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狼賊-フェンリルファミリー-  作者: 三月べに@『執筆配信』Vtuberべに猫


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19/25

17 哀別の悲鳴



 地下一階にあるイタリアンの店、アース。

 こじんまりとしているが、気品がある。趣のある木製のテーブルや椅子はダークブラウン。小さなシャンデリアは、金の塗装。今宵、貸し切りだ。

 フェンリルファミリー6代目ボス、シリウス・ヴォルフは、一人でそこにいた。ワインを確認してから、椅子に腰を下ろす。


「……ローム……」


 瞼を閉じて、思い浮かべた娘の名を口にする。噛みしめるかのように静かに、シリウスは愛おしげに微笑んだ。

 そうしてシリウスは、一人で待っていた。


 ◆◆◆


 アースに向かうヴォルと遊は、手を繋いで歩いていた。


「街の中だと、星は見えないな」

「ああ。アースのある区域は静かだが、やはり見えにくいな」


 夜でも賑やかな通りを過ぎて、人気の少ない道に出る。パブなどの飲み屋の灯りが漏れるだけの薄暗い通り。

 二人きりで、そして手を繋いでいると、恋人同士に見える。意識してしまい、ヴォルは少し頬を赤らめた。考えないようにと心掛けても、難しい。


「もう着く?」

「あ、ああ……。そうだ、答えは決めたのか?」


 父親と住むか否か。遊はシリウスにその返事を聞かせてほしいと頼まれていた。このまま店に行ってもいいのかと、ヴォルは確認する。


「……住む、ことにする」

「……そうか」

「うん……素直に言えるかどうかはわからないけどね」


 足を止めた遊は、ぎこちない笑みを浮かべながらも決意を話した。自分を捨てたと思っていた父親と、暮らすことは複雑だ。ただでさえ、不器用な遊には難しい。

 緊張した様子で、俯いている。


「ゆっくりと、心を開けばいい。遊の父親を知らないが、焦らせたりしないだろう。遊が向き合う気になれたのなら、きっといい関係になれるはずだ。遊なら、出来るはずだ」


 優しく微笑んでヴォルは、励ました。遊がいなくなる寂しさを感じながらも、新たな生活へと背中を押す。

 遊は、ヴォルに優しい笑みを返す。涙が浮かぶが、それを誤魔化すように瞬きをした。


「ヴォル……あの」


 遊が手を震わせながらも、ヴォルを熱く見つめて何かを言いかける。


「あっれー、ヴォル。ロームに会うっていうのに、遊さんと浮気か?」


 そこに現れたのは、カルロ。

 ヴォルはビクッと震え上がって、遊の手を放す。


「恋人みたいに見つめあっちゃって。ウブなお前が、あっやしーなぁ」

「ち、ちちちがっ!」


 カルロのからかいに、ヴォルは慌てふためく。そんなヴォルの背中に、遊は掌を叩きつけた。


「遅刻する前に、行きましょう」

「あ、ああ……」


 結局、遊は言い出さない。

 それはカルロが来てしまったからだろう。


「……カルロ。ボスについていたんじゃないのか?」

「おう、一緒に来た。ちょっとリカメンとルポが落ち着かないんだな、手分けして見回り。ダンはまだ来てない」


 ヴォルが遊についているから、代わりにカルロ達がそばについていた。今は一人でいると知り、自然とヴォルの足は速くなる。カルロは心配ないさと言わんばかりに悠長に歩く。


「妙な匂いはするが……雨のせいだろう」


 カルロの言葉に、ヴォルも遊も顔を上げた。

 先程まで晴れていた夜空は、雲が覆い尽くしている。降り出してしまいそうだ。


「通り雨だ、帰る頃には止むだろう」


 ヴォルは遊に濡れる心配はないと教えつつも、また歩調を早めた。


「ここだ、遊。アースだ」


 地下に繋がる階段に辿り着く。その先に店の扉がある。


「雰囲気があって本場のイタリアンが食べられるいい店なんですよ」

「聞きました」


 カルロが話しかけても、遊は固い態度であしらう。それでもカルロは笑みを崩すことはない。そんな二人を苦笑しながら見つつも、ヴォルが先に階段を下りた。


 ーーガウンッ‼︎


 そこに響いた一つの銃声。

 突き抜けるようなそれは、確かに扉の先から聞こえた。シリウスがただ一人でいるはずのその先からーー…。

 駆り立てられるように三人は階段を下りてその扉に向かった。

 ヴォルが手を伸ばすよりも先に、扉は開かれる。男が一人飛び出してきて、ヴォルと肩をぶつけた。

 遊は、その男と目が合う。すれ違うその瞬間、男は遊を凝視していた。大きなマスクとニット帽を被っていて、目元しか見えない。弛んだようにシワがあり、その目は灰色。

 ヴォルは男を見ることはなかった。

 ヴォルが目にするのはーー…血溜まりに倒れたシリウス。

 顔を確認できないが、青に艶めく黒髪と首にある金の首輪から彼だと一目瞭然だった。

 ヴォルは、男を追いかける。硝煙をまとうその男を追って飛び出した。


「シリウス! おい! シリウス‼︎」

 カルロは閉じかけた扉を押し退けて、倒れたシリウスに駆け寄る。

 遊はーーその場に崩れ落ちた。

 動けずに、ただカルロの呼びかけに反応しないシリウスを、そこで見ているしかできなかった。

 唇を震わせて、声を絞りだそうとするが、やめる。その声が、シリウスにはもう届かないとわかっていたからだ。

 パタン、と扉が閉じて見えなくなってしまっても、遊は動かなかった。動けなかった。

 愕然としたまま、その場に一人きりで、座り込んだ。


 降り出した雨の中、ヴォルは捜し回った。硝煙の香りを頼りに突き進んだが、雨に消せされ、姿さえも見付けられずにいた。

 がむしゃらに走ってきたが、もうどこに行けばいいのかもわからない。左右も見て、後ろを振り返り、捜した。だが、雨の中にいるのは自分だけだった。


「くっ……!」


 ぐるぐると視界が回っていく。耐えきれなくなり、ヴォルは膝をついた。息ができない。押し潰されそうになり、顔を伏せた。身体に当たる雨が、頬を伝って地面に落ちる。


 ヴォルの目に浮かぶのは、シリウス。血溜まりに倒れたシリウス。

 心地の悪い鼓動が、高鳴る。意識が遠退きそうになるが、生温かい雨も辛い呼吸も引き留めた。

 シリウスから流れる血は、頭部から流れていたことは明白。頭を撃ち抜かれた人間がどうなるか、確認せずともわかる。ヴォルは顔を歪めて、涙を零した。

 事実が、押し潰しにかかる。ヴォルの全てを捩じ伏せるかのように、失った悲しみが襲いかかった。

 父親のように育ててくれたシリウスを、失った。

 父親のように愛してくれたシリウスを、失った。

 守ることができずに、殺されてしまった。


「うああああああああぁああ‼︎」


 悲痛な叫びを上げずには、いられなかった。

 雨に打たれ、空に向かって叫ぶ。遠吠えのように、声を上げ続けた。


「ああああぁあああああああああああ‼︎ うああああああああぁああっ‼︎」


 どんなに叫んでも、もうシリウスには届かない。

 打ちのめされるヴォルは、泣きわめき続けた。


 フェンリルファミリー6代目ボス、シリウス・ヴォルフの訃報は、たちまちファミリー内に知れ渡ることとなった。




20160608

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