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1―2

「これもゲーム補正がかかっているのか……」


召喚した乗り物――ジープに乗った際、自動車学校の教習でしか車を運転した経験が無いにも関わらず戸惑うことなく、また迷うことなく運転に必要な動作を理解し実行出来たことや自分の主観視点と斜め後方からの第三者視点の2つを同時に認識出来る事を知り、俺はジープの運転しながら若干の戸惑いを感じていた。


この分だと他にもゲームの補正がかかった設定とかがありそうだな……。ま、おいおい確かめればいいか。


砂漠の中を屋根の無いオープンタイプのジープで疾走しつつ、そう考えた俺は遠くに小さく見えてきたジャングルを眺めながらそう結論つけた。


「しっかし、あっちーな」


そこそこのスピードを出しているお陰で、吹き付けて来る風が身体を冷やしてくれているものの、砂漠に燦々と降り注ぐ灼熱の太陽は俺の体温を容赦なく上昇させていく。


「冬服の学生服から、こっちに着替えておいて正解だな。通気性がいいし」


出発するまえに装備ステータスで旧日本軍の軍服を召喚し、それに着替えていた俺はカーキ色の丈夫だが薄い生地で出来た軍服に感謝していた。


「さてと……ジープで行けるのはここまでだな」


能力の考察や、どこまで自分の体にゲーム補正がかかっているのかの検証を移動の合間に行う一方で砂漠を突っ切る事に成功した俺は砂漠地帯と密林地帯の境界線でジープを停め降車すると、不必要になった武器や兵器を保存しておく事が出来るイベントリにジープを入れた。


放置しておくと(事前に特定の設定をしておかない限り)5分や10分で自然消滅し勝手にイベントリに入って来るが、念のためである。


「後はこのジャングルを25キロほど進めば人里に辿り着けるはず……これを抜けるのか……」


鬱蒼と生い茂る草木が行く手を遮り、奇妙な鳴き声が響く密林地帯。


この土地に関する知識が全く無い俺が踏み込む事を躊躇うのには十分だった。


しゃーない、行くしかないか。


街道どころか獣道すらない密林を踏破しなければ、独り寂しくこの場所で生きていかないといけなくなるため、俺は覚悟を決める。


ミリタリーズで俺が獲得していたスキルは全部そのまま残っていたから何とかなるか?


ゲームの時も大いに活用し助けられた数々のスキルを頼みの綱にして、俺は密林地帯へと足を踏み入れたのだった。


「ふぅ……ゲーム補正と『無限ダッシュ』のスキルのお陰か、疲れはしないが……汗がヤバい」


これも能力――ゲーム補正が効いていると思われるが、ジャングルの道なき道をぶっ続けで4〜5キロを進んだにも関わらず俺は一切の疲労を感じていなかった。


普通であれば疲労困憊に陥り休憩を幾度も取らねばならない程の悪路を進んでいたというのに。


だが、体力的な問題はゲーム補正とスキルでカバー出来ても気温による汗という生理現象とこの世界にいるという多種多様な魔物の存在を警戒しつつの移動による精神的な疲れまではどうしようもなかった。


「あーあ……またベタベタだよ」


苔むした倒木に腰掛け小休憩を取ることに決めた俺は高い湿度と気温のせいで汗まみれになった軍服の襟を人差し指と親指でちょんと掴む。


「うーん。もったいない気もするが……まだ大分とポイントに余裕があるしいいだろう。何よりこのままでいるのは気色悪い」


ポイントの無駄遣いになってしまうかもしれないが、汗をたっぷりと吸い肌に張り付いてくる軍服があまりにも不快なため俺は服を着替える事にした。


そして浴びる為の水と体を拭くタオル、そしてコットンを主要な素材として作られたオリーブドラブ色の熱帯野戦服――ドイツ国防軍が北アフリカ戦線で使用していた軍服等を合計200ポイントで召喚し、軍服の上から豪快に水を浴びた俺は、水と汗でビチャビチャになった軍服を脱ぎ捨てると身体を拭き新たな軍服に袖を通す。


「あーさっぱりし――なんか来る?」


身体を洗い新品の軍服に袖を通した事でさっぱりとした気分を味わっていると視界の左下にある四角い地図のアイコンに6つの赤い光点が現れた。


それだけならば慌てる事もなかったのだが、その6つの赤い光点が俺の方に向かって来ていたのだ。


赤――つまりは敵性対象が。


そのため、俺は慌てて戦闘態勢を整える。


倒木を盾代わりにし九九式小銃を構え、PPSh-41をいつでも使えるように足元に置けば準備は完了である。


あれは……ゴブリンか?


しばらくして姿を現した赤い光点の正体は醜悪な顔と緑色の皮膚が特徴的なゴブリンだった。


こちらに近付くゴブリン達は錆び付いた剣やナイフ、赤黒いシミがこびりついた棍棒を構え警戒するような足取りでゆっくりと進んでいるが、どうやら俺の事には気が付いていないようである。


恐らくは俺が水浴びをした時の水音でゴブリン達を招き寄せてしまったのだろう。


……殺るか。


敵はこちらに気が付いていないが、こちらは準備万端。


初めての実戦にはおあつらえ向きのシュチュエーションだ。


そう考えた俺は九九式小銃の照準を一番前にいるゴブリンの眉間に定める。


そして呼吸を整え、敵を出来るだけ引き付けた上で俺は九九式小銃の引き金を引いた。


パンッと乾いた銃声が響き、マズルフラッシュと共に銃口から飛び出した九九式普通実包は俺の狙い通りにターゲットの眉間を撃ち抜く。


よしっ!!


砂漠地帯で試射を済ませてはいたものの、実戦で初めて撃った弾がターゲットを捉えたことに並々ならぬ喜びを感じつつ、俺はボルトを操作し次弾を薬室に装填し狙いをつけ引き金を引く


すると今度は狙いが僅かにずれてしまうが、ゴブリンの目に弾が当たり何とかなった。


まだまだ!!


仲間が2人殺られたものの、未だに俺がどこから攻撃しているのか分からずキョロキョロと辺りを見渡すゴブリン達。そんなゴブリン達に俺は情け容赦なく銃弾を浴びせ続ける。


だが、3匹目のゴブリンの頭蓋骨を7.7mm口径の九九式普通実包でぶち抜いた直後、ゴブリン達が倒木の影から銃撃をくわえている俺の姿に気が付いた。


雄叫びを上げ、仲間の無念を晴らさんと突っ込んで来るゴブリンに俺は九九式小銃を手放しPPSh-41に持ち変えると7.62×25mmトカレフ弾の弾幕でゴブリンを迎え撃つ。


「うおおおおぉぉぉぉーー!!くたばれぇぇ!!」


大まかな狙いをつけ、銃口からシャワーのようにばらまかれる7.62×25mmトカレフ弾の前に3匹のゴブリンは瞬く間に蜂の巣になって地面に転がることになった。


「ふぅ……終わったか……」


実戦を終え、高ぶる感情を宥めつつ大きく息を吐く。


「あ、ポイントが60増えてる。なるほど魔物を殺すとポイントが増えるのか。……レベルは上がってないな」


ゴブリンを殺した事でステータスにこそ変化は無かったが、ポイントが少し増えた事に気が付いた俺は喜びの声を漏らす。


「ヤバッ、移動しよう」


喜びに浸っていたのも束の間。かなり大きく響いた銃声とムッとする血の臭いで更なる敵がやって来る可能性があるため、というか現に地図の上には新たな赤い光点が次々と現れ、こっちに向かって来ていたため俺は直ちに移動を開始した。


だが、惜しむべきは魔物の体内にあるという魔石を回収する暇も無かったという事だ。


もし回収出来ていれば冒険者ギルドでこの世界(国)の通貨と魔石を交換出来たのだが。


俺は自身の身の安全を優先し、その場を去ったのだった。




「朝か……」


ゴブリンとの戦闘の後、何事もなく歩を進めていた俺は密林の中で天幕を張り『トラップマスター』というスキルで天幕の周りに自衛用のトラップを仕掛け一夜を過ごしていた。


と言っても、何かの鳴き声や葉の揺れ動く音で神経が刺激され、ほとんど寝る事など出来ていなかったが。


「飯食ったらすぐに移動して今日中には人里に辿り着こう。それで宿でグッスリ寝よう」


異世界生活二日目、睡眠不足の疲れを補うべく俺はそう決めると、飯盒と米、水、おかずの牛肉を召喚し朝食の準備に取り掛かる。


ミリタリーズに登場する数百万種以上の軍需品の中に、ゲーム内では使う事がほぼ無いが食料品や調理道具等の項目があって良かったとしみじみ思う瞬間であった。


俺は火を起こし、米と適量の水を入れた飯盒を火の上に吊るし、その一方で薄く切った牛肉を召喚したフライパンで炒め始める。


しばらくしてジュウジュウと心地よい肉の焼ける音が密林に響き、香ばしく食欲を誘う匂いが辺りに立ち込めてきた。


飯盒で炊いたご飯も頃合いのようだ。


「あとは食うだけ〜♪――うおっ!?」


食事の準備が整い、焚き火を消そうとしゃがんだ瞬間、先程まで俺がいた所を一本の矢が通過し背後の地面に突き刺さる。


「や、やべぇ!?」


突然の敵襲に泡を食いつつも側に置いておいた九九式小銃を引っ掴み、木の影に隠れる俺。


視界の左下にある地図のアイコンにはいかなる反応も無いにも関わらず、攻撃を受けたこの状況に俺は自分の油断を悔いた。


忘れてた。忍び寄って来る対象がある程度の隠蔽率を持ってると、この地図(レーダー機能あり)には映らないんだった。


今さらながらに思い出したミリタリーズの設定を脳内で反芻しつつ、九九式小銃にガチャリと初弾を装填した俺は敵の居場所を探り始める。


えーと、矢の突き刺さっている角度を見る限り……木の上から撃ってるなこりゃ。


道理でトラップに引っ掛からない訳だ。


矢を撃ってきた敵が木の上を移動してやって来たと理解した俺は視線を少し上めにしてから、こっそりと木の影から頭を出す。


「貴様か、カスサラ砂漠を越えて来たイマリスの密偵というのは!!だが残念だったな!!私に見つかった不運を呪いながらここで死ね!!」


いくら探そうと影も形も無い相手から一方的に、そう叫ばれた俺は話の意図が理解出来ず固まっていた。


えっと……確かカスサラ砂漠っていうのが昨日俺がいた砂漠で……イマリスが、今居るオーレント王国の砂漠を挟んで反対側にある国だったかな?


というか……勘違いじゃん!!密偵じゃないよ俺!!


明らかに勘違いで襲撃されている事が分かった俺は九九式小銃で反撃する事を諦め襲撃者に話を聞いてもらおうと試みた。


「ちょっと待ってくれ!!俺は密偵なんかじゃない!!ただの冒険者――っと!?」


「問答無用っ!!」


しかし、言葉での説得を試みた俺は、いつの間に接近していた襲撃者――黒い外套を纏った相手に接近戦を挑まれてしまう。


そのため俺は少し強引な手を使ってでも話を聞いてもらう事にした。


「さっさと死ね!!」


「よっ、ほっ、あっぶね!?」


ミリタリーズで使用していた最強キャラと同じ身体能力を持つ俺は、何度も煌めく白刃をかわし時には九九式小銃で受け流しながらタイミングを計り、襲撃者が焦れ決着を着けようと大振りな攻撃に出るのをひたすら待つ。


ところが襲撃者は相当な手練れなのか、冷静に俺の急所ばかりを的確に狙って剣撃を繰り出してくる。


しかも、先程などは俺の背にあった人の胴回りぐらいある太い木を一刀の元に両断して斬り倒して見せた。


つまり、一撃を受ければ即あの世行きなのだ。


「このっ、いい加減に――ッ!?」


神経を磨り減らすような時間が続く中、待ちに待った瞬間がやって来る。


反撃しようともせず攻撃をヒラヒラと避け続ける俺にイラつき、襲撃者が手に握る直刀を大きく振りかぶったのだ。


その瞬間を見逃さず、俺は九九式小銃を投げ捨てるとフードで隠れている襲撃者の顔の真ん前、鼻先が触れ合う寸前まで踏み込み襲撃者が振り下ろそうとしていた腕を取りつつ足を引っ掛け、そのまま襲撃者を押し倒すような格好でマウントポジションを奪った。


ミリタリーズに実装されている軍隊式格闘術を全て獲得しておいたのが、俺の命を救う結果になったのだ。


人生何があるか分からないものである。


「ぐっ……虜囚の辱しめは受けんぞ!!殺せ!!」


「っ!?」


いくら暴れようとも身動き一つ出来ない事を悟ると悲壮な覚悟を決め、なげやりにそう叫んだ襲撃者だったが、俺はその言葉を気にしている余裕は無かった。


何故なら、押し倒した際の衝撃で捲れてしまったフードとはだけた外套の中から現れたのは、そこいらのアイドルとは比べ物にならない美女。


小麦色の艶やかな肌に、色鮮やかな碧眼、形のいい小ぶりな唇。


男の視線を否応なしに集める大きな胸、くびれのあるほっそりとした腰周り。


加えて真っ赤に燃えるような赤く長い髪が俺の視線を強く惹き付けた。


「………………ちょっと待て、殺すつもりはないから。というか盛り上がっている所悪いけど、貴女の勘違いだから」


「へっ?」


予想外の襲撃者の正体に思わず見惚れていた俺だが我に返ると、今にも舌を噛み千切って自害してしまいそうな勢いの美女に静止の声を掛けたのだった。


「うぅ……面目ない……配下の者からこの辺りで密偵を見つけたという報告を受けていたものだから、つい貴方が密偵だと勘違いして……」


「まぁいいさ。勘違いなんて誰にでもあるものだから」


「そう言ってくれると、助かる。そうだ!!自己紹介がまだだったな。私の名はフィーネ・ローザングル。この地一帯を治めているローザングル公爵家の長女よ」


「……俺は長門和也。冒険……者だ」


公爵家の長女!?これはまた権力者の関係者に出会ってしまったな。


畏まったほうがいいのかな?……このままの方が良さそうだな。


公爵家の娘と聞いて畏まった態度を取ろうか悩んだが、畏まらず普通の態度を取った俺の姿に嬉しそうな表情を浮かべたフィーネを見て俺はこのままの態度で行くことにした。


「珍しい名ね、カズヤと呼んでも?」


「あ、あぁ、いいよ」


なんか……グイグイ来るんだけどこの人。


「じゃあ私もフィーネでお願い。それでカズヤ、ここへは何しに?」


寄り添いながらフランクな態度でそう聞いて来るフィーネに戸惑いを感じつつ、俺はあらかじめ用意しておいた回答を口にする。


「“この世界の事がもっと知りたくて”旅をしている途中なんだ」


うん、嘘は言ってない。


「へぇ〜いいわね、そういうの憧れるわ」


「……」


先程、猛然と襲い掛かってきた人物と同一とは思えないほど楽しそうにニコニコと可憐な笑みを浮かべるフィーネの姿に、また見惚れる俺の図。


つくづく美女の魅力というのは恐ろしいモノだと実感した。


「カズヤ?ねぇ、カズヤ。カズヤってば!!」


「え、あ、悪い聞いて無かった。なんの話をしていたんだっけ?」


見惚れられていたとは夢にも思っていないフィーネはボーッとしていた俺の袖を膨れっ面でクイックイッと引っ張る。


「もう!!だからさっきのお詫びに私の家に招待するという話よ」


「えっと……いいのか?どこの馬の骨とも知れない奴を家に招き入れても」


「馬の骨?なんの事か分からないけど、お詫びなのだから気にしないで」


俺が口にした言葉の意味が理解出来なかったのか、小さく首を傾げながらフィーネがそう言った。


「そうか……じゃあお邪魔――」


「キャッ!?カ、カズヤ!?」


ここで断るのも不自然かと思い俺はフィーネの提案に頷こうとしたのだが、その直前にあることに気が付きフィーネを押し倒して、そのスタイル抜群の肢体の上に覆い被さった。


「え、えっと!!その!!こ、こういうことはまだ早いんじゃないかしら!?出会ってから間もないし私にも心の準備というものが!!いや、別に貴方の事が嫌いという訳ではないの、私を倒せる強さを持ってるし、何より優しい貴方だし、やぶかさじゃないというか……で、でもでも段階をもっと踏んでから――って、あれ?カズヤ?」


何やらまた勘違いをしているフィーネをよそに俺は背中に走る焼けるような痛みを必死に堪えていた。


クソいてぇッ!!


何故なら俺の背中には矢が2本、深々と刺さっているのだ。


「ちょっとカズヤ!?どうしたの――キャアァァ!?」


「ぐがっ!!」


顔を苦痛に歪めた俺の姿に異変を感じ取ったフィーネが騒ぎだした直後、今度は俺達のすぐ近くで爆発が起こり衝撃波と爆風が襲い掛かってきた。


軽々と枯れ葉のように吹き飛ばされた俺は2〜3度地面をバウンドしながら草むらの中に突っ込み、フィーネは後ろにあった天幕に偶然にも受け止められ動きを止めた。


「カ、カズヤ……大丈夫?……カズヤ?どこ?」


体を張って庇った甲斐あってかフィーネは軽症で済んだようで、すぐに立ち上がったような気配があったが、草むらの中で横たわる俺は少し洒落にならない状態になっていた。


ゲーム補正ここに極まれりだな。


しかし、こりゃ……不味いな。視界が真っ赤っかだ。


うぇ、HPが20しか残ってないじゃないか。


道理でこんなに視界が赤くなってる訳だ。


あと……不思議と痛みが無いけど体が滅茶苦茶だな。


爆風をモロに浴びた自分の体の惨状を見て、俺が愕然としているのをよそに俺達を襲った下手人達が続々と姿を現す。


数は15。いずれも武装し臨戦態勢を取っている。


明らかに戦い慣れした集団である。


「ふむ……ツイているな。目標の方からノコノコとやって来てくれるとは」


「っ!!貴様らがイマリスの密偵だな!!」


「はて、なんのことやら」


襲撃者のリーダーはフィーネの問い掛けに真面目に答えるつもりはないようだ。


ま、それもそうか。


しかし、襲撃者の言葉から察するに目標がフィーネなので早急に俺は立ち上がる事にした。


「今のはちょっとばかり痛かったぞ?」


「カズヤ!?無事だった……ッ!?」


「貴様……化物か?」


草むらの中から立ち上がった俺を見てフィーネは絶句し、襲撃者達は警戒度を引き上げた。


無理もない。


俺の今の姿は左腕が完全に吹き飛び、脇腹からは内臓が飛び出しているのだから。


「魔法で死にずらくなっている俺じゃなかったら死んでたぞ?――ふぅ……これでよし」


「ッ!?」


「……何者だ、貴様」


「ただの旅人」


せっかく仲良く?なったフィーネから化物認定されても悲しいので、魔法というご都合主義万歳な理由をでっち上げ、死んでいない理由を誤魔化す一方で俺はミリタリーズで登場する回復薬の中で一番の、ありとあらゆる異常状態を回復させるレベル5の回復薬(1本1億ポイント也)を召喚し自分に投与した。


ペン型の注射器から俺の体内に入った回復薬は、その効果を見せ付けるように威力を発揮する。


吹き飛んでいた左腕と脇腹から飛び出していた内臓が何事も無かったかのように元通りになったのだ。


そんな奇跡のような光景を目の当たりにしてフィーネは勿論、襲撃者達も驚いていた。


「さてと……まずはお礼をしないとな。フィーネ、俺の側に」


「え、えぇ」


おっかなびっくりといった感じで、俺の側にやって来たフィーネは襲撃者達が目の前に居るにも関わらず俺の左腕や脇腹をツンツンと触っていた。


「チッ、こんな事態は想定していなかったが、やることは変わらん。全員で一斉にかかって一撃で仕留めるぞ」


「「「「応!!」」」」


俺が戦闘態勢を取ると襲撃者達は一斉攻撃の構えを取った。


「かかれぇーー!!」


リーダーの男の掛け声で俺達2人に向かって15人の男達が向かってくる。


だが、奴らの進路上に何があるのかを知っている俺はただ敵が突っ込んで来るのを眺めていた。


「うがっ!?」


「ギャーー!!」


「ッ!?」


まず最初にリーダーを含む3人が落とし穴のトラップに引っ掛かり、底に突き立てられていた木の杭に足や体を貫かれ動きを止める。


そして、仲間がトラップに掛かったというのに俺達に向かってくるのを止めなかった残り12人は、第二次世界大戦でドイツ軍が使用していた対人地雷――S-マインの地雷列に突っ込んだ。


「「「「ッ!?」」」」


S-マインの上部にある点火蝕枝に触れた直後、S-マインが1.5メートル程の高さまで跳ね上がり地雷本体が炸裂。


内部から飛び出した金属球320〜350個に体をズタズタに引き裂かれ無惨な死を遂げる事になった。


「こうも上手くいくとは……」


正直、何人かはこちらに辿り着くだろうと考えていたのだが、ものの見事に全員がトラップに引っ掛かった事に俺は軽く驚いていた。


「カ、カズヤ。貴方何をしたの?」


落とし穴のトラップに引っ掛かりもがいている3人に、朝食を無駄にしてくれた怨みを込め問答無用でM24型柄付手榴弾を投げつけ爆殺した俺の一連の行動を見ていたフィーネが唖然とした顔で俺に問う。


「ん?まぁ、ちょっと特殊な魔法が使えるんだよ。俺は。――それより早く移動しよう音を立て過ぎた。魔物が来るぞ」


「え、えぇ、そうね。とりあえずそうしましょう」


詳しい話を聞かれる前にうやむやにしてしまおうと俺はフィーネを急かし立てる。


「荷物を取ってくるわ」


「あぁ、分かった」


荷物を探しだしたフィーネをよそに、俺がまだ生きているトラップを解除して回っていると視界の端に[!]マークが浮かんでいることに気がついた。



[レベルアップしました]


[ステータス]

HP

・100


ソルジャーレベル

・レベル3(二等兵)


コマンダーレベル

・レベル2(二等兵)



おっ、レベル上がった。


[!]の正体を確かめた俺は自分のレベルが上がっている事を喜ぶ。


「準備出来たわ。さぁ、行きましょう。こっちよ」


荷物を取ってきたフィーネに促され、俺はジャングルを脱出する事になったのだった。

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