22 継承式
三人称。
ロームがトミーの手によって攫われたことは、間も無くして屋敷中に知れ渡った。
ヴォルが部屋の前を離れた隙に、トミーが持ち場である裏口からロームを運んだのだ。
「なんでトミーが……」
思わぬ裏切りにリキ達は困惑した。
トミーは妻子持ちのいいファミリーの一員だ。信頼も厚かった。
「はっ……! 誰かトミーが妻と連絡を取っているところを見たものは!?」
ヴォルはある可能性に気が付く。
「トミーの妻も子どもも、日本に来るはずじゃ……」
「連絡しているところ、そう言えば見てませんっ」
「っ! 人質に取られたんだ!」
人質にされて要求を呑むしかなかったのだと理解した。白銀の髪を握って悔しがる。
「気付いてやれなかった……畜生っ!」
苦渋の選択だったに違いない。
ヴォルはケイタイを取り出して、カルロにかけた。
「ロームが攫われました。トミーが人質に取られたらしく……オレのミスです。すぐに捜し出します」
〔……それは大変だ。ケルベロスはいるか?〕
「ケルベロス?」
こんな時になんだとヴォルは顔をしかめつつも、周りを見回してケルベロスを呼んだ。しかし白い仔犬のような狼は現れなかった。
「いませんね」
〔なら大丈夫だ〕
「? どういう意味ですか?」
〔信じろ、ヴォル。継承式に出る準備をしろ〕
「……っ。はい……」
ロームが心配でならないヴォルだったが、カルロを信じることにして頷く。
電話を切って、深く息を吐いた。
ロームの身を危惧する気持ちを抑え込み、指示を下す。
「皆、正装に着替えろ。式に向かうぞ」
◆◇◆
とあるホテルのパーティー会場で、フェンリルファミリーは集結した。
そして次のボスを選ぶ投票が始まる。
ボス候補に名前が上がったのは、ローム・ヴォルフ。そしてアリビト・ヴォルフだった。
ヴォルとこの場にいない者を含む8人の幹部は、ローム・ヴォルフに票を入れる。
しかし、ローム本人はその場にいなかった。
「んで? ヴォルよ。おめーの婚約者で、6代目の娘、7代目候補。ローム・ヴォルフは何処だぁ?」
ディールの首輪が入った箱を持つヴォルに、アリビト・ヴォルフは意地悪く問う。ニヤついた笑みも隠さなかった。
「ローム・ヴォルフは辞退ってことだよなぁ!? ならオレしかいない!!」
「くっ……」
「7代目ボス、アリビト・ヴォルフ!! さぁ、拍手しろ!! 喜べっ!!」
ははははっ、と高らかに笑うアリビト。
「ヴォル!! 首輪を渡せ! このオレが7代目だ!!」
ヴォルの持つ首輪を要求した。
だが、易々と渡す訳にはいかない。
死ぬまで外せない代々ボスが証としてつけたディールの首輪。それを箱を開けて見せた。
「ーーこの首輪欲しさに、お前はっ、お前は6代目を殺めたんだろ!?」
ダンッ、と箱を閉じて拒んだ。
「あの方を殺めた!! ボス殺しに渡せるかッ!! ロームのことも攫ったんだろ!? ロームを返せ!!」
ヴォルの問い詰めに、アリビトはニィと笑う。
「証拠は?」
アリビトは、ただ嘲る。
「証拠なんてない!! そうだろ、ヴォル!! 足掻くな、それを寄越せ!!」
誰もが何も言い返せない。証拠がなければ、ヴォルフに手を出せないのだ。
ヴォルは、ギッと箱を握り締めた。
その時、ヴォルの中に過ぎったのは、最終試練の最終日。ロームがヴォルに告げた言葉だった。
一人じゃない。わたしは味方よ。
更に力がこもったその瞬間、爆音のようなものが響いた。




