異界門
長谷部からの説明を頭の中で反芻し疑問が浮かぶ。
言われるような力があれば確かに異形の者と戦えるのかもしれない、ただ分からないのは自分の様な子供がどの様にして力を得てどの様に行使するのか。
遙は、どうすれば特区が通常の地域へと戻るのか、解決するための目標というものについて説明がないことで、これからのことを曖昧な想像でしか構想を練ることが出来ずにいた。
「長谷部さん、分からないことがあるんです。長谷部さんが第二世代の人間で異形の者に対して戦闘する能力あるということは分かりました。でも僕自身はそんな実感はまるでありません。青桐でいったい何をするんですか?」
当然の疑問に長谷部は短めに答えた。
「そうだね、これから行く青桐学園は養成機関なんだよ」
「養成機関?」
「そう、養成機関だ。君たちは私達の様に進んで身体能力を強化された訳ではない、だが異形の力に影響されない適性がある、端的に言おう今から行く青桐は奴等に対抗するための兵士や衛士を育む機関なんだよ」
「兵役の様なものですか?」
「君からすれば強制も良いところだからなぁ、まぁここ数年の間に向こうさんの活動が活発になってきたのと新種が発見されてね、それに対抗する為に強化外骨格が開発されているんだが、それを扱える可能性があり適性のある人材が君たち第3世代の人間なんだ、もちろん何の訓練もせず何処ぞのロボットアニメみたいに素人を戦地に駆り出すなんて無謀な真似は出来ないし、予算の問題もある。ちゃんとした戦略なんかを学ばなければ開発された強化外骨格も役立たずだしね」
ロボットや強化外骨格という聞きなれない単語に多感な時期である遙は年相応に反応しても良いくらいであったがその態度は明るくない。
帰って来ない姉を思ってなのか、これからの自分に降りかかる困難を想像したか遙の態度は長谷部には読み取れなかった。
「そうですか、僕らの様な子供が多くいて、化け物を倒すための戦力になるようにする教育機関に行くというコトですか。実はまだ質問があるんですがよろしいですか?」
「ああ、答えられる範囲なら何でもオーケーだよ」
「異形者は何処からやってくるのか、それがわかるならその対処方法はあるのか?という疑問です。何時から戦いが行われているのか厳密にはわかりませんが特区が出来てからかなり長い間んじゃないですか?」
青桐学園の校長が迎えに来るという脅し文句、特区の存在、反社会人適合数値の扱いについては違和感無く社会に浸透していることからして自分自身が生まれる前からなのではないかと遙は考えていた。
「元の研究所だった場所は化け物の巣窟となり異界への入り口が地下深くに根付いているようだ。しかも年々その深さは増すばかりだよ、まあ言ってみれば迷宮というやつかな。迷宮の奥にある異界への入り口は便宜上、異界門とでも呼ぼうか、その異界門を通って化け物が出てくる様だ。そしてその活動周期は三ヶ月ごとに活発になることが分かっている。門の活動周期中は普段と異なる規模の化け物が這い出てくる。我々は活動周期中の化け物退治と迷宮の探索を繰り返し行い異界門を閉じるために長年奔走しているわけだが、さて夏目君ここで俺は何歳位に見えるかな?」
「そうですね、20代前半から中といったところですか?どんな意図が?」
意図しない質問に戸惑いを感じながらも遙は答え、その答えに1人を除きまたかという顔をする者が2人居た。
「今年で実年齢は63になるな」
「はぁ??」
あまりに見当違いな答えに抜けた声が車内に響き渡ったが、両隣の黒服に驚いている様子は見受けられない。
「ある研究所での事故のすぐ後だったから今に比べると小さな迷宮だったんだが当時、異界門閉鎖の特殊作戦軍に参加してね、武器も戦う力もまだまだ少なく案の定作戦は失敗、生き残った者は犠牲者の核無しに生きられない身体になってしまった。悪魔化に苦しむ一方でその効能は肉体の最盛期に近い状態へと身体を変化させ、俺のの時間は緩やかに歳をとる様になったのさ、そして異界門を壊せなかったことで、ほぼ同時期にある研究所が第一級特区に変貌した。まぁ君が産まれる以前の問題だ」