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狼賊-フェンリルファミリー-  作者: 三月べに@『執筆配信』Vtuberべに猫


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23/25

21 お父さん




 とある古びた屋敷に、ヴォルは来た。扉を乱暴に開ければ、出迎えられる。


「あっ、ヴォル兄貴! お帰りなさいっ!」

「サプラーイズッ!!」


 パンパパパン。とクラッカーの破裂音が響き渡る。飛び出した紙吹雪と長い紐などがヴォルと、ヴォルに抱えられたロームの頭に乗っかった。


「……」

「……」


 二人は沈黙する。Happy wedding dayと書いてあるそれを、ロームは冷めた目で見た。


「……あれ。遊さんじゃねえか!?」

「遊さんをなんでっ……」


 ヴォルがお持ち帰りしているんだ!!?

 一同はそう驚愕した。だがそんなこと関係ない。


「幸樹さん!! 手当てをしてくださいっ!!」

「!?」

「ソファー空けろ!! 殺し屋が送り込まれたっ! 侵入者を許すな! 配置につけっ!!」


 空いたソファーに抱えていたロームを下ろして、ヴォルは指示を飛ばす。

「はいっ」とバタバタ配置につき始めた。


「はい。ドクターです。診せてください」

「すみません、幸樹さん。撃たれました、貫通はしていません」

「……日本人?」


 茶髪の男性が微笑みを浮かべて、ロームのシャツを脱がす。ファミリーは全員アメリカ出身に対して、この男だけは日本人に見えたことに疑問を持つ。初めて見る。


「椿の兄です。笹野幸樹です、よろしく。ローム・ヴォルフさん」

「椿さんのお兄さん……」


 椿の兄と名乗るには似ていない。だが美男に違いはなかった。

 ロームと聞いて、周りはざわつく。ロームもヴォルも気に留めなかった。


「気に入ってたシャツなのに……」

「弾丸を抜きますよ」

「どうぞ。っ……」



 キャミソール姿で弾丸を摘出されるロームは、唇を噛み締めて悲鳴を堪え切る。そんなロームを、幸樹は見つめた。


「ヴォル。入り口は固めたぞ。アリビトの殺し屋か」

「ああ……恐らくな」

「取れました。骨に問題はない。今から縫いますね」

「はい」


 ロームは、幸樹の言葉に素直に従う。


「すまない……ローム」


 ヴォルは弾丸から守れなかったことを謝罪した。


「……犯人はアリビトで間違いないんだろうな?」

「ああ。ボスは幹部の票で決まる。アリビトに票は入らない、だから君を消そうとしたんだ」


 ロームの問いに、ヴォルは答える。


「ボスになったフリをしてやる」


 ソファーの背凭れから見下ろすヴォルに、ロームが告げた。


「……え?」

「ボスを決めるのはいつだ?」

「明日だ」

「偽の首輪を用意しろ。要はその首輪をつければいいんだろ?」


 ロームはギロリと鋭い瞳でヴォルを睨み上げる。


「目の前で首輪をはめて、あたしに牙を立てたクソ野郎の牙を砕いてやる……!!」


 ドンッと言い放つ。

 その気迫に、リキ達は気圧された。


「欲しがっているボスの座を奪って逆撫でしてボロ出させてやる。自白させればボスになれないだろ」


 頼もしい。一同はそう思った。


「わかった、手配する。……大丈夫か?」


 ヴォルは頷いてからロームの容態を気遣ったのだが、ロームの気が逸れる。ロームの足元に小さな生き物が現れたからだ。


「犬……?」

「いや狼だ」

「また狼かよ」


 それは小さな狼。純白で青い瞳をしている。


「名前はケルベロス」

「へぇ……可愛いな。ヴォルのペット?」


 名前に反して、見た目が仔犬のように愛らしいケルベロスの耳を撫でて、ロームは微笑を溢した。

 今日初めて見た柔らかい表情だ。

 今日初めて優しく名前を呼ばれたのだ。

 それを見た瞬間、ヴォルは赤面して自分の胸を押さえた。隠しきれないと思い、ソファーの背もたれに身を隠す。目撃したリキ達は、ギョッとした。


「いや6代目のペットらしい。現場にいたと聞いた」


 ロームの返事はない。


「何赤面して隠れているのですか、ヴォル坊。終わりましたよ」

「あ、はい」


 幸樹に呼ばれ、ヴォルは立ち上がった。覗いてみれば、肩に包帯を巻いたロームは瞼を閉じている。


「気を失いましたよ。強い子だ、”痛い”とも言わず、悲鳴も上げないなんて……」

「……。ありがとうございます、幸樹さん」

「礼には及ばないですよ。じゃあ私はこれで失礼しますね」

「はい」

「守り抜いてあげてくださいね、大事な初恋の人を」


 微笑みを残して、幸樹は屋敷を後にした。


「……絶対に侵入者を許すな。彼女を守るぞ」


 ヴォルは強い口調で言い放つ。それに一同は賛同した。



 その夜。悪夢に魘されて、ロームは目覚めた。

 広い一室のベッドに横たわっている身体を起こして、額を押さえる。


「オヤジのせいで嫌な夢を見た……」


 その呟きを聞いたのは、ケルベロスだけ。

 肩の痛みに耐えながら、ロームは部屋を出る。

 外には壁に凭れてヴォルが眠っていた。一瞥するだけでロームは声をかけずに階段を下りる。一階にあるキッチンを見つけ出して、水道から水をコップに流し込んで飲もうとした。

 そこで背後に人影が立つ。ヌッと伸びてくる手。

 ロームは回し蹴りを上げる。

 それはパシッと受け止められた。


「おっと!」


 顔の手前で受け止めたのは、トミー。

 しかし、ロームはそれだけでは止まらなかった。

 キッチンに手をつくと、身体を捻り左足も上げる。

 ゴッと鈍い音が響いた。

 それを目撃したのは、目覚めたヴォルとリキ達だった。


「あたしに忍び寄るな」

「すんませんっ」


 倒れたトミーを尻目に、ロームはテーブルにつく。


「コラ。テーブルの上に乗るな」


 そう声をかける相手は、テーブルに飛び乗ったケルベロス。


「ん? この腕輪……」


 ロームが、ケルベロスの右腕に腕輪がある事に気が付く。金で出来ていて、ひし形の青い宝石が嵌められている。


「ああ……ディールの首輪と同じデザインだな」

「ふーん」


 適当に相槌を打ち、ロームはケルベロスを膝の上に乗せた。


「偽の首輪はカルロが用意するそうだ。明日持ってくる。だが……」

「……何?」

「その……もう一度考えてほしいんだ」


 向かいの席に座って、ヴォルが告げる。


「オレ達のボスになること」


 ヴォルは続けた。


「オレも気付けなかった殺し屋の攻撃に反応して避けた。自分の命を狙う者と向き合う度胸と、気丈で強い精神。君には素質があると思うんだ」

「断る」


 ロームが一蹴する。


「マフィアのボスの素質? 馬鹿じゃねぇの?」

「いやいやオレ達から見ても遊さん……いやローム様には、素質がある。頼もしさがあるっていうか」

「カリスマ性じゃね? 流石は6代目の娘さんだ」

「頼みます! なってくださいっ!!」


 リキ達は揃って、遊ことロームを褒めた。


「歴代最強でファミリーに慕われるボスの遺言通りにしたいと?」


 ロームの膝の上で、ケルベロスは尻尾を振る。


「ボスは必要だ。6代目の遺言通り、オレ達幹部が支えて守る。どうか……」


 ヴォルがもう一度頼もうとした時、ロームは声を上げて遮った。


「あたしは父親の代わりにはなれない!!」


 ヴォルは、ビクッと震える。


「なんでロクに知らない父親の遺言通りにしなきゃなんないんだよ!! 父親だろうが、ヴォルフの血だろうが、あたしには関係ない!! 自分が撃たれてやっと怒ったあたしを見てわかるだろ!! あたしは自分だけが大事だ! 何かの上に立つ人間は責任を背負う!! あたしはそんな重いモン負えない!!」


 ダン、と右手をテーブルに叩き付けた。ズキッと痛みが走り、ロームは顔を歪める。


「ロームッ」

「ロームって呼ぶな!!」


 ヴォルに向かって、ロームは怒鳴った。


「ロームローム……うるせえんだよ」

「っ……」


 ロームが一人二階の部屋に戻る。ヴォル悩んだ末に追いかけた。


「遊……すまない……」

「……」

「……遊?」


 ロームは部屋に立ち尽くす。様子がおかしいと気が付いて、ヴォルは顔を覗こうとした。


「ちゃんと……呼ばなかった……」

「え?」

「一度も……お父さんって……呼びもしなかった」

「っ」


 掠れた呟きを拾って、ヴォルは顔をしかめる。

 そう一度も呼んでいない。ヴォルも知っている。

 ロームが滞在中、シリウスにとっていた態度を、間近で見ていたのだ。


「お父さんと呼ぶ資格も、悲しむ資格もあたしにはない!! 継ぐことだってあたし自身が許さない!! 一度も、一度もあたしは素直に笑ってやれなかった! 一度もお父さんって呼びもしなかった!」

「ゆ……!」


 振り返ったロームは涙を流していた。

 ヴォルが酷く驚く。強いロームが泣いた。

 しかし、当然なのだ。ロームは亡くしたのだ。父親を。

 やっと会えた父親を。目の前で。


「嫌いって態度のまま…………あたしは何もしてあげられなかった。死んだあとに何かをしてやるつもりなんてない! あたしはっ、もうっ、放っておいてくれよ!!」


 涙を手で拭ってロームは叫ぶ。

 そんなロームを、ヴォルは抱き締めた。


「すまないっ……!! ローム!!」


 全てのことを謝る。シリウスを守れなかったこと。

 あの時、ロームのそばにいてやれなかったこと。

 

「っ……お前のせいじゃない」


 ロームはヴォルを部屋の外まで押し退けた。そして扉を閉じる。

 その扉に額を重ねて、ヴォルは呟く。


「すまない、ローム……一人で泣かないでくれ……」


 それの呟きは勿論、ロームには届かなかった。



 部屋に残ったロームは、涙を拭う。


「クソ……」


 そのまま無駄に大きなベッドに倒れ込もうとした。

 しかし、ピタリと止まる。

 ベッドには、見知らぬ男がいたからだ。


「ケルベロスだよ、ローム」


 ロームが叫ぼうと大きく口を開くと、ケルベロスと名乗る男は右腕を見せた。先程見た腕輪と同じだ。ロームは疑心暗鬼に睨む。

 純白の毛皮を被っていて、口元しか見えない。すると男の後ろでもふもふの純白の尻尾が揺れた。


「狼が人間化するなんて……椿さんから聞いてないんだけど……裏現実の秘密の一つな訳?」


 仕方なく、ロームは信じる。呆れて肩を竦めた。


「……ほう。聞いたのかい、裏の現実の話を」

「吸血鬼と悪魔がいるって聞いたけれど、狼人間は聞いてないぞ」


 言いながらロームは、ベッドに腰を沈める。


「吸血鬼の誕生は、聞いていないのかい?」

「聞いてないね」

「悪魔が作り出した存在なんだ。人間が願い、誕生した怪物さ。フェンリルファミリーも悪魔に願い、ファミリーを守る力として狼の力を与えられた」

「……ちょっと待て。じゃあ狼人間の血を継いでるってことなのか?」

「そうだよ。上層部全員が、その血を継いでいる。力までは継いでいるとは言い難いけれどね。初代に比べて、力は衰えた。狼に変身する能力も、子孫には受け継がれなかったからね」

「……焦った。あたしが狼になるのかと思ったわ」


 ロームは額に手を置いて、フーと息を吐く。


「ならないよ、大丈夫」


 ケルベロスは微笑んだ。


「……はぁ」


 それを一瞥して、ロームはまた溜息をつく。くしゃりと髪の毛を掻き乱したあと、ベッドに倒れた。


「ケルベロスは、何なの?」

「ファミリーの危機に現れる……フェンリルってところかな」

「なにそれ……」


 ケルベロスは、笑みを深めるだけ。


「じゃあアリビトを噛み殺してくれる?」

「それは出来ないけれど、君の助けならしよう」

「なにそれ、意味わかんない」

「ロームは目の前でディールの首輪をつけて、自白に追い込むんじゃなかったのかい?」


 白い尻尾がフリフリと右側で揺れている。

 ロームはそれを見ずに、天蓋の裏を見つめた。薄暗いが、フェンリルファミリーの紋章があるとわかる。それを見つめていた。


「嫌かい? 逃げ出したいかい?」

「うるさい、可愛い犬ッコロに戻れよ」


 ロームが言えば、静かになる。スリスリと仔犬のようなケルベロスが擦り寄った。それを撫でてやって、ロームは眠りに落ちる。


 やがて、気配に気が付き目を開く。

 そこにいたのは、トミー。


「忍び寄るのも……」


 やめろ、と言えなかった。ロームはトミーの手によって、口を塞がれたからだ。


「すまないっ、娘が危ないんだっ」

「!?」


 バチ。とスタンガンで感電させられて、ロームは気を失った。




20170809

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