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第2話 入学式の演奏を聞いてみて ☆

 辺りが静まり返っている体育館にはたくさんの新入生の保護者や教師たち、吹奏楽部部員、生徒会役員らしき生徒たちが椅子に腰かけ、新入生の入場を今か今かと待っている。


 同じ頃、1年生は1組から出席番号順に並び、体育館の近くで待っていた。


「新入生、入場」


と男性のアナウンスが流れた。

 それと同時に吹奏楽部の顧問であろう女性が椅子から立ち上がった。

 彼女はひゅんと指揮棒を振りかざし、部員たちはそれぞれの楽器を構える。



 ♪



 演奏が始まったと同時に生徒会役員らしき生徒たちが拍手をし始める。

 今、彼女らが演奏している曲はヴィヴァルディの『春』の吹奏楽用にアレンジされたもの。

 他の新入生たちは特に気にせずにどんどん入場する。

 しかし、ザークは部員数が少ないため、ミスをすると凄く目立つだろうなと思いながら入場する。

 ざっと部員の担当しているパートをチラッと横目で見る。

 その頃、レイムもザークと同じく彼女らをチラッと見ていた。



 ♪



 入学式は順調に進み……。


「校歌斉唱。生徒会役員の者は準備をお願いします」

「ハイ!」


 男性のアナウンスが流れたあと、生徒会役員は返事をし、壇上へ向かう。

 校歌斉唱と言われても新入生たちはこの高校の校歌の歌詞は分からない。

 一応、この高校のホームページには校歌が聞けるが、見ていない新入生がほとんどなのが現状だ。

 先ほどと同じように女性が立ち上がると一瞬ではあるが、壇上にいる生徒会役員の方へ視線を向けた。

 再び部員たちの方に向き合うと、指揮棒を振りかざした。

 吹奏楽部の演奏に合わせて生徒会役員が校歌を歌っている。

 しかし、彼らは校歌を元気よく歌っているようだが、彼らの歌声は彼女らの演奏の音にかき消され、かすかに聞こえるくらい。


 その時、ザークとレイムはふと思った。

 この高校の吹奏楽部は各パートに1人ずつしか部員がおらず、彼女らの演奏技術は上手でも下手でもない。

 純粋に譜面通りに演奏した普通のレベルであった。



 ♪



 入学式が無事に終わり、1年生たちはそれぞれの3年生の教室で担任教師がくるまで待っていた。


「ねぇ、ザーク、入学式の吹奏楽部の演奏どう感じた?」

「どうって……。普通だよな」

「僕も同じ。普通すぎて何か物足りないような気がする。アレンジが少しあってもよかったかも」

「だよな」


 2人とも、先ほどの演奏について話していた。


「僕ね……」


 レイムが少しもじもじしているとザークはつっけんどんに、


「なんだよ?」


と問いかけ、自宅から持ってきたペットボトルに入ったお茶を1口飲む。


「さっきの演奏でホルンを吹いていた先輩いたじゃん?」

「いたいた」

「少し気になるんだ……」


 レイムが言ったその言葉にザークは我慢できずにお茶を吹き出してしまった。


「ザ、ザーク!? だ、大丈夫!?」

「大丈夫……。ティッシュ持ってるから。俺、入学式が始まる前にその先輩と話したけど」

「いいなー。ずるい!」

「そして、俺と同じ中学の先輩かもしれない。同じ部活ではなかったけど」

「その人と同じ中学だったの!? 吹奏楽部の人だったら、僕、ショックだったー」

「部活の見学に話せばいいだろう。自分のトロンボーンがあるんだから入部するとかさ……」

「オイ、お前らー、一旦席に着け!」


 ザークが話しているのを遮って彼らの担任であるドルイットが教室に入ってきた。


「今から今日のこのあとの話をする。親御さんにはアンジュ先生の方から保護者説明を行っているため、まだ時間がある。この時間を使ってみんなには自己紹介をしてもらう。保護者説明が終わり次第、教科書購入に入るからな」


 突然、ドルイットから自己紹介をしてもらうと言われ、生徒たちからはブーイングが飛び交う。


「先生、アンジュ先生がいないならあとででもいいんじゃないですか?」

「実はアンジュ先生からデジタルカメラを預かっているから動画を見て彼女には覚えてもらう」

「そうでしたか……」

「では、出席番号順に行くか? それとも、1番後ろから行くか?」


 ドルイットはアンジュから預かったデジタルカメラを操作しながら、生徒たちに問いかける。


「何も答えが返ってこないから、出席番号順だからな?」

「……ハイ……」

「じゃあ、名前、誕生日、趣味・特技、中学時代入っていた部活動や委員会、高校で頑張りたいことをその場で伝えてほしい」

「ハイ」

「分かりました」


 彼らは素直に返事をし、1人ずつその場で自己紹介を始める。



 ♪



 一方の吹奏楽部は使ったものの後片付けをしていた。


「今日の演奏、緊張したね……」


と部長の眼鏡をかけた女子生徒がフルートとクラリネットを持ち、


「コンクール以上の緊張感だったよ……」


と両手でユーフォニアムを持った女子生徒が、


「ねー」


と両手にトロンボーン2本持ったマリアが口々に言う。


「そりゃ、校長先生や新入生とその保護者がきてたんだもん。緊張するのは当然だよ」


と先ほどの譜面ファイルとは違い右手にホルン、左手にトランペットを持ったロゼが冷静に言う。


「まぁ、少なくても新入生を確保できれば上出来だと思いますが……」

「同じくです」


と使用した譜面台をいくつか持った2人の男子生徒が言う。


「だよね……」


「そうだ、オペラとアールの2人で譜面ファイルを持って行ってくれないかな?」

「分かりました!」

「ハイ!」


 オペラとアールと呼ばれた2人の女子生徒が譜面ファイルを半分くらいずつ持つ。


「みんな、さっき、エズミ先生から言われたことをみんなに伝え忘れたけど、片付け終わったら速やかに帰ってって」

「ハイ!」

「了解!」


 話しながら彼女らは体育館から音楽室までの道のりを何往復かして片付けていくのであった。


「今年は何人くらい入るか楽しみだけど、いなかったら悲しいよね……」

「そうですね……」


 これから始まる仮入部期間。


 少子化で各部の新入部員の争奪戦が本格的になり始めている……。


 果たして、彼女らのところに新入部員がくるのだろうか?

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