魔人化
しばらく黙ったままで居るとまだ信じられないか…と長谷部は呟き目隠しを外すように黒服2人に命令した。
「長谷部さん、規則に背いてしまうんじゃ…」
黒服の1人が上司に意見する。
すかさず長谷部は言った。
「馬鹿だなぁ規則なんてもんは破る為に存在するんだよ?それにこんな力を持った重要人物を逃がしたらどうなると思う?辞職に追いやられるどころか、人生路頭に迷う事になるぞ?まずは信頼関係を構築しないとな。お前たちもその辺のことを考えながら行動するようにしろ。」
シリアスな状態だったのにいきなり口調が変わったことで少し驚いてしまった。
黒服の1人は渋々といった様子で目隠しを取った。
目隠しを外してくれた人を見ると、やはり困った笑顔をしていた。
次に助手席に座る長谷部の方を見た。
「お?さっきよりも険が取れたかな?それじゃあ今までの話の証拠を見せよう。」
そう言って長谷部は右手の黒い手袋を摘まむ仕草をした。
「長谷部さん!そこま」
「だ、ま、って、ろ」
と笑顔のままに言う。
黒服の引きつった顔が思い浮かぶ、隣に座っている彼はきっと凄く微妙な顔をしているはずだ。
黒い手袋を摘まみそのまま引っ張り、
手の甲を見せて来る。
見せられた右手には黒い球のようなものが埋まっていた。
「これを見たことのある人間は中々に少ないんだ。機密事項だからね。さっきも言っていたよね。このコア、まぁ球の力で悪魔化を制御しているんだ。」
この妙な球を手に埋め込んだだけで悪魔化が抑えられるという。はっきり言ってびっくりするだけで説得力はまるでない様に感じられた。
「うーん、まだ信用されてないみたいだな。これだけだと肉体に装飾品を埋め込んだだけのアクセサリーって感じだしな、それじゃあ」
と言ってふんっと力を入れる様な仕草をした途端、手に変化が起こる。
シュルシュルと繊維質な何かが長谷部の右手を覆いだし形を作っていった。
指の先端は尖り、手の肌は黒みを帯び異質なものへと変化していった。
「ふぅ、これがさっき言ってた部分的な魔人化だよ。一応は信じてもらえたかな」
と聞いてきた。
「それだけだと、悪魔って感じですよね」
素直に言う。
「完璧な魔人化なら殆ど見た目に変化は無いんだけどね。なるほど魔人の力を制御してると言うより悪魔化を制御してると言う方がしっくり来るね。ところで信じてはもらえたみたいだな」
「まぁ、ここまでしてもらったら多少は信じますよ」
と少し苦笑いをしていた。
「そうか、それは良かった。他に何か質問などはあるかな?機密事項に抵触するような事でも何でも聞きたまえ」
この人何だかヤケになってるんじゃないだろうか?
羽振りが良いのは都合が良いがここまでしなくても良いのではないか?
困惑した表情で隣の黒服を見るとこの人魔人化の前後は少し性格が変わるんだ、もう諦めたと言っていたので素直に聞いた。
「さっきのあの球を今の第二世代の人たちは皆持ってるんですか?悪魔化を抑え、更に戦うことが出来るような物ですよね。」
都合の良いアイテムの発生に何か違和感があった。こうなる事が分かっていて研究所で開発が行われていたのではないか。1つの推測が頭にうかんだ。
「概ねその通りだよ。コレが無ければ第二世代の人間は悪魔化が進行し、化け物になるか死んでしまうからね、生き残った者達は皆一様にこの球が埋め込まれてる。」
「研究所の人間が開発したんですか?そんなもの都合良く作れるものなのでしょうか?」
「人間が作ったものじゃないんだ。悪魔化が進行して死んだ人間や化け物が死んだあとの身体はどうなると思う?」
聞かれた質問に思考していると
「骨も残らない、全て灰になるんだ。だが稀にその中から見つかる物がある。この犠牲者の核がね。」
手をかざし、見せるようにして言った。
「そしてコレを埋め込む事で、変化の起こった細胞を悪魔化したかの様に騙すことが出来る。変化仕切ったと身体に勘違いさせるわけだ。暴走増殖を繰り返し起こっていた変異細胞は沈静化させることが出来たというわけだ」
「それと共に部分的ではあるがコントロールが可能になり身体能力など飛躍的に向上し、化け物とも戦える身体になったわけだ。」
ひとつ疑問が浮かぶこんな悪魔の身体から入手した物を人間の身体に埋め込むなんて発想が出てくるんだろうか。
埋め込んだところで何の成果も得られない事もある。もしかしたら更に酷い状態になったかもしれない。
「人の身体にそんな物を埋め込むなんて狂気としか思えませんね、そんな考えが浮かぶ人間にはなるべく関わりたくないんですが、今からそんな場所に連れて行かれるんですよね」
不安を口にしていると長谷部は慌てた様子で言った。
「違う違う、最初は全く偶然だよ。悪魔化の進行で死んだ者の直ぐ側に悪魔化が進んでいた患者が居たんだが、勝手にこの球が吸い寄せられる様に同化しただけなんだ。」
「その後の研究により、悪魔化の進行が進んだ部位にコアを近付けると同化することが分かっていったんだ。その後の人体の変化などはその副産物に過ぎない。」