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檻の中の双子 ―病弱な弟の身代わりとして生きる双子の姉。依存と執着が絡み合う、二人きりの誕生日の夜―

作者:
掲載日:2026/06/08

※男女双子の近親恋愛描写を含みます。苦手な方はご注意お願いします。



 豪奢な窓枠の外は、夜の(とばり)が降りている。

 屋敷のホールでは、今ごろ伯爵家の次期当主、つまり僕の誕生日パーティーが行われている筈だ。けれど、肝心の主役の僕はベッドの上。檻に囚われたように、ここから出ることは叶わない――否、出る気もない。

 会場では『僕』がたくさんの祝いの言葉をもらっていることだろう。けれど、声は遠く、ここまでは届かない。


 コンコン。


 扉を叩く音。待ちわびた音に、ほんの少しだけ胸が高鳴った。


「どうぞ。鍵はかかってないよ」


 声をかけるとすぐに扉が開いて、見慣れた顔が覗いた。

 短いブロンドヘアに青い瞳。自分と鏡合わせの、寸分の狂いもない『僕』の顔。

 ふわりと宴の名残を纏った香りが漂う。


「ハル、パーティーは終わったの?」

「ちょうど終わったとこ」


 『僕』は、窮屈そうに首元を緩めた。


「いつも悪いね、次期当主の身代わりなんて」

「気にすんなって。俺は半分ヒカルなんだから」


 にかっと明るく笑う『僕』。その中身がハル――僕の双子の姉であることを知っている人間は、ほんの僅かしかいない。


「そんなことよりヒカル、調子はどう? 新しいお医者様の薬は効いた?」

「んー……()()()()()、かな」

「そっか……」


 ハルの顔が曇る。その優しさに甘えていることに、ほんの少しだけ胸がちくりと痛む。


 ハルは昔からそうだ。

 いつだって自分のことより、僕のことを優先する。


 幼い頃から『僕』として生きているのだって、そう。

 肺を患っている次期当主の僕は、人前に立つことすら難しい。

 父はあらゆる治療を試したけど、僕の身体はよくならなかった。

 父にとってそれは、伯爵家の体裁に関わる深刻な問題だ。

 やがて痺れを切らした父は、見目そっくりな双子のハルに、身代わりとして社交界に出るよう指示した。


 外向きでは、病弱なのは姉のハル、健康なのは弟の『僕』。

 皆が知る、病弱な姉を気遣う、明るくて気さくな次期当主。

 それは父の命令で、ハルが演じている『僕』だ。


「そんな顔しないでよ。命の危険があるわけじゃないんだから」

「……そうだね、ごめん。今度こそ、と思ったんだけどなぁ! またいい医者の噂、探してくるよ」


 ハルがベッドの隅にどさりと腰掛ける。

 筋張った首筋も、がしりとした肩幅も、どこからどう見ても男性のそれ。変身魔法(トランスレーション)によって手に入れたものだ。

 成長した今では、本来のハルは僕とは違って女性らしい容姿をしている。幼い頃は鏡映しのような双子だったのに、今では魔法を使わないと『僕』にはなれなくなってしまった。


「……父様、またハルの縁談断ったんだって?」

「あー……なんか言ってたな」


 僕の身代わりとして重要なハルを、父は手放すつもりはない。

 ハルに来ている縁談は、問答無用で断ち切っている。


「表向きには病弱ってことになってる俺への縁談だからなぁ。どうせ碌なもんじゃないよ」

「うん……でも、悪いね」

「やめろよ。今さらどっかの貴族夫人になるなんて、想像つかないし」

「ははっ……まあ、ハルには似合わないかも」


 僕が笑うと、ハルもつられて笑った。


 僕はそっと布団から抜け出して、ベッドの端、ハルの隣に腰掛ける。

 肩が、わずかに触れ合った。

 ハルが笑うのをやめて、ほんの少し目を伏せる。

 部屋が、急に静かになった。


「じゃあ、変身魔法(トランスレーション)……解こうか」

「ん……お願い」


 僕はいつものように、『僕』に唇を重ねた。

 深く舌を滑り込ませ、変身魔法(トランスレーション)のためにハルに預けていた僕の魂を、じっくりと吸い上げていく。

 熱いものが僕の中に流れ込んでくる感覚。それと同時に、手を添えたハルの頬が、吸い付くような柔らかみを帯びていく。


「ん……ふっ……」


 ハルの骨格が、筋肉が、本来の女性のものへと造り替えられていく。

 その軋みに耐えるように、ハルの口から声が漏れる。

 全ての魂を回収して唇を離すと、ハルは小さく息を吐いた。二人の唇を繋いだ銀の糸が、小さく爆ぜて消える。


「……よし、いつものかわいいハルになった」


 目の前にいるのは『僕』ではなくなったハル。

 短いブロンドヘアと青い瞳は変わらない。華奢な肩、緩んだシャツの隙間に覗く鎖骨。

 紛れもない僕の双子の姉――本来のハルだ。

 僕はハルの手首を掴み、シーツに縫いつけるようにしてベッドへ押し倒した。


「ハル……誕生日おめでとう」

「ん……ヒカルもね…………ふ、あ……っ」


 そのまま僕はハルの首筋に唇を這わせた。

 とくんとくんと、ハルが脈打つのを感じる。 


 『僕』の身代わりのための男物の衣装を剥がして、中身のハルを剥き出しにする。

 同じ日に生まれた、二人で一つの、双子の僕たち。

 離れていた欠片を埋めるように、僕たちは強く抱き合った。


「ヒカル……っ、ん……」


 赤い唇を割り開けば、ハルの味が口いっぱいに広がる。これは僕だけのものだ。


 ハルが僕の身体を気遣ってくれるたび、胸が痛む。

 でも、ごめんね――全部僕の掌の上なんだ。


 実は、僕の肺はもうとっくに治ってる。

 でもこれは、ハルを縛っておくために必要なことだから。

 医者が来るたび、わざと魔法で肺に負荷をかけて、病弱を装ってるんだ。


 だって、僕の身代わりをしている限り、父はハルを逃さないでしょう?

 そうでなければ、器量も気立てもいいハルは、すぐにどこかの貴族に見初められてしまう筈だ。

 そして、僕の手の届かないところに行ってしまう。


 そんなことはさせない。

 ――ハルは一生、僕の檻の中。ずっと離さない。






お読みいただきありがとうごさいました。

こちらはCaita内の双子アンソロジー『双子百物語』への寄稿用に書いたものです。


いつもは百合小説を書いているのですが、Web小説デビューして10ヶ月、初めての男女恋愛の執筆にチャレンジしてみました

どろどろの共依存双子です。

ナチュラルに行為が始まって「アッこいつら日頃からこういう……!」って感じの描写が好きです。

お楽しみいただけたなら嬉しいです。


普段は『人魚と姫』という微エロ描写含む長編百合小説を書いています。

どうぞよろしくお願いします!


『人魚と姫 〜私達が結婚すると、世界が救われる!?〜』

https://ncode.syosetu.com/n3773kv/

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