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三題話 パプリカ、猫、双子の妹

作者: 一塚 樹

唐突だが俺は高校生であり今は昼休みのはずだ。


「ぐあっ!」

「お、おい。大丈夫か!?」


男が胸を抑え倒れこむ。口からは赤いものが出ている。

何なんだこの状況は…どうなってんだ?


「俺はもうダメだ、置いていけ。」

「バカやろう!待ってる人がいるんだろ!」


諦めたように言う男を仲間と思われる奴が必死に励ましている。だが男はもはや立ち上がることもできないようで、ぐったりと倒れこんでいるだけだ。


「そう…だったな。これを、あいつに渡してくれ。それとごめんって伝えてくれ。」


ポケットから何かを取り出し仲間に手渡す。だが仲間は受け取ろうとしない。


「馬鹿言ってんじゃねぇ!自分の手で渡すんだ!」

「自分の事は俺がよくわかってんだよ。だからこれを…」


無理やりそれを渡すと満足そうに笑い、男は目を閉じて動かなくなる。仲間はそれを地面に下ろし、受け取ったものを強く握り締める。


「俺がもっとしっかりしていれば…」


悔むように呟くその男の頬には一筋の涙が伝っていた。


「俺は俺にできることをやるしかない。今俺ができること…戦うだけだ。それしか無い。そして約束を果たす!」


ふっきれるように言い放ち、立ち上がる。すでに涙は乾いていた。


「なにやってんだおまえら。」


いい加減その茶番に耐えきれずそいつの頭を叩く。


「お前はっ…来てくれたのか!?」

「いや、言ってる意味がわかんねーよ。」


そいつは両手を広げて俺のほうに近づいてくる。うざったいのでとりあえず蹴り飛ばしておく。


「何をするんだ!」

「むしろお前らが何をしてるんだ。」

「そうか、気付いてたか。俺のせいであいつは死んじまった…」


バツが悪そうに俺にそう言う。

いまだにこの訳のわからない茶番を続けようとしているようだ。いいだろう、その態度をまだ続けるというのならそれなりの覚悟はあるわけだ。


「けど!今生き残るために力を貸してくれ!俺だけじゃこの状況を切り抜けるのは無理だ。後でいくらでも罵倒してくれていい。殴ってくれていい。だから、今だけは力を貸してくれ。」


顔を上げそんなことを言う。俺はニコニコと笑っていた。なぜなら今ここにいるのは俺だけではなく双子の妹、麗奈と鈴奈がいる。双子の美人ということもあって学校ではかなりの人気を誇り、知らないものはいないほどである。


「え?」


呆けた声が聞こえる。それを聞いて遠くに転がっている奴もピクリと反応を示す。


「どうした?さぁ続けてくれよ楽しい劇をさ。」


口の端を釣り上げ極悪人のような顔で俺はそいつらに極刑を言い渡す。


「いやーその…」


男は口ごもり視線をキョロキョロさ迷わせている。

俺の横で麗奈はニコニコと笑っている。鈴奈はやれやれといった様子の表情だ。


「どうした?早くやれよ。二人だって気になるよな。」


二人のほうを向き問いかける。


「そうですね。続けてくださいよ。」

「兄さんそれくらいにしてあげましょう。」


麗奈は同意し、鈴奈は止めに入る。

もうすこしやってやるつもりだったが、鈴奈がそう言うのならやめておくか。


「相変わらず優しいな鈴奈は。」


そう言って鈴奈の頭をなでてやると、もう子供じゃないんだからやめてください。と言って顔を赤くして俺の手を振り払う。それが可愛らしくて思わず笑みがこぼれる。


「な、なに笑ってるんですか!」

「あ、ずるい。兄さん私にも。」

「いや、鈴奈なが可愛くてな。」


なに言ってるんですか兄さんは!と言ってそっぽを向いてしまう麗奈。やれやれと肩をすくめると、麗奈の頭をなでてやる。嬉しそうに目を細めている。


「おい、そこのパプリカ口から出して倒れてるやつもとっとと起きろ。」


まるでゾンビのようにゆらりと立ち上がる。その目には涙が光っていた。

まぁ学校で一番可愛くて人気って言ってもいい二人にみられたんだしな。その気持ちはわからなくもないけど、自業自得だ。


「お前二人を連れてくるなら先に言えよ。」


今にも死にそうな声で俺に訴えてくる。

ちなみに先に気付いた奴はすでにどこか消えて行った。かなりのダメージだったらしい。


「どう考えてもお前が悪い。」

「うるせぇ!このシスコンが!!!」

「なんだと!?シスコンのなにが悪い!!」

「そうです!兄さんがシスコンなのは悪くありません!」

「お前に俺の気持ちがわかるか!」

「わからねぇし、わかりたくもねぇ!」


麗奈も参戦し、俺らが騒いでいると鈴奈に時間なくなっちゃいますよ。早くお昼食べましょう。と言われようやく止まる。


「ふぅ。まったく、いつもいつも何やってるんですか。」

「いつもと言われるほどやってるつもりはないんだけどな。」


パプリカ咥えて死体役をやっていたあいつは、おさまるとすぐに教室に戻って行った。そして今は3人でお昼を食べている。


「あ、猫だー。まてー。」


いや、違ったお昼を食べているのは俺と鈴奈だけだ。麗奈はどこから来たかわからない猫と追いかけっこをしていた。


「麗奈はいつも楽しそうだな。」

「いつも好き勝手な行動をするのはやめてほしいんですけどね。」


ため息混じりに言う鈴奈。確かにあいつは思ったままに行動するからな。面倒見なければいけない鈴奈は大変だろう。


「兄さんもですよ。」


そう言われてしまって俺は苦笑する。


「気をつけるよ。」

「はい。」

「兄さーん。すずなー。みてみて、ねこー。」


だいぶ遠くのほうから麗奈の声が聞こえてくる。あいつどこまで行ってるんだ。というか猫をよく捕まえられたな。


「麗奈、そろそろ戻るぞー。」

「はーい。」

「猫は置いて行けよ。」


捕まえた猫をそのまま連れてくることは予想できたので、先に言っておく。


「うー。」

「すねんなって。なでてやるから。」

「うん!」


麗奈は猫を投げ捨てるとものすごい勢いで走ってくる。

おいおい、このまま突っ込んでくるのか。それはあぶねぇぞ。


「兄さん。がんばってください。」

「鈴奈、お前こうなるのわかってて言わなかったろ。」


フフフと不敵な笑みを浮かべる鈴奈。そして目の前から迫ってくる麗奈。俺は覚悟を決めて衝撃に耐えるための体性を取る。


「にーいさーん」


言うと同時に飛び込んでくる。身体に走る衝撃。甘く見ていた。小柄な麗奈だったらどうにかなるんじゃないかと…

俺は麗奈に押し倒されるようにして地面に倒れこむ。


「なでてなでて。」

「はいはい。」


そのままの体勢で催促する麗奈を約束通りなでてやる。


「二人ともそれくらいにしていきますよ。」

「はーい!」


起き上がって麗奈が元気よく返事をし、俺は無言で鈴奈について行く。






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