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08 四日目



 カルロが運転してきたリムジンの中で、遊は隅で頭を抱えて踞っていた。

 声がかけづらい。

隠したかった過去を言い当ててしまったせいだろう。

 初日に言っていた「就職が無理」とは、それのせいだったんだ。

お嬢様が就職が嫌がっていたのではなく、就職が出来なかったのだろう。

 リキは詳細を訊きたがって、そわそわとそわそわと身体を揺らしている。

今はだめだ、と掌を向けて止めておく。


「いーやぁ、びっくりですねぇ。まさか、元ギャングなんて!」


 カルロは気を遣うことなく、笑って言うものだから、ギョッとした。

 反応した遊は、まだ手にしていた銃を投げる。カルロは間一髪両手で受け止めた。


「そうだ! 元ギャングだ! 黒歴史だ! 葬りたい過去だっ!」


 やけくそのように声を上げて、遊はじたばたと座席の上でもがく。


「ぐれてて、ちょっとした思い付きだったのにっ、何故かギャングのメンバーが集まって、親分親分って皆あたしについてきてて、あっちこっちで暴れまくってっ……有名になっちゃってっ」

「親分……つまりは遊さんがボス!?」


 まさかの遊自身がボス!?

オレがギョッとしていれば、リキが食い付いた。

 リキが目を輝かせているものだから、ギロリと遊は睨んだ。リキの反応は遊を怒らせる。


「リキ、タピオカジュース買ってきてくれ。遊、なにがいい?」

「……マンゴー」

「わかった、マンゴーを」

「は、はいっ」


 遊の機嫌を治すためにも、リキには離れてもらう。

 膨れつつも遊はマンゴージュースを選んだ。リキは逃げるように、リムジンから降りて走り去った。

カルロにも視線を送り、リムジンから降りてもらう。


「……はぁ……」


 遊は座席に横たわり、深く息を吐いた。まだ膝を抱えている。

相当、悔いているようだ。


「……その、ギャングをやっていたから、就職ができなかったのか?」

「母親にはかろうじてバレてないけど……仲間が、ギャングのトレードマークつけたまま近所に来たから……あたしがヤバい連中とつるんでるって噂が広まってるんだ……」


 頭を抱えながら、呻くように遊は答えた。

 母親にも隠してギャングのボスをやっていたが、ギャングと交流があると知られて、働くこともできないようだ。

 何故仕事に就かないのかと責められても母親には言い訳ができず、遊はうんざりして日本から飛び出してここに来た。


「言っとくけど!」


 遊がいきなり飛び上がり、オレに詰め寄ったから驚く。


「殺人も強盗もしてないし、薬だって扱ってないから!」

「えっ……ああ……」

「単なる喧嘩好きの不良集団! 遊んだり、不良と決闘してただけだから!」

「そ、そうか……」


 喧嘩好きの不良集団。前科もないと遊は、必死に言う。

 オレは頷いたが、なにか不満らしく顔をしかめて膝を抱えた。

拗ねたような表情が、年相応らしくて――可愛らしいと思えた。


「……その、シックな格好。それと口調は、やり直すためか?」


 遊のシックな格好はギャングとは思えないもの。ギャングをやめて、格好を改めたのだと推測できた。

口調も同じだ。

 遊は更に唇を尖らせた。


「父親だけは知ってて、君がやり直せるように元仲間から遠ざけたのか」

「……言っておくけど、元仲間は有毒じゃない。……いいやつら……よ」

「……」


 普通は悪い連中から引き離して更生させる。

 だが、遊は人を見抜く。過ちでギャングを作っても、リーダー的存在をこなしす遊が真に悪い人間を仲間にはしないだろう。

 でもなにか問題が起きてしまった。それがギャングをやめることにしたきっかけ。

それを話すことをしようとはしない。


「……わかっている。オレのファミリーが、いい人間ばかりだということと同じだろ」


 初日に遊が、オレのファミリーをいい人間で、いいマフィアだと言ってくれた。

 顔を上げた遊は、そうだと肯定するように微かに笑みを浮かべる。


「あたしと一緒に道をちょっと外れても、ばか騒ぎするだけのいいやつらだから……やめるべきだと……解散するべきだと思ったんだ……正しい道に戻るべきだと思ったんだ……」


 抱えた膝に顎を乗せると、遊は呟くように言った。

 ああ、なるほど。仲間達もギャングをやめさせるために、遊は解散させたのか。

仲間達のためにも。

 遊はそれ以上、話そうとはしなかった。オレも訊かない。

 遊の喧嘩強さの理由がわかっただけで、十分だった。

冷たい雰囲気を纏っていても、内側にはきっと情熱を抱いている。遊は、そういう子なのだろう。

 自然と、口元が緩んだ。

遊はうっとおしそうに顔をしかめて、そっぽを向いてしまった。




 その日の夕食時のダイニングルーム。遊が元ギャングだと言う噂で賑わっていた。

ギャングというワードを耳にして遊は、自分の噂だと気付いてしまう。

 ギロリ、と遊はオレの横に立つリキを睨んだ。

リキは青ざめて激しく首を横に振った。


「リキじゃない、君に言われたのだから」


 オレは庇う。口止めされたのに、リキが言い触らすはずはない。

 リキではない。そうなると、オレかカルロ。オレは片時も離れていないから、消去法で犯人は彼に行き着く。

 遊は瞬時に席についたカルロに目を向けて睨んだ。

カルロは席についたままでは、危険と判断して立ち上がり逃げる準備をした。


「遊! すぐに足を出してはだめだ、喧嘩早さを治さないと」

「むぐーっ」


 遊が飛びかからないように後ろから両腕を掴んで止める。今回は掴まえられた。

遊は恨めしそうにカルロを睨む。


「おやおや。言った矢先に、バレちゃったのかい? 遊」


 そこにトゥロポ兄弟に挟まれて、ボスがダイニングルームに来た。

 オレに寄りかかるように、遊は不機嫌そうに振り返る。


「ボス、おかえりなさい。早かったですね」

「ああ、意外と早く済んだんだ。一緒に夕食が過ごせて嬉しいよ、遊」


 ボスはオレに答えると遊に笑いかけた。


「コイツ! わたしの頭を撃ち抜こうとした!」


 ビシッと遊がカルロを指差して告げ口。


「頭だって? カルロ。レディーの顔をペイントで狙うなんて何事だい?」

「謝りましたって。つい、ね」


 腕を組んでボスが叱ると、カルロは苦笑を浮かべながら答えた。


「ペイント弾なら服を汚す程度で済むと思ったのだけれど、別の弾に変えようか?」

「実弾とか?」

「いや、それは余計だめだからね!?」


 遊の冗談に、次はボスが苦笑を溢した。オレは実弾からでも守れると言いたいが、危険すぎるから言わない。


「水鉄砲にするかい? 春ならすぐ乾く」

「それじゃあヴォル・テッラにハンデあげすぎでしょ」


 ボスは試練に使う弾を考えながら、遊の椅子を引いた。オレはすぐに遊の手を取り、その椅子へ案内して座らせる。


「考えておこう。さぁ、食事だ」


 座った遊の頭を撫でて、ボスがその場にいる皆に声をかけた。

遊はその手を嫌がり、振り払う。ボスは「ごめん」と笑って席についた。

 初日と違い、ボスも遊も柔らかい雰囲気で話しているように見える。ボスを嫌っているわけではないのだと安心した。

 オレも椅子に座ると、隣で遊が口元を押さえて俯いている。

それはまるで、恥じらいの仕草に見えた。

 でもその手で髪を整えた遊は、いつもの綺麗な横顔だ。


 夕食をとりながら、オレは考えた。

遊は有力者の娘だと思い込んだが、大切に思う友人は利益のある関係だけではない。

恩のある友人の娘だろう。

 不可解なのは、ギャングから抜けたばかりの遊をマフィアに預けたこと。

ギャングと同一にはされたくはないが、社会復帰を望むなら近付けてはならない存在のはずだ。

信頼していても、預けるだろうか。

 遊の父親についてわかっているのは、娘想いで、お金持ちだと言うことだけ。

それからボスが頼みを引き受ける間柄だということ。

 遊はロームに似ているが、ヴォルフの血を継いでいる人間はボスとロームとそしてボスの再従兄弟であるアリビト・ヴォルフだけ。

 アリビトには子どもはいないし、彼とは似ていない。血縁関係者ではないことは確かだ。アリビトとは、親しい仲ではないし。



 夕食のあとも考え込んでしまったけど、遊が不機嫌になることはなかった。

背中の後ろで手を組んで、軽い足取りで廊下を歩き、そのまま送った部屋に入った。


「おい、ヴォル!」


 オレが部屋で寝る支度をしていれば、ダンが扉を開いて詰め寄ってきた。


「あの女の素性を探ってこい!」

「え、なにを、唐突に……」


 がしり、とダンはオレの肩を掴み言う。あの女、とは視線からして隣の部屋にいる遊のことだ。


「あの女とボスが並んだら似てると思えてきた! ボスのもう一人の隠し子なんじゃないか!?」

「えっ……そんなわけ」

「ありえるだろ! ボスだって男だ!」

「ボスに限ってそれはないと思うが」


 ロームとは別の隠し子だと推測するダンだが、オレは違うと思った。

ボスはそんな男じゃない。


「娘がいきなりひょっこり出てきたって不思議じゃない。それにボスは一ヶ月前と一週間前に日本に行っているんだ、その時日本で会ったのかもしれない。ありえるだろ」

「オレも一緒だった」

「四六時中はいなかっただろ?」

「……まぁ、少しだけ」


 ボスと日本へ行った時、別行動をした。一ヶ月前は休暇中の師匠に挨拶しに行ったし、一週間前はホテルの部屋は別で長い時間会わなかった。

遊と会った可能性はあると言えるが、もう一人の隠し子は違うと思う。

 ボスは女性に好かれるかっこよく紳士的な人だ。女性関係は全く聞かない。

 彼の口から出る愛している女性の名は、二つだけ。

ロームと、ロームの母。

だから別の女性なんて、ありえない。


「やはり違う」

「じゃあ、じゃあ、これだ。恋人かもしれない」


 もう一人の隠し子という推測を却下したら、ボスの恋人かもしれないと言い出した。それは憶測だ!


「遊は、未成年だ!」

「年齢は関係ない! 見ただろ、あの女、ボスに頭撫でられてちょっと顔赤くしてたぞ!」


 それを聞いて面食らう。

ダンから見て、遊は顔を赤くしていたのか?

 途端にもやっと胸に違和感がわいてきた。

ボスと遊が……。


「そ、そんなことっ」

「ないと言い切るなら確かめてこい! オレはあんな女がここの女王様になるなんてごめんだ! 夜も眠りゃしない!」

「うわっ」


 ダンに胸ぐらを掴まれ、そのまま部屋の外まで引っ張り出された。


「なにかわかったら連絡しろ!」

「うわっ、と!」


 遊の部屋の扉をノックすると、ダンは開けてオレを押し込んだ。


「遊っ、すまない! 失礼するっ……!」


 無断で女性の部屋に入ってしまった。慌てて謝り、遊を探す。

遊は、バスルームの前に立ってきょとんとした表情をしていた。

着替えの途中らしく、黒いハイソのまま。ブーツは履いていない。

 寝間着のシルクのYシャツを着ていて、胸元より下の位置のボタンを付けようとしていた。他のボタンはつけていない。

 女性にしてはくっくりした鎖骨。膨らみが分かる胸元。お腹にあるヘソ。短すぎる黒の短パン。

シルクのYシャツの間から、それらが見えた。

 あ、ぁうわぁあああっ!!

 咄嗟に部屋から出ようとしたが、既に閉められてしまった扉に頭をぶつけるはめになる。


「なに?」


 オレとは違い、遊は動揺していない。落ち着いた声で用件を問う。


「ま、まず、服を着てくれ!」

「は? 着ているけど」


 扉に額を押し付けて必死に動揺を抑えようとしていれば、遊が歩み寄ってくるのを感じた。


「そ、その、ボタンをつけてくれ!」


 これ以上近付かないように振り返らないまま左手を突き出す。

すると、シルクの肌触りと柔らかさをその手に感じた。

 思わず振り返れば、シルクのYシャツを一枚しか着ていない遊の胸に、オレの掌が当たっている。

青ざめるべきか、赤くなるべきかわからない。


「ぁうわぁあああっ!!」

「失礼な反応ね」


 身体が硬直しかけたが、手を引っ込めて離れようとしたが、また扉に頭をぶつけるはめになった。


「すまない! すまない! わ、わざとじゃ!」

「ふぅん?」


 なんとか離れたくて横へ移動する。遊は怒った様子もなく、ただオレを追い掛けてきた。

 まだYシャツがしまりきっていないから、目を背けなから部屋の中を逃げ惑う。

楽しがっている遊は追い掛けてきた。


「遊! 頼むからっ!?」


 近付く遊を気にしながら後ろ向きに歩いていたら、壁際のベッドにぶつかり倒れる。

 ベッドの上に倒れたオレの上に、遊が馬乗りになった。その格好のまま。

 目を閉じなければならない光景。絶対に遊の肌を見ないように目を塞いだ。


「遊〜っ!!」


 退いてくれと声を上げる。だが、お腹にのし掛かる重さは消えない。


「聞こえてたわよ。ダンにもう少し声量を押さえるべきだって言わなきゃ。それで質問はどっち? 一つだけ答えて上げる」


 用件はわかっていた遊が、問う。


「わたしが六代目ボスの娘かどうか。または六代目ボスの愛人かどうか。どっちの答えが欲しい?」


 遊の指先がオレの胸をつついた。

片方の質問しか答えないと言うのなら、二番目を選ぶ。


「あ、愛人かどうか……答えてほしい」


 ダンに伝えるべき答えだけを聞こう。一番目の答えは、オレから否定する。


「……遊?」


 遊がオレの上に座ったまま沈黙するから、目を塞いだオレは不安になった。

 手を退かして遊の顔だけを見ようとしたが、遊の手がその上に置かれてしまう。これでは見えない。

 遊はまだなにも言わなかった。どうしたのだろうか。

 質問の内容に怒ったのかと思ったが、それなら自分から言わないだろう。

 遊が動いた。シャンプーの香りがして、湿った髪の毛がオレの頬にかかったのを感じる。

 遊が、顔を近付けている?

呼吸を感じる。今のオレと遊の体勢を想像して、その原因を考えた。

だが、高鳴る鼓動が思考を邪魔する。


「ヴォル・テッラ」


 遊の声が、唇に触れた。

唇と、唇が、近い。

 固まったままオレは黙る。遊の言葉の続きを待つ。


「……もう一つの質問、添い寝してくれたら答えてあげる」

「えっ……いや……もう一つの質問はいい」

「……あっそ」


 もう一人の隠し子なんて、ありえない。ボスに限って違うと言える。

その質問は必要ない。

 遊はまるで残念がるように言うと、オレの上から退いた。


「え、遊? 質問の答えは?」

「……はぁ。お前バカ野郎ね……」


 バスルームに向かおうとする遊を呼び止めれば、溜め息をつかれた。

ボタンをつけながら、遊は扉に向かうと開く。


「わたしはアンタのボスの愛人じゃない。さっさと寝なさい」


 廊下で待っていたであろうダンに告げると、バタンと扉を閉じてまたバスルームに向かう。

 オレはほっとした。廊下でもダンは胸を撫で下ろしただろう。


「ヴォル・テッラ。添い寝しないと、眠れなくって邸宅から抜け出してギャングのいる夜の街をふらつくかもしれないわよ」

「!?」


 バスルームに入った遊が言ってきたから驚く。

 それは困る!

実行しかねない遊を見張るためにも、オレはまた遊の部屋にいることになった。

 添い寝は断り、ソファで眠る。

眠りにつくまで、ベッドに横たわる遊にボスのかっこいいエピソードについて問われた。

 ボスのかっこよさがわかるエピソードを話すとなると、一晩では足りないほど多すぎる。

 遊に話せる内容のものから一つを選んで話した。

マフィア要素はなるべくぼかして、いかにボスがかっこいいかと語ったのだが、前回と同じく遊はいつの間にか寝息を立てていた。

 遊が夜遊びしないためにも、オレはそのまま瞼を閉じて眠りに落ちる。



  つんつん。

 鼻をつつかれ、目を開いた。朝陽が射し込む部屋の天井がぼんやりと見える。


「朝よ、お寝坊狼くん」


 綺麗な顔の遊がソファーの手摺に座って頬杖をついて、オレを見下ろしていた。

 透けた黒のストライプのシャツ。ゴールドの十字架のネックレスをシャツの上から垂らしているから、オレの鼻先で揺れた。

 遊はもう着替えている。オレは寝過ごしたのだと気付き、慌てて飛び起きた。


「少し待ってくれ! 先にダイニングには行かないでくれ!」


 遊に待つよう頼んで、オレは慌てて部屋に戻り支度をする。

 低血圧なのに、遊はオレより起きるのが早い。意外だ。

 支度を終えて部屋を飛び出すと、廊下の窓が開いていることにすぐ気付く。

昨日と同じく、中庭に遊が立っているのが見えた。

 手には小さなボール。

昨日は素っ気なくしていたが、今日は狼達と遊んでくれているみたいだ。

ちょっと微笑ましく思えた。

 遊は投げるために大きく振りかぶる。そのフォームは野球選手のように見えたから、きっと遠くまで投げられるのだと予測できた。

遊はスポーツなら何でもそつなくこなしそうだ。

 予想通り、遊は空に向かって遠くまでボールを投げた。

 敷地内に落ちるといいが……。

心配して窓から顔を出して行方を見守ろうとすれば。


  ――ダッ!!


 遊の左右から、リカメンとルポが飛び出してボールを追い掛けた。遅れて番犬である狼も駆け出す。


「な、なにやっている!?」

「なにって、ボール遊びだよ」

「!?」


 窓から身を乗り出して叫ぶ。

そうしたら、真横にボスが立っていて驚いた。彼は気配を消すのが上手すぎる。


「おはよう、ヴォル。遊が遊んでくれているんだ」

「あ、ああ、そう、ですか……」


 番犬と一緒に、マフィアの幹部がボール遊びに付き合ってもらっている。

 リカメンとルポは狼に育てられたかのように、野生的だ。気を抜くとどんな場所でも寝てしまう。

 本能的になついて、本能的に警戒して、本能的に寝てしまう兄弟だ。

 その動物的本能で、危機から幾度も救われた。

それがリカメンとルポなのだと割り切ってはいるが、意外すぎる行動には驚いてしまう。

 遊は呆れながら、遠くでボールの取り合いをする彼らを見ていた。


「昨日はどうだった? ギャングだってどうしてバレたんだい?」

「あ、それは……」


 楽しそうに眺めながらボスが訊いてきたから、オレは先ず謝る。

問題のギャングに、遊から喧嘩を売って戦った。

そばにいたにも関わらず、止められなかったことを謝罪する。


「……やれやれ。困った子だね」


 ボスは眉間にシワを寄せて、遊を眺めた。

 リカメンがボールを持って戻ってきて、遊に渡した。ルポと番犬達も戻ってきて、また投げるのを待つ。


「遊、おいで」


 ボスがそんな風に呼ぶから、遊は顔を向けて少し怪訝な表情をした。

 遊はもう一度ボールを投げる。だが今回はリカメンとルポが襟を掴み、番犬を先に走らせた。

解放されたリカメンとルポは、出遅れてもボールを奪うつもりで走り出す。


「……なに」


 不機嫌な声音で遊は、ボスの元まで歩み寄った。


「ギャングに喧嘩売ったんだって? だめじゃないか。それではギャングをやめる前と同じだ」

「……」


 ボスは子どもを諭すように遊を叱る。それは遊が怒り、足が出るのではないかとひやひやした。

 だが遊はムスッとした表情をして俯くだけで反論もしない。


「今日は外出禁止だ」

「は!?」

「ギャングの報復が心配だ。預かる身として、今日は外出を許可できない。それと罰だよ。ここでは私がルール。従うって君は了承したはずだ」

「……んぐっ」


 ボスと遊のやり取りを横で見て、感心する。

 基本自分の意思を突き通す遊が、反論できずに唸るだけ。

外出禁止を受けるようだ。

 流石はボスだ。惚れ惚れしてしまう。


「決まりだ、今日はゆっくりしていてね。遊」

「……んっ」


 ボスはクスクスと笑いながら、遊の頭を撫でる。遊は嫌がり、いい加減な返事をしながら一歩後ろに動いて避けた。


「ヴォル。頼むね」


 オレに一言告げると、ボスは番犬達とボールを取り合うリカメン達の元へ向かう。

 そんなボスを、遊は触れられた頭を押さえながら見ていた。

 俯いた彼女は頬を赤らめている。それはまるで、照れているような表情だったから、オレは目を見開いた。

 恥じらうような仕草をする遊は、とても可愛らしくて、見惚れてしまった。

 オレの視線に気付いた遊はキッと睨むと、昨夜のようにオレの目を塞いだ。




20140717

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