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狼賊-フェンリルファミリー-  作者: 三月べに@『執筆配信』Vtuberべに猫


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18 後継者と再会



 オレは、ボスの亡骸を見ることができなかった。

ボスの部屋の隅に蹲っていた。雨に濡れた身体はとっくに乾いている。涙ももう枯れ果てた。

 放心して、蹲っているだけだった。

 そこで、扉を押し開けて遊が入ってきた。黒のカットソーのジャケット、黒の短パン、黒のブーツ。腕を組んで、オレの元まで歩み寄った。


「手配してもらったから、帰国する」


 短く告げらた言葉。

 遊は、日本に帰る。フェンリルファミリーがこんな事態のため、父親が帰るように催促したのか。どちらにせよ、オレ達も預かれる状態ではない。


「……いつまで、蹲っているつもり? ロームに会いに行くんじゃないの?」


 口に出された名前が、出来たばかりの傷を抉るように痛みを与えた。


「……ロームに、合わせる顔なんてないっ……!」


 髪を握り締めて、頭を抱える。あんなに流したのに、視界を歪ませる涙が込み上がった。

「オレのせいだ……。ロームに会う資格なんてっ……ボスを守れなかったオレが会うなんてっ……!」


 許されるわけがない。

 誰よりも自分自身が許せなかった。

 ボスに与えられ続けた試練に合格して認められて、やっとロームに会うはずだったというに、他の異性に心を揺らしてしまった。ロームに会う資格はない。

 ボスを守れなかったオレが、ロームに会うことなんてできない。

 ロームの前に現れて、父親の死を伝えるなんてーー…オレには出来ない。


「……だからっていつまでも蹲っているつもりか? あの店に行くと知っていたのは限られている。ボスを狙う理由を持つ奴を見つけ出すべきだろう。ボスを失くして狼狽しているのはお前だけじゃない。部下達はどうする。大事なファミリーをどうする気だ?」


 遊が鋭く問い詰めてくるが、オレは顔を上げられない。

 すると、痺れを切らしたのか、遊がオレの胸ぐらを掴み上げて、引っ張り立たせた。ドン、と壁に押し付けられる。遊は黒い瞳で睨んでいた。


「今のお前はかっこいい男か⁉︎ ボスのような男を目指したお前はそれでいいのか⁉︎ ボスが愛したファミリーを守りもせず、座り込んでメソメソするのがかっこいいのか⁉︎ アイツのそばにいて、お前はかっこいいと思った男がそうするのか⁉︎ 今のお前は、ボスが認めた男じゃない‼︎」


 真っ直ぐに睨み、オレに言葉を浴びせる遊は激怒していた。容赦なくオレの胸を抉る言葉だ。

 試練を乗り越えられてボスに認めてもらった男なんかじゃない。ロームにつり合うようなかっこいい男なんかじゃない。


「ロームに会う資格なんてない! 見損なったぞ、ヴォル・テッラ」


 オレを壁に叩きつけて、遊は吐き捨てた。

 昨日はかっこいい男だと認めてくれた遊はーー…


「アンタ、かっこ悪いよ」


 はっきりと告げる。まるで、ボスの代わりにオレを罵るように、罰するかのように。

 オレを放した遊が、離れる。その姿を見て、胸が引き裂かれる痛みを感じて、手を伸ばそうとした。彼女の手を掴み損ねる。追いかける力はなく、またオレは座り込んでしまう。

 遊とすれ違いに入ってきたのは、椿さん。異変を察知して戻ってくれたが、昔からこのファミリーは部外者の手を借りずに対処してきた。ボスを殺されたのなら、なおさら部外者の手は借りれない。オレの師であっても、この件の捜査をさせないと、ダンが真っ向から断った。


「あたしも帰国するついでに遊を送るわ」

「……お願い、します」


 椿さんに遊がついているならば、安全だ。

 椿さんは返事をしないまま、ボスの机の上をいじった。プロジェクターだ。なにをしているのかと、問う気力はなかった。

 遊に言われたことを反芻する。立ち上がらなくてはいけない。

 ファミリーのために。亡きボスのために。

 守らなくては。オレのファミリーを。

 なんとか遊の言葉で自分を奮い起こして、立ち上がる。


「……椿さんは、なにも言わないのですか?」


 椿さんなら、遊のように声を荒げはしないが、同じくらいには怒って罵倒しそうだ。また番犬という称号は相応しくないと罵りそうだが、不気味なほど静かだった。


「遊が十分言ったでしょう。まだ奮い立たせる言葉が欲しいだなんて、甘えないで」


 椿さんは冷たく返す。

「遊は優しいわね」と付け加えた。

 オレを叱りつけて立ち上がらせてくれた優しさ。だったのだろうか。

 プロジェクターがつけられた。オレとロームが初めて会った日のビデオが壁に映し出される。


「なんの因果かしらね……。あたしが弾丸から命を救ったシリウスが、撃ち殺されるなんてね」


 椿さんは言いながら、部屋を歩いてカーテンを閉めていく。


「あの悪魔の最期の言葉を覚えてる? シリウスの命を奪ってやると言っていたわ。そして……ロームを奪うと」


 ボスが葬った悪魔の叫びが頭の中に響いた。

 悪魔の言葉が、実現されようとしている……?


「まだ悪魔と関係しているかは定かではないけれど、そうならば彼女が危険よ。うじうじしている暇なんてない。かっこいい男になるって誓ったはずでしょ。守り抜きなさい」


 オレの目の前に立ったかと思えば、椿さんはそっと腕を回して抱き締めてくれる。それから、励ますように、額にキスをくれた。


「シリウスはわざと最後まで見せてなかった。見なさい」



 椿さんも遊と同じく、別れの言葉を言うことなく部屋を出ていった。扉も閉じられてしまえば、暗くなってプロジェクターが映し出す映像がはっきりとする。

 四歳のオレがロームにプロポーズをして玉砕されている。


〔でもヴォルに、もう少しチャンスをあげてくれないかい?〕


 ボスの声に、胸の奥がじんわりと熱くなって涙が込み上がった。

 幼いロームは、オレが泣き虫だから嫌だと一蹴する。涙を零してしまいそうになったが、堪えた。


〔そう言わず。ね? ローム〕


 ボスが優しく頭を撫でながら説得をすれば、幼いロームは振り返った。


〔じゃあっ、あたしにふさわしいかっこいいおとこになったら、けっこんしてあげる!〕


 眩しいほど強気なロームに、オレは泣きじゃくりながら何度も頷く。そして誓う。ロームが認めてくれるようなかっこいい男になると。

 当時の記憶がなくとも、このビデオを観る度に誓った。


 そこに映るロームに何度も恋心を抱いて、誓った。


「っ……」


 オレは涙を落とす前に、ゴシゴシと拭った。

 オレがまたロームにこんな気持ちを抱くなんて、そんな資格はないはずなのに……。


〔ねぇ、ローム〕


 オレはハッと顔を上げる。覚えのない声だ。ビデオはまだ続いている。初めて見た。いつもボスはあのシーンでとめていたから、続きがあるなんて知らなかった。

 机まで歩み寄って、壁に映し出されたロームを見る。ボスがカメラを向けたまま話した。


〔どうしてそんな意地悪を言うんだい? ヴォルのこと、一目見て好きになったんだろう?〕

「え……」


 プロポーズを一蹴したロームが、オレに一目惚れしていた?


〔ヴォルは、うんめいのひとだとおもうの〕


 ロームは離れた幼いオレに聞こえないようにと、ボスに向かって声を潜めて言った。

 灯ったかのように、この胸の中で熱さを覚える。


〔でも、ヴォルはもっともっとかっこよくなれるから、がんばってほしいの! ないしょだよ、パパ〕

〔ふふ……うん、パパとロームの秘密だね。ヴォルをかっこいい男になれるように育てるよ〕


 涙が溢れて、落ちてしまう。

 知らなかった。

 オレにロームが恋をしてくれていたこと。

 ボスがロームのためにも、試練を与え続けてくれたこと。

 あれっきり会えなかった娘の約束のためだった。両想いだったオレ達を、再び会わせるためだった。誓いが果たせるように、導いてくれていた。

 そんな彼はーー…娘に再会することなく、亡くなった。

 オレとロームを会わせようとしていたのだ。どんなに楽しみにしていただろうか。あの店で、きっと愛娘に会える瞬間を焦がれながら思い浮かべていたはず。そこで……あの男が忍び寄って……。


〔ヴォル〕


 ボスの声に呼ばれて、顔を上げる。

 ボスの大きな手が頭に置かれた幼いオレが映し出されていた。


〔かっこいい男になるんだぞ。ロームを、守り抜いてくれ〕


 嗚咽を止められない。またもや崩れ落ちそうになったが、机に腕をついた。大粒の涙が淀みなく零れる。


「はい……はいっ……!」


 返事をしながら、何度も涙を拭う。

 守り抜きます。あなたのファミリーも、あなたのロームも、必ず守り抜きます。

 オレの生涯を懸けて、守り抜きます。この命で、償います。


「……ヴォル」

「!」


 いつの間にか、部屋に入っていたカルロに声をかけられて、慌てて涙を拭う。電気がつけられる。オレは終わってしまったプロジェクターの電源を切り、顔を背けながら自分を落ち着かせた。

 コトン、とオレの目の前の机に箱が置かれる。

 それがなにかは、わかっている。


「……すまない、立ち会えず……」

「無理することないさ」


 謝るオレの肩を、カルロは叩いた。

 金で縁取られた箱の中には、ボス・シリウスさんが十八年間つけていた首輪が入っている。

 フェンリルファミリーのボスの証、ディールの首輪。

 就任したボスは命の火が消えるまで、それをつける。そして、後継者がそれを受け継ぐ。死ぬまで外せない首輪だ。シリウスさんが亡くなって、今ここにある。その事実が重かった。


「! ……犬?」


 足になにかすり寄ってきたかと思えば、白い仔犬。よじ登りたそうに前足をかけるから、抱き上げてみた。


「白狼だ。現場にいたんだ。ボスが新しく飼い始めたんじゃないのか?」

「……ディールと同じデザインの腕輪をしてる……」


 確かに狼の子だ。純白の長い毛と青い瞳の狼は、左の前足に金色の腕輪をつけている。子どものわりには、大人しくオレの腕にいる。唯一の目撃者か。そっと親指で額を撫でてから、床に下ろしてやった。


「ヴォル・テッラ。君宛の遺言がある」


 カルロとともに来たらしい弁護士が、扉の元に立っている。

 白い髭を蓄えた小太りの老人のジャックは、先代ボスの時代から遺言などの重要な仕事を担う弁護士を務めている。

 彼がアタッシュケースから取り出した封筒こそが、シリウスさんの遺言。


「……ボスは、遺言を変えると言っていましたが」

「四日前に新たな遺言を書いた。これがそれだ」


 オレ宛の遺言を受け取る。カルロと目を合わせた。心の準備が出来ていないが、オレはそれを開いて読む。驚くべきことが書いてあり、オレは目を見開く。


「なんて書いてある? ヴォル」


 カルロに訊ねられて答えようとしたが、その前に騒がしさを耳にした。廊下から、近づいて来る。リキ達だ。


「入って来ちゃ困ります!」

「退け! 下っ端ども!」


 リキ達の制止を振り払い、シリウスさんの部屋に入ってきたのは、直属の部下を率いたアリビト・ヴォルフだった。


「ディールの首輪はどこだ?」


 にやついたアリビトの問いに反応して、オレは箱を隠すように背にする。


「よこせ。オレのものだ」

「待て!」


 アリビトが手を伸ばすが、オレは止めた。


「なにが待てだ? ヴォルフの血を継いでいるのは、オレだけだ。必然的に、オレがフェンリルファミリー七代目ボスになるだろうが!」


 両腕を広げて、アリビトは高々に笑う。

 その瞬間、悟った。シリウスさんを殺したのはーー…この男だ。


「貴様っ! 貴様がボスを殺したな⁉︎」


 オレは、問い詰める。


「オレと遊が廊下で話しているのを聞いてっ……あの夜アースにボスが行くと知っていてっ! 殺し屋を差し向けたんだろ! この首輪欲しさに!」


 あの店に行くことを知っていて、シリウスさんを葬りたい理由を持つ男はコイツしか思い浮かばない。動機があるのは、この男だけ。

 今すぐにでもこの男を殺したくなるほどの怒りが湧き上がった。その首を引き裂きたい衝動にかられる。

 それはオレだけではない。廊下にいるリキ達も、涙を浮かべた目で睨んだ。


「……証拠は?」


 アリビトは笑みを隠すこともなく、質問を返す。


「オレがそのアースとかいうシリウスが死んだ店に、行くことを知っていた証拠はあるのかよ? 聞いてたって証拠は? 殺し屋を差し向けた証拠は! あんのか⁉︎ 証拠もなしに、ボス殺しの罪で断罪する気か⁉︎ ヴォルフの血を継ぐ、このオレが唯一の後継者だっていうのにか⁉︎」


 アリビトが主犯だという確たる証拠がない。


「ボスになるオレを、断罪できねーよな⁉︎ そうだろ、ヴォル!」


 下品な笑みのまま、アリビトは笑い声を上げた。

 自分が唯一の後継者ということを盾にして、身を守る。証拠を残していない。あの殺し屋を見つけて吐かせなければ、アリビトの罪を暴けない。

 ボス殺しという大罪を犯したこの男が、首輪を手に入れたがっている。

 この首輪欲しさに……オレ達のボスをっ!


「さぁ……よこせ、ヴォル。オレの首輪を」


 きつく握った箱は、アリビトには渡さない。


「この首輪は貴様のものではない!」

「足掻くな。後継者はこのオレだけだ」

「違う!」


 アリビトにはたった一つ、誤算がある。

 それは、ヴォルフ家の血を継ぐ者が他にもいるということ。アリビトは知らない。シリウスさんに娘がいることをーーロームの存在をーー。


「この首輪は、ローム・ヴォルフーー…シリウス・ヴォルフの娘が受け継ぐ!」


 今ここで、その存在を明かす。


「六代目ボスは遺言にも、後継者はローム・ヴォルフを選んでいる! 後継者はボスが指名する掟だ! 七代目ボスはローム・ヴォルフ!」


 シリウスさんの遺言に書かれていたのは、ロームを後継者に選ぶということだった。正式な遺言にも、記されているとのことだ。

 シリウスさんは、予期していたのかもしれない。アリビトの企みを直感して死期を悟った。だから、念のために遺言を書き換えた。ファミリーのためにも。そしてーーオレを信じて。


「な、なんだと⁉︎ 一体娘はどこにっ! いや、隠し子を名指ししたところで、なれるわけがない! 認められるものか!」

「貴様こそ認めるものか!」


 ロームの存在に激しく動揺したアリビトに、オレは一喝する。シリウスさんを殺したお前など、幹部を筆頭にオレ達は認めない。例えロームが堅気育ちだとしても、幹部達はロームの存在を知っている。彼女を支持するはず。シリウスさんの意向ならば、なおさらだ。


「ロームとオレは婚約をしている! 六代目にも認めてもらった! このヴォル・テッラが右腕としても、夫としても、七代目ボスのロームを支える‼︎」


 ーーオレに託して、ロームを後継者に選んだ。それが、シリウスさんの遺言だ。オレを婚約者と公表し、そしてオレがロームを支えることを願っている。試練に合格する前から、オレを信じて託すことを決めてくれていた。

 ガッと熱くなる胸に駆り立てられるように、オレは声を上げた。


「この首輪は、ロームのものだ! 近寄るな、出ていけっ‼︎」


 この首輪は奪わせない。縄張りに入った余所者を威嚇するように、オレ達はアリビト達を睨む。強引に奪おうならば、容赦しない。こっちに分があることはわかりきっている。だから、アリビト達は退く。

 絶対にーー…お前の罪を暴いて、償いをさせてやる。悔しそうに逃げ帰るアリビトに、睨みで伝えるように最後まで見送る。

 アリビトへの憎しみは、一度抑え込む。今はやるべきことがある。優先させるべきことが、あるんだ。


「日本に行く……ロームを迎えに」

「……日本で、就任式をしよう」


 激情を抑えて告げた決意に、カルロはオレの肩に手を置いて頷いた。


「……ところで、遊は?」

「遊なら……椿さんと帰国した」

「そうか……黒猫さんと一緒なら安心だな」

「ああ……」


 別れの挨拶の代わりに、オレに奮い立たせる力をくれた。遊に感謝を伝いたいが、もう会わない方がいい。会うべきではない。


「……問題は、ロームが承諾してくれるかどうかだな」

「……説得する。……オレが訃報を伝えて」


 ロームはシリウスさんがマフィアのボスだということを知らない。いきなり父親の訃報を聞かされれば、悲しむだろう。その上、オレが婚約者になってボスになれと言われては、混乱する。堅気なら、当然断る。

 ロームがあの日の約束を覚えているわけもない。初恋だったとも、知る由もない。

 それでもオレは、シリウスさんの願いを叶えてくれることを跪いてでも懇願する。ファミリーを守ってほしいと、シリウスさんの信念も意志も愛も全て話して知ってもらう。


 右腕のオレは、シリウスさんを守れなかったから、信頼してもらえないかもしれない。だが、必ず守ることを誓う。婚約者とは、認められないだろう。しかし、ロームの身を守ることにもなる。オレの命を盾にしてでも守ってみせる。

 好きになってもらえないかもしれない。十五年間想い続けていたが、揺らいでしまったオレなんて。それでも、生涯かけて許しを乞う。生涯かけて、好きになってもらえるように尽くす。

 シリウスさんの娘だ。誠意を持ってすれば、きっと……。ロームなら、きっとーー。


「先に日本へ飛ぶ。カルロ、首輪を頼む」

「了解。こっちも準備してから行く」


 カルロなら首輪を預けられる。

 オレはロームの護衛のためにも、リキ達を連れていく。ボスが不在で不安定になりかねないシマのためにも、カルロ達はやることがある。それを任せて、オレはロームの元へ行く。必要不可欠な存在だ。最優先事項。そして、アリビトに先を越されてしまわないように、内密に動く。

 幹部一同にも、正式に遺言の内容が明かされた。

 予想通り、シリウスさんの意向に従うとのことだ。

 シリウスさんの葬儀後、オレは部下を連れて日本に飛んだ。ロームの居場所が書かれているのは、オレ宛の遺言のみ。アリビトの追跡を警戒し、慎重に動いた。

 既にシリウスさんが用意していた屋敷があったため、そこに滞在の準備をして、オレは一人でロームの元に行くことにした。

 護衛は目立つ可能性があるため、オレだけ。

 スーツで身なりを整えて訃報と遺言を伝えるべきだが、白銀髪のオレは日本では悪目立ちする。フェンリルファミリーの特徴である刺青もそうだ。隠すためにネックウォーマーをつける。白いVネックのシャツに黒のカーディガンを合わせ、カジュアルな服装で普通の若者に扮した。

 オレ宛の遺言に記されたロームの住所に到着すれば、そこは予想外なものがあって驚愕してしまう。

 田舎の住宅地の古いアパートだった。鉄骨造の階段を登れば、住人全員に足音が聞こえそうなほど響く。

 古いアパートでーー母親と二人で暮らしているーーどこかで聞いた話だ。しかし、ロームに会うことに集中して考えが及ばなかった。

 十五年ぶりに会う。バクバクと高鳴る緊張には負けずに、インターホンを鳴らした。

 はっきりとは聞き取れなかったが、若い女性の返事が聞こえて、ピリッとするほど緊張が高まる。

 きっと、ロームだ。

 名乗る前に、ドアが開けられた。

 オレは、目を疑った。


「ーー…あっれ。合わせる顔、なかったんじゃないの?」


 そこに、彼女がいたからだ。

 滞在している間はシックな服装で決めていたが、白いタンクトップと黒のオフショルダーを合わせ、紺の七分丈の緩いズボンでラフな服装だった。艶やかな黒髪は青色を帯びて、肩から垂れている。

 そこにいたのは、考えないようにしていたーー遊だった。


「ま、アイツの遺言に従っただけだろ。改めて自己紹介すべき?」


 呆然しているオレを笑って、腕を組んだ遊は壁に寄りかかった。その声も、その笑みも、紛れもなく遊のものだ。


「月島遊、またの名をーーローム・ヴォルフ。よろしく?」



 冷たく笑う遊の瞳はーー…シリウスさんと同じ青だった。




2周年目にして漸く

第一章、完。


201606013

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