6 記憶と乖離
久々の投稿だぜ!
久々すぎるとの苦情は受け付けてないぜ!
忙しかったんですごめんなさい。
「で、だ。この組織——まあ今は便宜的にレジスタンスと呼ばれているが、打倒せんせえのために動いている」
ひとみの説明に優輝は頷く。手前に置かれたカップを警戒心のかけらもなく飲むと、一息ついた。
「まぁ、目的としては大体わかる。でも、どうやって挑む?」
「それを考えるのが露出狂兼参謀のお仕事だ」
横井がさっとソファーの裏から飛び出して、にこーっと笑う。
「えへへぇ呼んだ?」
「気持ち悪い笑い方をするな変態が。呼ばれても出てくるな」
ぐふぅ、と刺された真似をして、横井が倒れこむ。それを担ぎ上げたコマが「とったどー!」とどこかのバラエティよろしく掲げる。それをやんややんやと囃し立てる吉川。
とんだカオスである。
「で、実働部隊としては、コマとさっき言った揺乃が情報収集。実行部隊が私とそこのクソジジイとなる。怪我をすれば天使が優しく癒してくれるだろう。そして——輝かしい役職、突貫部隊第一隊員が君だユウキ」
「変なルビが見えてるっ⁉︎てか輝かしくないから!」
「命は散る時が最も輝くと聞くが」
「死ぬの前提なの⁉︎」
「ちなみに天使の治療は受けられんぞ。もったいない」
「え⁉︎ちょ、まさか殺したら元に戻るからじゃ、」
「当たり前だ。殺しても死なんところはGと一緒だ、よかったな」
「なんなのこの雑い扱い⁉︎いくら殺しても死なないからって酷いからな⁉︎」
ひとみがチィッ、と舌打ちをする。あからさまに嫌そうな顔をして前かがみになり、資料を人差し指でトントン、と叩く。
あたかも圧迫面接のようにひとみは優輝をぎりりと睨みつける。
「じゃあお前、戦ったことは?」
「…わかりません」
「人を殺したことは」
「…わかりません」
「あ゛ぁ⁉︎」
「ごめんなさい記憶喪失でってぎゃーーーーーー⁉︎」
優輝の胸ぐらを掴みあげると、片手でぺいっと引き倒す。それにきっちり受け身を取ったのを見て、ひとみは唇の端をようやく吊り上げる。
だがその笑みは、どちらかといえば邪気を含んだものであり。
「…な、なななななっ」
「怖がらずとも一日中貴様を片手では足りないほどに殺してくれる」
「うぇえ⁉︎ちょ、まっ…⁉︎」
それに制止をかけたのは、意外な人物である。
「だ、だめですっ!」
「何のつもりだ、雛乃?」
ひとみのスカートの裾をきゅっと摘む。ちなみにひとみのスカートは膝上十五センチだが、がっつりスパッツを穿いているため眼福など存在しない。
「あ、あの、せめて服を作ってからやったほうが良いんじゃないかと」
「…ふむ、一理あるな。男の裸なんぞ見たくないからな。見ても気持ち悪いだけだ」
雛乃がその言葉に真っ赤になるが、気にせずひとみはしゃべる。
「流石にそれは雛乃の情操教育上悪い。そうだな、そうしよう」
ここで、優輝が首をかしげる。
「あ、あの…それじゃあ、服を作るのってあんまり意味がないんじゃ?」
「は?」
「いや、だってこれから俺服が原型をとどめないほどに殺されるんですよね?じゃあ、服新しいの作っても…壊れるんじゃ?」
怪訝そうな顔をしていたひとみだが、その言葉で納得がいったらしい。
「服は雛乃の能力で作るんだ。雛乃の能力はさっき言った通りだが、雛乃の血液を使って服を作ると、治癒効果を持ち、かつそれ自身が破けても再生するというトンデモ機能付きだ。一応過剰に治癒や再生を繰り返したり、雛乃が死ぬなりすれば、血液に戻る欠点はあれど、ほぼ無敵と考えて良いだろうな」
「じゃあ大丈夫かな…」
「ああ。原型がなくなるまで殴ったってお前は生き返るし服も再生するから、気にせず死ねばいい」
優輝は心の中で(ん?原型の意味が若干違わないか?)と思ったものの、素直に雛乃の能力に感心しておく。
「ああ、雛乃の製作中にやることをやるぞ」
「やること…?」
「貴様の取り調べだ」
「…この役に立たんデータで一体どうしろと言うんだ」
高校生以前の記憶はなく、分かっているのは名前と己の口座、そして賃貸ではなく買われた豪華マンションの一室、それも12階という。
怪しさ満点の回答だ。
いや怪しさしかない、というのが正しい。
武道は経験がないというが、明らかに経験者だろう。それに筋肉のつき方も悪くはない。そして、何より。
「己が死ぬ事を聞いても、あの落ち着きと突っ込みっぷり。可笑しすぎるだろうが」
普通ならば、それで縮み上がってもおかしくはない。何度死んだところで、慣れという事は起きるはずもない。
死ぬのは嫌だ。
痛いのも嫌だ。
となれば残る手段は、安寧の中に身をたゆたわせることだけ。
「殺し殺される覚悟が、一般人にできるはずなどない。——そうは思わないか?コマさん」
そっと吐かれたタバコの煙が、ソファーの上からわずかに降ってくる。
「副流煙には留意しろといつも言っているだろうが」
「はは、悪りぃ。性分でねぇ、無理」
「…ったく、ジジイといい、コマさんといい。どうして大人とは意志薄弱なんだろうな」
「はは、そう見えるか?」
それには答えず、ひとみはまっすぐ伸ばしていた背をソファーにもたせかけた。わずかに軋んだ音を立てたそれに、眉を顰めてからそのままの表情で口を再度開く。
「コマさんに覗いてもらうことになる」
「……まぁ、記憶喪失くらいじゃ、探れないこともないからな。壊れても殺したら元に戻るんだろ?」
「…さっきコーヒーに一服盛って、試した。確かに能力はわかった。…ものすごく怒られたがな」
「そりゃあ怒るよ⁉︎いきなり何してんのかなぁこの子は⁉︎」
あっさりと言うひとみに、驚愕を見せる。ひとみが『能力は』と言った事は、あっさりと流されてしまった。
「コマさん、奴が裏切り者だったら…どうする?」
「どう、ねぇ。それはどうしようもないんじゃないか?」
一瞬の沈黙の後にひとみが目を伏せながら答える。
「…分かっているさ、そんなこと」
「なんだい、ひとみから言い出したんじゃないか?……『潜る』件は請け負ったよ。どんな結果になろうとも受け止める事だ」
背を向けて歩き出したコマの後ろから、言葉がかけられる事はなかった。