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秘密のマイカちゃん  作者: 鈴波 潤
5/9

第5部

これは40年前の、高校生の物語です。

今と違い、テレビで普通におっぱいが出て来るのに、女性の下半身がどうなっているのかは、毛も含め謎だった時代。

主人公、朱雀還流ミナミメグルは、ようやく肥満児から脱出した童貞の男子高校生(被イジメ歴あり)。

少しだけ頑張って、ようやく入学した高校で、彼は運命の人と出会います。

彼女、桃澤マイカは、ごく普通の女子高校生。普通よりちょっと可愛く、普通よりちょっとおっぱいが大きくてとても形がいいだけの、普通の女子高生です。

彼は彼女と結構衝撃的な出会いをし、付き合う事になりますが…。


この時代まだ生まれていない若い方にも、

お父さん、お母さん(おじいちゃん、おばあちゃん?)の青春時代。

「携帯がなくて、女の子が普通にブルマで体育してた時代。」

の1970年代を楽しんでいただけたらと思い、この作品を書きました。

■じんじゃぁ&ぺっぱぁ■


この頃から俺は普通科でも話題の人物になって行ったらしい。

「T組の桃姫を射止めた大金星きんぼし野郎」

と言うのはちょっと嬉しかったが、

「マイカ姫に乱暴して無理矢理言う事をきかせた」

はいかがなものか?乱暴?したいわ。させてくれんわ。女子の反応は概ね(大胸)

「ま、別れるのは時間の問題よね」

という醒めたものだったらしい(ヨッコ談)。男は嫉妬する奴もいたが(末松とか、末松とか)、廊下の向こうで、俺に手を合わせて拝んでいる奴もいた。俺は生き神さまかよ。そういう奴は、身長は様々だが、例外無く体型は俺似だった。つまり、

「飛雄馬よ。あれが巨腹の星だ!」

になったらしい。とうとう俺は、

「漫画界美人ヒロインの唯一のデブ彼氏=高畑」

と同様の地位を得たと言える。

「ミナミさんから勇気を貰いました。自分も高望みな恋ですが、告白します!」

という手紙を残して散って行った同胞も多かったとか。無茶しやがって…。

ジャイアン似のデカイ一年に、

「ミナミ先輩すか。お願いします。手形押して欲しいっす」

と色紙を渡された事もあった。おれは相撲取りか(近いが)。


一方、始めは大センセーションだったT組では、俺とマイカ関連のニュースは、次第に沈静化していったようだ(テケップ談)。まあ彼女達の周辺は、常に新しい恋でいっぱいだったせいもあるが、綸子の

朱雀氏うじは存外、人物だよ」

の一言が、凛綸組(T組では大勢力)に浸透し、何より当のマイカが幸せいっぱいに見えるので、邪魔は野暮、という気持ちが湧いて来たのだと思う。

しかし、絶対に承服しない一部過激派が存在した事も事実だった。俺を

「ケダモノ」

扱いした1Tの過激派である。

二大派閥の、

「凛綸組」

「テケップファンクラブ女子班」

ほど多くはないが、暗然たる勢力である、

「MoMo Mania(通称MMM。後に大リーグで活躍し、日本人大リーガー輩出の草分けになった、あの大投手のファンに名前が似ているが、偶然である)」

当時のT組は定員40名。いくら女の園でも、もちろん男に恋するノーマル美少女でないのもいるがもいるので、勢力と言っても、MMMは実働5人位だと思われる。

やっかいなのは、他の二勢力と違い、MMMは存在を公表しない。つまり

「守ってあげたいキャラNo.1のドジっ子もも先輩を影から支える」

気満々の女の子たちなのだが、本人はいたってしっかりしてるつもりなので、気を悪くされない様、絶対表には出ない正体不明の地下組織なのである。あいつかとバレた時点で失格なのである。

この傾向はマイカが俺と付き合い始めてからますます顕著になり、幸せなもも先輩を祝福しようと言うメンシェビキ穏健派(推定3人)と、あくまでも二人を別れさせるのが先輩にとっての本当の幸福と主張するボルシェビキ過激派(推定2人)に分裂し、暗躍が続いていた。

結局穏健派は、存在を俺とマイカに明らかにし、解散式をした(暴走族だね)。しかしながら穏健派も、流石にかつての仲間の名を売る様な事だけはしなかった。

恐るべき2匹の狼が、一般人にまぎれている。これが、当時の1Tだった。


荘ヶ崎リラが突然入部して来たとき、おれとヨッコは不審に思った。

流石にこの時期、1年はもういずれかの部活に所属している。帰宅部も多かったが、リラの場合は入学以来新体操部に所属しており、退部して放送部に来た、というのが怪し過ぎる。用心に越した事はない。マイカは相変わらず天然なので、

「リラちゃん?いい子だよぉ。新体操部の時は、何かと私の世話を焼いてくれて、飲みかけのジュースくれたり、体中の汗拭いてくれたり。部長さんなんて、リラちゃんはマイカちゃんの個人マネージャーみたいだね。って」

真っ黒じゃねえか。

元MMM穏健派の壹与ちゃんが廊下で俺とすれ違いざま、

「リラに気をつけて」

と言い残し、3歩程歩いてばったり倒れ、首には毒吹き矢が…。と言う事はなかったが、忠告されたのは事実だ。気をつけるったって、部活一緒じゃ、どうするんだよ。マイカの話じゃ、腰を痛めて新体操を断念したとのことだが、この150cmに満たないツインテール元気娘は、体育の時間も全力疾走してたし、部活でも元気いっぱいだった。

問題はリラがMMM過激派だとして、放送部に入って一体何をしたいのか?

と言う事だ。MMM残存勢力の闘争方針が、

「俺=ケダモノとマイカ=子羊をなんとかして別れさせる」

にあることは明白だ。放送部でなにをやる気か?そして残るもう一人のMMMは?

謎は深まるばかりである。


それはそうと、リラが入部して以来、末松がやたら俺の所に来る。

「ミナミ~ぃ。リラちゃんどうしてる?元気?可愛い?」

俺にはよく判らんのだが、世の中には、

「ロリコン」

という種族がいるらしい。末松は巨乳好きと思っていたが、ぺったんこもOKの様だ。リラはちょっと見、ランドセルと黄色い帽子が似合いそうな外見で確かに可愛い。マイカしか見えない俺には良さが判らないが、末松はぞっこんの様で、

「ミナミ先輩、お願いだからあのおじさんを放し飼いにしないで下さい」

と俺はリラから懇願された。下校するとき、いきなり近づいて、アメちゃんとかをくれるらしいが、迷惑と。

「いやあ、あいつは俺の飼い犬じゃないし」

「じゃあ駆除してください」

「ゴキブリ扱いはゴキブリに失礼だ」

この後輩は部活には熱心だし、もし内心俺を憎んでいるなら、完璧な演技じゃないか?と思える程、俺の言う事を聞く。可愛い後輩だ。1年のころなら

「俺に気があるんじゃないか?」

とキモイ妄想を抱きそうな、フレンドリーな態度である。俺ロリコンじゃないけど。

ヨッコも結構気に入っていて、

「リラちゃーん、ハグっ!」

なんて危険な可愛がり方をしている。

このままリラは放送部員として定着して行くのか?

果たして彼女の真の意図は?


そんなある日、ヨッコが爆笑しながら放送室に入って来た。

「メグ~ぅ。聞いて聞いて。もう笑える話」

「メグ言うな。なんだよ、俺を笑わせられなかったら、罰ゲームだぞ」

「判った判った。笑わなかったら、メグルの好きな、どんな変態プレイでもやってやるって」

俺ってどう思われているのか…、ちょっと悲しくなったが、もちろんあんな事やこんな事をするヨッコを妄想もした。

「で、何ですか?その大爆笑ネタとは」

俺は極めて平静を装って尋ねた。

「O野(もう仮名でさえ要らない)がさー」

あの、ヨッコさん。その禁句ワードだけで、もう俺絶対笑わないっすけど。さあどんなプレイがいいかな?縄と、洗濯バサミ…。俺がマニアックな妄想に浸っていると、ヨッコが続けた。

「O野(仮名)が泣きながら言うんだよ」

ほう、それは確かに笑えそうな話かも。

「ヨッコの前で、O野(仮名)泣くの?」

「あいつは泣いた事がない。ハットトリックしたのに、先輩の自殺点4連発で試合に負けた時も泣いたりしなかった」

例の、放送部を辞めた先輩らしい。活躍しとるなぁ。

「わかった。飾りじゃないんだな、奴の涙は」

「そのO野(仮名)があちしの胸に顔を埋めて、”もう部活辞めたい。アーデルハイド、お前と山羊を飼おう。”って、しくしく泣くのさ」

アルプスの山小屋に帰りたいらしいが、胸に顔を埋めてまでは言わんでよろしい。もちろん”O野(仮名)の弱虫!いくじなし!”って返したんだろうな?

「あのO野(仮名)がなにへこたれてんだよ。先輩のイジメか?」

「なわきゃないでしょ?あいつマゾだから、そんな逆境なら却って燃えるって」

スポーツ根性漫画で、最も賞賛される主人公の資質を、ヨッコはマゾと言い切って続ける。

「女だよ。女」

「なんだヨッコのせいか。O野(仮名)に同情するぞ」

「殴るぞ」

と言う前に俺の腹に一発フックをきめてから、ヨッコは言うのだった。

「最近入ったサッカー部の1年マネージャーに、色情狂がいるらしい」

「ぐふっ…。そんな羨ましい」

「そいつ、着替えてるO野(仮名)の後ろに回り込んで、やつの腹筋をすりすりするらしい」

「やっぱりおまえじゃねえか」

「あちしは良いんだよ。で、すっげー胸元の開いたTシャツを着て、乳首とか見せて来るらしい」

「なんですと?!」

「でもO野(仮名)はそういうの駄目なんだよ。あいつはあちしのものだからね」

外見に似ずO野(仮名:外見等個人情報の開示はいたしません。俺がめげるから)はくそ真面目で、ヨッコと付き合うまで、女の子と口をきいた事もなかったと言う。今でも2人でいる時はでろでろだが、ちょっとでも人がいると、お得意先の女性管理職、みたいにヨッコを扱うそうだ。

「まあ、その子が顔が著しく残念とか、体重が俺よりあるとか、そういうんだったら同情するけどな」

「それがさ、結構可愛いんだって。胸はあちしより小さいらしいけど」

いいから、そんなヨッコの胸毎日見てる前提の比較発言は。キーッ!

「ヨッコ、それかなり危険な状況じゃない?」

「そうか?笑えるだけだろ?」

すごい自信と信頼。もう俺はヨッコを取り戻せない。元々俺のじゃないけど。


今のところ笑えない。さあお楽しみ変態プレイの準備だな。屋上にロープを張って、洗濯物を山ほど干させてやる(ねえ、どんなプレイだと思った?ねえねえ)。

「そんだけじゃないんだよ。そのエロマネージャー、何組だと思う?」

突然俺も笑いが込み上げて来た。爆笑と言うんじゃない。判んなかった数学の問題が解けた時、もやもやがすっと晴れて、自然にこぼれる笑いに近い。

「MMMか」

「そう。そんなところにいやがった」

そうかそうかと俺たちはケラケラ笑った。

やつら2人の計画が全て判ったからだ。あんまり頭良くない奴らだな。

まず、リラが偵察のため、放送部に入る。俺を籠絡出来るならやる(俺ロリコンじゃないから残念でした)。

リラの調査で、俺とヨッコが仲良し、かつヨッコにはO野(仮名)という恋人がいる、と判ったので、もう一人がO野(仮名)にモーション掛けて横取り。

傷心のヨッコが俺に接近。俺とヨッコはラブラブに。

結果マイカはフリーに。

めでたしめでたし、と。

そんな上手な玉突きみたく行かねえよ!


面白いので俺もついて行く。本当に可愛い小柄なマネージャーが洗濯していた。

「あんたかい?うちのO野(仮名)に粉かけてんのは?」

「はあ?何ですか?なんの証拠が…」

染井そめい胡蝶、という名のMMMはしらばっくれた。

「もうネタはあがってるんだよ。あんたのエロエロ攻撃」

「あたしはただ…。O野(仮名)先輩の前で転んじゃったら、たまたまパンツがまる見えになったり、首のゆるいTシャツ着てたら、たまたま先輩の視線の先に私の乳首があったり、半ケツ位いいやと思ってしゃがんで一生懸命洗濯してたら、ジャージが下がっちゃって、先輩に全ケツ見られちゃっただけで、やましい事してないです」

それがエロエロ攻撃と言うんだよ。羨ましすぐる。

「とにかくO野(仮名)にそんな事しても無駄だよ。奴はあたしにしか興味ないから」

「今はそうでも、絶対あたしに振り向くわ。だってアバズレなヨッコ先輩と違い、あたし…。処女なんだから!」

ああ…なんと言う事を…。

「馬鹿お言い。あちしとO野(仮名)だって、付き合い初めは新品さ。それからどんだけ研鑽を重ねたか…」

知ってた。だから悔しかった。でも、研鑽内容は言わないでね…お願い。

「絶対、あたしの若さで…。O野(仮名)先輩を…」

一歳しか違わんだろ。それにしても、この胡蝶って子、当初の目的と違ってない?

「プロ選手で、歳下の可愛い芸能人と結婚した奴は、みんな大成しないんだよ。栄養管理、健康管理、そして夜の管理、きちっと出来る年上女房が理想なんだ」

お前はO野(仮名)と同い歳だろ!と突っ込もうと思ったが、日頃俺がどんだけ同い歳のヨッコを頼りにしてるか考えたら、

「O野(仮名)をブンデスリーガに連れて行けるのはヨッコだけ」

と言う気が、確かにして来た。

「あたしも負けません!勉強するもん!」

計略でO野(仮名)を落とそうとして、ミイラ取りがミイラになったな。

「あちしはいいんだよ。あんたと…」

え?何を言い出す?ヨッコ身を引くのか?

「3Pでも」

胡蝶が、洗濯物をばたっと落とし、がっくりと手を付いた。昨日今日芽生えた男好きの心から、本来の上級生お姉様LOVEの本性に立ち返った(決して正しい姿に返ったとは言えない気もするが…)瞬間だった。

「…負けました。姉さんあたしを子分にして下さい」


放送室に戻り、胡蝶が降参した事をリラに告げる。

「私だけになっても。か弱いもも先輩を守るためなら、この身をケダモノの生贄に捧げても」

「だから俺はロリコンじゃないので」

「私と、もも先輩とどこが違うの?やっぱりおっぱいが小さいから?」

(そのころマイカは、部活が早く終わったので、ミナミと帰ろうと、放送部に向かっていた。)

「君とマイカの違いは、そんなとこじゃない。マイカには一片の邪心もない。純粋に俺を愛してくれる心だ。俺は例えマイカの胸が大きくなくても、マイカを愛するよ」

(そのころマイカは体育館から渡り廊下を通り、本館に向かっていた。)

「へー、メグも立派になったねえ。”あの子のおっぱいに惚れた。付き合いたい”って言ってた奴が」

「いや、それはヨッコ。あれから色々研鑽をつんでだなぁ。あとメグ言うな」

(そのころマイカは、放送室に行く階段を下っていた。)

「判りました。ミナミ先輩のもも先輩への愛は本物。MMMは今度こそ解散します」

「判ってくれて嬉しいよ」

(そのころマイカは、放送室への廊下を歩いていた。)

「でもお願いです。リラをこのまま放送部に置いて下さい。本当に…先輩が好きになっちゃったんです」

なんとここにもミイラ取りが!でも、困るよ、そんな…。俺ロリコンじゃないし…。

「ヨッコ先輩の事が…。大好き!」

そういえば、この人も本来そっち系か…。

「いいよあちしは。4Pでも」

「嬉しい!じんじゃぁ&ぺっぱぁ、ヨッコ先輩に精一杯ご奉仕いたします」

(そのころマイカは、放送室の防音扉の前にいた。)

荘ヶ崎と胡蝶で生姜と胡椒か…。ずいぶん中坊っぽいコンビ名だな。と思ったら、本当に二人は中学の同級生だった。

「おお、可愛いなあ、リラは。よしよし」

「でも、ミナミ先輩って、本当にもも先輩一筋なんですね。感心しました」

(そのころマイカは、放送室の扉を開けた。)

マイカ!どっかにいたら、すぐ来てこいつの話聞いてやって!聞いてやって!

「だって私が、向かい合わせでお膝にまたがって、”おにいちゃんって呼んでもいいですか?”って聞いても、うんって言わないんですよ。ぎゅっとハグしてくれたけど」

(バタンとドアの閉まる音。あ?マイカ?え?俺ロリコンじゃないです。)

「ミナミメグルさん。大事なお話があります。今すぐ私と校舎の裏まで来ていただけますか?弁解があるなら、まとめておいてくださいね」

マイカはニッコリ笑うと、恐怖の余りその場にへたり込んだ3人の中から、俺の襟を掴んで、ずるずると外に引きずって行った。

「俺ロリコンじゃないっす~っ!」

哀しい声が校舎に響く。


がたがた震えるリラをやさしく撫でてやりながら、ヨッコは言ったという。

「か弱いマイカを守って支える、MMMは必要ないだろ?」

リラは青ざめた顔で、コクコクとうなづくだけだった。


■喧嘩はやめて■


疑惑の梅雨雲は過ぎ去り、俺とマイカの爽やかな夏空がやってきた。と思ったら、なんだかとてつもない雷雲が迫って来た事に、朝の同伴登校で、

「ふんふふふん」

な気分だった俺は、気づいてもいなかった。


朝の連絡放送のため、原稿チェックをしていたら、放送室の扉が恐ろしい勢いで開いた。

テケップが現れた!

珍しく髪型が決まっていない。

テケップは驚き惑っているようだ。


「ミナミ。大変だ」

「一大事だ」

「マイカと綸子が決裂だ」

「もう3日もろくに口きいてない」

「今日も朝から険悪だ」

「綸子は、いてつくはどうを吹きかけた」

「ミナミ、お前何か知らないか」

「さっさと吐いて楽になれ」

ステレオで迫られ、もう悶絶しそうになった。


「デートに行くなら、テケ・ケップ。嫁にするなら綸子姫」

と歌(末松作)にも歌われた、2Tの美女二人に耳元で怒鳴られ、少しでもMっ気のある奴なら、本当に昇天してしまうだろう。しかし話題は大事な恋人とその超美人親友の紛争の件である。

俺はその日の放課後、リサーチを開始した。

まずマイカの数少ない親友の、もう片方であるヨッコに聞いた。

「いやごめん。全然情報入って来てないわ。それより聞いてよ。O野(仮名:もうこいつ”Oh!No!”でいいんじゃ?)君ったら、あちしの、上から5番目の肋骨が堪らないって」

駄目だこりゃ。聞いた方が馬鹿だった。しかしその辺の肋骨って丁度おっぱ…。

一度は惚れた女の痴態は聞くに忍びないので、肋骨の位置を確かめながら、さっさと2Tへ。


T組に行くのは久しぶりだ。普通科男子憧れの禁男の園。男が一人で行くのは、結構勇気が要るのだが、2Tならマイカやテケップに用事があって行く事はある。ファッションショーの時の活躍もあり、緊急アラームが鳴る程には、俺は警戒されていなかった。

☆警戒レベル1☆”視線注意報”ぐらいかな?

ちなみに末松は、日頃の精進の甲斐あって、

★警戒レベル5(MAX)★”強制排除命令”まで到達しているらしい。


1Tには2回ほど後輩への連絡に行ったことがある。

「ケダモノ…もも先輩を…綸子先輩まで…嘘っ?…なんて外道…」

というヒソヒソ声が聞こえた様な気がしたが、気のせいだろう。


3Tは放送部の卒業写真関係の連絡で、一回だけ幽霊部員状態の先輩に連絡に行った。教室に入ると、後ろからいきなり知らない先輩に

「ノリユキ?ノリユキなのね?帰って来てくれたのね?」

と抱きつかれ、肝をつぶした。

「レイちゃん、違うの。この人は違うのよ」

と友達が引き離そうとしたが、レイちゃん先輩が離れないので、いきなりその友達先輩はレイちゃん先輩をビンタした。レイちゃん先輩も

「なにすんのよっ!」

って言って、俺をビンタした。どうして??なんかドロドロしてて恐い女の園だった。もう行きたくない。


さて2Tに行くと、幸いマイカは部活に出かけていた。マイカに聞くのは最後にしたい。綸子もいなかった。綸子とは、

「貴方とは友達になれそうな気がします」

発言以来、マイカと3人でいる時に、一生懸命

「友達になれそうな気が、しますよねー」

ビームを俺は発してみるのだが、常に冷酷な

「そう?気のせいだったかも」

シールドにはね返されていたので、友達未満の仲だった。出来れば直接真相を聞きたかったが、その綸子もいない。とりあえず、組びとAに情報聴取。

「青梅さんねえ…。今日も桃澤さんが、”綸子、なんで最近わたしを無視するの?”って聞いたら、”自分の、その巨大で邪悪な胸に聞いてごらんなさい”だって。随分よねー」

綸子も部活に行ったんじゃ?と言うので、剣道場へ。

俺は柔道部に拉致られないため、体育の武道は剣道にしていた。だから、顧問の老先生の気性は判っている。綸子を捜しに来たなんて言ったら、正座二時間は軽い(体験談by末松)ので、そーっと体育館を迂回し、外で防具を外して休憩中、胸元をくつろげて道着に風を入れるという、なかなか結構な風情の女剣士Bに聞く。

「綸子?困ったもんだよ。昇段試験も近いのに色恋沙汰とは。今日は来てないよ。ところで、あんたあの子の何なのさ」


色恋沙汰?

硬派でならした綸子姉さんにしては、いやにドロドロじゃないか?とは思うが、俺はマイカから聞いてる、綸子の女っぽい内面、つまり

惚れた相手には一途なところ。

和裁をやりたいってT組を志願し、学業と武道を立派に両立させているところ。

さらに亡き母上に代わって父上、弟、妹の家事一切こなしているところ。

そういう古風で懸命な女の一面を知っているので、それ程意外ではなかった。

でもマイカと恋の鞘当てって、それじゃ相手は俺じゃないのか?満更でもない。いや無いな。満更だぜ。綸子に限って、親友の彼氏に手を出したりしないだろうし、

頑張れば、

「友達になれそうな気」

はするけど、それ以上は所詮無理だ。住む世界が、というより悔しいけど生物学的に違う気がする(自分でそこまで卑屈にならんでも)。

じゃ佐竹か?

と言う事は、うちのお姫さんが佐竹に惚れた?

いや、それも無いぞと信じながら、もしそうなら佐竹には勝てない気がして、またしても俺の心はずたずたになった。


実は佐竹の観星会には一回も参加してない。

皆勤の綸子は勿論だが、最近はマイカも良く顔を出しているらしい。マイカも俺が機嫌悪くなるのが判るのか、行ったとも、今度行こうとも言わなくなったのが、余計に面白くない。ちっちゃい男だな、俺。やっぱ俺って嫉妬深いのだろうか?

嫉妬に狂う高畑君。ちょっと見てみたい(そんな事言ってる場合じゃない)。

部活さぼって、綸子が行きそうな所、あそこしかないな。


屋上は不良が煙草吸うところ。と相場が決まっているが、うちの高校には不良がまずいない。頭の悪い不良は入れない偏差値だし、勉強しなくても成績がいいスーパー不良は、もっといい学校に行って本物のワルになる。

半端な学校。それがうちだ。

とはいえ、当時は高校生になったら煙草を吸う。というのが暗黙の了解な時代でもあった。俺だって吸ってみた。喉が弱いのですぐ止めたが。友達の一人など、母親に

「お前も高校生になったんだから」

と一箱渡されたそうだ。


綸子は剣士なので煙草は吸ってないと思うけど、ここが彼女の一番幸せな想い出の場所(観星会の会場)である以上、恋の傷を癒すのはここしか無いだろう。

屋上には誰もいなかったが、しょんぼりが居た。

しょんぼりはフェンスにもたれていた。

「青梅さん?」

と俺はしょんぼりに声をかけた。しょんぼりは

「ミーナーミー」

と大阪の繁華街の様に俺を呼び、俺の胸に飛び込んで来た。お?いい展開か?調子にのると、某漫画ならここで電撃だよな。俺は天を見上げたが、恐怖のリバースタイマーは浮遊していない。あたりまえだが。

綸子は俺の胸をトントン叩き、泣きながら。

「ミナミミナミミナミ」

と連呼し始めた。こらこら痛いじゃないか。おーよしよし。

いや段々洒落にならん程痛くなって来た。綸子の剣は長身を生かした上段。手首のスナップは半端じゃなく強い。


「ミナミミナミミナミミナミ」

更に泣きながら俺の胸を叩きまくる。ちょと止めっ!痛いじゃないか。俺の自慢の上から5番目の肋骨が折れるぅ。

「ミナミ!マイカをしっかりつかまえとけ~っ!」

あ、やっぱりか。そういう事か。大泣きで綸子が話しだす。

「観星、会でね、さ、佐竹君、ヒック、ま、マイカにばっか話しかけて。ヒック、綸子にはぜん、ヒック、ぜん、ヒック、お話してくれない、の」

お姉さん。キャラ違ってます。あんた一人称

わたくし

でしょ。自分で名前呼びってなんだよ。最後の”の”。って何だよ。お願いだから、凛綸組が見てないからって、

「うぇ~~~ん!」

って泣くのはやめて下さい。可愛いけど。

「気のせいだよ。マイカにはその気ないって」

「マイカ、なんかハイだったのよ。あんな楽しそうなマイカ、見た事無い」

「なんですと?いやいや気のせい気のせい。焼き餅はみっともないですぞ」

「とにかくあんたがしっかりしなさいよ。綸子のなま乳見たくせに」

バレてたんかい…。


しょうがないので、よしよしと抱きしめて頭を撫でてやったら、しばらくくすんくすん泣いた後、我に返って思い切り突き飛ばされた。でもなんか友達になれた気がする(かなり痛い代償を払ったが)。

そうか佐竹が本編の恋のライバルか。それにしても佐竹に懸想されて(殿様だけに)、マイカは満更でもないのか?満更なのか?

かなり気になって来た。

「俺の恋をどうするよ」

というだけなら、言えずにうじうじもんもんと過ごしたかもしれないが、マイカの能力を知ってしまった

「高畑くん」

としては、マイカがほいほいと、佐竹に超能力の事を喋っちゃわないかも心配だ。

やっぱり、ここは本人に聞くしかないな。


体育館の女子更衣室前で、俺はマイカが出て来るのを待った。漫画演出的に言えば、

「マイカ!マイカっ!聞きたい事がある」

と俺が焦って更衣室の扉を開け、下着姿(レオタードの下ノーブラのお方もありやとも漏れ聞く)の女子部員が

「きゃーっ!変態スケベなケダモノよー」

と、リングやリボンやボールや棍棒(怖い)を俺に投げつける所だが、俺はナウでヤングな紳士だから、そういう下手は打たない。じっと待つだけである。出て来た生徒が怪訝と言うより露骨に嫌な顔をした様に思ったが、気のせいだろう。天下の公道だ(いや廊下だ)。別に悪い事はしていない。

30分程してマイカが出て来た。

「あれー?メグルくん、そんなとこに居ると、通報されちゃうゾ?」

先週ここに張込んでいたカメラ小僧が通報され、指導部の鬼頭に連行されたと言う。なにやら松がつく奴だったとか…。

運動後で、ややハイな感じのマイカだったが、綸子の事を聞くと、にわかに顔を曇らせた。綸子の件では、マイカもだいぶ焦燥していた様子だった。


「そう…。綸子がそんな事を…。佐竹君はとてもいい人だし、大好きだけど恋人としては考えた事ないなあ…」

「そうだよな。マイカには合わないよね」

「いや、意外と…。いいかも…。うん…その手もあるなあ」

ちょっとぉ。やめて下さいよ。心臓に悪いから。

「嘘だよ。わたしはメグルくん一筋」

ほっとしながらも、この釣り合わない恋愛に、いつかこう言う結末が来る様な予感がしてならなかった。

「教えてくれてありがとう。明日綸子に”心配させてごめんね。佐竹くんの気持ちは知らないけど、マイカはメグルくんしか愛してないよ”って謝る」

俺は心の中に総天然色の花園が生まれた気がした。漫画表現的に言えば、眼がハートのマイカに告白され、超格好良く修正されたつもりの俺はこう言った。

「頼んだぜ。もう親友を俺の胸で泣かすなよ」

「へ?それはどういうことかな?説明して貰いましょうか?」


一言多い俺の癖は、完治していなかった。

電撃(漫画表現的で言えば)が…。


(第5部終了)

あと2回で終わりそう

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