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これがエロゲならよかったのに。   作者: わかなべ
1,エロゲなら無双しまくっていた(性的な意味で)
7/16

それが諸悪の根源でした 2

 その日の六時限目にはロングホームルームがあり、その中でクラス委員を決めるための話し合いが行われていた。だが、みんな消極的で立候補者が誰もおらず、沙織さんは困り果てていた。


「んー、困りましたねえ……今日までなんですよね。男女二人決まるまでは帰れませんよ?」


 今日は久しぶりに空手もバイトもないため、早く帰ってエロゲーをしたいところなのだが、この分だと暗くなるまで帰れそうにない。

 誰か立候補しろよ。

 そう思った俺は、もちろん立候補するつもりなどない。

 クラス委員とは、要するにアレだ。教師のパシリだ。

 先生に頼まれてプリントを職員室から運んだり、黒板を消したり、文化祭などのイベント事を行う際の話し合いで議事進行係を務めるなど、どう考えても内申点を稼ぎたい人向けにあるとしか思えない制度である。

 大学を推薦で受けたい人や、就職をする人には重要な加点要素なのかもしれないが、多分一般で受験する俺にとっては関係のない話だ。

 よって、俺は必要最低限の勉強しかしないし、内申点を稼ごうとも思わない。

 部活?

 将来、就活の時に必ず聞かれるだろうな。

 しかし、俺には空手がある。

 小学生の頃から空手をやっていることは、恐らくマイナスではないはずだ。


「うぅ、誰かやりましょうよ……クラス委員」


 沙織先生がいじけ始めたその時、すっと隣の人の手が伸びた。

 俺の隣は右があかね、左がわたりょーである。

 野球バカのわたりょーが手をあげるはずがなく、いま手を挙げたのはあかねだった。


「野宮さん、やってくれるんですか!?」


「はい。誰もやらないんなら、私やります」


 あかねの言葉に反論する者はおらず、満場一致で女子のクラス委員は決まった。


「あかね流石じゃん。絶賛ケンカ中のさきちも見習ったら?」


 頬杖をついてあかねのことを横目で見ていた俺に、亜樹が野次やじってきた。


「お黙り。つーかケンカしてねーし」


「へぇー、そういうこと言うんだ? 山崎、諒太」


「──ってええええッ!」


 亜樹が二人を呼んだ瞬間、背中に鋭い痛みを感じた。

 思わず飛び跳ねながら叫んじまった。

 涙目になりながら後ろを見ると、山崎がニヤニヤしながら右手でペン回しをしている。

 こいつ、背中をシャーペンできやがったな……!


「せんせぇー! 星野朔也くんがクラス委員チョーやりたいって言ってまーす!」


「なっ!?」


 さらに追い打ちをかけるように、わたりょーが俺の手首を掴み、強引にあげてから、そう叫んだ。

 

「わたりょー! テメーなんてことを!?」


「へっ、日ごろ俺をいじってくれてる仕返しさ」


「もう仕返しのいき超えてますよね!?」


 わたりょーに文句を言っても、亜樹や山崎のことをにらんでも、既にクラスメイト全員が俺に視線を浴びせている状況を変えることはできない。この状況で今更やりませんって答えてみろ。クラスに友達がいる俺ならともかく、ぼっちやいんキャラなら壮絶ないじめが始まるぞ。

 いや、俺でも始まるかも。

 だって友達あまり多くないし。


「星野くん、やってくれるんですね!?」


 うう、沙織さんの期待の眼差しがまぶしい。

 どうしよう、断るに断れない……。


「はい、是非やらせていただきます……」


「それじゃあ委員はこれで決定、みなさん異議はないですね!?」


 当然、異議などあるわけがなく、クラス委員は俺とあかねで決まった。

 マジかよ。俺、今日から沙織さんのパシリかよ……。


「さきちクラス委員おめでとー!」


「よかったねー、内申点あがりまくりじゃん」


「かっとばせー、星野!」


 俺をクラス委員に仕立て上げた三人が、執拗に俺をあおってくる。


「うるせえ!」


 一喝いっかつしても三人が落ち着く気配はなく、むしろクラスメイトたちが俺に拍手はくしゅを送ってくる始末である。

 最悪、マジ最悪。


「はぁ……っ」


「……よろしく」


 ため息をきながら着席すると、右隣のあかねがぶっきらぼうに、そう言った。


「え、おう……」


 なんとか返事を返すが、それ以降、会話はかった。

 しかし、よろしくって言ってくれたということは、少なくともあかねは俺と一緒にクラス委員をやることに嫌悪感は抱いていない様子だ。

 あれから一週間。どこかぎこちない関係が続いている俺とあかねだが、どうやら時間が解決してくれそうである。

 ただ、俺としてはやっぱり何とも言えない心境だった。

 気にしすぎなのかな、俺……。


  †


 帰りのホームルームが終わり、今日の授業は全て終了した。

 今日の放課後は何も予定がないため、さっさと帰ろうと思っていたけど、やっぱり一人で帰るのは心細い。そこで俺は帰宅部の亜樹や、新歓を終えてヒマそうな山崎を誘って一緒に帰ろうとした。しかし山崎は部活に顔を出すといい、亜樹もこの後空手があるらしく、俺の試みは失敗に終わる。

 他の奴らは軒並み部活やバイトで忙しく、結局俺は一人で帰ることになった。


「あ、星野くん」


 帰ろうと思って玄関で口を履き替えていたその時、中村さんに声をかけられた。

 中村さんは部活やバイトをしている気配がないため、この時間に玄関にいるということは、恐らく俺と同じで、家に帰ろうとしているのだろう。俺の姿に気づいたので、話しかけてきたようである。


「中村さん、暇人?」


「もぉ、失礼しちゃうよね。今から帰るところだよ?」


「そういうのを世間一般で暇人って言うんだぜ?」


「それを言ったら星野くんだって暇人だよね。みんな部活に勤しんでいる時間帯に帰ろうだなんて」


「だって空手もバイトもないし、部活入ってないんだもん」


 中村さんと駄弁っているうちに靴を履き替えた俺は、中村さんと一緒に校舎の外に出る。

 豊陵高校の校門は、校舎の正面玄関を出てすぐのところにある。校庭やテニスコートなどは、正面玄関の反対側にあり、正面玄関から校庭の様子を確認することはできない。

 ただ、今日も生徒が部活に励んでいるらしく、校庭からは雄叫おたけびと、バットの打音を聞こえてきた。

 わたりょー達、豊陵高校野球部が、甲子園に向けて練習に励んでいる様子である。


「ねえ、星野くんってあかねちゃんのこと好きなの?」


 校門を出ようとした瞬間、中村さんが突拍子もないことをいてきた。

 この一週間の間に中村さんはあかねと仲良くなったらしく、すっかり下の名前で読んでいた。


「ねえ、星野くん聞いてる?」


 呆然としていた俺に、中村さんが無神経に顔を覗きこんできた。


「え、ああ! うん、なに?」


「やっぱり聞いてなかったんだ。はぁ……あかねちゃんもあかねちゃんだけど、星野くんも相当アレだよね」


「アレってどういう意味だよ」


 出会って一週間しか経っていないクラスメイトの女子に、どうして相当アレなんて呆れたニュアンスが含まれた言葉を投げかけられなきゃならないのか。

 でも、今日も柔らかそうな頬っぺたと、たれ目気味の碧眼が可愛らしいので許す。


「アレはアレです。星野くんは鈍感だから分からないのかもね」


「いやいやいやいや。俺より勘のいい男っていなくね?」


「エー、ソレハナイワー」


 心底呆れかえった様子で、中村さんは俺にジト目を向けてきた。

 しかも見事なまでの棒読みだ。流石の俺もちょっと心を抉られる。


「っで、星野くんってあかねちゃんのこと、好きなの?」


 今のしょうもないやり取りで流れたかと思いきや、しっかり本題を覚えてやがった。


「……どうしてそう思った?」


「んー、ナイショ」


 中村さんはいたずらっぽく笑いながら、唇に自分の人差し指を押し当てた。

 こんなにあざといキャラだったっけ?

 人見知りだったような気がするけど、逆に言えば俺に慣れたということだろうか。


「なんでだよー、理由教えてくれたっていいじゃねーか」


「えぇー、ダメだよ。こればかりはわたしの口からは言えないなー」


「なんだよー、ケチだな。別に減るもんじゃねーだろ?」


「減るよ? わたしとあかねちゃんの友情ポイントが」


「なにそれゲームかよ」


「案外この世界ってゲームみたいかもしれないよ?」


 そう口にした中村さんの顔は笑っていたが、目は笑っていなかった。そのせいで、中村さんにとっては軽い冗談なのかもしれないが、俺には真剣な話に聞こえてしまった。

 この世界が、ゲームか。

 ゲームねえ。

 

「……セーブもロードもできないクソゲーじゃねーか」


「あははっ、確かにセーブもロードもできないクソゲーだね」


 俺のツッコミに、中村さんは笑顔で返してくれた。


「だけどもしこの世界がゲームだったら面白いよね」


「ん、そうか?」


「そうだよ。だって好きな時にやり直せるし、好きな時に異能いのうのチカラだって使えるよ?」


 もしもこの世界がゲーム世界なら、セーブもロードも容易いことである。中村さんの言っていることは、そういう意味なんだろう。

 確かに、俺だってこの世界にそんな機能があったら一週間前に戻りたい。脳内に選択肢でも現れたら、それに従って、最もハッピーエンドに繋がる可能性の高いものを選びたい。そして中村さんの言っているように、便利な魔術か超能力といって異能の力を使いこなしたい。

 もっと言えば、異能の力をもった状態で異世界に転移したい。異世界に転移して、圧倒的な力で無双したい。英雄になって、女の子にモテまくりたい。

 本当に、中村さんの言うような世界があったらいいのに。

 俺は中村さんの言葉に感銘かんめいを受けていた。


「それ、理想の世界だな。俺もなまら強い異能の力でチートしたいですわ、チートってやつ」


「ほんとだよねー! 逆にしょうもない力なんか、いらないよね」


「そうだな。折角手に入るなら、世界を変えちゃうくらい大きな力が欲しいよな」


「ほんと、そうだよね。それくらいの力なら欲しいよね」


 そういう中村さんの顔は、どういうわけか暗い顔をしていた。


「中村さん、気分でも悪いの?」


「ひゃい!? ……なんで?」


「いや、なんか顔が暗かったから」


「そんなことないよ、わたしはいつも通り」


 そう言いながら、中村さんは校門から一歩飛び出した。

 どうして中村さんが暗い顔をしていたのかは謎だし、どうしても何かあったのか勘繰かんぐってしまう。でも人には誰だって聞かれたくないことがあるし、今の俺にだって聞かれたくないことはある。だから、これ以上の追及をすることはできなかった。

 それから俺達は他愛のない話をしてから帰路についた。

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