ついに完成! 必殺魔球!
「内須先輩、ナイスゥー!」
マウンドに立った僕は、相手チームの打者と対峙している。
エースで4番の僕は、親譲りの無鉄砲でちぃさんな頃から散歩ばかりしている。
「おい、ガイ! 自己紹介はいいから早く投げてくれ!」
あそこでキャッチャーミットを構えながら怒鳴っている奴は、僕の女房の内藤 冥惡だ。
「どうでもいいが、お前と結婚した覚えはない! 内須 凱」
僕の心を読んで、メアが半分怒りながら、もう半分も怒りながらマウンドにやってきた。
「そうさ、私は怒っている。怒りと怒りの50/50(フィフティフィフティ)で、あっまーいー罠!ナァナァァ……」
「メア、まあそう言うなって! お前がいるってことは、これは夢なんだろ?」
「当たり前だ! 夢じゃなかったら、ガイがエースで4番なんてあり得ない!」
「まあ、女の子のメアがキャッチャーっていうのも、あまりあり得ない気もするけど」
「ブツブツ言ってないで、さっさと魔球を投げろ!」
魔球だと?
よし! 投げられるか試してみよう。
「さあ内須くん、来たまへ!」
すっかり忘れてたけど、バッターがいたんだった。
「いくぞ! 近藤!」
「望む所だ! 内須くん!」
「コンドーむかってこい!」
「お前は思春期か! っていうか向かってくるのは、お・ま・え♡」
こいつその他大勢のくせに、個性派だな……。
お! なんか顔がぼんやり見えてきた。
あっ! モブで間違いない。水木○げる先生が書く、その他大勢の人の顔だ!
とりあえず魔球は置いといて、思いっきりストレートを投げるか!
「ちょ! 私がキャッチャーなんだから無茶は……うわ!」
ドーン!
やっぱりな。
僕の球を受けたメアが何メートルも後ろにずりさがり、その後ろにいた審判にぶつかりバックネットまで飛んでいった。
「内須くん! すごい魔球じゃないか! 俺は今、モーレツに感動している!」
近藤は自分の心情を説明しながら、眼の奥で炎を燃やしている! 顔は相変わらずモブだけど。
それにこれは魔球ではない! 次は魔球を投げて近藤をちょっと脅かしてやるか。
ズサーッ!
左足を天に向かって垂直に上げる。
そして、右手を思いっきり振り抜き、球を投げると見せかけ、左腕の脇の下経由で前方へぴょろっとボールを飛ばす!
「これぞ魔球、一人時間差だ!」
夢だから、ボークはないだろう!
「なんっ! だとぉ?」
意表を突かれた近藤は空振りついでに、バレリーナよろしくクルクル回った。
ふふふ。
「え?」
近藤が七回転目を回る時に、球がバットに当たった!
カッキーン!
見事バットの芯に当たったボールはそのまま一直線に場外へ?
空高く飛んだボールが見えなくなり、その後、その辺りがキラリと光った。
あれって、球が大気圏に突入して燃えたってこと?
「内須先輩、ドンマーイ」
「大丈夫だ! 野球はツーアウトからってよく言うだろ!」
「ガイ……。残念ながら、それはビハインドを負っている攻撃側の、島国根性を鼓舞するための言葉だ。それにまだノーアウト」
「そうだったのか! メアって博識だな」
「まあな。それより次のバッターには気をつけろよ!」
お! バッターボックスに次の打者が!
「内須くん! 今日こそ勝負つけるばってん、よろしゅうおま」
や! 今度はモブっぽいけどモブじゃない!
けっこう太ってて、三角形の眼鏡をかけていて、ほっぺたが真っ赤だ!
中ボスと言ったところか……。
「お、お前は!?」
こう言えば、向こうから名乗ってくるばず。
「そうどす! おいどんは内須くんの永遠の恋敵、右門 凶作でおま! 勝負じゃけぇ」
「右門お前……」
「なまらなんどすえ?」
「まあ、いい。勝負だ!」
どこの出身だって聞いたら、負けな気がした。
「ガイ! 余計なやり取りで文字数を稼ぐのはやめてくれ! さっさと魔球を投げろ!」
「わかった! じゃあ球が分身する魔球を投げるぞ!」
僕は球をぎゅっと握った。
すると硬式のボールがぐにゃっと潰れた。
軽く投げると、球は案の定分身した。
さっくりと二つ空振りをさせると、右門の目つきが変わった。
「見切ったでごわす! 次こそ、打っちゃうのら~!」
右門はバット無双と言わんばかりに、バットを振り回しまくった。
僕は構わず分身魔球を投げた。
右門のバットはボールを捕らえることなく風を切った。
「ボールはいっぱいだわ、バットはビュンビュンだわで、キャッチできるわけがない!」
メアはボールがマウンドからバッターボックスに届くまでの一瞬で、信じられないほど説明的なセリフを言っている。
ボールは最終的に一つになり、メアのマスクめがけて飛んでいった。
「い、今ひとつに……ぐはっ!」
ボールがメアのマスクを弾いた。
メアはもんどり打って倒れ、ボールはバックネットに向けて転がっていった。
その様子を見て、右門が走り出した。振り逃げだ!
誰かボールを取りにいけ!
周りの内野手に目をやると、全員モブの顔をしていた。
しかも野球ゲームみたいに、皆ピッタリと各々のベースを守っている。
「くそ! 僕が行くしかない!」
猛ダッシュでボールに向かっていくが、なぜか足がぬかるみにはまったみたいに重たい。
夢ってたまに、全然走れないよね。
なんとかボールの所まで辿り着くと、右門はすでに三塁ベースを蹴っていた。
あんだけ太った奴が振り逃げランニングホームラン狙うって、どれだけグズグズしてたんだ僕は!
キャッチャーのメアはまだ倒れている。
僕はクロスプレイ覚悟でホームに走った。
うおー! この巨体! たぶん飛ばされる!
ぶつかるぞー!!
ビクン!
「うぇわぁーーーー!」
僕は自分の声にビックリして目が覚めた。
いま見てたのは、悪夢だったっていうのは寝汗の量でわかるんだけど、どんな夢だったのかは全く覚えていない。
僕の名前は菅井 南偉。
よく友人から「英語風に言うと“ナイスガイ”だね」とからかわれるけど、これといった特技もない、至極普通の男だ。