魔導士の意地
リジェという男の突撃を受け、ラビッシュは港の外れの波止場付近まで押し運ばれてしまった。
(――まずいなぁ。完璧に孤立させられちゃったよ)
「……構えろ、ラビッシュ」 リジェが背中に固定してあった巨大な斧を手に取り、ラビッシュに対して身構えた。
ラビッシュは初対面の男にいきなり名指しで呼ばれて、一瞬戸惑ったが――
「……へぇ。おいらを何者か知ってて喧嘩を売りにきたんだ?」
「……魔法の無力の証明。お前、ちょうどいい」
「そうかい。喧嘩はおいらにじゃなく、魔導師に売ってきてるんだな? ――なら、おいらは退けないな?」 ラビッシュが魔法カードをその手に生成する。
互いに合図はなかった。ラビッシュが魔法カードを生成した瞬間、リジェの大斧がラビッシュ向かってなぎ払われる。
ラビッシュは水平に動く斧の下をくぐり、がら空きとなっていたリジェの腹部に向けて、魔法カードを投げつけた。
カードがリジェの腹部に直撃すると、その瞬間に爆発を起こす。――それは先ほど使ったかんしゃく玉のような虚仮威しの爆発ではない。大の男一人だって吹き飛ばせる、ダイナマイト並の爆撃だったのだが――
「へっ。子供だと思ってなめてるから、こうなるんだ」
ラビッシュはリジェの苦痛にゆがむ顔を見ようと上を見上げる。
だが、見えてきたのは、リジェによって振りおろされる斧の刃だった。
「なっ!?」 ラビッシュはとっさに飛びのいた。
リジェによって振り下ろされた斧は、港のコンクリートに直撃し、コンクリートは斧の衝撃で砕かれながら飛散する。
「あの爆発が、まるで効いていない?」
「……魔法、無力。それだけ」
「そうかいそうかい。――なら、こんなのはどうよ?」 ラビッシュが身構えた魔法カードには、蜃気楼の絵柄。
ラビッシュを中心に水蒸気が発生し、あたりは陽炎に包まれていく。
陽炎の中、気づけばラビッシュが何人にもいるように見えていた。
「……小賢しい、真似を」
「へっ、負け惜しみか? なにも攻撃だけが魔法じゃないんだよ」
「……無力に、変わりない」
「い、言ってくれる。――だったら、こいつをかわしてみなよっ」
ラビッシュがその手に魔法カードを生成する。それに合わせ、陽炎のラビッシュも魔法カードを手にした。
が、次の瞬間、リジェは迷うことなく一人のラビッシュに向かって突撃してきた。
リジェが斧を振るう。その斧がリジェの狙っていたラビッシュに命中すると、周囲にいた幻のラビッシュが次々と消えていく。
斧がラビッシュの腹部に直撃した瞬間、激しい金属音を立てて、ラビッシュの身体を吹き飛ばしていく。
海面に水柱を立て、ラビッシュはそのまま、海へと落下していった。
「……防がれた、か」
そう。ラビッシュはあの瞬間に、幻を消して、腹部の防御に魔法を切り替えていたのだ。それにより、腹部の切断は免れたが、ラビッシュが不利な状況に変わりはなかった。
リジェは待っていた。追撃することなく、ラビッシュが海から上がってくるのを。
イーターの銃撃を回避し続けていたサレントだったが、気がつけば、港の端まで追いつめられていた。
(あの武器がやっかい。あの武器をどうにかしないと、――やられる)
サレントが能力を発動させ、蒼白き光に包まれる。――瞬間移動で、一瞬にしてイーターの背後を奪った。
イーターに斬りかかろうと、剣を構えた瞬間、イーターが振り返った。
「ようやく近づいてくれたな?」 イーターの腕の銃が、大筒――バズーカのように変形していた。
サレントは最初の銃撃は近づかせるための罠だと気づき、再度瞬間移動を発動させようとするが――
イーターのバズーカから、捕獲網が打ち放たれた。
網がサレントの動きを封じる。――なにより効果があったのは、網が絡みついた瞬間、サレントの瞬間移動が発動しなくなったことだ。
「! ――なんで?」 それに一番驚いていたのは、サレント本人だった。
「やはりな。お前は自分の力量を理解していなかったか」
「力量って、なに?」
「単純なことさ。時人能力にはレベルがある。同じ能力を持っているものがいても、使う時人によって威力や効果が違うことだってあるってことさ。……お前はまだ基本レベルでしかその能力を使いこなせていない。――泣いているぜ、能力が? せっかくのレア能力なのによ」
「こんな網くらいで――」
「だったら、逃れてみなよ」 イーターが網の根本を掴み捕獲網を袋のように持ち上げる。
捕獲網はサレントを中に入れたまま持ち上げられ、イーターはそれを地面に叩きつける。――身体中に激痛が走る。だがやはり瞬間移動が発動しない。
「……なんで、能力が使えないの? この網はなんの力も感じない、ただの網だって言うのに」
「わかっていないからだよ、自分の能力の許容範囲を」 再度網ごとサレントを持ち上げる。
そして、再び地面へと振り下ろされる。――サレントは目をつむった。抵抗できないダメージへの、唯一の抵抗。耐えることしかできないこの現状での、唯一の抵抗。
……くるはずの、地面へと叩きつけられる痛みが、いつになってもやってこない。
サレントが目を開けると、サレントの自由を奪っていた網は切り裂かれ、サレントは以龍に抱きかかえられていた。
「ちっ。パラの奴では足止めにもならなかったか」
「そういうお前は、楽しませてくれるんだろうな?」 サレントをその場に下ろし、能力を発動させる。
蒼白き光に包まれると、光の剣を生成し、刃をイーターに向けた。
ラビッシュは、海から上がる際に奇襲攻撃を仕掛けず、港に上がってきた。
「……奇襲、しないのか?」
「お前の敗北の言い訳を作ってやるつもりはないね。……それに、正々堂々と待ちかまえてくれている相手に、そんな真似はできないよ」
「……甘い、な」 斧を身構え直す。
「お互い、ね」 ラビッシュも魔法カードを生成し直した。




