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03



「それで」

「ええ、彼らの住んでいる場所は分かっています。ずっと見守ってきましたから」


 ちょっとしたストーカーだな。

 クラーク卿の言葉に、ライナルトは苦笑いするだけだった。


「そこに行って、爵位と屋敷の返還を受けてくれるよう頼む、という訳だな」

「そうです。本当に…ヴェスアード国王陛下のお心には痛み入ります」


 いや、遅すぎるだろ。

 ライナルトは心の中で毒づいた。


 王位を継いで20年だ。

 今までも出来たはずだ。それをしなかったのは…きっと母に遠慮する気持ちもあったのだろう。

だからって息子に頼むのも…しかも「王太子」という地位と引き換えというのがどうも癪に障る。


「まあ、父からの初めての頼みごとだからね。今回は広い心で臨むよ」


 良き王である父が、何かを自分に頼んできたことは一度も無い。それが泣きそうな声で「頼んだ」なんて言ってきたもんだから、断れる筈が無い。

 たとえ、昔の初恋の人の様子が気になる、なんて内容だったとしても。


 ライナルトはクラーク卿から、父の初恋の人が住む場所までの地図を受け取り、再び馬に跨った。誰にも告げず、こっそり城を抜け出してきていたライナルトは、クラーク卿の「泊まっていかれても」という言葉にも決して首を縦に振らなかった。あまり時間がかかってしまうと、城で騒ぎになるかもしれない。

 時間を惜しむように、ライナルトは馬を駆けた。







 途中で仮眠も取りつつ、渡された地図に記されている街にライナルトが到着したのは明け方だった。

 彼らが住んでいるという家の場所は少し街から外れているのだが…すぐに見つけ出すことが出来た。


 街の外れにある小さな湖の傍に、その家は建っていた。

 可愛らしい花々に囲まれた小さな家からは、おいしそうな匂いと共に湯気が立ちこめている。ちょうど、朝食の時間だろうか。


「…そういえば、昨日から何も食べて無かったな」


 仮眠を少し取っただけで、何も口にせずに、ずっと馬を駆けてきたのだ。

 体も疲れているし、もう空腹も限界だ…、とライナルトは家から少し離れた木陰に腰をかけた。非常食のような干肉とパンを口に放り込み、これからのことを考える。

 この簡単な食事を終えたら、すぐに家を訪ねよう。そして事情を話して…爵位と屋敷の返還を受ける書類にサインして貰う。


 ライナルトは頭の中でこれからすべきことを順序だてて考えていた。


 その時だった。

 その家の扉が開いのは。


 籠を手にした女性が家の中から出てきた。


 無造作に揺れる淡い金色の髪は、朝日が反射してキラキラと輝いている。年のころはライナルトより少し下だろうか。

 森の緑と、湖の青を背景に立つ彼女はとても美しかった。


 彼女は、家の周囲にある小さな菜園で何かを採っているようだ。菜園で作業していた彼女は、自分の家から少し離れた位置にいるライナルトにすぐに気がついたらしい。眉を顰めながら、じっとライナルトのことを見てくる。


 ちょうどいいか、とライナルトは腰を上げ、ゆっくりと彼女の元へと歩み寄った。


「誰」


 綺麗な顔を顰めながら、女性は近づいてくるライナルトを睨んだ。

 睨まれているけれど…彼女の紫色の瞳があまりに綺麗だったので、ライナルトは暫く魅入ってしまった。目の前の紫の瞳が更にきつく細められ、ライナルトは我に返った。


「シャレル・フェイルさんと、エルフィード・フェイルさんに用があって参りました」


 恭しく右手を胸に当て、一つ礼をする。

 それでも、彼女の瞳は緩まない。


「…だから、あなた誰」

「…王城からの使いで」

「名前は?名乗れないの?」


 真っ直ぐに厳しい視線を向けてくる彼女に、ライナルトは何だか不思議な気持ちになった。貴族の女性たちは、顔に貼り付けたような微笑と共に、皆一様にちらちらと俯き加減でこちらを見てくる。それが鬱陶しいことこの上無い。常々ライナルトは思っていた。

 言いたいことがあれば、言えば良いだろう。こちらの言葉を待ってちらちら見てくるなんて、本当に女は面倒だ。

 そう思っていたライナルトにとって、この女性の反応は新鮮だった。


「ライナルト」

「…ライナルト、何?」

「…それは」

「言えないの?ちゃんと名乗れないような人を父や母に会わせるなんてイヤよ」


 気が強い女性だ。


 ライナルトを王子と知った後も、この女性はこの態度を崩さないのだろうか。

 本当は…今ここで身分を明かすのは賢明では無い。それでも、目の前の女性がどういう反応を見せるのか…ライナルトはそれが気になった。


「ライナルト・ラベルト。この国の第一王子だ。証拠に、これ」


 ラベルト王家の紋章が入った剣を見せ、ライナルトは目の前の女性の反応を覗った。

普 通なら、跪くとか、失礼しました、と慌てて詫びるだろう、と。


「…王子様が何の用かしら?」


 彼女は普通では無いらしい。


 表情を変えず、相変わらず厳しい視線をライナルトに向けてくる。


 さすがは父が思いを寄せた女性の娘だ。

 ライナルトは彼女の反応が楽しくて、話を進めた。


 本当なら、娘である彼女よりも先に、彼女の両親に伝えるべきことだろう。それでも、彼女がどんな反応を返すのかが気になって仕方が無かった。



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