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第1話 入学式で…… ☆

 2050年4月7日……。


 桜の花びらが舞い落ちる中、真新しい制服に身を包んだ新入生とその保護者がぞろぞろとどこか緊張しているような面持ちで校門をくぐっていく。


 新しい環境で見知らぬ同い年と上手く付き合っていけるか、勉強についていけるかどうかなどと不安な気持ちになっているのだろうと感じられる。


 中には待ち合わせをしていたであろう同じ中学校から進学してきたもの同士で固まって教室に行こうとしている。


 今日は入学式のため、校内に在校生はいない。

 在校生がいるとしてもどこかの教室が分からないが、楽器の音が聞こえてくるだけ……。


 1人の眼鏡をかけた少年が、


「この高校にも吹奏楽部があるんだなぁ……。自分の楽器を持ってるし、高校(ここ)でも続けようかな……」


とぼそっと呟き、迷子にならないよう、前の集団についていった。



 ♪



 昇降口の受付を済ませ、1階にある手前の教室には『新入生控え室 1組』隣の教室は同様に『2組』と書かれていた。

 その奥の教室は空き教室であり、表札が『3年3組』となっていたため、1階は3年生の教室だということが分かる。

 クラス表はそれぞれの入口に貼られている。

 新入生全員が1組からそれを見ているため、入口が凄く混んでいる。


「やっぱり、少子化の影響はデカいよな……。あっ、1組だ」


と彼は先ほどと同じような口調で言い、クラス表を見ると1組のところに名前が書かれていた。


 彼の言う通りである。

 今から50年くらい前から少子化や人口減少などと騒がれている。

 そのため、すべての私立高校は閉校し、公立高校は一部の人気校を除いて多くの高校は定員割れ。

 よって、この高校も定員割れのため、全学年2クラスで1学年60人前後である。


 彼が教室に入ろうとした時、


「おはよう」


と1人の男子に声をかけられた。


「おっ、おはよう」


とその少年は驚きながら挨拶(あいさつ)を返す。


「君も同じ1組?」

「あぁ」

「よかった。あっ、僕はレイム。君、どこかで見た記憶があるんだけど……?」

「俺はザーク。もしかして、吹奏楽コンクールの会場とかで見覚えがあるような……。担当のパートは?」

「僕、トロンボーンだよ」

「俺も!」

「ザークくんは続けるの? 自分の楽器持ってるみたいだけど」

「そんな話、いつ訊いた?」

「昇降口に入る前。実は僕、迷子にならないように君のあとをついてきたんだよ。僕も自分の楽器を持ってるから続けるよ」

「レイムに訊かれていたとは思わなかったぜ……。一応、俺も続けようと思っている。俺のこと、呼び捨てで構わない。よろしくな、レイム」

「うん、よろしく。ザーク、早く教室に入ろう?」

「あぁ」


 ザークとレイムはいそいそと教室に入っていった。



 ♪



 あれから10分くらい経過した時に男性教師と女性教師が1人ずつ教室に入ってきた。


「君たち、ここは君たちの教室ではなく、本来ならば3年生の教室だ。まずは出席番号順に席に着きなさい」

「みんなの本来の教室は3階だから、始業式の日から間違えないようにね」

「分かりました!」


 生徒たちが「何番だっけ?」と出席番号を訊きながら着席していく。

 一通り生徒たちが着席したことを見計らい、教師たちが教壇に立つと、黒板に自分の名前を書き始める。


「えー……このクラスの担任をするドルイットだ」

「私はこのクラスの副担任のアンジュです。よろしくお願いします」

「よろしくお願いします!」

「では、出席を取るから、返事をしてほしい。名前の間違いとかがあったらその場で言うように」

「ハイ」


 ドルイットが生徒の名前を1人ずつ読み上げ、生徒たちは元気に返事をしていく。


「全員、名前の間違いがないみたいだな。入学式が始まるまでしばらく待っていてくれ。今日の流れはアンジュ先生お願いします」

「入学式は9時30分からで出席番号順だから、今座ってもらっているこの順番で入退場してもらうから自分の前後の人の確認、よろしくね? それが終わったらこれから1年間使っていく教科書を購入してもらうからね」

「アンジュ先生!」

「質問かな? どうぞ」

「教科書全部でどれくらいの重さですか?」

「重いかも。1年生は必要な辞書や体操着とかもあるからね……。親御さんが車でくるところは大丈夫だけど……」

「そうですよね……」


とアンジュと1人の女子生徒の質問に答えている時に、周りの生徒たちの表情が曇っている。

 おそらく彼らはたくさんある教科書とかを家に持ち帰ることができるか心配しているのだろう。



 ♪



 一方、音楽室には8人の生徒たちと1人の女性教師がいた。


「みんな、音出しは大丈夫?」


 女性教師が楽器を持った生徒たちに問いかける。


「ハイ」

「大丈夫です」


 生徒達たちは返事を返す。


「じゃあ、部長の私から、今日は今日のためにたくさん練習してきました。本番もいつも通りに演奏しましょう!」

「ハイ!」

「じゃあ、手分けして楽器や譜面台などを体育館に運びましょう」


 彼女らは2、3往復かけて手分けして楽器などの必要なものを運び始めた。



 ♪



 一方の1年1組の教室では……。


「もう少しで入学式が始まるから、トイレに行っておけよ。先生も一応、行ってこよう」

「あははは……」

「みんな、ごめんね。ドルイット先生は1年生の担任、はじめてだからね。みんなも行っておいてね。トイレは1組側が女子トイレで5組側が男子トイレになってるの。2階も3階も同じだから間違えないでね」


 何人かの男子生徒が男子トイレに向かっている中にザークは紛れ込んでいた。

 「重い……」と言いながら1人の女子生徒が歩いている。

 ザークたち1年生は赤いサンダルを上履きとしており、その女子生徒は青いサンダルだったため、在校生だと察した。


「もう、みんなったら……少しは持ってくれたってよかったのに……」


と彼女は言い、手には大体10冊くらいの分厚くなっているファイルを抱えていた。


「マリア、譜面ファイルが落ちそう!」


 その女子生徒はマリアと呼ばれた女子生徒を呼んだが、


「ロゼ、なんか言った?」


とマリアは彼女より先に歩いていたせいか、何を言ったか分からなかった。


「譜面ファイルが落ちそうなの!」


と言った時だった。

 ドサッと音がして譜面ファイルが2冊落ちた。


「あっ……」

「先輩、大丈夫ですか?」

「ごめんね。まさか、新入生に拾ってもらえるとは思ってなかったよ」

「吹奏楽部ですか?」


 ザークは譜面ファイルを彼女があらかじめ持っていたものの上に乗せ、ロゼに問いかける。


「うん。人数は少ないけどね……」

「ロゼさーん、急いでくださーい!」

「ロゼさんの相棒のホルンが待ってますよ!」


 彼女の後輩であろう女子生徒たちが彼女を呼んだ。


「ごめーん! 今行くー!」

「先輩、忙しそうですね」

「まぁね。今日、校歌とか演奏するからもしよかったら聞いてね」

「ハイ。演奏、頑張ってください!」

「ありがとう! 演奏を聞いて興味がわいたら見学にきてね。入部も待ってるから!」


 ロゼは体育館に向かって歩を進め、ザークはトイレに行くことを忘れ、教室に戻った。


 入学式はまもなく始まる……。

書き下ろしエピソード


2015/09/21 本投稿

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