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1―5

俺達は、その力の権化のような巨体の前に佇んでいた。


「それにしても……まさかたった1人でドラゴンを倒してしまうなんて思っても見なかったわ」


「いや、最後はフィーネに助けてもらったりしたんだから、俺1人で倒し訳ではないだろ」


囮役もやってもらったしな。


地に伏し、死してなお、圧倒的な存在感を放つドラゴンの骸をしげしげと眺めつつ俺とフィーネは、先刻までの戦いを感慨深げに振り返っていた。


にしても……いくら召喚出来ると言ってもこれは失敗だったな。


8.8cm FlaK 36は完全に潰されてスクラップになってるし、IV号戦車はドラゴンの身体が当たった衝撃でひっくり返っているし。


8.8cm FlaK 36はしょうがないにしてもIV号戦車は離れた場所に止めるか、イベントリに放り込んでおけば良かった。


――ん?レベルが上がってる?


自分の不手際で無惨な姿になってしまった兵器の事を悔い、次回にその反省を生かすべく反省点を洗い出している最中、俺は自身のステータスと保有ポイントの数値が変動している事に気が付いた。



[ステータス]

HP

・100


ソルジャーレベル

・レベル15(軍曹)


コマンダーレベル

・レベル5(上等兵)



一気にレベルが上がったな。まぁ、こんなデカブツを仕留めたんだから、それもそうか。


それに兵器も……第二次世界大戦レベルは殆ど使えるようになってるな。


で、ポイントは……99兆9999億9999万9999ポイント。


……ドラゴン倒して、1億ちょっとのポイントを得れたのは多いのか?少ないのか?


どっちだ?……まぁ、どっちでもいいか。基準が分からないし。


「「「「ウオオオオオオオオオオッッ!!」」」」


「ッ!?」


俺が自分の能力の変化を確認していると、突然間近な所から歓声が沸き起こった。


なんだ!?


ビクッと肩をすくませて辺りを見渡すと、いつの間にか周りにはドラゴンに襲われていた軍勢の兵士達が居り、武器を空に突き上げながら勝鬨のように声を張り上げていた。


いつの間に来たんだ、コイツら。


「フィーネッ!!無事かい!?」


「母様!!こちらです!!」


俺が考え事をしている間にやって来た兵士達の人壁を押し開き、馬モドキに乗って俺達の前に現れフィーネに声を掛けたのは少し前にドラゴンに喰われそうになっていたあの女性だった。


「良かった、無事だったんだね」


「はい、この通り傷1つありません。全てはカズヤのお陰です」


どこか怪我をしているのか、ぎごちなく馬モドキから降り、実用的だが華美な鎧を脱ぎ捨て、たどたどしくフィーネを抱き締める女性。


フィーネに大人の色気を付け足し、胸やお尻を更に大きくした感じの女性がフィーネを抱き締めると、鎧の下に着ていたピチッとしたインナーの中に隠された、その大きな胸がグニャリと形を変える。


場違いな事は自覚しているが……眼福である。


この人がフィーネのお母さんだったのか、じゃあなおさら助けるのが間に合って良かった。


偶然にも助けた相手がフィーネの母親だったと分かり、俺はホッと胸を撫で下ろす。


あの時に助ける事が出来ていなければ、フィーネのお母さんは確実に死んでいたからだ。


そうなれば、わざわざ命懸けでドラゴンというおとぎ話に出てくるような化物を倒しに来た意味が無くなってしまう。


「娘から大体の話は聞いた。礼を言うよ、旅の人。私はもちろん、娘と兵を救ってくれてありがとう。あのままアンタが来てくれなかったら私達はドラゴンの腹の中に入っていたからね」


「いえ、お気になさらず。助けが間に合って良かったです」


「……ハハハッ!!全く冒険者らしからぬ謙虚なヤツだねぇ。ドラゴンを1人で倒すなんて偉業を打ち立てたんだ、もっと胸を張りなよ。――おっと、自己紹介がまだだったね。あたしがローザングル家の当主、アミラ・ローザングル公爵だ。“これから”宜しく頼むよ」


「流れの冒険者の長門和也です。こちらこそ、よろしくお願いします」


俺はローザングル公爵から差し出された手を取って握手を交わす。


……何でそんなにガン見してるんだ?フィーネ。


何気ない光景のはずだが、その光景をフィーネが嫌に熱心に見つめていることが俺は気になった。


「さて、ここじゃなんだし、とりあえず野営地に行こうか。あぁ、安心しておくれ。ドラゴンの見張りはうちの兵士にやらせるから」


「あぁ、大丈夫です。持っていけますから」


「へ?あの巨体だよ?解体するにしても丸3日は――」


その希少価値から大金に化けるドラゴンの死骸に見張りを付けてくれるというローザングル公爵の提案を断ると、俺は訝しげな表情を浮かべる公爵の目の前でドラゴンをイベントリに放り込む。


すると、ジャンボ機程の大きさを誇ったドラゴンが一瞬で姿を消した。


「「「「……」」」」


絶句したような呆れたような、何とも言えない空気が満ちる中、俺はイベントリに放り込んだドラゴンの情報を読んでいた。


あ〜流石にでかいな。イベントリの容量が半分埋まってるよ。


ん?ドラゴンの血、ドラゴンの肉、ドラゴンの目って……何?任意の部位だけを取り出せるの?


解体要らずじゃん。ラッキー。


俺にとっても予想外の事だが、イベントリのドラゴンという項目の中に複数の枝分かれした項目が存在し、どうやら任意の部位だけを取り出せるようになっていた。


つまり、あの巨体を解体する必要はなく、またミリタリーズのゲームではイベントリに保存した食料品類は劣化しないという設定だったので、恐らくドラゴンの肉等も劣化しない。


何気に輸送チートも持っていた事が判明した瞬間だった。


「フィーネ……カズヤは流れの冒険者だったね?」


「はい、そうです」


「……アンタはカズヤに剣で挑んで負けたんだったね」


「はい。……恥ずかしながら。完敗です」


「で、カズヤはまだ国の冒険者ギルドには登録していないんだったね?」


「えぇ、そうですが」


「最初は出来れば。ぐらいに思っていたけど、あの不思議な力だ。状況が変わった……何としても、うちに引き込みな。いいね?」


「はい。元よりそのつもりです。母様」


俺の背後で、フィーネとローザングル公爵が何やら言葉を交わしていたようだが、ドラゴンの情報や未だ謎が多いミリタリーズの能力をじっくり解読していた俺の耳には届いていなかった。




「……かなりの被害が出ましたね、母様」


「……」


「あぁ、夜明け前に突然襲われたからねぇ……でも被害からしたら、まだマシな方だよ」


ドラゴンをイベントリに放り込んだ後、何故か肉食獣が獲物を狙うような鋭い視線をフィーネと公爵から浴びせられ、俺が背筋を凍らせるという一幕を演じた後、俺達はひとまず軍の野営地へ向かった。


だが、野営地だというそこにいたのは夥しい数の死傷者の群れだった。


軽傷者から始まり四肢が欠損している者、身体中に巻かれた包帯が真っ赤に染まっている者。


最早助かる見込みのない重傷者達まで様々な者が、俺達の視線の先で痛い、死にたくないと苦しみの声を上げ、少し離れた別の場所では息絶えた兵士の遺体が並べられていた。


そんな光景にフィーネが思わず声を漏らし、その隣にいた俺は無言である事を考えていた。


「――でも、もう助からない重傷者が大勢出ちまってるからね。かなりの痛手だよ。今回は」


「……彼らはどうするんですか?」


「残念だけど、助からない奴らは楽にしてやるしかないね。持っているポーションの数にも限りがあるし。魔法が使える奴だって魔力に限界がある。全員を助けるのは無理さね」


「じゃあ……じゃあ、楽にするまえにちょっと試させて頂きたい事があるんですが、いいでしょうか?」


「何をする気だい?」


「手持ちのポーションが、かなりあります。ですから――出来る限り彼らを助けます」


この世界の人達にも、ミリタリーズの回復薬が効果を発揮するのか確かめたいし。


「それは……ありがたい申し出だけど、いいのかい?」


「構いません、俺の勝手な偽善みたいなものですから」


「……そうかい……じゃあ、是非ともお願いするよ。フィーネ、手伝ってやりな。そこのお前達もだ」


「はい」


「「「「ハッ!!」」」」


俺の言葉に一瞬驚いた顔を見せたローザングル公爵は穏やかな表情を浮かべて許可を下ろすついでに人手まで貸し与えてくれた。


「ありがとうございます。じゃあ、ローザングル公爵。まずは貴女からです。腕を出してくれますか?」


礼を言って頭を下げると、俺はまず目の前にいるローザングル公爵に詰め寄る。


「は?私は怪我なんか――」


「バレないようにしているみたいですが、脇腹を庇っていますよね?」


「うっ!?何でそれを……はぁ……ほれ、好きにしな。でも、腕に何をするつもりなんだい?」


カマを掛けてずっと気になっていた事を聞いてみるとローザングル公爵は、あっさりと怪我の事を認め腕を差し出してきた。


俺が睨んだ通りに、やはり怪我をしていたようだ。


「俺が持っているのは飲むタイプのポーションじゃないんですよ。はい、一瞬チクッとしますよ」


念のため、レベル5の回復薬を召喚すると俺はペン型の注射器をローザングル公爵の腕に押し付けボタンを押し込んだ。


「んんっ?――こりゃ凄い!!痛みが消えてるし、体が軽いよ!?」


プシュという音と共にローザングル公爵の体内に薬液が流れ込んだ直後、初めての注射の痛みに眉をひそめていたローザングル公爵が目を見開き、そう叫ぶ。


「軽い、軽い!!アハハハハハハッ!!」


体の快調に驚くローザングル公爵が腕をグルグルと回したり、跳び跳ねたりしている様子はまるで欲しかったオモチャを与えられた子供のようである。


しかし、ブルンブルンと大きく揺れる胸の目のやり場に困るから跳び跳ねるのは自重して欲しい。


「……」


赤面もののローザングル公爵の姿に、やはりというかフィーネは顔を赤くして俯き、この人と私は関係ありませんとばかりに知らぬ存ぜぬを決め込んでいるが無駄である。


この場にいる者全てがフィーネとローザングル公爵の親子関係を知っているのだから。


「これで、怪我は問題ないはずです。また異常があったら言って下さい」


はしゃぐローザングル公爵に俺は苦笑しつつそう告げた。


ありとあらゆる異常状態を回復させるレベル5の回復薬はローザングル公爵の疲労まで解消したようだ。


流石1億ポイントもする高級品である。


「あぁ、助かったよ。しかしまた恩が増えちまったね」


一瞬で全快した事に驚くローザングル公爵をその場に残し、俺は負傷者の元へ急いだ。


「さて、やるか」


助かる見込みのある者達にポーションを与えたり治癒魔法を掛けたりしている兵士達をよそに、俺は助かる見込みのない重傷者達が集められている一角で服の袖を捲り上げ気合いを入れる。


と言っても負傷者の怪我の具合を判断し、1〜5まである回復アイテムの適切なレベル決め、召喚したペン型の注射器を負傷者に打って回るだけなのだが。


「この人はレベル4。この人は3。この人も3。この人は5」


フィーネや手伝いに貸し与えられた兵士達にペン型の注射器の使い方を教えた後、俺が負傷者の怪我の程度を判断し、適切な回復薬を召喚。そして回復薬を渡されたフィーネや兵士達が注射を行うという風に役割を分担し、素早く負傷者の救護を行っていく。


けれど助かる見込みのない重傷者が集められているだけあってレベル3以上の回復薬が次々に必要になる。


「……忘れていた、この秘薬の事も母様に知らせねば」


「……凄い」


「……奇跡だ」


死に瀕していたはずの者達が回復薬を投与されるなり、一瞬で回復していく様を目の当たりにして、フィーネや兵士達が驚嘆の声を漏らしている。


そんな声を聞きつつ、俺はガリガリとポイントが削られていく様子に、少し早まったか?と思いながらも負傷者達に回復薬を与え続けた。


そして、僅か10分で死に瀕していた大部分の兵士を救う事が出来た。


「ふぅ……とりあえずは終わっ――てないな。まだ居る」


「あっ、アーセナル様!!そちらは奴隷兵なので放っておいても構いませんが……」


野営地の端の端。碌な治療を受けた様子も見られず、半ば見捨てられたように地に横たわる兵士達を見つけた俺が治療に行こうとすると、隣にいた兵士が声を掛けてきた。


「奴隷兵?というか、まずアーセナルって何ですか?俺の事みたいですけど……」


「あ、いえ、失礼しました。アーセナルというのは貴方様がどこからともなく武器を出す様子を見た者がアーセナル(武器庫)が歩いている。と言ったのが始まりで……その、なんというか誠に勝手な話なのですが、貴方様の2つ名として我々の間に広まっている次第でして……」


なんじゃ、そりゃ。まぁ、別にいいけど。


まさか2つ名、などという中二病が好みそうな代物を付けられるとは思ってもみなかった俺は困った顔で弁解を続ける兵士の顔を眺めていた。


「どうかしたの、カズヤ?うちの者が何かした?」


「いや、何かしたという訳じゃないが……」


アーセナルという2つ名が知らぬ間に付けられた経緯を兵士から聞いていると、少しの間どこかに姿を消していたフィーネが、俺と兵士が揉めていると勘違いしたのか少し慌てた様子で駆け寄って来た。


「とりあえず俺はあっちの負傷者達の手当てをしてくるから、話はこの人から聞いてくれ」


「え、えぇ、分かったわ。――貴様、カズヤに何を言った?一から十まで全て吐け!!」


「ハッ、ハイッ!!」


鋭い眼光と恐ろしい威圧感を放つフィーネに問い詰められる事になった哀れな兵士をその場に残し、俺は申し訳程度の粗雑な鎧を纏っている奴隷兵達の元へと赴く。


「こりゃ酷いな」


体の一部が欠損していたりする怪我が当たり前という奴隷兵の惨状に俺は息を飲む。


「……さて、手早くいきますか」


見るに耐えない惨状に気圧されていた自分に気合いを入れ、俺は死の縁をさまよう奴隷兵達に回復薬を投与し救いの手を伸ばしていく。


そうして最早、助からないとばかり思っていた奴隷兵達が、元通りになり傷1つ無くなった自身の体を見て唖然としているのを横目に治療を続けていた俺は死にかけていながらも瞳に力強い光を宿した奴隷兵に出会う。


「……ハァ、ハァ、人間が……私に……ッ、何の用だ……止めを……刺しに……来たのか?」


しかし、その奴隷兵も腹に大きな傷を負い内臓の大半が傷口から外に溢れ出ていた。


よくもまぁ、ショック死しなかったものである。


「安心して下さい。止めを刺しに来たんじゃないですから」


「……ハァ、ハァ、なら、なんだ……ッ、最後に……私を……犯しに……来たか?」


「ハ、ハハハ……冗談を言えるなら大丈夫。――ほらもう治った」


顔を苦痛に歪ませながら真顔で笑えない冗談を飛ばしてきた奴隷兵に引き吊った笑いで答えた俺は、レベル5の回復薬を件の奴隷兵に投与した。


「ハッ、助けに来た?私が助かるはず――治って……る?」


悪態を吐こうとした奴隷兵は自身の体が元通りになっている事に気が付くと目を丸くして黙り込んだ。


「さて、次はっと」


「ま、待て!!お前は何故私達を助ける!?」


回復した奴隷兵の姿を見届けた俺が、次へ行こうとすると肩を掴まれ押し止められた。


「いや、何故って言われてましても……というか早く他の人を見てやらないと……」


「人間が我々亜人を助けるなど、何か裏があるに決まってる!!言え、お前は何を企んでいる!!」


先を急ぐ俺の言葉が耳に届いていないのか、奴隷兵は手を離してくれない。


全く、急いでいるっていうのに……しかし……やっぱり人間じゃないんだな。


まぁ、ほとんどの奴隷兵が獣耳や何かが混ざったような人外の姿をしていたから、そうだろうとは思っていたけど。


俺の両肩を掴みガックンガックンと揺らしてくる奴隷兵の――頭から獣耳を生やしている彼女の言葉で俺は、ここにいる奴隷兵の大半が妖魔や獣人といった亜人から成っている確信を得た。


「早く答えろ!!」


「答えろと言われても、理由はないんですが……」


「理由は……ない?」


俺の答えが予想外だったのか、眉をひそめ動きを止める奴隷兵。


「えぇ、ただ単に俺が救いたいと思ったから助けただけで」


「……救いたいと思ったから助けただけ……思ったから……」


奴隷兵は俺の言葉をブツブツと反芻しながら、何かを考え込んでいた。


なんなんだ、一体?まぁ、いいや治療を続けよう。


「さて、この……人?はレベル4っと」


ようやく肩から手を離したかと思いきや、今度は深い思考の中に埋没してしまった奴隷兵をその場に残して俺は未だに地面に横たわっている負傷者達の手当てを続けていった。



「だいぶ……減ったな」


99兆9620億5799万9999ポイント。


安楽死の運命が待ち受けていた全ての負傷者に回復薬を投与し終えた俺は、ポイントの残りを見てそう呟く。


およそ600〜700人の負傷者の生命を救った対価としては破格に安いが、若干使い過ぎた。


お陰でしばらくはポイントの残高に気を配らないといけなくなってしまった。


「カズヤ、ちょっといいかい?」


何故か負傷者達の救護を終えてから敬服するような視線を向けて来る兵士達の視線を浴びながら、今後の方針を定め頭をポリポリと掻いていると、少し青い顔をしたローザングル公爵がフィーネを連れ俺の元にやって来た。


「はい、なんでしょう?」


「参考までに聞きたいんだけどさ……あんたがうちの兵士を救うために使ってくれたポーションって、1つでどれぐらいの価値があるんだい?」


「えーと。効果の強さによって5段階に別れているんですが、一番効くヤツで凡そドラゴン1頭分の価値があります」


何でそんな事を聞きに来たんだろうか。と思いながらも別段隠す事でもないので俺は正直に答えた。


「「「「……」」」」


だが、それが不味かったのか俺の返答の直後、周りにいた人達が凍り付いてしまった。


「ハ、ハハハハッ、そうだよねぇ……死にかけの奴が蘇ったり、無くなった体の一部が再生するぐらいなんだから……それぐらいするよねぇ……」


「えぇ、まぁ。ちなみにローザングル公爵に投与したのが、その一番効くヤツです」


「……」


俺の言葉が止めとなったのか、石化してしまったかのように固まるローザングル公爵。


その姿に回復薬の代金を請求されることを心配しているのではないのか?と気が付いた俺は慌てて口を開く。


「いや、あの……俺が勝手にやったんですから、使った回復薬の代金を請求したりはしませんよ?」


「違うのよ、カズヤ」


未だに固まっているローザングル公爵の横からフィーネが口を挟んで来た。


どういう事だ?


フィーネの言葉の意味が分からなかった俺は、次の言葉を待つ。


「貴方の気を悪くしてしまうかも知れないけれど……貴族の、それも公爵たる者が下々の者から施しを受けたとあっては何かと不都合があるのよ」


「あ〜。つまり風評とか世間体とか社交界的な問題?」


「簡単に言えばそうね。だからうちは貴方から薬を買ったという事にしないといけないの」


「いや、それだったら周りには薬の代金はもう払ったって言っておけばいいだけじゃないのか?」


「それがね、どんな形であれ誤魔化す事は出来ないのよ。数人ならまだしも数百人単位の人間を助けるための薬の代金を払っていないなんてバレたらうちに取って取り返しの付かないことになるから。ローザングル公爵家は兵士を助けるために冒険者から買った薬の代金を払えない、払わないなんて噂でも立ったら、うちと取引してくれる商会が居なくなってしまうわ」


「……」


貴族って、色々めんどくさいんだな。


こうしてドラゴンを討伐し負傷者を全て救って話は大団円で纏まり終わったかと思いきや、別の問題が出てきてしまったのだった。

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