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幽荘物語  作者: かずや


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見えてきた真実と追憶


 狐音とバルコニーで語らい一夜明け。

 縁は朝から幽荘前で軽いストレッチをしながら考えていた。幽荘と住人の事が知れた夜、狐音が見て経験してきた歴史。

 とても軽いものでは無かった。

 現実の歴史に非現実な存在が混じり合う幽荘、今そこの管理人をしている。縁はプレッシャーも感じている。

 狐音の想いと今を繋いだ関わりある人々が、より近くに感じるのだ。


「肩の力を抜いてくださいませ、管理人さん」

 後頭部の側から声がする。

 二階から見ていたのであろうユウメが微笑んでいる。

「ユウメさん、おはようございます」

「うふふ、ねえ管理人さん?お散歩しましょ!」

 二階から降りて挨拶もそこそこにユウメは腕を組み、散歩をせがむ。

「わ、わかりましたから離して……」

「あら、お嫌いですか?」

「いや、その、当たってますから」

「私は気にしませんことよ〜さあお散歩行きましょう〜」

 強引にユウメが引っ張るので大人しく受け入れる事にした。


「ユウメさん……あなたは神様?なんですか?」

 昨夜に狐音から聞いた事をそのまま投げた。

「……そうですね、正確には幽荘の化身であり狐音姐さんの使徒と言ったところですわね」

「ハーフって言うのはそう言う意味だったんですね」

「そうです、幽荘の素材はフランスから取り寄せた資材。だから狐音姐さんと合わせてハーフとなりますの」

 縁は合点がいった、幽荘に来た初期にフランスと日本のハーフだと自己紹介されていたのだ。

 間違いではない、何も人(・)の(・)ハ(・)ー(・)フ(・)とは言ってなかったのだから。

「私は幽荘を司る身として生まれ、見てきましたからね、その最中管理人さんを驚かしちゃいましたけど……」

「引っ越した日に見えた顔や、時折見えた目で見てたんですね」

「あら、受け入れてましたか。申し訳ありません驚かして」

 あの時は倒れたり気絶するほど驚いた、だが縁がどんな人物かを見定めていたのだろう。

「ユウメさんも人が悪い」

「えへへ、ごめんなさい〜。でも素敵でしたわよ管理人さんとして成長するお姿」

 この様子なら気付かない所で定期的に見られていたのだろう、少し恥ずかしさが込み上げる。

 ユウメは差し掛かった小川に足を付け言う。

「私は幽荘そのものであるからこそ皆を気に掛けて居ました、お仕事は狐音姐さんの指示で狐子姐さんよりも更に外を見る使命を負っています」

「更に外……?」

「海外ですね、私は何処にいても幽荘の事は大体把握出来ます。言わば身体の一部ですから」

「それがユウメさんの力になるんですね」

 狐音の生み出した狐子は国内を、ユウメは海外を見て世の中の流れを掴んでいるんだろう。

「私は今の幽荘始まりの一人として誇らしいと思っています、時代が変わって変化が起きた。子供達は歴史を深く知らずとも前を向いていける時代なのですから」

 これまでに関わった人の中で色々あったのだろう、それでも今平和の中で夢や目標を持つ若者がいる。

 人一倍孤児に対する想いが深いユウメも前を向いたのか、表情はさっぱりしている。


「皆様と是非お話して下さい、いまの管理人さん……縁さんなら大丈夫」

 そう言って笑い、川から上がり幽荘へと帰っていった。

 ふと横を見ればスズメの菜園がある、丁度手入れを行なっているのが見え近くに行く。

「あら?おはようございます縁さん、昨夜はお疲れ様でした。頭パンクしてませんか?」

 口ぶり的に昨夜の狐音との話を聞いていたのだろう、流れでスズメにもストレートにぶつけてみた。

「スズメさんは神様なんですね」

「……うふふ、とは言え何も凄い力はありませんよ」

 自然と鳥を司る神、スズメ。

 少なくとも六十年近く前の初代管理人タカに仕込まれた技術で生活をしている、見た目の変化も無いのだろう。

「私が自然の神だから特別に何かされた事はありません、自然はそこにある風景ですからね」

「タカさんもその様子じゃ人間視点での教えをしただけって感じですね」

「正解です〜タカさんが管理人としとて幽荘を軸に、人と神を初めに繋いだのです」

 幽荘本格的な始まりはタカとスズメの関係からだった、縁から見れば一番の見本だろう。

 師弟関係のように今でも慕われ可愛がられ、素晴らしいと思える。

「縁さん、皆共お話してあげて下さい。昨夜の事で話したくなった事あるでしょう?」

「……ええ、ありがとうございます」

「ちなみに、私は縁さんに対して信頼をしています。ありがとうございます来てくれて」

 ニコリと笑うスズメが可愛い、少し照れながら縁は菜園を後にした。


 幽荘に戻り一旦部屋に帰ろうかとした時だった。

 ガチャっと一〇二号室が空きヘビメとネコメが揃って出てきた。

「あれ?二人でどうしたの?」

「縁……デッサンするわよ」

「え?」

「一緒にやろうお兄ちゃん」

 ヘビメとネコメにせがまれる、いきなりデッサンとは……?

「安心しなさい服は着ていい」

「ヘビメちゃんがどうしても描きたいんだって」

「いやまあそれなら……」

 拒否権等無い、そんな圧をヘビメから感じる。

 ネコメもなにかウキウキしているし断れないだろう。

「わかりました、でもどこで?」

「バルコニーに行きましょう、二人が座ってる姿を描きたいの」

 既に画材を持っているヘビメは向かい出している、ネコメも着いていく。

 話も出来るし良い機会だと追いかけようとした際に離れた所から狐音、ユウメ、スズメが三人揃い微笑んでいるのに気付き会釈しておいた。


 縁はネコメと手を繋いで板の間に並んで座り、バルコニーから見える自然の景色を見ていた。

 細かくそのポーズでとヘビメの指示だ。

「お兄ちゃん手おっきいね」

 無自覚なネコメの可愛さに顔が綻ぶ、そんな二人の後ろ姿を切り取るようにヘビメが背後で筆を動かす音が聞こえる。

「多少動いても話してても良いわよ、雰囲気を描きたいだけだから」

 今回のデッサンは割と緩い、前回は半裸で様々なポーズ固定だった分楽である。

「ネコメちゃんは……ここの管理人やりたいんだよね?」

「うん、孤児の子を受け入れて送り出せるようになりたい」

「そっか……俺も早くここを卒業?大学入学?してバトンタッチ出来るようにしないとな」

「それは寂しいけどお兄ちゃんの後は任せて」

 早くも次世代に繋げそうで少し安心するが、縁自身浪人から抜けなければいつまでも幽荘にお世話になる。それは甘えちゃいけないところだ。

「……ネコメちゃん」

「なぁに?」

「ネコメちゃんは狐音さんから神様の事とか聞いているの?」

「うん、ここに来た時に言われたよ。私は猫に由来する血筋なんだって、でももう人に限りなく近いみたい」

「そうなんだ……」

 幽荘で一番若いネコメも、やはり神の系譜であり資格があったから幽荘に来たと推測出来た。

 本来ならまだ孤児院に居てもおかしく無い容姿、孤児院院長のリュウメが何かを感じたネコメ……おそらく同じようにユウメが感じた孤児院の男の子トラメもじゃないかと、縁は外を見ながらぼんやりと思っていた。

「何で俺はここに来れたんだろうね?」

「優しいからだよ」

 ネコメは純粋にそう思っている様で、優しいと答えてくれる。

 答えにはなってないのだが、それで良いと縁は笑う。


「ちょっと大きく動いちゃダメよ」

 縁とネコメの後ろで二人を描くヘビメから注意される。

「すいません……」

「全く、でも良い雰囲気よお二人さん。景色も良くて文字通り絵になるわ」

 アーティストモードのヘビメがさらりと称賛してくれる、きっと良い絵が描けてるのだろう。

「……ヘビメさんは」

「何?」

「自分が神の系譜っていつ知ったんですか?」

 ヘビメの父ジャノメはかつて蛇神として恐れられた神らしい、そんな神も時代の流れと人間の勢いに押されてしまった。

「物心付いた頃から言われてたわよ、パパもだけどママからもね」

「ヘビメさんのお母さん……そう言えば世界飛び回る画家って言ってましたが、お母さんも幽導村か幽荘かの出身で?」

「いいえ違うわ、戦後の日本は締め付けから自由に転換した事で富を持つ者と持たない者の二極化したの」

「あぁ、話に聞いた事あるような。軍将校と成金と物乞いの話だったかな?」

「当時は芸術よりも食糧優先だったようね、だからママは押さえつけられていた」

「そうか、敵国の文化を規制してたんだ……」

 戦争中は非国民と呼ばれ、敗戦して自由かと思えば生き延びるので精一杯。

 頭の回る者がお金を上手く稼ぎ成金と呼ばれて、以降の高度経済成長の民間企業の先頭でスタートしていく。

「ママの一族は上手くやれた側だった、復興が落ち着いたときにママは単身全てを捨てて絵画に没頭したのよ。それまで押さえつけられたモノを解き放つように、日本中を周ったって」

「その周る過程でここに来たんですね?」

「そうよ、パパとはその時に出会った……と言うか食べられそうになったらしいわ」

 縁は目が点になった、横で静かに聞いているネコメも口が空いている。

「食べら……え?」

「アンタ達からすれば怖い話だけど、パパからすれば蛇神と言われた暴れ神よ?当時はそれだけ人も動物も神も生きるのに必死な層が居たの」

 何故そんな状況からヘビメが産まれるまでに至ったのだろう。

「ママはパパを張り倒して絵を描かせろと裸にしたらしいわね」

 あのジャノメを張り倒して……裸にひん剥く、ヘビメの母も神なのか……?

「パパは想定外の勢いと絵画に向ける眼に負けたって言ってたわね、それで惚れたから口説いたんだって」

「それで上手くいったと……」

「条件出したらしいわ、人を食わない事と人と共生し大人になればと。当時は子供の姿って言ってたからね、そして共生を学ぶ為幽荘にパパは行き着いたの」

 まさか、ジャノメが幽荘に来た理由はそんな事だったとは……

「お兄ちゃん、ジャノメさん凄いね。好きな人の為に変わったんだよ」

 ネコメはキラキラと感動している、恋バナ的なのに興味あるんだろうか?

「じゃあここで少し成長してからお母さんに再アタックされたんですね」

「執念よ、その時には日本のどこかに居たらしいのを見つけ出してプロポーズしに行ったんだから」

「あの、ヘビメさんのお母さんも神様的な?」

「違うわ、純粋な人間よ。こないだ送ってきた写真がコレよ」

 ヘビメは縁とネコメの前に座り直しスマホの画像を見せる。

 そこにはヘビメのキリッとした目がそっくりで、でもどこか全体が柔らかな雰囲気で笑う老(・)婆(・)の姿があった。

「え?この方がヘビメさんの……お母さん?」

「人間は人間の速度で老いていくわ、神に近ければ近いほど老いは遅くなる。狐音なんか千年以上生きてるのよ?不思議じゃないわ」

 比較する対象がおかしいが、深く歴史や人達の話を聞いてきた縁は納得するしかなかった。

 ここで縁は疑問が生まれた、ヘビメは見た目縁と同年代の大学生かもう少し下くらいに見える。ヘビメは何歳なんだと思った。

「あの、ヘビメさんって何歳ですか……?」

「アンタ女に聞くのは怒られるわよ、全くアタシはもう三十五になるわよ。言っとくけど私達の基準なら赤ちゃんよ」

 縁は瞳孔を開かせ驚いた、まさか一回りも違うとは……

「……ママは人間、パパは神だからどんなに抗っても差が生まれ先にママが逝く事になるわ。でもアタシもパパも受け入れている、だから精一杯好きな事をやって欲しい……って言ったら世界に出ちゃったけどね。死んでもすぐわかんないわよ」

 ヘビメ親子の覚悟が伝わる、縁は感動していた。

 横のネコメは泣いていて、ヘビメに涙を拭いてもらってる。

「さ、もう描けてるわよ。ご覧なさい」

 ヘビメがイーゼルを返し二人に絵を見せる。

 夏の日、兄妹が仲良く手を繋ぎ素敵なウッドデッキから目の前の自然を眺めている。素人にもわかるせんさいで複雑な色の数と配置、何より絵が放つ爽やかなオーラが縁とネコメの心を奪う。

「わぁ……凄いねお兄ちゃん」

「うん……魅入っちゃうよね」

「アンタ達の雰囲気が上手く出たわ、これコンクールに出しても良いかもね」

 ネコメとの雰囲気がこんな風に見えるのかと恥ずかしい、しかしコンクールに出すか否かを考えるヘビメからすれば会心の出来だろう。

「是非出してみてください」

「ヘビメちゃん、私からもお願い。だって凄い素敵」

 ヘビメはお願いされた二人に目を丸くしているが、息を吐き笑った。

「モデルから了承得れたなら出すしかないわね」

 三人は笑い合い、デッサンは終わりを迎えた。


 ——チャプン

 縁は温泉に浸かりながら幽荘についてを考える。

 鎮魂祭で目の当たりにした、この地域と人々への想い。

 幽荘に関わってきた人々の話。

 そして狐音から明かされた神と人との始まったばかりの共生時代。

 様々な事が昨日今日で詰め込まれパンクしそうだ。

 その中で、縁は未だ何も聞けてない両親に話をするべきだなと決めていた。


 ——女湯

「狐音姐さん……」

「うむ、後は縁が向き合い聞き出す事じゃ。」

「そうですわね……」

「縁が変わったのか否かを判断される時期じゃ、ここに居れるのも後少し。その約束の下で縁を受け入れたのじゃからの」

 狐音とその一部、ユウメは二人夜空を見上げていた。



 盆の始まりに幽荘関係者を挙げて執り行われた鎮魂祭から、早くも一週間が経った。

 その間は静かに流れ、トラブルも無く気付けば八月の終わりが見えていた。


「……っし、こんなとこかな」

 縁は荷造りをしていた、衣服や勉強の参考書。

「……お主、本当に出るのじゃな」

「狐音さん……深刻そうな芝居しないで下さい。一週間くらい実家帰るだけでしょ……」


 縁は盆に帰らなかった分、ずらして実家に帰るだけだった。

 荷物が多く見えるのも、単純に夏物服と秋物服を入れ替える為に出来るだけ詰めているのだ。

「全く……僕居ないからって毎日飲みすぎないで下さいよ?」

「わかっとるわかっとる、しかし暇になるのう。儂もどっか出掛けてみようかの」

 割と毎日暇そうにしてるから変わらないのでは?

 と、縁は思ったが言わないでおく。

「まあとにかく、隆二と里子によろしくな。どうせ色々聞くつもりじゃろう?」

 幽荘に派遣される形で縁は家を追い出され、そしてこの夏色々な体験をした。

 それは現代では考えられない不思議な事も。

 二十歳のニート(浪人、受験の意思有り)を両親がついに叩き出したのかと、始まりはそう思っていた。

 しかし、はっきりとした目的は見えないが何かの意図があるように今は感じる。

 縁を幽荘の、特に狐音とその住人に出会わせた目的があるはず。それを聞かねばならない。

「まあ、親父達も幽荘と幽導村に何か思う事があるんでしょう。嘘吐いてまで出身を息子に隠してるぐらいだし。」

「うむ、これは儂から言える事じゃないからの。気を付けてな」

「はい、じゃ行ってきます」

 縁はスニーカーの紐を締め荷物を持ち外に出た。

「お兄ちゃんー」

 下から声がする、見ればネコメ、ユウメ、ヘビメ、スズメと皆揃って見送りに出ている。

「いや、最後の別れみたいな……俺、実家にちょっと帰るだけだぞ?」

 苦笑しながら皆に挨拶をして軽トラに乗り込む。

 (でも三時間くらいかかるんだよなぁ)

 縁は総出の見送りに笑いながら、帰り道の運転に辟易しながら車を動かした。


 幽荘を出て景色が変わっていく、山の中から街に入り高速に乗って都会の風景と。

 土の香りが薄くなりアスファルトの熱と色が久しい。

 自然に囲まれていた一夏、街に出る事はあったが頻繁にでは無い。

 幽荘に来る時は真逆の移り変わりに不安があった、しかし今は自然からコンクリの都会に向かう事に不安感がある。

 環境とは馴染む程に一部となる。

 縁は少し不思議な感覚でいた。


 高速のサービスエリアに寄り休憩を挟む、サービスエリア公共の液晶が有りニュースが流れている。

 世界初の細胞発見!医療分野に革新!日本人初のスポーツタイトル受賞!続く異常気象に注意!

 僅か数分で様々な情報が脳に押し寄せてくる、まるで時間が早まったような気がする。

 (時間が早まったのか、ゆっくりな世界に居たのか)

 どちらにも取れる感覚を縁は感じながら休憩を終え、軽トラに戻った。

 高速を降り見知った土地まで帰ってきた、数ヶ月ぶりでも変わらないかと思いきや変化はある。

 角にあった本屋は潰れて更地に、道途中にあったコンビニがピザ屋に変わってたり、いつの間にか時間貸しパーキングになっている何かの跡地。

 夏の始まりに地元を出て、夏の終わりに帰る。

 それだけの短い時間で変化が多い。

 幽荘に居たから備わったのか、縁は自身の感覚がうるさい程に冴えてるのを感じる。

「山の風と土の匂いだったもんな……」

 少しばかり長い運転の終わり、縁は実家へと帰ってきた。

 軽トラを停め、庭先の飼い犬を撫で撫でしてから荷物を抱えて家に入る。

「ただいま」

 軽トラの音に反応して両親はスタンバイしていた

 二人して大きな声で「おかえり!」と、待っていたと言わんばかりにテンションが高い。

「なんでそんな元気なんだよ……ただいま」

「うん、縁よく帰ったな。……色々聞きたい事はあるだろうが荷物置いてこいよ」

「まー身体がっしりして日焼けしてカッコよくなったんじゃない?」

 両親があれやこれや騒がしい、昔からバタバタしてる印象の二人だ。

 

「縁」

 父が名を呼ぶ。

「ん?」

「大きくなったな」

「……まあな」

「荷物置いたら早速話そう」

「ああ」

 縁は二階の自室に荷物を置きに行った。


 縁の父隆二(りゅうじ)と母里子(さとこ)はリビングで話すスペースを整えていた。

 縁が小さな頃から、大事な話をする時は場が準備される。

 テーブルに茶とお菓子が出て、準備が出来たらスタートだ。

「さて……なーにから聞くか……」

 今回、色々隠してわからないまま幽荘に放り込まれた縁だ。場の格で言えば上になるだろう。

「じゃあ温まるまで俺から聞かせてもらおうかな、狐音さんは元気だったか?」

「ああ、おそらく父さん達の頃から変わってないだろうな、その変わらない理由も知ったさ」

「そうよねぇ、ユウメさんやスズメさんは?」

「二人も同じさ、あぁ二人共ジャノメさんリュウメさんと幼馴染なんだって?四人で遊んでたらしいじゃん」

 息子に自分達の子供の頃を、知られて明らかに恥ずかしさを見せる両親に笑う。

「ぐぬ、まさかアイツらまで会うとは……元気だったか?」

「ジャノメさんは親方として、リュウメさんは孤児院院長として、俺から見てだけど凄い方々だよ」

「ジャノ、リュウ……夢叶えたんだね……」

 里子は涙ぐんでいる。

 隆二は更に聞いてくる「狐子とタカは?」と。

「もちろん会ったさ、そして色々教わったし鎮魂祭も済ませた」

「何?鎮魂祭まで出れたのかお前!!」

 隆二はオーバーに驚く。

「あれは幽荘で一番大事な儀式、縁よ認められたんだな……」

 隆二まで涙目だ。

 (参ったな、俺が聞ける流れじゃねぇ)

 縁は両親の反応に押されているが、一番の肝を捩じ込んだ。


「父さん、母さん、何故俺を幽荘に送ったんだい?」


 二人はピタリと止まる、あわよくば後回しにしようかとしてたのかもしれないが逃さない。

「……強くなったな縁は」

「ねぇ本当、隆二さんに似たのかしら」

「ははは、里子の教育のおかげだよ」

「まあ……照れちゃうわ〜」


「いや、惚気てないで答えろよ……」

 違う世界に入りやすい両親を引き摺り出し、前を向かせた。

「……ふっ、お前を送った理由の前に聞いとかなきゃいけないんじゃないか?」

「……そうだな、父さん達は何故駆け落ちして出身まで偽っていたんだ」

 両親が小さな頃から過ごした幽導村から駆け落ちした事、これが始まりだと思ってはいた。

 それが無ければ、縁は生まれから幽導村の民だったはず。

 

「少し長くなるが聞いてくれ、縁——」

 父は表情を変え静かに語り出した……


 ——四十年前、幽導村

 昭和後期には現代における「人の暮らしをサポートする機器」の原型は出揃ってきていた。

 時代もバブル全盛期に向かい好景気はいつまでもいつまでも側にあると思われていた。

 それは、それまでの先人が積み上げた土台だったが土台にも強度がある。

 乗り過ぎれば潰れる、確認を怠ればヒビに気付かない。

 それだけ国内は浮かれていた頃の幽導村では、遂に隆二と里子しか若いとされる人間は居なかった。

 田舎の者はこぞって都会に寄り、気合いと根性で稼ぐ。

 だが隆二と里子はそれを選ばなかった。

 幽荘も世の中の流れは見ていたが、波に乗らず観察していたような状態だった。

テレビを見ながら遊びに来ていた子供らに狐音は聞いた、「おぬしら夢はあるのか?」

 隆二、里子、ジャノメ、リュウメ、この四人はこの時十代前半。厳密に言えば隆二と里子だけなのだが幽導村の悪ガキ四天王等と言われていた。

「俺は大工職人になってここ、幽荘みたいに人を拾うぞ!」

 ジャノメは力強く宣言する。

「ふむ、なら勉強せねばのう」

「ぐっ!……」


「私は孤児院の仕事に就きたいな、大変とは聞くけど使命だと思ってるから……」

「リュウメは偉いが、自己犠牲だけでは救えん。力と知恵をつけるんじゃぞ」


「俺達は……」

「……村を作り直したいの」

 狐音は目を見開く。

「お主ら……じゃが残酷ながらお主達で最後になろう、悔いる前に若い間で街に出て……」

「狐音さんもどうして俺達をここから出そうとするんだよ!」

「隆二……」

 若き隆二、そして里子は滅ぶ村の運命に抗いたかった。

 それほどに生まれ育った、この村と幽荘が好きだったのだ。

 

「……お主らの気持ちは痛いほど伝わる、しかし誰が何をどのように何を用いてどのような形を作るか計画はあるか?人の世の中は更に金も要る、尚更外に出て稼ぎながら世界を見るべきじゃないか?」

「狐音さん……隆二は悔しいんだよ」

 里子は涙を溜めて言う。

「私も隆二も人間だから人間の時間の流れに任さなきゃいけないのはわかってる!でも……理屈じゃないの」

 

 狐音は言葉が出なかった、子供だからこそ力が足りない現実が目の前に迫り、拒否できない状況にされてしまう。「子供だから」の一言で。

 これが狐音やジャノメ、リュウメ、幽荘の住人は違ってくる。

 どうしても人ならざる者の力と命の特性で、力と時間がある分で人より余裕があるだろう。

 隆二と里子だけが苦しんでいた。

 しかし、何気なく聞いた夢の話にここまで入れ込んだ感情が狐音には理解出来ない。

 いつもの二人とは何か様子が違う。

 狐音は涙を流す二人を撫で、目線を合わせて聞いた。


「お主ら、家で何かあったのか?」

 二人は少しの間沈黙をする。

 ジャノメとリュウメも見守る。

 そして隆二が口を開いた。


「爺ちゃん婆ちゃんと父ちゃん母ちゃんが毎日言い合いしてるんだ、もう村を去ろうって」

「私も……」

 狐音は理解した、この田舎ではもう生きられないとこまで来ていると。

 街に移れば医療に教育に仕事、生活が格段に高水準になる、それは子供にとってはプラス。

 しかし年寄りからすれば長い年月住んだ地元の消滅を自らで行う行動、事実幽導村と名前はあるが隆二の家と里子の家しか残ってないのだ。

 移住する良いタイミングの好景気な世の中と、その一手が村の歴史を終わらせる。

 ここまでは大人の考えと都合。

 子供達は未来の夢がある。

 狐音も悩ましい問題であった。

「儂に決断は出来ん、見守ることしか出来ずにすまんの……」

 そう振り絞るのが精一杯だ。


「ジャノメもリュウメも時間があるよ、けど私達は短すぎる」

 里子は言う。

 子供の少ない村で半分は人外の者、子供ながらに感じ思春期に当たって自分の中にある違いが大きくなってしまったのだ。

 事実同じくらいで遊んでいた四人は兄弟と呼んでも差し支えない見た目の差が出ていた。

 人の老化と人外の老化は速度が違いすぎる。

 また、狐音含め幽荘の住人は若い身体で止める事もできる。

 人にブレーキは無い、ただ進むのみ。

「頭ではわかってるんだよ、でも生まれ育ったここを……時の流れって理由で幽荘の皆と離れていくのが嫌なんだ」

 隆二は悔しさを滲ます。


 そして狐音は口を開いた。

「儂も儂等人ならざる者と、人の差に悩んだ事はある」

 狐音は窓を見て思い出しながら語る。

「命の長さは違う、ただ儂らには無い人間の力もある。意思を繋ぎ子を繋ぎ……それはお主らの特権であり唯一の力じゃ」

 狐音の生きた時間で至った感情、人は繋ぐ生き物。

 栄枯盛衰した遥かな昔から人は爆発的繁栄をしたのだ、それは何度も代を重ねたから起こり得た事。

 人外の時を生きる者では起こせない。

「だから、村が消えたとてお主らの意思は途絶えん。むしろ儂らが語り継いでやるわい」

 悠久を生きる者だからこそ、今度は語り継ぐ側になれる。

 狐音は笑い隆二と里子を再び撫でた。

「儂はお主らよりこの村を知る、だが理解は出来ん。だから教えとくれ、お主らが何を成し何を残してくれたのかを」

「狐音さん……」

「ジャノメ、リュウメ……」

 隆二と里子は安心して任せ、生きろと言われた気がした。

 そして、兼ねてより二人で計画をしていた事を打ち明けた。


「俺達は……好き同士なんだ」

「私達の親も認めてくれている、でも法律上結婚はまだ出来ないの」

 未成年であるが故に尚もどかしい原因なのだろう。

 狐音達の感覚ではどうしても人の法には鈍くなる。

「え?ダメなの?」

 ジャノメが不思議そうに言う。

「ジャノちゃん、人間社会で生きるなら法律が必ず出てくるわ」

 リュウメは呆れながらもジャノメに説明する。

 人の科学力の進化に合わせて法律と言うルールも整備されていく。

 それもまた形を変え時代に合わせ……

 わかりやすいものから、わかりにくいものまで。

 

「だから、駆け落ちを考えている」

「両親達には心配をかけちゃうけど、今隆二と離されて街に出るなら……」


 二人はそこまで思い詰めたのかと、狐音は目を細めた。

 ジャノメとリュウメも話を止めて二人を見る、そしてジャノメが声を荒げる。

 

「そんな事してお前ら二人だけで生きれるのかよ!」

「わからない、けれど今を親に任せるよりマシだろ!」

 隆二も反論してしまう、リュウメは里子に問うてる。

「私達だけじゃ無い、幽荘の皆にタカさんや狐子さんも絶対に心配するわよ?一時の感情でなら応援出来ないわ」

「……皆が心配するのはわかるよ、それでも私達には限りがあるのよ」

 

 人ならざる者がいくら人に寄り添っても人にはならない、それは狐音達が痛い程わかる。

 二人は人間だ、人生の選択が重いが故に、また若さ故に振り切った選択肢が出るのだろう。

「やめい、四人共。考える事と言い争う事は違う」

 狐音は子供らを制した、未成熟な者から成熟する過程にある者達に理解は出来るが答えは出せない。

 隆二と里子が惹かれあい、人間同士である以上人外の者が人生に口を挟めない。

「隆二、里子、人としての悩み、若さ故の勢いと言うならもう少し考えよ。ジャノメ、リュウメ、儂ら人ならざる者は二人の人生の時間を決める事は出来ん、してはいけない存在なのを忘れるな。」

 四人は黙り、その場は解散となった。


 そして……数日後、隆二と里子は姿を消した。

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