檻の中の双子 ―病弱な弟の身代わりとして生きる双子の姉。依存と執着が絡み合う、二人きりの誕生日の夜―
※男女双子の近親恋愛描写を含みます。苦手な方はご注意お願いします。
豪奢な窓枠の外は、夜の帷が降りている。
屋敷のホールでは、今ごろ伯爵家の次期当主、つまり僕の誕生日パーティーが行われている筈だ。けれど、肝心の主役の僕はベッドの上。檻に囚われたように、ここから出ることは叶わない――否、出る気もない。
会場では『僕』がたくさんの祝いの言葉をもらっていることだろう。けれど、声は遠く、ここまでは届かない。
コンコン。
扉を叩く音。待ちわびた音に、ほんの少しだけ胸が高鳴った。
「どうぞ。鍵はかかってないよ」
声をかけるとすぐに扉が開いて、見慣れた顔が覗いた。
短いブロンドヘアに青い瞳。自分と鏡合わせの、寸分の狂いもない『僕』の顔。
ふわりと宴の名残を纏った香りが漂う。
「ハル、パーティーは終わったの?」
「ちょうど終わったとこ」
『僕』は、窮屈そうに首元を緩めた。
「いつも悪いね、次期当主の身代わりなんて」
「気にすんなって。俺は半分ヒカルなんだから」
にかっと明るく笑う『僕』。その中身がハル――僕の双子の姉であることを知っている人間は、ほんの僅かしかいない。
「そんなことよりヒカル、調子はどう? 新しいお医者様の薬は効いた?」
「んー……いつも通り、かな」
「そっか……」
ハルの顔が曇る。その優しさに甘えていることに、ほんの少しだけ胸がちくりと痛む。
ハルは昔からそうだ。
いつだって自分のことより、僕のことを優先する。
幼い頃から『僕』として生きているのだって、そう。
肺を患っている次期当主の僕は、人前に立つことすら難しい。
父はあらゆる治療を試したけど、僕の身体はよくならなかった。
父にとってそれは、伯爵家の体裁に関わる深刻な問題だ。
やがて痺れを切らした父は、見目そっくりな双子のハルに、身代わりとして社交界に出るよう指示した。
外向きでは、病弱なのは姉のハル、健康なのは弟の『僕』。
皆が知る、病弱な姉を気遣う、明るくて気さくな次期当主。
それは父の命令で、ハルが演じている『僕』だ。
「そんな顔しないでよ。命の危険があるわけじゃないんだから」
「……そうだね、ごめん。今度こそ、と思ったんだけどなぁ! またいい医者の噂、探してくるよ」
ハルがベッドの隅にどさりと腰掛ける。
筋張った首筋も、がしりとした肩幅も、どこからどう見ても男性のそれ。変身魔法によって手に入れたものだ。
成長した今では、本来のハルは僕とは違って女性らしい容姿をしている。幼い頃は鏡映しのような双子だったのに、今では魔法を使わないと『僕』にはなれなくなってしまった。
「……父様、またハルの縁談断ったんだって?」
「あー……なんか言ってたな」
僕の身代わりとして重要なハルを、父は手放すつもりはない。
ハルに来ている縁談は、問答無用で断ち切っている。
「表向きには病弱ってことになってる俺への縁談だからなぁ。どうせ碌なもんじゃないよ」
「うん……でも、悪いね」
「やめろよ。今さらどっかの貴族夫人になるなんて、想像つかないし」
「ははっ……まあ、ハルには似合わないかも」
僕が笑うと、ハルもつられて笑った。
僕はそっと布団から抜け出して、ベッドの端、ハルの隣に腰掛ける。
肩が、わずかに触れ合った。
ハルが笑うのをやめて、ほんの少し目を伏せる。
部屋が、急に静かになった。
「じゃあ、変身魔法……解こうか」
「ん……お願い」
僕はいつものように、『僕』に唇を重ねた。
深く舌を滑り込ませ、変身魔法のためにハルに預けていた僕の魂を、じっくりと吸い上げていく。
熱いものが僕の中に流れ込んでくる感覚。それと同時に、手を添えたハルの頬が、吸い付くような柔らかみを帯びていく。
「ん……ふっ……」
ハルの骨格が、筋肉が、本来の女性のものへと造り替えられていく。
その軋みに耐えるように、ハルの口から声が漏れる。
全ての魂を回収して唇を離すと、ハルは小さく息を吐いた。二人の唇を繋いだ銀の糸が、小さく爆ぜて消える。
「……よし、いつものかわいいハルになった」
目の前にいるのは『僕』ではなくなったハル。
短いブロンドヘアと青い瞳は変わらない。華奢な肩、緩んだシャツの隙間に覗く鎖骨。
紛れもない僕の双子の姉――本来のハルだ。
僕はハルの手首を掴み、シーツに縫いつけるようにしてベッドへ押し倒した。
「ハル……誕生日おめでとう」
「ん……ヒカルもね…………ふ、あ……っ」
そのまま僕はハルの首筋に唇を這わせた。
とくんとくんと、ハルが脈打つのを感じる。
『僕』の身代わりのための男物の衣装を剥がして、中身のハルを剥き出しにする。
同じ日に生まれた、二人で一つの、双子の僕たち。
離れていた欠片を埋めるように、僕たちは強く抱き合った。
「ヒカル……っ、ん……」
赤い唇を割り開けば、ハルの味が口いっぱいに広がる。これは僕だけのものだ。
ハルが僕の身体を気遣ってくれるたび、胸が痛む。
でも、ごめんね――全部僕の掌の上なんだ。
実は、僕の肺はもうとっくに治ってる。
でもこれは、ハルを縛っておくために必要なことだから。
医者が来るたび、わざと魔法で肺に負荷をかけて、病弱を装ってるんだ。
だって、僕の身代わりをしている限り、父はハルを逃さないでしょう?
そうでなければ、器量も気立てもいいハルは、すぐにどこかの貴族に見初められてしまう筈だ。
そして、僕の手の届かないところに行ってしまう。
そんなことはさせない。
――ハルは一生、僕の檻の中。ずっと離さない。
お読みいただきありがとうごさいました。
こちらはCaita内の双子アンソロジー『双子百物語』への寄稿用に書いたものです。
いつもは百合小説を書いているのですが、Web小説デビューして10ヶ月、初めての男女恋愛の執筆にチャレンジしてみました
どろどろの共依存双子です。
ナチュラルに行為が始まって「アッこいつら日頃からこういう……!」って感じの描写が好きです。
お楽しみいただけたなら嬉しいです。
普段は『人魚と姫』という微エロ描写含む長編百合小説を書いています。
どうぞよろしくお願いします!
『人魚と姫 〜私達が結婚すると、世界が救われる!?〜』
https://ncode.syosetu.com/n3773kv/




