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秘密のマイカちゃん  作者: 鈴波 潤
1/9

第1部

これは40年前の、高校生の物語です。

今と違い、テレビで普通におっぱいが出て来るのに、女性の下半身がどうなっているのかは、毛も含め謎だった時代。

主人公、朱雀還流ミナミメグルは、ようやく肥満児から脱出した童貞の男子高校生(被イジメ歴あり)。

少しだけ頑張って、ようやく入学した高校で、彼は運命の人と出会います。

彼女、桃澤マイカは、ごく普通の女子高校生。普通よりちょっと可愛く、普通よりちょっとおっぱいが大きくてとても形がいいだけの、普通の女子高生です。

彼は彼女と結構衝撃的な出会いをし、付き合う事になりますが…。


この時代まだ生まれていない若い方にも、

お父さん、お母さん(おじいちゃん、おばあちゃん?)の青春時代。

「携帯がなくて、女の子が普通にブルマで体育してた時代。」

の1970年代を楽しんでいただけたらと思い、この作品を書きました。

秘密のマイカちゃん                       


(第1部)


■プロローグ■


「照屋くん、牛丼行こか?」

「給料日でもないのに豪勢ですね。いいことあったんすか?」

「いやー例のクーポンが貯まってね。奢るぜ」

「本当っすか!?」

給料日が近づくと、照屋くんは昼飯を抜く事がある。


結構な大都市なのだが、

俺が勤めている会社も高層ビルの36階にあるのだが、

ビルの地下には上等な食堂街があるのだが、

俺たちは、汚ったないガードをくぐって牛丼屋に昼飯に出かけた。

色々あって、前の会社を40代半ばで辞めた俺は、就活誌を必死で漁って、ようやく派遣の仕事にありついていた。

たかが牛丼なんだが、俺たちには贅沢な食事だ。いつもはデパ地下の大きさで定評のある、105円のおにぎり一個で昼をすます俺だが、

「牛丼5杯食べると1杯ただクーポン」

キャンペーンの時だけは燃える。しかも先日上司と牛丼を食った時に、財布にしまい込んでたクーポンを3枚もくれたのだ。

「君も集めてるだろう。照屋に飯喰わしてやってくれ」

上司も部下に昼飯奢れる程の高給取りではない。いい人だ。


照屋くんは、沖縄の高校を出て、この町の大企業に就職。たちまち

「都会の絵の具に染まって…」

しまい、キャバ嬢に突っ込んで、300万程借金を作って、その後色々あってこの会社で派遣をやっている。


しょぼくれた中年オヤジと濃い顔立ちの青年の二人連れは、牛丼並ですっかり満足して店を出た。ガード前の交差点で、照屋くんがガムを呉れた。

「牛丼後のガムって最高っすよね」

それは普通焼き肉じゃないか?

「このガム新製品っすよ。いいでしょ?」

「そうだね」

まあ貰えるもんはなんでも旨い俺。

「先輩は、一番旨かったガムはなんですか?」

「そうだなあ…。高校の時彼女に貰ったガムかな?」

「へー。どんな…」

「口移しで」

照屋くんの口からガムが落ちた。


■星に願いを■


「十で神童、芋虫ゃ二十歳、蛇は二十五でただの人」

と言うが(言わんか)、俺も小学校の時は学校の授業だけで充分◎が取れたので、まず家で勉強した覚えが無かった。

ところが中学になるとそんな訳にはいかず、地道に家で勉強してる奴らにどんどん追い抜かれ、

「こんなはずでは…」

と焦り始めていたのが、俺の中学時代である。親なんて言うものは、子供を過大評価しがちなもので、

「お前はやれば出来る」

が口癖だった。確かに俺もそう思ったが、問題は

「出来るだろうがやれない」

事だった。

その上、ちょっと事情があって欠席が多くなり、長期転落傾向が明らかになったのを見て、母は地元で評判のいい塾に入る様、俺に勧めた。数少ない友人のヨッコも行ってる事でもあり、その塾に俺は通い始めたわけだ。


塾に入ったからと言って、成績は簡単には好転しなかったが、家で勉強する習慣がなかった俺にとって、塾に行けばとりあえず勉強している訳で、転落から横ばい程度にはなった。

俺の住んでいた県の県立高校は、

「質実剛健」

が売りで、特に俺が行けそうだった近所の県立高は、かなり長距離のマラソン大会で知られていた。また教室に暖房がなく、進学した近所の上級生が、

「真冬はコート着て勉強すんの。そんで放課になると、皆で窓際に集まって10分間だけ”解凍する”んだぜ」

と言っていた。そこはちょっと俺にはハードに過ると思った俺は、珍しく真面目に夏期講習を申し込んだりして、少しだけラストスパートした。

結果的に3年2学期と言う土壇場で若干内申点が上がり、噂の県立極寒高校よりワンランク上の、市立温泉高校(暖房完備・マラソン大会なし)に滑り込む事が出来た。バス通学で30分程かかる、入試の日まで行った事もなかった高校だった。結果的にこの選択が、この物語のヒロイン、俺の彼女との出会いになった訳なのだが、とりあえず話は中3の年末から始めたい。


学習塾と言うものは、入試が迫って来るとやたらに力が入り、

「集中講座」

だの

「合格祈願」

だの

「寒中合宿」

だのやりたがる。

塾長の知り合いに住職がおり、町外れの、日本昔話に出て来そうな山寺に住んでいたが、ここを年末に借りて仕上げの合宿をするのが、この塾の決まりだった。2泊3日で結構勉強を詰め込まれ、座禅もさせられた記憶がある。


この塾はいくつかの教室を持っており、知らない子も沢山来ていた。

お決まりの必勝ハチマキを締めてのハードな勉強に疲れ切って、宿坊の様な所で雑魚寝をする訳だが、もちろん男女の宿坊は別で、渡り廊下でつながっており、真ん中にトイレがあるので、用を足す時に

「ゆきえちゃん、すっごい大人のパンツぅ!」

「ほんとだ、エロエロ~っ!」

なんて華やかな女子の笑い声とか聞こえて、青春まっ盛りの中坊には、なかなか刺激的だった。


もちろん女子部屋に行くなんて夢の様な事もできず、どの子が可愛いなんて話しながら就寝時間過ぎても遊んでいたら、突然田岡先生が来た。こりゃ怒られるかな?と思ったが、

「来たい人はコートを着て玄関に集合すると良いです」

と言って出て行った。

田岡先生は理科と数学の先生だったが、俺たちは兄貴の様に信頼しており、当然の様にコートを着て外に出た。ヨッコたち女子も来ていたし、よその教室の生徒もいた。


この先生は地元の国立大で物理学を専攻する院生で、合宿前から今がどんなに貴重な時かを教えてくれていた。

大きな彗星がこの年地球を訪れていた。

ハレーコメット程有名ではないが、やはり何十年もの周期で接近する彗星で、この町の緯度でもはっきり目視できるとの話だった。ただし、街中ではさすがに無理で、こんな山寺ならきっとこの彗星を見る事が出来ると、我々はちょっと楽しみにしていたのだ。


寺から更に山道を少し登ると、山頂に着いた。

小さな展望台があり、我々は先生の指差す彼方に、本当に尾を引いて

「ほうき星」

が輝いているのを見た。ちょっと感動した。翌日に差し支えるので、すぐ宿坊に戻らねばならなかったが、帰り道で誰かが、

「あ!流れ星」

と叫んだ。山の中だけあって、豪勢な星空に流れ星も結構降ってくる。当然みんなは流れ星に願いをかけた。間違いなく殆どが、

「志望の高校に合格出来ます様に」

と祈った事だろう。

俺は、立ち止まって、願掛けを終わり山道をおりて行く仲間を全員見送った後、ゆっくり振り返った。緩やかな上り坂の上に、俺専用みたいに彗星が尾を引いて輝いていた。

「彼女が出来ます様に」

と俺はコメットさんに祈ったのだった。


山道を下って、宿坊に戻り、自分の部屋に入った。

戻ったのが最後だったので、一番廊下の近くの布団しか空いてなかった。2時間ぐらい寝ていただろうか?なんかとてもハッピーな夢を見ていた気がする。

「ひぇっ!なんだ?なにが起こった?」

俺は、突然冷たいものをお腹に当てられて眼を覚ました。

それは、小さな人だった。

俺は当時既に175cmは越えていたので、友達は大体自分より小さいのだが、それにしても小柄だった。俺は150cm位しか無い友達を思い描いた。

「こら山下。ふとん間違えるなよ」

起きない。

この野郎。と脇腹をこそぐって起こしてやろうとして、その小さな闖入者に手を伸ばした。

「柔らかい?」

なんかお腹の上に、山下くんにはない、ぐにゃりとしたものがあるような?

「女子?」

熟睡しているその子の顔を覗き込んだ。豆電球だけなので、はっきり判らないが、見た事無い顔。他の教室の子だ。寝ぼけてトイレに行った後、部屋を間違えたのだろう。


この場合、正しい行動は、

1.起こしてやり、正しい部屋に帰す。

なことは判っている。でも中学3年生男子にそんな分別を期待してはいけない。特に俺は脳の半分をエロが占めており、残りの半分で受験勉強している有様だったから、こんなチャンスを逃すのは惜し過ぎる気がした。


2.折角だから、思う存分触り倒す。

なかなか危険である。眼を覚まされて騒がれたら、ちょっと困る。いくら向こうから布団に入って来ても。

「窮鳥懐に入らずんば虎児を得ず」

だったっけか?難関校入試問題にあった中国のことわざを思い出した。なんか間違っている様な気もするが…。

そのころ少年漫画誌の恋愛もので、好きな子が安心しきって隣で寝てしまい、

「こんなに信頼されちゃ、何にも出来ないよ」

と言うのがよくあった。俺はいつも、

「そんな事あるか~。やるだろ漢は!」

と魂の突っ込みを入れていたが、現実になると、なかなか出来るもんじゃない。


3.明日もハードな勉強だ。俺は眠い。コレハマボロシダ。と言い聞かせる。

結局一度はそうしたんだ。信じて欲しい。でも眠れるもんじゃないです。自慢じゃないが、俺は女の胸なんか赤ん坊の時以来触った事無い(自慢にならん)。

「結構おっぱいでかかったなあ」

中学生男子は愛読書

「ボーイズライフ」

の、ヌードでもない水着グラビアに反応してしまう。俺なんか国語の問題集で、

「概ね」

という言葉の読みを問う問題の正解が、

「おおむね(↑大胸)」

であることを発見し、激しく反応してしまい、それから会話に多用する様になった位だ。しかしエロ妄想一杯の中学校生活で、現実のエロは訪れなかった。

深夜に電気を消し、親に隠れて茶の間のテレビにイヤホンをつけ、

「11PM」

とか、

「プレイガール」

に時々出て来る裸にドキドキする位。

あとは大掃除のとき、クラスの女子の(膝下15cmの)スカートが風でぱーっと捲れて、パンツがもろに見えた位。

毛糸のパンツだったが…。


こんなチャンスは二度とないだろう。

「揉まなければ起きない。そっと触るだけ…」

そーっと手を伸ばす。

ノーブラだ。

中2辺りから、女子はブラを付け始め、夏服になると前に座ってる子のブラが透けて見えて、かなりドキドキした。もう勉強に身が入らない位。

女子は寝る時は外すのか。

パジャマの上からちょっと触ってみる。

柔らかい。大きい。そして固い。

思わず興奮して、ぎゅっと掴んでしまった。やばいっ!起きるか?


「んんんん」

と小さな声を上げて、彼女は寝返りを打った。なんか抱き合うような形になってしまった。

「結構うれしいぞ」

とりあえずちょっと抱きしめてみる。これだけ近いと、もう胸に触れない。

「困ったな」

抱きしめた格好の手は背中に回り、ちょっと下へ。パジャマのズボンへ。折角だから(なにが折角だよ)ちょっとお尻を触ってみる。

「丸いなあ」


何遍も俺の手は、パジャマのズボンのゴムの所を行ったり来たりする。

「ここから先やったら痴漢だよなあ」

今思えばここまででも充分痴漢だが。片側だけちょっと下げてみる。

もう天使と悪魔が頭の中で、激しく言い争っている。

悪魔は

「行けるって!下げちゃえ下げちゃえ」

とでっかい扇子で三三七拍子。

天使は

「やめとけって。胸でやめとけ」

と全部止めるつもりは無い様子。


いよいよ最後の砦である。

もう悪魔も天使も一体になって、指先探検隊に声援を送っている。

おそらくクラスの男子の誰も知らない秘境へ…。指がゴムにかかる…。

あたりで朝だった。

「夢オチかよ!」

という突っ込みが聞こえてきそうだが、大丈夫である。もう少し俺の話を聞いて欲しい。


「おい、早く起きろよ。あと10分で朝の座禅だぞ」

良く知らない他教室の教師が叫ぶ。

寝坊を昨夜の彗星観測のせいにされると、田岡先生の立場が無いので、手近にあったフェイスタオルをつかんで、顔を洗いに走った。

もう誰もいない洗面所に着いて、顔を洗ってタオルで拭こうとして気がついた。


タオルじゃなかった。

それは小さなパンティだった…。


■始まりはモノクローム■


「メグ!また同じ学校だね!」

ヨッコが嬉しそうに駆け寄ってくる。

「メグっていうな。俺はメグルだ」

何回も繰り返されたやり取り。


俺の名前は朱雀還流。これで

「みなみめぐる」

と読む。名字だけでも難解で、病院とかでも

「あけすずめさん」

とか呼ばれるのだが、親も名前まで難解にする必要は無かったのではないか?まあ、最近の若い夫婦の無理矢理な命名と違って、めぐるとは読めるのだが。武芸者じゃあるまいし、

「すざくかんりゅう」

なんて呼ばれるのは敵わない。まして小さいときから

「メグちゃん」

と言われ、女の子扱いも多かった。


ヨッコは気持ちのいい奴で、実は中学のとき片思いしていた。黙ってれば水準以上のいい女なんだが、奴と話していると、なんか同性の友達と話している様で、どうしてもそれ以上にはなれなかった(事にしておく)。

「もう部活決めた?」

入学式の日、いきなり柔道部の部室に拉致され、

「ここに名前書いて。あ、仮入部だから。仮ね」

と全日本篠原監督の様な、ゴツい先輩にニッコリ微笑まれた俺は、

「すみませんっ!もう入る部は決めているんで」

とダッシュで逃げた。

当時の俺の身長は177cm(今は数cm縮んだ…)。

ちなみに体重は…まあその、あれだ。

県立のマラソン大会に戦慄(誰が上手い事言えと…)した事で判る様に、運動はまるっきり駄目。正直小学校までは、筋金いり肥満児だった。


いつまでも部活に入らないと、柔道部の先輩に何か言われそうで、どこにしようか、真剣に考えていた矢先だった。

「ヨッコはどうすんだよ」

「あちしは、美人アナウンサー志望だから、もちろん放送部さ」

「自分で美人言うかよ」

「メグも放送部入んなよ」

「メグ言うな。入ったら俺とつきあってくれる?」

「いいよ、槍?フェンシング?」

突っ込む気にもなれない。

「放送部の1年って、かわいい子いるよ」

「うん、入るわ」


このような会話の末、熟慮を重ねず、俺は放送部に入部する事にした。

同期の部員は全部で4人。男は俺一人。後はヨッコとT組の超絶美人コンビ(ヨッコは嘘付いてなかった!)。T組というのはこの学校独自のクラスで、服飾デザインコースだ。戦後復興に尽力した当時の市長が、

「これからはアメリカの文化を学ばねばならん。服飾など繊維関係を学ぶ学級を作ろう。繊維は英語でなんと言うのかね?」

「テキスタイルと言います(当時はアパレルという言葉は一般的ではなかった)」

「よし敵のスタイルを学べだ!」

という親父ギャグ的命名で、頭文字イニシャルT組となったそうだ。今は男子生徒もいるようだが、当時は女子生徒だけ。校舎も別で、ちょっと

「女の園」

という感じで、おしゃれな女の子が集まっており、俺たちもてない普通科男子生徒には 憧れの対象だった。 部長に頼まれて、俺が部員への連絡でT組に行ったりすると、綺麗なおねいさんに一斉に注目され、どきどきしたものだった。


同期の絶品女子部員、T組のテケちゃんとケップちゃんは、どっちも双子の様に似ていた。顔立ちは似てないのだが、長い黒髪(まだ人工茶髪はいない)をおさげやツインや、その日によって色々な髪型に結ってくる。朝お互いの髪を結い合うそうだ。同じにしなくてもと思うが、両人はいつも同じがいいという中学からの仲良しコンビだ。ちなみにテケちゃんは、

「ひょっこりひょうたん島」

に出て来たキャラからで、小学校のときおでこが広いので付けられたとか。ケップちゃんは、なんでケップちゃんなのかは本人も知らず、幼稚園の頃からそう呼ばれているらしい。ファンクラブ(実在)の調べでは、ケチャップと言えずにそう言ったから、という説と、赤ちゃんの時のゲップ(重要)の音からという2説有り、会員の中でも論争のタネだったらしい。


期待させて申し訳ないが、放送部と言うのは厳密な放送当番のローテーションで動いており、1年の頃はあんまりこの2人とは話す機会がなかった。慣れてたので、俺はいつもヨッコと組んだし、この2人はもちろんコンビ。コンクールにラジオドラマを出品する時だけ、T組まで行って出演を依頼したりする位だった。

あとはクラスの末松くんに、つき合いたいから紹介して欲しい、とか言われた位しか、彼女達との接点はまだなかったな。この時、口利きをした俺は彼女達からしばらく恨まれた。

末松の告白は、なんと

「テケちゃんかケップちゃん、どっちかとつき合って下さい」

で、いくら疑似双子コンビでも、馬鹿にすんな!と瞬殺だったそうだ。

「あわよくば、どっちかと…」

と考えていた俺は、ちょっと反省した。


1年生の一学期は、殆ど何もなく終わった。

夏の合宿で、星空と、慣れない清涼飲料水(です!)と、俺の前では無防備なヨッコの

「風呂上がりノーブラTシャツぽっち付き」

で、すっかりその気になった俺が、ヨッコに告白しようとした事など、良い想い出だ。

ああそうだとも。

まあ、当時の会話だけ記録しておこうか。

「あのなヨッコ、俺…」

「メグ、あちしさあ、ちょっと聞いて欲しい事が…」

来たか?これは来たか?

「メグ言うな。ヨッコ先に言って」

「あちしさあ、O野(仮名:でいいか)くんに告白された」

「!!あ…そう。良かったじゃん。で、どうするの?」

「まあ試しにさ」

O野(仮名)と言うのはサッカー部で、1年からいきなりレギュラーという逸材。まあそんなにレベルの高い部ではなかったが、結構目立っていた。

「良いんじゃない?まあ振られたら俺の胸で泣かせてやるぜ」

清涼飲料水(です!)も一瞬に醒めたおれは、心でちょっと泣いた。


さてさて俺としては一刻も早く、彼女との出会いを語りたいのだが、俺の中の

「女神ユースティティア(裁判所に天秤持って立ってるローマ神話の公平の女神)」

が、こう告げる。

「あんた、中学ん時の顔も忘れた子の毛糸のパンツまで言うなら、あの件飛ばしたら駄目でしょ」

ああそうだった。モノクロ画面の様な高校1年の記憶に、残念ながらフルカラーとは言えなくとも、

「256色インデックスカラー」

程度の輝きを見せた一瞬があった。これを語らなきゃ、申し訳ない。と言う訳で、話は1年の新学期である。


俺がヨッコの誘いで放送部に入った時、3年生の先輩は2人しかいなかった。殆どの部は2年が終わると受験に備え引退、という感じで、放送部も例外ではなかった。部長と副部長だけ、なんか

「沈み行く船に最後まで残った船長と航海士」

みたいな塩梅で、残っていた訳だ。

残っていた最大の理由は、次期部長候補と目された2年生の先輩が、夏で姿を消した事だった。この先輩は(まあ後から登場しないので名前はいいか。)、サッカー部と掛け持ちだったのだが、1年に入って来たO野(仮名)と同じポジションだったため、危機感を感じたらしく、

「じゃぁねー、後頼むわ」

と俺に告げて、合宿後に退部してしまった。

2年は女子の先輩が3人(まあ後から登場しないので名前はいいか。)だけになり、結局3年が2人、2年が3人、1年が4人。これが放送部の当時の構成で、男は俺と部長の2人だけ。という訳だ。


「ミナミ!この原稿清書しとけつっただろ!指導部の鬼頭の字は読めんぞ!」

「すみません。すぐ」

「2年間もアナやってて、それ位読みなよ。プロでしょ?」

「るせい、てめぇはすっこんでろ!ミナミの為を思って指導してんだ」

「はいはい。早く放送して」

二人はいつもこんな感じだった。なんだか口喧嘩しているのが、基本と言う感じ。


「ったく、部長は甘ぇんだよな。ミナミには。あいつオカマじゃねえの?お前、ケツに気をつけろよ」

部長が帰った後、副部長の杉野先輩はこう言って毒づいた。こう言う場合のお約束なのでお判りと思うが、べらんめえなのが、副部長の杉野りり子先輩。穏やかにたしなめるのが、部長の宮田衛まもる先輩だった。

「あの二人、ああ見えて仲いいのよ」

とヨッコは言うが、俺にはとても信じられない。

まあ2こ上の先輩の事など、どうでもいいっちゃいいのだが、問題はこの2人が、俺にとっては憧れの対象になってしまった点だ。とにかく2人ともえらく格好いいのである。


まず宮田先輩。

身長は俺と同じ位だが、無駄な肉が無い。当時の若者に多い肩までの長髪。女生徒を振り向かせる甘いマスク。声はあくまでもソフト。放送コンクールアナウンス部門で、2年連続全国大会進出の偉業。これだけでも尊敬に値する。

趣味はフォークギターで、高田渡とか中川イサトのコピーをよくやっていた。

最初は優しいだけの先輩と思っていたが、仕切りの凄さにも驚いた。当時先輩は生徒議会の議長をしていたが、議会の時は、普段の口調と異なり声も張りがあり、進行を完全にリードしていく。当時の社会主義国家で、議長とか書記長とかが政治の実権を握るのは、こういう事なんだろうな?という感じ。じゃんけんに負けて、一学期クラス議員だった俺は完全に心酔し

「もし俺が女だったら、抱かれたい(性的な意味で)」

とまで思った。


一方の杉野先輩は、親は開業医との事でお嬢のはずなんだが、この人は本当にがさつな人だった。

「ミナミおめえ、ヨッコのこと好きなんだろ。押し倒しちゃえよ」

とヨッコの前で、毎回ガハガハ笑うのは序の口。一学期の頃は俺もまだ

「止めて下さいよ。そんなんじゃないんです(そんなん希望)」

とか返す余裕があったが、ヨッコがO野(仮名)と付き合い始めてからは、これは結構堪えた。ヨッコは終始にやにや笑っていたが、こうなると本当にO野(淫獣)に押し倒された体験を、

「思いだし笑い」

してる様に見えて、泣きたくなった。


練習で間違えたりすると、容赦なく愛のスリッパでひっぱたかれる。実力のある先輩なので、この体育会系しごきも受けざるを得ない。

まだ全国には行ってないが、県大会では朗読部門で毎年ベスト4に入っていた。朗読部門の女子は、大抵母が子供に話しかける様な優しい作品を選ぶが、杉野先輩は軍記ものを好む。特に合戦部分などを読ませると抜群に上手い。熱が入ると芝居がかってしまい、

「りりさん、講談じゃないんだから」

と部長に駄目出しされていた。


こんな男っぽい先輩のどこに惚れたかと言うと、それは、はっきり言って容姿だ。先輩はT組ではないのだが、あのテケップでさえ、

「あの人は隠れ全校ナンバー1美人」

と認めていた。普段はピンクのフレームで下半分が透明と言う、

「新学期セール。学生セット1万円!」

みたいな野暮な眼鏡をしていたが、疲れた時なんかに眼鏡を外すと、どきん!とする程色っぽい。一重まぶただが眼は大きく、彫りは深い。身長は160cm位か?髪は長いが、いつも一本のおさげにまとめて左右どっちかに垂らしていた。なんでどっちかに決めないか聞いたら、

「いっつも同じ方に引っ張ると禿げるんだよ」

と笑っていた。体型は一言で言えば、

「豊満」

朗読の練習の合間にお茶やお菓子を飲み食いするとき、原稿を置く場所がなく、

「胸の上に載せていた(ヨッコ目撃)!」

というほどの逸品の持ち主であるが、ウエスト周りは大いに残念。

「なんでもっと節制しないかなあ…」

と俺は思った(お前に言われたくない!と言われるだろうが)。とにかくお菓子が手放せない人だった。


動作ががさつゆえ、目のやり場に困る事も多く、その点でも眼の離せない先輩だった(結局俺がスケベなだけか…)。とにかくスカートを穿いている事を全く気にしない。

「あー、暑い暑い。なんでこの学校冷房無いかねえ」

と人前でスカートをパタパタする。すっごく大人の太ももから、パンツまで全部見えてしまう。残念ながら、先輩はブルマ愛用者だったので、そんなに色気は感じなかった。


今思えば、我々の世代が、現代の男子学生諸君に唯一自慢出来る事は、

「体育の時の女子のブルマ姿」

だろう。最近よくあのブルマの起源は、

「東京オリンピックの東洋の魔女」といわれるが、これは間違い。日本女子バレーチームの当時のユニフォームは、完全なちょうちんブルマであった。むしろ宿敵ソ連チームの真っ赤なぴっちりブルマに、多くの日本国民が、

「試合で勝ってブルマで負けた」

感を抱いた事は否めない(小学生の俺でも思った)。

「日本女子スポーツの近代化はブルマから」

と学校体育関係者が思い、その後急速にぴっちりブルマが普及したのは確かであろう。あのブルマはよく見ると、

「股上の深いパンツ」

に異ならないと思うのだが、

「これは体操服なので、エッチじゃないよー」

という暗黙のコンセンサスがあったと思う(その幻想を打ち砕いたのは、言うまでもなく後のブルセラショップである)。当時の俺たちは、体育の授業でうろうろしている女子のブルマ姿(高校生だから、もう大人な人も多い訳で)は、当たり前すぎて何の関心も持たなかった。スカートが風で翻って、膝あたりまで捲れるとドキドキするくせに…。だから杉野先輩のむっちむちのブルマが見えても、

「なーんだ、がっかり」

でしかなかった訳だ。あの体操着が絶滅した現在、考えれば勿体ない話である。先輩は椅子の上にあぐらをかき、ブルマが見えようと平気であった。4限が体育だったりすると、上がセーラー服、下がブルマのみ(理由:暑い)という奇態な格好で放送室に現れる。さすがにこの格好には、倒錯した何かを感じたが…。


ある日など、

「ミナミ、背中痒い。掻いてくれ」

と言われて、いきなり上着を脱ぎ出したのには呆れた。ブラジャーから零れそうな巨乳をぷるんぷるん言わせて、

「早く掻いてくれ。ん?ブラあると邪魔か?」

と言われ、いきなり背中に手をまわしたので慌てて止めた。後で思えば外して貰えば良かった。でもその時は、なんか男扱いされてない気がして、ムッとして眼をつぶって先輩の背中を20回位バリバリ引っ掻き

「こらこらミナミ、乙女の柔肌に何をする。痛ってぇだろうが!」

と言う声を後に放送室を飛び出した。乙女の柔肌が聞いて呆れる。背脂付き過ぎだぜ。あとでヨッコに話したら、

「杉野先輩にからかわれたんだよ。”ブラ外して下さい”なんて言ったら、またスリッパではったおされてたね」

と笑われた。ヨッコは更に

「あんな杉野先輩でも、好きな男の前では女の子になるのかねえ」

とぼんやりした目でつぶやいたが、俺には判っていた。自分がO野(仮名)の前ではそうなんだろう。その晩の夢に、杉野先輩が、凄く色っぽい姿(詳細極秘)で現れ、

「ミナミ君、お姉さんが教えて、あ、げ、る」

と言う、まあ典型的な妄想が出て来た。

でも次の日、ちょっとあがって原稿読みを失敗した俺に、

「てめえ、しっかりしろい。チンコ付いてんだろが!」

と怒鳴る鬼の姿の方が現実だった。


話は戻るが夏休み前に放送コンクールがあり、宮田先輩は全国へ、杉野先輩は忠告も空しく

「セリフ部分が芝居がかり過ぎている」

という審査員の選評で、またしても全国を逃した。

「セリフを生々しくやって何が悪い。これがあたしのスタイルだ」

森鷗外作、阿部一族の決め台詞、

「逃げはせぬ。腹を切るのじゃ」

をぎりぎりまで、ためて演じた杉野先輩は、悔しそうだった。表彰式から帰ってきた宮田先輩は、

「りりさん、もっと妥協しないとだめだよ」

と正論を吐いた。

「今年こそ、僕と東京行こうって約束したのに…」

「ハモてめー、なんだよ偉そうに。おめーみたいなもやしと、東京なんか行きたかねーよ!」


ちなみに宮田先輩を

「ハモ」

と呼ぶのは、同じ中学から来た同級生だけである。当時は森下君は仁丹、津村さんはバスクリン、江崎さんはグリコと例外無く呼ばれていた。同様に、宮田少年は

「ハモニカ」

と呼ばれていた。俺の知ってる宮田先輩はミヤタハーモニカではなく、ホーナーの

「マリンバンド」

全スケール揃いを持っており(それを全部挿せるガンマンのホルスターのような革ベルトも)、格好いいブルースハープを吹く人だったが…。

中学になって、宮田先輩は、

「ハモニカ」

は結構エッチな隠語であることを知り、皆にそう呼ばない様、頼み込んだそうだ。結果は予測出来るが、中学生ならますます面白がる。イジメになりかねないので担任の若い女教師が、学級会で

「宮田君をハモニカと呼ぶのはやめましょう」

と言ったところ、

「ハモニカのどこが悪いか説明して下さい」

「先生はハモニカされた事がありますか?」

と火に油を注ぐ結果になり、立ち往生する場面もあったらしい。その時杉野先輩が立ち上がり、

「宮田は、ひょろっと細長いから、略してハモでいいじゃん」

と言って収拾したとか。思えば幼なじみだったんだ…。


宮田先輩は悲しそうに首を振って立ち去った。杉野先輩は、

「ふん…。おまえと一緒に東京行ってどうするよ。東京タワーで”努力”の置物でも買うんかよ」

とぶつぶつ言いながら、大きな目から悔し涙がポロポロ落ちる。なんでこんなに仲悪いのに同じ部に残ってるんだろう?

その後も二人は、顔を合わすと言い争っていた。

「りりさん、もっと女らしくしないと、お嫁の貰い手がないよ」

「ほっとけ!縁談は降る様にあるんだぜ。おめえこそ、暗い夜道でモッコリに襲われない様に気をつけろ!」

モッコリはジャージの前の形から付けられた渾名で、男色の噂のあった体育教師だった。

やっぱ、ヨッコの”仲がいい”は信じられん。


2学期終わり頃のある日、杉野先輩が、

「ハモいる?」

と放送室に入って来た。

「先輩は来てません。ずっと補講だと思います」

と俺は答えた。この頃宮田先輩は、全国大会も終り受験勉強に打ち込んでいた。ちょっと眼が虚ろなのが気になったが…。杉野先輩は”勉強嫌いだから”と短大推薦を決めていた。

「そう…」

珍しくおとなしい感じで杉野先輩は答え、窓際に立った。ちょっとやつれたんじゃないか?

「ばか…せっかく…お護り…」

とぶつぶつ言うのが小さく聞こえた。

杉野先輩はいつもとは全然違う、なんかせつなそうな女の顔で、じっと校庭を窓から見ていた。その時、

「あ、先輩ちわーっす!」

とヨッコが入って来たが、入り口にあった先輩の鞄にけつまずき、どたっと派手に転んだ。ヨッコからすれば、もう藁をも掴む気持ちで、何かで体を支えようとしたのだろうが、転んで行くヨッコの手が掴んでいた物は、先輩のスカートだった。

「きゃっ!」

スカートは膝まで下がり、窓を向いていた杉野先輩のお尻が完全に露出した。

「きゃって…。あんたいつもブルマでうろうろしてんじゃん。今さら…」

と心で失笑しながら、先輩のお尻を見ると、え?

「ブルマじゃない」

黒い事は黒い。でも小さい。大人の女の人のパンティ。しかも透けてる。後ろ向きだから、お尻の割れ目が見えるだけですんだが、前だったら…(鼻血)。あれ?なんかベルトが垂れてるぞ、その先は黒ストッキング…って、これ

「ガーターベルトだとぉ?!(心の叫び)」

起き上がったヨッコも、漫画的表現で言えば、眼ん玉が飛び出る程驚いていた。


放心していた杉野先輩は、はっと我にかえり、慌ててスカートを直した。

「ミナミ、今なにか見たか?」

「い…いえ、見てません」

「そうか、もし何か見えてもそれは気のせいだ。その…。あたしはブルマ穿いてたよな?」

「あ、はい」

「先輩スカート脱がしてごめんなさい。ブルマ見ちゃいました」

ヨッコも口を合わせる。

「それならいい。さて、先にハモんちで待つか。渡す物があるんでな」

「先輩、宮田先輩に受験のお護りですか?」

俺は余計な事を言う。

「まあそうだ。奴は長い戦友だからな」

それを言うなら、敵に塩を贈るだろ?

「天神さんのお護りですか?」

ヨッコが当然の発想で聞く。

「ばーか、道真公も皆に頼られたら、誰合格させていいか判らんだろ、戦場に赴く友に、乙女が渡すお護りってったら、昔から決まってんだよ」

放送室を出て行く杉野先輩は、振り返ってニッコリ笑った。

この人黙ってたら、やっぱり日本一の美人じゃないのか?


「毛だよ、毛護り」


バタンとドアが閉まって、俺らは本当に漫画的表現で言えば、顎が床に着く感じだった。

「毛って…。髪の毛じゃないよね。この場合…」

「そういうものって、友達からは渡さないよね。恋人とか奥さんとか…」


三学期、宮田先輩は6大学連戦ツアーに出発した。なんでそんなに…。しかも全部医学部って…。医者になりたいとは聞いてなかったが…。

結果、打率5割は立派だと思う。杉野先輩の毛のご利益か。念願適って第二志望だが、地元市立大の医学部に行くらしい。

「優しいだけじゃなく、ギター上手いだけじゃなく、格好いいだけじゃなく、頭良かったんだ!やっぱ宮田先輩すげえ。抱かれたい」

とヨッコに言ったら、

「彼女できないからって、簡単にそっちに走っちゃいけないよ」

と真顔で忠告された。冗談だって…。俺は圧倒的に女が好きだっつうの。


杉野先輩は卒業式に来ず、俺は仕方なく杉野先輩の為の薔薇を、宮田先輩の胸にヨッコが付けた薔薇の横に付けた。

「よっ!ご両人!よりそう二輪の薔薇!」

とヨッコが冷やかすので、俺はそっちの気は無いのだが、赤面してしまった。

「よせよ。まるで僕がホモセクシャルの仲間みたいじゃないか」

先輩、俺も違うっす。


其れにつけても 、杉野先輩は卒業式にも出られないわけがおありか?

うちの学校の3年の出席日数判定は緩く、この当時は受験が1月末(関西私学)~3月末(国立二期校)に及ぶ為、3学期は概ね出なくていいのだが、さすがに卒業式は顔ぶれが揃うのが普通だった。


先輩は一体如何なる道に進まれるのだらう。剣呑な事になってゐなければ良いのだが…。


ヨッコによると、短大も行かないらしい。

「やっぱ芸能界でセクシー女優かなぁ?そんでマグマ大使の奥さんになるという…」

とマニアックな妄想(注:当時のセクシー失神女優、應蘭芳の事)をヨッコはしていたが、俺も杉野先輩なら女優として大成功する、と疑わなかった。


杉野先輩の謎は、じきに解けた。

新学期になって、俺は番組用素材レコード(まだCDはない)を買いに、俺たちの街一番の繁華街にあるレコード屋に出かけた。歩道を歩いていると、

「おーい!ミナミ!」

と元気な声が聞こえた。杉野先輩だ!と振り返ったが、姿が見えない。あれ?と思ってキョロキョロしていると、いきなりパシッと頭をはたかれた。

目の前の、女優真っ青、お尻みたいな胸を大胆に開けた襟元から見せつける、死ぬ程奇麗なお姉さんに。

久しぶりに見る杉野先輩はまた進化してた。ダイエットしたのか、全体に以前よりすっきりし、目は…。あれ?二重???

「あーコンタクトにしたんだよ。目?整形だよ」

当時コンタクトレンズは高卒初任給位したし、整形だって普通の人がやるもんじゃない。やっぱり芸能界か…?。

「あ?言ってなかったっけ?うち眼科やってんの、叔父さん美容整形科医だし」

親戚リフォームですか…。それにしてもとんでもなく化けるなあ。元々美人だったけど、化粧も上手だ。


「先輩今どこに住んでんですか?」

「どこってお前、家にいるよー、家事手伝いさ」

へ?なんで?

その時、俺たちの横に真っ赤な小型スポーツカーが止まった。珍しいな、トヨタS800じゃないか。大衆車パブリカベースの800cc2気筒エンジンながら、580kgしかない軽量ボディと空力デザインで、レースでも大活躍した車だ(俺たちの世代男子は基本車好き。浮谷東次郎とか言って知らない奴はオトンか、じっちゃんに聞け。たっぷり語ってくれるであろう。)。もともと少なかった生産はとっくに終わっているので、現物見たのは久しぶり。こんなマニアックな車に乗ってるのは、どんな奴だ?

「りりさん。大丈夫かい?」

レイバンのシューティンググラスを取ったドライバーの顔は、み、宮田先輩デスカァ?

「はい、経過順調ですって。うふ」

その時の俺の顔は、漫画的表現で言えば、白抜きの丸い目だったろう。なんか貴女、高校時代の話し方とじぇんじぇん違がかろ?と思う優しい口調で、杉野先輩は速度制限違反50kmオーバーでも白バイ警官が”気をつけて下さいよ”だけで許してしまいそうな笑みを浮かべ、

「あなた、ミナミくんよ」

”あなた”だー?

「あ!なんだ。知らない男と話してるから、嫉妬に狂うところだったよ」

と宮田先輩は笑う。杉野先輩は俺だけに聞こえる声で、

「うちは一人っ子だから、何とか医者の婿を捕まえろと、親がうるさかったの。高一から縁談持って来たり。でもあたしは、ハモじゃなきゃ絶対嫌だったから、色仕掛けで医大受けさせたのよ。あたしの肉体を餌に、本当に美味しい魚が釣れたわ」

よく考えると、かなり腹黒い陰謀の内容を、杉野先輩は

「今夜から旅行ですので、燃えるゴミ、今から出させて頂いていいかしら。ごめんなさい」

位の軽さで、さらっと言ってのけた。


「しかも赤ちゃんまで…4ヶ月なのよ」

綺麗になっても、ウエストは変わらんなと思ったが、妊婦だったか…。なんか大人の話過ぎて、ボクにはわかんないや。でも、4ヶ月って…。合格どころか、受験前じゃん。丁度毛護りの頃か…。宮田先輩、高打率どころか打点まであげてたとは、隅におけんのう、この炬燵め。

「マグマ大使じゃなくて、マモル少年の嫁になったか…」

俺は、完全武装超弩級妖艶ファッションで、宮田先輩の家で待ち伏せした豊満美女の情熱と陰謀を想い、文字通り(エロい意味と怖い意味両方で)身震いした。


一言多いのが俺の欠点である。宮田先輩に聞こえない様に、

「先輩の毛のご利益抜群ですね。俺の受験の時も、先輩の毛貰えませんか?」

思い切り妊婦用ローファーで頭をはたかれた。

「調子に乗るんじゃねえ!んなのはヨッコに貰え!」

だからヨッコはO野(仮名)と…。しくしくしく。しかも頼めば恵んでくれそうな所が、余計哀しい…。

急にトヨタS800のパタパタというスポーツ車らしくないエンジン音がして、通称ヨタハチはゆっくり発進しようとした。

「あ、マモルさん、嘘よ嘘。りり子は、もう昔のりり子じゃ無いの。待って~」

医者一族の血脈を守る為の、姑息な小芝居に見えない事もないが、杉野先輩はよよと崩れ落ちた。マモルさんも、もちろん愛するりりさんと、愛の結晶(なんか化学実験的でいっそ嫌らしい)を置き去りにするはずは無く、ドアはすぐ開いた。

「ダーリン!ごめんなさい!寂しかった!愛してるわ!」

杉野先輩は助手席に飛び込み、俺が見てるのも構わず、当時の日本が提供出来る、おそらく最強の美男美女カップルは、フランス映画の様な長いキスを始めた。


お幸せに。


■禁断の惑星■


2年になるとき、俺は部長に指名された。

3年の先輩が卒業し、一個上の先輩も女子ばっかりの上、難関校目指して、ほぼ引退状態の先輩ばっかりだったので、

「まあお前でいいや」

という顧問の無責任な決定で、決まってしまったのだ。


部長になっても俺の生活は特に変わらず、副部長のヨッコの強力なサポートで(影の部長と皆呼んでいた)、ボロを出さずに過ごしていた。

残念ながらヨッコとO野(仮名:悔しいのでずっとコレで行く)はまだ続いており、結構惚気を聞かされて、俺は悲しかった。あのとき先に告ってたら…。と悔やんだが、駄目だった時の部活での居心地の悪さを思うと、

「これで良かったのかなあ」

もう中学の時の様な、身を焦がす様な片思い感は感じなかった。俺はヨッコへの気持ちを引きづりながら、少しずつ彼女を親友と感じて行った。


放送部は、日常の校内放送。昼のDJ放送。コンクールの他に、学園祭や球技大会などの行事の放送を担当しているのは他の学校と同じだが、この学校ならではの行事として、

「ファッションショー(服飾技術発表会と言うのが正式名称)」

の音響を担当していた。

ファッションショーは、もちろんT組の大切な実技授業で、衣装は当然だが、構成、舞台装置(看板)、選曲、MCまで全てT組3学年で造り上げていた。放送部以外では、照明を演劇部が担当していた。

半年も前から打ち合わせが始まっていたが、スタッフも全員女子部員で、俺には関係ない行事だった。

MCはもちろんテケップ(だいたい縮めてこう呼ばれていた)が担当。ステージ袖はヨッコが担当。体育館ステージの2階にある調整室にも、万一に備え女子放送部員が待機するのだが、今年は3年の先輩が模試と重なり出られないとのことで、急遽俺が調整室の番をする事になった。顧問も念のためとかで、リハだけやって来た。


ヨッコは普段はアナウンス担当だったが、ステージ音響のノウハウをしっかりと事前に叩き込んでおいた(つもりだった)。

リハ前に、俺と顧問は2階の調整室に籠る。顧問に、

「トイレには行っとけ。これからリハ終わるまで、調整室を出られないからな」

と言われた。調整室から階段を下りると、すぐ舞台下手の袖に出るが、楽屋などという立派なものは体育館にはないので、モデルはここで着替える訳である。


調整室の仕事は音量の調節だけで、実際のMCや音出しは、舞台でやる。カセットデッキと簡易ミキサーを接続して、BGMはそこで変えて行くので、調整室は暇だった。

リハが始まると、顧問の様子がおかしかった。なんかそわそわして下手から舞台を見下ろす窓に張り付いている。何気なく俺も見ると、袖で着替えているT組のモデルたちが見えているのである。秒刻みで衣装を換えていく彼女たちに、調整室を見上げる余裕はなく、どんどん下着になって行く。

「このスケベ教師」

と思ったので、俺はミキサー前に座って、

「先生、このつまみは何の働きをするんですか?」

などと、わざとらしく呼んでやった。


突然音楽が途切れ、インターフォンがなった。ヨッコからだ。

「メグル、大変。音が出ない。どうしよう。ああ、もう判らない。とにかく降りて来てよ。お願い」

「え、それはまずいだろ・・・」

ところが、顧問が、

「どうした、先生見て来ようか」

と立ち上がったので、

「いやいいです。俺行きます」

と予備のデッキと工具箱をつかみ、宮田先輩から譲り受けた、俺だとファスナーが閉まらない放送部スタッフジャンパーを羽織って階段を降りた。奴にこれ以上いい思いはさせない。


原因はすぐわかった。カセットデッキがテープを巻き込んでいた。T組が練習で使い慣れたラジカセを使いたいと言ったので、それを使ったのが裏目にでたのだ。予備のデッキをつなぎ、練習用のテープを再生して、音が出る事を確認してほっとした途端、ついさっきの光景がフラッシュバックして心臓がどきどき、汗が出て来た。

音声端子のある上手袖まで約20mの道のりは、まさに極楽。下着姿、パンイチブライチの美少女(モデルはT組各学年からとびきりが約30人選ばれる)があちこちに、と言えば聞こえがいいが、上下の袖は大混雑で、着替中のモデルの間を、

「すみません、すみません」

とかきわけかきわけ。しかもちょうど夏服の部だったらしく、上はブラもなしが5人ぐらいいた。美貌とスタイルで選び抜いたT組トップモデルのおっぱいが10個・・・。極楽だ。と毎日思い返して・・たのは後日の事、そのときは、プロ意識の塊で夢中だった。


泣きながらお礼をいうT組のスタッフを後にして、俺はいい気持ちで走って調整室に戻った。

下手の袖を抜け、階段に登ろうとした矢先、横から誰かが思い切りぶつかった。俺はかろうじて転ばなかったが、その子は尻餅をついた。

「痛ぁ、あ、ごめんなさい」

その子は立ち上がろうとしたが、大きな衣装をいくつか持っているらしく、立ち上がれない。

「いや、俺がぼーっとしてたからで・・・」

とぼそぼそ答え、とりあえず衣装を持ってあげようと、手を伸ばした。無意識に彼女も衣装を渡す。

ようやく立ち上がったその子を見て、俺は一瞬固まった。


上に何も着てなかった・・・。

衣装を渡すまで、10秒位だったろうか。俺は真っ正面からただ彼女の胸だけをじっと見つめてしまった。

今思いだして、色々な言葉でこの夢の様な10秒を語ろうと試みたけど、なんか全部嘘っぽくなる。当時の平均的男子高校生は、もちろん本物のおっぱいなんて、見た事がなかった。テレビに出て来るヌードシーン(”時間ですよ”の銭湯の脱衣場が一番いろんなおっぱいを見せてくれた)。あとは精々友達の兄貴が買ってる”平凡パンチ”を学校で回し読み、とか。そんな貧弱なサンプリングだから、間近で見る、この子のおっぱいは圧倒的だった。美辞麗句はやめて、当時の俺の貧弱な感想を素直に記しておこう。

「こんなきれいででっかいおっぱい、見た事ねえ!」

身も蓋もないな。すこし外向きで、真っ白。そして、ぴん!と張って重力に負けていない。

おっぱいの形を表現するのに、西瓜とか風船とか、釣り鐘とかお椀とか言うが、この子の胸は、強いて言えば美術室のデッサン教材裸像のような美しい胸。しかも大きい。

彼女はみるみる真っ赤になって、

「あ、急ぐので」

とかつぶやいて、衣装をひったくる様にして、走り去って行く。

それから、ファッションショーは無事に終わった。


その後も移動でT組の子達とは、すれ違った。スタッフの子たちは、

「メグル君元気ぃ?」

とか声掛けてくれる様になった。テケップもまた口をきいてくれるようになったが、俺はあの時の子にどうしても話しかけられなかった。

たまに見かけても、彼女は真っ赤になり、うつむいて通り過ぎていく。でも口元は微笑んで居た様に、思う。俺の自意識過剰かもしれんが。

悩んだ俺はヨッコに相談した。奴には何でも話が出来、猥談も平気だった。なにしろ挨拶が、

「おはよう、彼氏が好きでも、簡単にパンツ脱いじゃ駄目ダゾ」

「わかった。じゃ脱がずに横から(おいおい)」

という間柄だったので、彼女との出会いがおっぱいからだったことも含めて、相談出来たのだった。

「ふーん。でも嫌いだったら、胸見やがった奴は絶対許せんし、 廊下で会っても無視するか、逃げるよ。そりゃゾッコンだね」

と無責任にけしかけられたが、

「でも、これで俺からアクションすれば、ストーカーだよ」

と言うと、ヨッコはニヤニヤしていた。でも何か仕掛けたらしい。


ある昼休み、週一の連絡会に出て来たテケップが、

「ミナミ、明日放課後ちょっとつき合って」

「大切な話なんよ」

「何だよ(↑俺)」

「いいから絶対だよ。富士山公園だからね」

「来なかったらどうなるか、判るな?」

と言い残してさっさと帰って行った。なんだか怒ってる様にも見えたが、余計な情報を俺に与えない様に、あえて事務的に振る舞っているようにも見えた。前に末松騒動で、俺を心配してテケップになんとかとりなしてくれたヨッコが、今回はニヤニヤ笑っていた。

これは、なんなの?普通考えて、待ち伏せしてボコボコか、待ち伏せして告白だよな。

一時は(末松の件で)恨まれたが、今はそこまでテケップに恨まれたりはしてないはず。

だとすると、告白の線?


そんな絵に描いた様な幸運が、なんの特徴もない元(↑ここ強調したい)肥満児に降り掛かるとは、とても思えない。でも信じたい、幸運を。しかし、だいたいどっちだ?

テケは、長い黒髪。たおやかな瓜実顔。黒目勝ちの大きな眼。愛称の由来、おでこが可愛い。

ケップは、長くて少し茶がかった髪。愛嬌のある丸顔。気の強そうなくりっとした眼が可愛い。

つまりだ…。どっちも超絶可愛い。性格はあまり知らないけど、そんなことどうでもいい。

バラ色の妄想に包まれて俺は眠りについた。■申し訳ないが気分がいい■


「ヨッッコォ、どうしよう。どっちに告られるのかなぁ」

「あんたは本当に救い難い馬鹿だね。どこにあんたとテケップの芽があんのさ」

「だって調理実習の時はいつもクッキーとかくれるし、この間は俺サイズのスタッフジャンパーくれたよ」

「馬鹿だね。あれはこないだの感謝でT組全体からだろ?他のもんだって、テケかケップのどっちか一方からだけ貰った事、ないだろ?”テケには内緒だからね”とかの」

「そりゃないけどさ。なんでそれが、テケかケップの告白じゃない事になるんだよ。恥ずかしいから、2人からってことにすることもあるだろ?」

「おまえ…。末松騒動でなにも学んでないのな。呆れるわ」

そこまで言われると、流石に鈍い俺にも判った。あの二人は、当たり前の月間行事の様な男どもの告白を、二人で同一行動を取る事で、バリアの様に跳ね返しているのだった。

振られた末松が、

「あいつらレズに違いない」

と葡萄喰えなかった狐みたいな事をほざいていたが、本命が現れるまで二人は強力タッグで身を守っている訳だ。でも本当に告白するときは、相方に内緒で…。ってなる訳か。ちなみに3年になって二人は本当に同じ本命を巡ってドロドロの争いをし、タッグは崩壊の危機を迎えるのだが、それはまた別のお話…。


当日の授業は一睡も出来なかった(寝るなっつうの)。が、俺の昨夜の楽しい妄想は厳粛な事実によって既に一掃済みである。よく考えればテケとケップは今日の帰りの放送当番。つまりヨッコに言われるまでもなく、物理的に公園に行ける可能性は0な訳だ。

じゃあ、誰なんだ?T組の誰かとは思うが。あのおっぱいの子かなあ?あの子だといいなあ。

行ってみたら、近所の不良が集まっていて…。と言う様なネガティブな予想は一切せず、俺は告白相手が誰かだけを考えて、最高の気分だった。

「共にアルプス頂上のエーデルワイスを夢みた、クラス男子同輩諸君には誠に申し訳ないが、拙者は一足お先にヘリコプターで至高の花を摘みに行くでござる!」


授業後、独りで学校近くの児童公園。通称富士山公園に向かう。知らぬ間に足はスキップ。

実はこの時俺はヨッコに付いて来て欲しいと頼み、一蹴されている。

「もし告白しようとして誰かが呼び出したとして、あちしがついて来たら、どう思われるよ」

「保護者」

「アホ。あちしのO野(仮名)くんラブは、そんな有名じゃないんだよ」

そうか、ヨッコとつき合ってるから、ごめんなさい。みたいにとられるか。

それにしても、テケップと芽がないと言いながら、なんで告白とか言うの?怪しい。

ヨッコは東洋的な笑み(アルカイックスマイル)を残して、慌ただしく下校して行った。


この公園には別の名があるが、コンクリート製の富士山があるので、当たり前の様に皆

「富士山公園」

と呼んでいた。子供でも危なくない様に裾野は思い切り緩やかだったが、標高は3m位はある。その富士山の上に、うちの生徒が一人立っていた。

「あああの子だ!間違いない」

試験でヤマが当たったより嬉しい。告白される以外の可能性など、これっぽっちも考えなかった。俺が声をかけるより先に、

「よしっ」

と小さく気合いを入れて、彼女はスロープを一気に駆け下りる。勢い余って、俺におもいきりぶつかって止まり、距離が近いのに気づき、あわてて後ろにぴょんと跳んだ。仕草が可愛い。姿も可愛い(当時無かった言葉なので、”萌える”は、あえて使わないでおこう)。

そして、やっぱし胸は大きい。セーラー服上衣の裾が浮いてる(判るよね?)。


「は、初めまして、2年T組新体操部、桃澤マイカです。わたしの事覚えてますか?」

そこで彼女は黙る。

毎晩お会いしてます。とも言えず、俺はなんて言っていいか判らない。

「ぁぁぁ…。駄目だあ。では今日はこれで失礼します」

ちょっと待って。それだけなの?やっとの事で俺は言葉を発する。

「あのときはごめんね。恥ずかしかっただろ?」

逃げ帰ろうとした彼女は立ち止まる。

「テケップに、思い切りぶつかりなさい。と言われたのでぶつかったんだけど、その後何にも考えてなかった…」

どうやらテケップに入れ知恵されて富士山から急降下したらしい。

俺は、もう一度あの時失礼にもじろじろ見た事を詫び、でもあれから君の事が忘られない、良かったらつき合って欲しい。と正直に言った。

「死ぬ程、恥ずかしかったけど…。外見だけでも、それだけ、わたしの事を、好きになって、くれて嬉しいです。普通とは、逆だけど、これから中身も、好きになって、くれたら嬉しいです。 」

ここまで話すのに、大分時間がかかった。


彼女のマイカというちょっと珍しい名前は、父親が鉱物採集が趣味なので、雲母の英名(mica)から取ったそうで、妹はきららと言うそうだ。こっちも雲母の古語だ。

どんだけ雲母好き…。

俺も自分の難解な姓名を紹介。身元調査みたいな会話をした。

「ようやく会えました」

「???俺も嬉しいです」

この時はまだ、ようやくの意味が判らなかったけれど、夕焼けに染まって富士山公園に立っている可愛いこの女の子は、下手をすると前世からの恋人なのかな?と、17歳(by南沙織)らしいロマンチックな感想に俺はひたっていた。

次の日の昼に体育館裏(誰もいそうもないので、ここにした。犀な俺ら)で会う約束をし、電話番号を交換(携帯なんかない時代。彼女の奇麗な字に比べて、俺のヘタクソな字が恥ずかしかった)して、俺たちはそれぞれ家に帰った。


家に帰って、ソファにへたり込む。その辺にあったぬいぐるみを抱きしめる。デレデレ肥満児の出来上がり。母が、

「メグル、いいことあったの?なんか顔がにやついてるよ。あ!彼女が出来たりして」

「薮蚊ではない」

「それを言うなら吝かではない。でしょ。そう、どんな子?ヨッコさん?」

「別口にござる。鋭意進行中である故、七宝を待たれよ」

「うけたまわった。吉報を待つといたそう」

母もちゃんとツッコミつつ武家言葉でかえす。


ナマコ状態からようやく復帰し、ヨッコに電話で報告。

「そうかそうか。メグルも成長したなあ。お父さん嬉しいぞ」

「保護者とは言ったけど、なんでお父さん?まあいいや。お父さん、あたし幸せになります」

と言って電話を切った。


(第1部終了)

第1部で約1/5くらいかと思います。よろしかったら続けてご購読下さい。

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