な事がなければ話さないけども、もし親がそんな事を考えているのなら、僕は親を許せなくなってしまう。
だって、僕にはたった一人の可愛い妹なんだから!
そう思ってしまった時には、身体は妹の部屋の前に居て、話しかけていた。
「……お兄ちゃん。何の用?」
心配して話しかけたのに、ほむらの返した言葉は、冷凍庫に顔を突っ込んだ時の凍える様な寒さを纏っていた。
それに苛立ちを覚えてしまった僕は、妹の部屋の扉を思っ切り開く。
開かずの部屋には、鍵が掛かっていると思ったのに、なんの抵抗も無く開けた扉が壁にぶつかってしまう。
「あ、ごめん。凄い音したよね。」
扉を勢い良く開けて壁にぶつかる時の音は、幾ら木製の扉と壁と言っても、相当な大きさで耳に襲いかかり。
それに怖がってしまったかなと思って、前を向くと。
すると何も怖がらずに、ただ下を見つめ、生きてるのか死んでいるのかすら分からない状態の妹が、ベットの上に座っていた。
その異様な空気感が漂う部屋……妹を始めとした、ショーケースの中のぬいぐるみや妹のベッドに置いてあるぬいぐるみ。
そして、外から聞こえる滝の様な雨の音や轟く雷の音が、奇妙な雰囲気を醸し出している。
それに魅了されるかの如く、部屋の中に一歩踏み込んでしまったが、それは間違いだった……。
「来ないで! 絶対に来ちゃだめ」
ベットの上のぬいぐるみを、自分の胸の中に抱いて、ぎゅっと抱き締めて、恐怖を紛らわそうとしてるのが分かる。
分かってしまう。
でも、もう一歩でも引き下がる気は僕の頭の中には無い。
「なんで?」
「なんでって。お兄ちゃんは空気読めない人?」
まだぬいぐるみを離さない。
僕はこの時に察した。
霧島ほむらという人間は、自分の身に降りかかる恐怖を嫌でも察してしまう。
それを感じれるという事は、恐怖を与えようとしている人間が少なからず居るのかもしれない。
もしかしたら、居ないのかもしれない……でもそれなら、恐怖を感じてしまうのは、人間全てが恐いのかもしれない。
なら、少し荒治療になるかもしれないけど。
「ほむら。お前、風呂に入ってこい」
「え……、お兄ちゃん?」
この時、僕は少し威圧的になるが、それもほむらの事を親じゃなくて、僕が妹の世話をやりたいからなのかもしれない。
……あれ? 僕は妹の面倒を見ることなんて嫌だったのに。
でもほむらとは全く話した事が無いけど、自分の家族にも怯えてしまうなら、それをどうにかしたいと思うのもお兄ちゃんなのかな。
少し苦笑いをしてしまったが、威圧的な態度を続けるが。
「良いから入ってこいよ。お前、臭いぞ? お湯沸かしたから早く!」
「う、うん。でも身体、動かない」
多分、少し威圧的になり過ぎて、ほむらを更に怖がらせたことに反省して。
「ねぇ、ほむら。僕の事が恐いかい?」
「さっきから何? 急に威圧的になって、それで次は優しくなって。恐いよ! お兄ちゃんのそういうところが信じられない」
今のほむらの心の叫びで、何で僕の妹がこんなにも外が恐いのかと分かる気がした。
きっとほむらは、自分の家族の言葉ですら嘘で固められてると思っている。
それもそうだ、仕事を理由に全く家に帰って来ない母親と父親。
そんな親たちを、信じたくても信じられないのだろう。
「ごめんね。でも、これだけは言わせてね。今から言う事は心の中の、本当の気持ちだから」
「うん、分かった」
今から喋ることは、何も偽ってはいけない。
もし、ほむらのことが嫌いなら嫌いと言えば良いんだ。
そしたら、僕はもう世話をしなくても良いし、親たちに帰ってこいなんて、言わずに済む。
でも、それでも僕は、引き下がる訳にはいかないんだ。
「僕は、ほむらのことが凄く大切で、世界で一人だけの妹なんだよ。だから、僕だけは怖がらないで」
目の当たりから、何か違和感を感じるけれど、それは後回しにする。
今は、この気持ちがほむらに伝わる様に、頭を下げ続けるしか無い。
「……、お風呂行ってくるね」
「ほむら?」
結局、僕の想いは妹には通じなくて、ほむらはまた僕の事を怖がってしまうのか!
そう自分に自暴自棄になってしまったかの様に、言い聞かせて唇を思いっきり噛む。
噛んだ瞬間、目の当たりから感じた違和感が明らさまになって、水滴が零れ落ちていく。
「何で泣いてるの? 私、早くお風呂行きたいからおんぶして」
「え?」
ほむらが何を言っているか理解するのに、数秒じっくり考えた結果。
「だって、今腰抜けちゃって、歩けないから!」
「あ、分かったよ!」
ほむらは、少なくとも僕の事を信頼してくれたのかなと思って、ベットに座ってるほむらにおんぶをさせてあげる格好をした。
その瞬間に、肩から細い腕が首元に回され。
僕の腰の辺りに、ほむらの足が絡まりって、背中に柔からな感触を覚えて、小さな顔が僕の耳元に来て。
「ありがとう。お兄ちゃん」
という甘えてくれている声が聞こえて、僕はほむらのお兄ちゃんだと認めてくれた気がした。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます!お疲れ様です。
今回は、兄と妹の原点について書いてみました。
兄と妹の原点と言っても、産まれた時の出会いではなく、ほむらが凪をお兄ちゃんと認め、凪がほむらを妹と認めるまでのお話です。
次回も、過去の過去についてですが、どうかよろしくお願いいたします。
では、また次回でお会いしましょう!




