送迎
母を病院に送り、手術が始まった。
どうして、こんなことに…。
自分の事ばかりを考えて周りの人間の事を考えてなかったのがいけなかったのか。
こんなことになって冷静でいられるほど15の少年の心は成熟してはいなかった。
仕方のない出来事であったが遙は自身を責める事で辛うじて壊れそうな自我を保っていた。
が待っているのが辛い、手術室の前から消えたい衝動に駆られ離れる。
人のいない病院は薄暗く不気味だった。
リノリウムのタイルを歩き何処かは分からないが、手術室から離れる様に移動していた。
僕の前から大事な人は居なくなっていく。
そんな事を考えていると、黒いスーツ姿の男が3人目の前に立っていた。
「はじめまして、君が夏目 遙君だね」
1人の男が前に出て話してきた。
「そうですけど、貴方たちは…」
そう答えると男は言った。
「第一級特別封鎖地区教育担当課 係長の長谷部 史郎と言います。」
男は名刺を渡した。
「はせ…べさん」
目の前の男は続けて言った。
「お母さんが大変な事になってる様だね、非常に残念だが状況は分かっているかい?」
「は…い、母の容体の事で、はありませんよね?僕を迎えに来たんですか?」
感情の無い声が出ていた。
「すまないね、話が早くて助かるよ」
男はカバンから書類を取り出し、内容を確認したら書面にサインをするように促す。
諦めに似た感情が湧いてくる。
ああ、これで僕の人生も終わりだな、父も姉も母も自分自身もこの国に殺されるのか、と考えていた。
とその時黒スーツの男は携帯電話を取り出し何処かに連絡をしていた。
「長谷部です。今対象の夏目少年と接触した所です。今から入学のため、意思確認と誓約書の手続きをしている所です。確認が取れましたら寮へ搬送致しますので宜しくお願いします。」
そう言って長谷部を中心に2人の男が両脇に立っていた。
どうやら青桐学園には寮が存在するようだ。
普通の学校のように家からそのまま通えるわけがないかと考えていた。
書面に目を通し確認のサインをする。
サインし終わった所で男は言った。
「ではこれから学園まで同行願うよ」
病院を出た直ぐに黒塗りの車が停車していた。
あれに乗るのか。
車に招き入れると2人の黒スーツに挟まれて座らされた。
いきなり目の前が暗くなる。
目隠しをされたようだ。
長谷部の声だけが車内に響いた。
「続け様にすまないね、これから学園まで送るが景色を見ないようにしてもらいたいんだ。かなり距離がある為、耳までは塞がないよ、トラウマなどの精神的ショックはなるべく与えないようにしている。話くらいはしても良いからリラックスして欲しい。」
男に従い、はいと言った。