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ダンジョンの第5階層で見晴らしが利く広間を見つけた俺達は魔物対策を施した後、思い思いの位置に陣取り体を休めていた。


「ダンジョンで食べる干し肉も久し振りだわ。……って、そう言えばカズヤ。貴方、食べ物は持ってきたの?」


手頃な石の上に腰掛け休憩がてらの昼食を摂ろうと腰にぶら下げていた袋から干し肉を取り出したフィーネは武器と装備品以外何も身に付けていない俺の姿にハッとした様子でそう言った。


そうか、フィーネは武器しか召喚する所を見ていないからな。


「食べ物は持ってきて無いけど、大丈夫。――ほら、この通り」


「持ってきていないのなら……少ないけど、食べる?」と言って干し肉を差し出してきたフィーネに苦笑を返しつつ、俺は500ポイント程消費して肉や魚、野菜などの生鮮食品と調理器具を召喚した。


「「「「……」」」」


そうしたら、また何故かフィーネ達が固まってしまった。


ダンジョンに入る前に伝説級の武器や防具を召喚した時と同じリアクションを取りつつ。


俺はまた何かやらかしたのだろうか?


「カズヤ……貴方……もしかして武器だけじゃなくて何でも召喚出来るの?」


「うん?あぁ、何でもとまではいかないが、大概の物は召喚出来るぞ」


「そ、それは本当の事なのよね?」


「嘘をついてどうするんだ」


「貴方は本当に……どれだけ規格外なの……!!」


鼻息を荒くして興奮を隠しきれないフィーネがそう呟く。


「いい、カズヤ?はっきり言わせてもらうと貴方という存在はダンジョンに挑む冒険者の常識を引っくり返す天変地異よ」


天変地異?なんだそりゃ……。


って、近い近い!!


鼻先が触れ合う寸前まで詰め寄って来たフィーネにたじろぎながら、俺はフィーネが発した言葉の真意を理解する事が出来ていなかった。


「その様子だと私の言っている事が理解出来ていないわね……いいわ、順を追って説明するからよく聞いて」


「あ、あぁ、頼む」


いつにも増して強い口調で話を切り出したフィーネに俺は逆らう事が出来ず、ただ首を縦に振るしかなかった。


「古来よりダンジョンの攻略を目指す場合、多くの物が必要とされてきたわ。魔物との戦闘で磨耗する武器や防具の手入れ道具を始め、怪我をした時のポーション類や治療器具。その他いろいろな道具やアイテム。それに下層に行く程ダンジョンの広さが可及的に増していくから攻略期間の間に消費する食料や水といった物資も当然持っていかないといけなかった」


出来の悪い子供に説くようにフィーネは言葉を続けた。


「けれど貴方は違う。魔物を一撃で瞬殺する武器の数々や瀕死の者を救う秘薬。そして今のような食料、調理器具を任意で召喚出来る上にどうしても嵩張る大量の魔石を手品のようにどこかへ収納して身軽なまま。つまり、貴方はダンジョンの攻略を目指す冒険者はもちろん、力を求める権力者に取って喉から手が出る程得難い存在なのよ、分かった?」


「んー……何となく」


「な、何となく……ま、まぁいいわ。けれど、これだけは分かっておいて。貴方という存在は他者にとって劇薬なの。立ち振舞いを間違えれば自身はもちろん、関係の無い者にまで類が及ぶわ。だから気をつけてね」


「分かった」


世間知らずでこの世界の常識とは解離した考え方を持つ俺の身を心配して助言をくれたフィーネ。


そんなフィーネに礼を言いつつ俺は今更ながらに自分が得た能力の偉大さや影響力というものを朧気に認識していた。


「けどまぁ……一応言っておくと俺も無制限に召喚が出来る訳では無いんだ。召喚にはそれ相応の代償(ポイント)が必要だから」


「主、代償とは?」


「そりゃあ、お前……代償って言ったら………………いや、何でもない」


代償という言葉を耳にした途端、神妙な表情で食い付いてきたマルダーに意味深な言葉と不敵な笑みを返しつつ俺はマルダーにフライパンを手渡した。


「俺の召喚魔法についての話はさておき、飯にしよう。マルダー、飯を作るのを手伝ってくれ」


「え、いやいや、主。飯の事より代償の話を――」


「はいはい、その話はまた今度。今はさっさと飯を作るぞ」


「いや、だから、主!?あるじぃ〜〜!!」


ご飯が先ー。ご飯が先ー。とマルダーの抗議を軽く流しつつ俺はマルダー達と共にダンジョンの真っ只中で料理を始めた。




俺が召喚した食品を焼いたり炒めたりするだけの簡単な調理が終わり、皆で完成した料理を囲んで舌鼓を打っていた時だった。


「どこのバカだ!!ダンジョンの安全地帯じゃない場所で呑気に飯を作っているのは!!魔物の群れに押し潰されて死にてぇのか!!」


ビリビリと耳鳴りがするような怒号に驚き声のした方を見てみれば、幾つかの小さな傷を受けた鎧を纏い戦塵に顔を黒くした優男が大剣を担ぎ上げた状態でこちらを睨んでいた。


その背後には優男の仲間とおぼしき30人程の者達が俺達を威圧するように並んで立っている。


友好的な雰囲気では無い闖入者にどう対処したものかと俺が悩んでいると、隣に座って食事をしていたフィーネがサッと立ち上がった。


「アルフ?」


「あぁん?何で俺の名前……って、フィーネじゃねぇか!?何でお前がこんな奴らと一緒にダンジョンに居るんだ!?まさか、冒険者に復帰したのか!?」


フィーネの呼び掛けに驚きつつも嬉しそうに応える優男。


さっきまでの剣幕が嘘だったようにパッと笑顔を浮かべると担いでいた大剣を地面に突き刺し、浮かれた足取りでフィーネに歩み寄る。


どうやら闖入者はフィーネの知り合いだったようだ。


「いいえ、冒険者に復帰した訳じゃないの」


「じゃあ、何で?――いや、まぁそれは後でいいさ。それよりフィーネ。あの話、考えてくれたか?」


「――……あー。あぁ、あの話……ね」


照れくさそうに頬を掻きながら優男がフィーネに問う。


親しげな雰囲気で話す2人が何の話をしているのかは部外者の俺には検討もつかなかったが、フィーネの気まずそうな表情とこちらを一瞥した時の謝るような視線に厄介事の匂いがプンプンした。


「と、とりあえず。貴方の事を彼に紹介するわね」


「え?あ、お、おう……彼?」


フィーネの強引な話の運びに優男は戸惑いながらも頷く。


だが、フィーネに手招きされて渋々立ち上がった俺の姿を見るなり訝しげな顔で首を傾げていた。


面倒な事にならなければいいんだが……ま、多分無理だけど。


諦めムードを漂わせながら俺はフィーネと優男の前に立つ。


「紹介するわカズヤ。彼は以前私と同じパーティーにいたアルフレッド・ミラージュ。大剣使いの剣士でランクB+の冒険者よ」


「長門和也です。よろしく」


「……アルフレッド・ミラージュだ」


俺とミラージュが握手を交わし終わると辺りに何とも言えない空気が漂う。


これが、嵐の前の静けさなのか……。


「(カズヤ、迷惑をかけると思うから先に謝っておくわ。ごめんなさい)」


小声で謝ってくるフィーネに俺はやっぱりという思いを抱きながら一瞬瞑目する。


「で、フィーネ。こいつは何なんだ?」


「えっと……アルフ、落ち着いて聞いてね。彼は私の婚約者なの」


フィーネの言葉を聞いた途端、ピシッと石像のように固まるアルフレッドの姿を見て、人間ってビックリするとこんなにも固まるもんなんだなと俺は場違いな感想を抱いていた。


「……」


「私の事を好いてくれる貴方には悪いのだけれど……そういう事だから。あの話――求婚の返事は“ごめんなさい”なの」


「ちょ、ちょっと待ってくれ!!それは何の冗談――」


「冗談でこんな事、言わないわ」


「っ……本当の話なのか?」


「本当よ」


「……何で、何でだ。俺が駄目なのにフィーネは何でこんな弱そうで冴えない奴を」


本人を目の前にしてよくそんな事が言えるな。


侮蔑の言葉と一緒に見下すような視線で睨んでくる優男に俺は若干イラッとしていた。


「前にも言ったけど……私、最低限の前提として自分より弱い男は嫌なの。それが理由よ」


「ぐっ」


フィーネ、頼むから煽って追い詰めるような言葉を吐かないでくれ。


優男の顔が真っ赤になってるから。


というか、まず俺を修羅場に巻き込むな。


2人の間で解決してくれ。


話の流れからこの先の流れが大体読めた俺は、内心で大きなため息を吐く。


「……だったら、こいつと勝負して俺が勝てば問題は解決だな」


「何を言っているの?アルフ。カズヤは私より強いしドラゴンを単身で倒せるのよ。貴方じゃ絶対無理よ」


「ドラゴンを単身で倒した?天変地異と同等の存在を?ハハハッ、面白い冗談だ!!こんな頼り無い奴がそんな大それた事を成せる訳がねぇ!!――そうか。分かったぞ、フィーネ!!俺を試しているんだな?おい、テメェ!!フィーネを賭けて俺と勝負しろ!!」


「なっ、アルフ!!いい加減にして!!貴方はダンジョンに潜っていたから知らないだろうけれどカズヤは本当にドラゴンを倒した――」


「フン!!例えそれが本当だとしても関係ねぇ!!こんな亜人共を集めてお山の大将を気取っているような奴なんて一瞬でぶった斬ってやる!!掛かって来いや!!クソ野郎!!フィーネは俺のもんだ!!」


真っ赤な顔で大剣を構えたミラージュがそう叫ぶ。


いや、正直なところ勝っても負けてもどうせ面倒くさい事になるからやりたくないんだが……。


「(はぁ……アルフはこうなったらもう誰の言うことも聞かないのよね…………カズヤ、少しだけ相手をしてあげてくれないかしら?)」


「(えぇ……面倒くさい。それに俺の武器だと寸止めが出来ないから殺さない事が一番難しいんだが……)」


「(そこを何とかお願いよ)」


「(……分かった)」


ヒソヒソと小声で懇願してくるフィーネに負けた俺がミラージュとの戦いを受けようとした時だった。


「……何だてめぇ」


「フン。主に身を捧げた奴隷として、主をバカにされて黙っている訳にはいかん。それに貴様程度主が相手をするまでもない」


あぁ、もうマルダーめ……また余計な事を……。


俺が渡した業物の長剣を抜き放ち、やる気満々でマルダーがミラージュの眼前に立ってしまったのだ。


俺に対するマルダーの気持ちは嬉しいが、今の状況だと話がややこしくなるだけである。


「はぁ、マルダー……下がれ」


「ハッ、いえ、しかし、主。主に対する数々の暴言。私としては看過出来るものではありません。それにさっきも言いましたが、この程度の男、主の手を煩わせるまでも無いかと」


「いいから。俺が相手を――マルダー!!避けろッ!!」


マルダーとの話の途中、それに気が付いた俺は咄嗟に叫び無我夢中で手を伸ばす。


間に合えッ!!


「へ?――あっ」


振り返ったマルダー目掛けてミラージュの大剣が降り下ろされる。


そして……グジュリと肉を切り裂く音が辺りに響いた。

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