知らない世界の入国審査
トウデン…とクライドさんが言ったのだろうか…その街、いや国だろうか…それはまさに要塞と言えるほど壁が高かった。
「とても高い壁…ですね…」
「ああ、魔物からの襲撃に備えてな。壁を高くしてるんだ」
なるほど、納得がいった。ウサギもどきみたいな動物も魔物なのだろう。あんなのが街に入ってきたらたしかに怖い。
そんなことを考えてるうちに私とクライドさんの前に兵士の格好をした人が現れた。
「よう、クライドさん。森の見回りお疲れ様…っと、その女の子は一体誰だい?」
「ああ、この子は…森で魔物に襲われてたところを保護したんだ。どうやら、記憶喪失らしくてな…出身地が分からないらしい。ここの入国許可証を書かせてもらえないか?」
「記憶喪失か…分かった、クライドさんが言うならその女の子は大丈夫だろう。それじゃあ、ちょっとこっちに来てくれ」
「わ、分かりました…」
「俺は少し用事があるから、他のところに行ってくる。グラント、あとは頼んだ」
そう言って、クライドさんは街の中に行ってしまった…私も兵士…グラントと言われていた人に連れられて、ある建物の中に入った。
「それじゃあ、嬢ちゃんはここで面接をする。といっても簡易的なものだけどな。記憶喪失じゃ聞くことも少ないし。」
「わ、分かりました…!」
「そんな緊張しなくても大丈夫だ。すぐに終わるからリラックスしていてくれ」
グラントさんが笑顔を見せる。そうだ、落ち着こう…きちんと質問に答えなければ…
そう思いながら、私はイスに座った。
「それじゃあ、まずは名前を教えてくれ」
「えっと…カンナ、です」
名前を聞いた時、グラントさんが少しだけ訝しげな表情をしたような気がした。
「珍しい名前だな。それじゃあ、次は…何故、森の中にいたか教えてくれ。」
「そ、それが分からなくて…目が覚めて気がついたら森の中、だったんです…」
正直に答えるしかない…ここは、本当のことを言おう…
「なるほど…分かった。よし、終わりだ。後で紙を渡すからそこに名前を書いてくれ」
「えっ…もう、いいんですか…まだ二問しか答えてませんけど…」
「いいんだ、この道具も反応せずに赤のままだし、言ってることに嘘偽りがないことは確かだからな」
そういって、グラントさんは赤白く光る水晶のような物を見せてくれた。どうやら、嘘のことを言うと青くなるらしい。
「それにしても、結構スラスラと話せるものなんだな。ここの国の人かもしれねえな。
「そ、それにはわけがありまして…」
「まあ、それよりもここに名前を書いてくれ。それで終了だ」
そう言って、グラントさんは一枚の紙を差し出した。どうしよう…何て書いてあるか全く分からない。そう思いながら、困惑していると…頭の奥に激痛が走った。
「っ…ううっ…!」
「ど、どうした!何が起こったんだ?」
少しの間激痛に耐え、再び…机の上の紙を見ると。その文字を解読できるようになっていた。
「も、もう大丈夫です…心配かけてすみません…」
「そ、それだったらいいんだが…持病があるなら備考の欄に書いておいてくれるか…?」
「いえ、突発的なものですから…」
そう言いながら、私はペンを使い…見たことも無いような字を書いていく。まるで、前からその字を見て、聞いて、書いていたかのように…
「よし、これで入国許可証を作るのは終わりだ。あとは、この国のルールだが…何か、なりたい職業をギルドに登録しておいてくれ…例えば、戦士とか…魔法使いとか、商人とか…決められたのがあるから、そこに名前を書くだけでいい。あとは受付の人が判断してくれる」
「何から何までありがとうございます…。えっと、ギルドにはどうやって…」
「ああ、それなら俺が連れて行くから心配しなくていい」
本当に親切な人だ…私は、運が良いのかもしれない…
「それじゃあ、案内するからついて来な。はぐれないようにするんだぞ?」
「はいっ!」