第11話 初心者くん、実際にマウスピースで吹いてみよう! その2 ☆
「そ、そんなことを話してるよりやってみようよ! ね?」
「ハ、ハイ……」
マリアはトイレットペーパーを何回か巻き取ったものをラーグに手渡した。
彼はそれを受け取り、礼を言うが、「なぜ、トイレットペーパーが出てくるの!?」と思いながら首を傾げている。
「あっ、それは鼻を咬むために渡したんじゃないからね」
「僕は花粉症持ちではないので、大丈夫ですよ」
「冗談だよ。このトイレットペーパーはマウスピースから零れ落ちる唾から制服を守るために使うものだから。タオルが必要になるから準備しておいてね!」
「ハイ」
彼女は机の上に自分で持ってきたフェイスタオルをマウスピースの下に置いた。
それを見たラーグも同じようにして置く。
「まずは私が今からやってみるから」
「ハイ」
マリアはスッと息を吸い込み、唇がブルブルブル……と動き始めた。
彼は小さい頃にそれをやった記憶があるが、未だにやっている人がこの世に存在していることに驚きを隠せない。
「マ、マリアさん? 小さい子供ですか?」
「私、小さい子じゃないもん! これが第1段階だよ!」
「そ、それが!?」
「そう。やってみて!」
「……ハイ……」
ラーグは恥ずかしがりながら唇をブルブルと振るわせるが、数秒しか動かなかったが、何回か繰り返しやっていくうちに動かせるようになってきた。
「動かせるようになってきたね!次は今のにピースサインを口につけるのが第2段階だよ!」
マリアは唇を振るわせながら、人差し指と中指でピースサインを作り、口元に持ってくる。
彼も一緒に挑戦みるが、「ん!」と言い、途中で止めてしまった。
「少しだけ閉塞感が……」
「マウスピースを当てちゃうと、さらに感じちゃうよ」
「そうですよね……」
ブルブルブル……。ブルブルブル……と何度もピースサインを当てたり外したりしながら、ラーグは練習する。
その時、彼はザークやレイムが本当にそれをやって音を出せたのかが不思議で仕方なくなってきた。
♪
彼女は少しずつ確実にできるようになってきている彼を見て、2年前の自分のことのように思い出していた。
それを見ているうちに私も成長したんだなぁと――――。
「ラーグ、だんだんできるようになってきたね! 最後にマウスピースで吹いてみようか」
「ハイ」
彼女らは先ほど机の上に置いておいたマウスピースを手に取る。
「持ち方は右手で落とさないように摘んでね」
「ハイ」
「そうしたら、ほっぺを膨らまさずにトイレットペーパーはマウスピースから数センチ下げてさっきと同じようにやってみよう。まずは私の方を見ててね」
「分かりました」
マリアは自分のマウスピースを唇に当て、ブー……と鳴らしてみた。
一方のラーグはスー……と息がマウスピースを抜けるだけで音は何も出ず、唾が出るだけ。
「あれ……」
♪
その時、視聴覚室で練習をしていたリヴァルやオペラたちが音楽室の外から見守っていた。
「初心者くんはあと少しだね」
「そうですね」
「リヴァル、ロゼたちも止めてるよ?」
「本当だ。マリアはさっきまで頑張ってきたからね……マウスピースだけで吹けた時は一瞬だから、みんなで見届けましょう」
「「ハイ」」
「うん」
多くの部員が見ている中で彼は何度も繰り返し音を出そうとしている。
そして、ついに――――。
2017/03/18 本投稿




