虚無感
いつ家に着いたのか分からない。
ただフラフラと力なく、歩いて帰って来たのは覚えている。
外から帰っている間に汗だくになっていた。
そのまま空になったペットボトルを一点に見つめていた。
母は何と言うだろうか、
三年間特区行きになった姉はまだ帰らない。
あそこがどんな場所であるかも聞くことは出来ない。
姉はこんな気分だったのだろうか、今にも爆発しそうだった感情は何かに吸い込まれていく様だった。
ふつふつと湧き上がる感情が何なのかは分からない。
湧き上がり、澱み、何処かへと吸い込まれ消えていく、何かを整理するように感情は反芻して消えていった。
気が付くと夜になっていた。
家の中は暗く目をつぶっているのと変わらない様に感じた。
何も感じない、暗く静かで孤独さえも感じることがなかった。
「助けて、誰か…。」
自分が発したモノではないコトに気付き声のした方へ歩く。
「どうして…どうして誰も助けてくれないの、孝治さん何故死んでしまったの?奏も連れて行かれて、今度は遙まで…。」
「私には何も残らない」
しばらくして声は聴こえなくなった。
帰っていたのか、何処だ!
何処にいる!嫌な予感がする。
居間を覗いてみると、そこには黒い影がよこになって動かずにいた。
近くまで行く、段々と目が慣れて来たところで、首に刃物を刺し動かない母が横たわっているのに気付いた。
救急車を呼んだ。
助けが来るまで止血しないと行けない。
タオル、シーツ、服ありとあらゆるものを首に当て血を止めようとしたが赤黒く染まっていくだけだった。
手に付いた血が乾くに連れ
少しずつ少しずつ母の温度が無くなっていった。