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1―3

密偵との戦闘を終え、空腹のまま野営地を後にした俺は密林の道なき道を慣れた様子でスルスルと進んで行くフィーネの後に続いて歩いていた。


「――それにしても困ったものだわ」


先を行くフィーネがボソリと呟くように声を漏らした。


「ん?何がだ?」


「イマリスの連中の事よ。奴ら最近特にうちの領地に侵入して来るのよ」


「……この国とイマリスは仲が悪いのか?」


「えぇ、かなりね。というか、我がオーレント王国はその肥沃な大地と豊富な資源が原因で近隣諸国から狙われているの」


周りは常に敵だらけよ。とそう言って苦笑気味に笑うフィーネ。


ふむ、国際情勢……というか基本的な知識や情報を持っていないから今のうちに聞けるだけ聞いておくか。


苦笑しているフィーネの笑みを視界に捉えつつ、俺はそう考えた。


「じゃあ、頻繁に戦とかもあるのか?」


「そうね……大規模な戦は最近無いけれど、小競り合い程度なら頻繁に起こってるわよ」


「そうなのか」


「えぇ、それもカスサラ砂漠を挟んでイマリスとの国境を接しているうちだけでなく、北や西でも戦火の火種が燻っていると聞くわ」


なかなかに物騒な国なんだな。


フィーネの話を聞いて俺はそんな感想を抱いた。


「大変なんだな」


「えぇ、本当に。今回の密偵だって今月に入ってからもう4度目よ」


今日が何日か――というかこの世界(国)の暦が分からん。


「そんなに。――そう言えば、フィーネは1人で密偵を倒しに来てたのか?」


基本的な知識が欠乏しているどころか、皆無に等しい俺はボロを出して不信感を抱かれないように話を合わしつつ話題を変える。


「そうよ。……って何、その顔は?これでも結構腕には自信があるのよ。巷では剣姫と呼ばれて一目置かれているし、冒険者のランクだってA−だし、うちが管理しているダンジョンも後一歩で攻略出来そうなんだから!!……と、貴方に負けた私が言っても説得力がないわね」


単身で密偵を倒しに来たと聞いて、心配そうな表情を浮かべた俺を見てフィーネは幼子が拗ねてしまったように頬をプクーっと膨らませる。


だが、俺は拗ねてしまったフィーネよりも気になる事があった。


ダンジョンがあるのか。


そう、フィーネの言葉の中に出てきたダンジョンという単語である。


これは異世界での楽しみが増えたな。ビバ、異世界。


……まぁ、危険も伴うけど。


この世界にダンジョンというロマン溢れる存在がある事を知った俺は機会があれば――例え無くともダンジョンに挑戦するぞ。という意気込みを密かに抱きつつも、未だ拗ねているフィーネの機嫌を直そうと声を掛ける。


「悪い悪い。別にフィーネが弱いと言っている訳じゃないんだ」


実際勝てたのだって、俺の力じゃないしな。


「別にいいの、負けたのは事実だし。……貴方のような人を待っていたというのもあるし」


声を掛けながらフィーネの機嫌をどうやって直そうかと悩んだのも束の間、フィーネは手をヒラヒラと振りながらあっけらかんとした様子でそう言った。


良かった、本気で拗ねた訳じゃなさそうだ。


しかし、最後何て言ったんだ?


そんなフィーネの姿に一先ず胸を撫で下ろした俺だが、フィーネが最後に小さく呟くように漏らした言葉を聞き損ねてしまう。


聞き直すのもどうかと思った俺は聞こえなかった内容を考えながら首を傾げる事になった。


「……ん?フィーネ、止まってくれ。前から何か来る」


そうしてフィーネとの会話を続けながら密林を歩いていた俺は視界に映る地図、広範囲索敵モードにしていたそれに3つの黄色い光点(敵味方不明)が現れた事に気が付くと、フィーネに声を掛け木の影に身を潜める。


「? 分かったわ」


不審な物音や何かが近付いてくるような気配もないのに、そんな事を言い出した俺に対して首を小さく傾げたフィーネだったが、素直に俺の言葉に従い木の影に隠れると直刀の柄に手を掛け何が来ても大丈夫なように身構えていた。


「ッ、本当に来たわね…………あら?」


少しして、俺の言った通りに前の方から何かが近付いて来た事に驚くフィーネはさておき、ガサガサと生い茂る草むらを掻き分け姿を現したのは3人の男。


手には槍や剣を握り、プレートアーマーを装備している。


1人は歴戦の風格を纏った眉目秀麗な壮年で、他は俺とあまり年の違わない若者だった。


「カズヤ、大丈夫よ。うちの家臣達だわ。おーい、こっちよ!!」


すわ密偵の残党かと早とちりし九九式小銃を構えかけた俺とは違い、彼らを視界に捉えたフィーネは、そう言って隠れていた木の影から身を乗り出した。


なんだ。味方か……。


手を振り男達を呼び寄せるフィーネの姿に安堵し、俺は九九式小銃の安全装置を掛けるとフィーネの後に続いて木の影から出た。


「ッ!!フィーネ様!!何やら爆発音がしていましたが良かった、ご無事でしたか。――ですが!!あれほど単騎駆けはお止めくださいと申しましたのに!!先に行かれてしまうとは、もっとご自分の立場を理解しご自重下さい!!」


フィーネの無事な姿を確認するなり駆け寄って来た壮年の男が怒りを露にしてフィーネに詰め寄る。


「そんな事をいちいち言われなくても分かっている。……心配させて悪かったが、この通り私は無事だ。それと報告のあった密偵とは一戦交えたが、彼が始末してくれた」


最初は怒っていたものの最終的には安堵の表情を浮かべ、胸を撫で下ろした壮年の部下との会話の途中、フィーネがこちらに視線を送ってきたので俺は部下の男達に軽く頭を下げておく。


「そうでしたか。して、彼は……一体?」


「昨日我が国に辿り着いた流れの冒険者だそうだ。あぁ、それと……かくかくしかじかでな、私の客人として屋敷に招くから失礼のないように」


「ッ!?……ハッ、畏まりました。――初めまして私の名はディルム・ダービーと申します。以後宜しくお願い致します」


「長門和也です。よろしく」


「それで……あの、フィーネ様?確認なのですが。本当にフィーネ様が剣で負けたのですか?」


「事実だ。まぁ、正確には奇襲を仕掛けたものの攻撃を全てかわされ、その挙げ句の果てに怪我をしないように手心を加えてもらっていたようだがな」


俺との出会いから密偵との戦闘に至るまで、その全てを詳細に語ったフィーネに対し壮年の男――ディルムは見たこともない武器を使っていたということよりもフィーネが俺に負けたという一点を何故か、しきりに気に掛けていた。


「では……つまり……そういう事で宜しいのですか?」


「あぁ、そうだ。そういうつもりでいてくれ」


「ハッ、承知致しました」


何の話だ?……まぁ、いいか。


何やら2人の間でだけで意味深な会話を交わしていたが、俺はそれについて深く考えることはしなかった。


だが後に、俺はこの時の自分の判断を盛大に悔いる事になるのだが、預言者でもない俺にそんな事が分かるはずも無かった。



「「「「お帰りなさいませ、お嬢様」」」」


「あぁ」


うわぁ、スゲェ……。


「ナガト様、お荷物をお持ち致します」


「あ、ど、どうも」


フィーネや途中から合流したディルム達と共に密林を抜けた俺は、フィーネの母親が統治しているモンタージュという街の中心にある城塞に招かれていた。


……マジもんのメイドだ。てか、街にいた人達もだが気候のせいか皆服の露出度が高いな。


眼福です。


日本の真夏よりも暑い気候によるものか、生地が極力省かれミニスカート仕様になっている(破廉恥)メイド服を纏うメイド達を前に俺はこっそりと鼻の下を伸ばす。


地球では年齢=彼女居ない歴の男子高校生だった俺の経歴を考えれば仕方のない事である。


「母様から連絡は?」


「はい。ロワール山近辺を根城にしていた賊の討伐は完了したとの連絡がありましたので、明日の昼にはお戻りになられるかと」


「そうか。――カズヤ?」


「……。えっ!?あ、はい!!なに!?」


メイドに釘付けになっていた俺は不意に声を掛けてきたフィーネに慌てて返事を返す。


「明日になったら私の母がここに帰ってくるから、会ってもらってもいいかしら?」


「あぁ、分かった」


あー、ビックリした。メイドに夢中になりすぎてた。


俺には刺激が強すぎるな。


フィーネに相づちを返しながら、俺はメイド達から視線を背ける。


「じゃあ、私はやらないといけないことがあるから……そうね、また夕食の時にでも顔を出すわ」


「ん、了解」


「あと貴方の部屋はもう用意させてあるから長旅の疲れをゆっくり癒して頂戴。それと何かあったらメイドに言って。出来るだけ貴方の要望に答えさせるから」


「何から何まで助かるよ」


「気にしないで、貴方は私のお客様なんだから。じゃ、また後で」


「あぁ」


公爵家のご令嬢なだけあって忙しいのか、フィーネは俺にそう言うとディルムやメイドを引き連れ足早に立ち去って行った。


「お初にお目にかかります。ナガト様。ナガト様のお世話を仰せつかったアイナと申します。以後よろしくお願いいたします」


1人だけ残っていたメイド――アイナさんが俺の前で小さく頭を下げ、そう言った。


「あ、どうもご丁寧に……」


「フフフッ。では、ナガト様。お部屋の方にご案内させて頂きますね」


「あ、お願いします」


いやに丁寧語で対応する俺の受け答えが可笑しかったのか、笑みを溢しながら部屋に案内してくれているアイナさんの後に続いて俺は城の長い廊下を歩いて行く。


「こちらがナガト様のお部屋になります」


「……」


……でかいな。学校の特別教室の2倍ぐらいないか?


案内された部屋の大きさに俺は呆気に取られていた。


「あの……ナガト様?お嬢様からのお話ですと朝食がまだという風にお聞きしておりますが、何か召し上がりになりますか?」


「えっと、じゃあ……何か軽く貰えます?」


「畏まりました。では軽食の方をお持ち致しますので、暫しお待ちください」


そう言い残しアイナさんが部屋から出ていくと俺は近くにあった椅子に腰を下ろした。


ふぅ……。こんな風な待遇を受けた事がないから、どんな風にしていればいいか分からないな。


小市民には逆に気苦労が溜まる。


……めんどくさいから、もういっそのこと敬語で通すか?


ま、それも相手次第か。


しっかし、暑いな。


……タライと氷塊を召喚!!


考えを巡らせている途中で体を熱する暑さが嫌になり、俺はタライと氷塊を召喚し部屋の温度を少しでも下げる事にした。


少しは涼しくなったな。


あ、そうだ。今のうちに能力の確認をしておこう。


えーと、残りのポイントが99兆9998億9999万8324ポイント。


魔物殺したり、人を殺したりして得たポイントがあるからそんなに減ってないな。


というか……人を殺したりしたのに罪悪感とかあまりないな。


うーん。呼び出された時にあのジジイに飲まされた薬のせいか?


ま、いいや考えてもしょうがないし。


精神的な面でも、以前では考えられない行動を取れていた俺は原因を突き止める事をあっさり諦め、放棄すると能力の確認を続ける。



[ステータス]

HP

・100


ソルジャーレベル

・レベル3(二等兵)


コマンダーレベル

・レベル2(二等兵)



こっちもあまり変わってないが、ソルジャーレベルが3になったから多少使える武器の範囲が広がったな。


コマンダーレベルも2になってるから……1人、いや2人部下が作れるようになってるな。


うん、以前作った部下のキャラクター設定は残ってるから……機を見て部下も作ってみよう。


でも、召喚した部下の兵士って俺の言うこと聞いてくれるのかな?


ミリタリーズにあった兵士の作成システムを利用して仲間という心強い味方を得る事が出来る一方で、俺は一抹の不安を抱きながらそんな心配をしていた。


「お待たせ致しました。ナガト様――ッ!?」


「あっ!?」


しまった!!


タライと氷塊を召喚することで狙い通りに部屋の温度を下げる事に成功し涼しくなった部屋の中で能力の確認に明け暮れていた俺だったが、あまりに多くのタライと氷塊を召喚してしまったため、軽食を持ってきてくれたアイナさんが驚いて転けそうになったのは失敗だった。


「ねぇ、カズヤ。貴方はこれからどうするの?」


夜になり、異世界での本格的な食事を楽しんだ後、お茶らしき飲み物を飲んでいるとフィーネがそう聞いてきた。


「うーん。特に行く宛もないからな……けど、王都とかは見てみたいから路銀が稼げたら行くつもり」


「……そう。じゃあそれまではうちにいるのね?」


「いや、そこまで世話になるのは悪いから。宿代が稼げたら街の宿にでも行くよ」


「ッ!?え、遠慮しなくてもいいのよ?そ、そうよ。この地に慣れるまではうちにいた方がいいわ」


何で慌ててるんだ?


何故か俺を執拗に引き留めようとするフィーネの姿を疑問に思いながら、言葉を続ける。


「フィーネがいいと言ってくれるなら、助かるけど……本当にいいのか?」


「えぇ、何ならずっといてもらってもいいのよ。フフッ」


うーん。こんな美人から引き留められると何か裏があるんじゃないかと邪推してしまうな。


けどまぁ、助かるのは事実だし、しばらく滞在させてもらうか。


「それはそうとカズヤ、それで物は試しなんだけれど……貴方、うちで働いてみない?」


「えっと……働くって何をするんだ?」


「そうね……村や街の近辺に出てきた魔物の駆除、賊の討伐。あとはうちが管理を任されているダンジョンの探索や城の警備とかかしら」


「あれ?俺なんかはそういうのって冒険者ギルドに登録してからじゃないとダメなんじゃなかったっけ?」


昼の空いた時間にアイナさんから聞き出した情報と食い違う場所があったので、確認のためフィーネに聞いてみるとフィーネは明らかに狼狽え始めた。


「な、なんでその事を知っているの!?」


「いや、昼にアイナさんから聞いた」


「……迂闊だったわ」


俺の返答を聞いたフィーネは額に手を当てガックリと肩を落とし、何かを諦めたように口を開く。


「いいわ。正直に言いましょう。ふぅ……貴方はこの国に来たばかりだからアイナに聞いた以外はあまり知らないでしょうけど……この国の冒険者ギルドの成り立ちは他と少し違ってややこしいのよ」


「どんな風に?」


「この国のね、冒険者ギルドは国営なのよ。だから冒険者ギルドに登録すると同時に国の兵士としても登録されるの」


「ということは、つまり……戦争なんかが起こった場合駆り出されるのか?」


「えぇ、そういうこと。朝にも言ったけど周りに敵しかいないから、兵士不足の対策みたいなものよ。まぁ、高額な罰則金を支払えば従軍しなくてもいいのだけれどね」


うーん。逃れる方法があるとはいえ……無関係の戦争に参加しないといけないかもしれないのは困るな。


「じゃあ……冒険者ギルドに登録した場合の利点と欠点ってなんなんだ?」


「そうね、簡単に言うと……まず利点は依頼の斡旋に、冒険者ギルドと提携を結んでいる店の利用価格や品物の販売価格が通常よりも少し安くなる事。それに国が管理しているダンジョンに潜って得た魔石やドロップアイテムの適正価格での買い取り。欠点は戦時に兵士として駆り出される事。あと冒険者ギルドに登録しないまま国営のダンジョンに潜って得た魔石やドロップアイテムは強制買い取りの上、買い取り価格が適正価格の半値になる事。それぐらいかしら」


なかなかに鬼畜な欠点だな。


俺はフィーネから聞かされた内容を頭の中で吟味し、考えを巡らせる。


「はっきり言うとね……貴方はうちの私兵として抱え込みたいの。だから……」


あ、それで……冒険者ギルドに登録するまえにここで働く話を持ちかけたのか。


「……一晩考えさせてくれるか?」


「えぇ、もちろん。待ってるわ」


とりあえず考える時間が欲しかった俺はフィーネと別れ、宛がってもらった部屋の中で今後の事も含め考える事にしたのだった。

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